2008年12月28日日曜日

第百八十二段 北京からのプレゼント

この12月を振り返ると、中国が米国との関係強化に動き出していることを窺わせるニュースが報じられております。

・中国政府による米国債積極購入(出典:日経ネット
→過去のブログでも書いたような気がしますが、結局中国の莫大な外貨準備を受け止められる
 だけの規模・流動性を有する市場は、エージェンシー債市場が信頼を失った今、米国債市場
 しかないわけで、金融危機云々を抜きにして中国は米国債の購入を続けていかざるを得ない
 立場にあるといえます。それでもCDS市場で米国債のデフォルトリスクがジワリジワリと上昇して
 いく中、世界最大の外貨準備国が米国債購入を積極化していくことは、金融面のみならず、
 政治面でも一定の効果をもたらすでしょう。一見すると当たり前の行為、否応なくしなければな
 らない行為を宣伝や実行タイミングを上手く調節することで、相手に着せる恩に変えるやり方
 は、個人の生活においても学ぶべき点が多そうです。

・中国海軍、ソマリア沖の対海賊作戦に艦艇を派遣(出典:日経ネット
→派遣される中国海軍艦艇は、既にソマリア沖に展開している米国等のNATO艦艇と協力しな
 がら海賊掃討を行うらしいです。「海賊退治」という国際社会が納得する大義名分を掲げて兵
 を動かし、同時に既にソマリア沖に艦艇を派遣している米国等のNATO諸国との関係強化、
 外洋海軍としてのノウハウ・経験蓄積、各経済協力とセットにした上でのアフリカ諸国へのプレ
 ゼンス誇示、これらの戦略的利益を同時に獲得しようという中国の布石の置き方は実に鮮や
 かなものです。
 今後、更に中国が人民解放軍をPKO名目なんかでアフガンやイラクに派遣することになった
 ら、日本の存在感はワシントンの外交レーダーから一気に消失してしまうのだろうなぁ・・・・。
 (その分、米国がもがく泥沼に中国も引きずり込まれるリスクはあるとして・・・・。)
 因みに、中国共産党政権が海軍艦艇をアフリカに派遣したのは、確か2007年の7月28日の
 タンザニア・南アフリカ訪問が最初だった筈(出典:人民日報(日本語版))。それより古いも
 のとなると、記録上は14世紀(日本で言えば、大体足利義満なんかが活躍していた頃)に明王朝
 によって実施された「鄭和の大航海」まで遡ることになる。
 
・中国、トウモロコシ輸出抑制か(出典:ブルームバーグ)
→国内の内陸農村部と沿海都市部との巨大な経済格差に悩む中国は、農村所得
 の引き上げで問題解決を図ろうとしております。当ブログの第百七十一段では、
 「北京政府は農村所得引き上げ策の一環として、トウモロコシ輸出の促進を図って
 いるらしい」と書きました。ところがその後の動きで、寧ろ中国政府はトウモロコシ
 輸出を抑制する方向に舵を切ったらしいとのニュースが流れました。この促進から
 抑制への180度の転換が意味する事は何か? 色々なことが考えられようと思いま
 すが、一つ「対米配慮」というのも考えられるかと思います。米国の世界的な影響力
 が、経済や軍事面での突出のみならず、その巨大な穀物生産とその輸出にも支え
 られているのは周知の通り。もし中国が当初の予定通りトウモロコシ輸出を促進して
 いた場合、米国産トウモロコシの世界的シェアは下落することが考えられます。そう
 なった場合、ワシントンの目には「政治・経済面のみならず、食料安全保障でも影響
 力拡大を図る中国」という構図が浮かぶことになり、徒に警戒感を高めてしまう可能性
 が考えられます(特に金融危機やイラク失政で米国の国際的威信が大きく揺らいでい
 る今は)。そんな事態の回避を目的の一つとして、中国政府はトウモロコシ輸出を抑
 制することにしたのではないか、というのが点額法師の考える所。

これらオバマ次期政権を睨んだ秋波が中国から米国に送られ、2009年1月1日には米中国交樹立30周年という記念が控えている中、米国との同盟を外交基軸に据えている日本はどうするんですかねぇ? 政権の持続性に疑問符がつき、「あれはできません。これもできません」、「どうせ民主党政権なんだから日本軽視・中国重視なんでしょうと」と言っているだけでは、間違いなく米中の狭間に埋没していくことになろうかと思われます。まぁ、それで日本国民(もっと突き詰めて言えば点額法師個人)の豊かさと平和、自由が守られるなら、一向に埋没してもかまわないのですが・・・・。( ̄w ̄)

そんなことをつらつらと考える2008年年の瀬。

2008年12月27日土曜日

第百八十段 コンタンゴ1

原油価格について欧米の投資銀行連が「1バレル=180ドル」、「1バレル=200ドル」と言った者勝ち的な予想をぶち上げ、それに某国の経済官庁事務次官が逆切れしていた、あの狂乱の日々。バイオエタノールが持て囃されたことによるトウモロコシ・コムギ・ダイズの先物価格乱舞と世界各国で発生した「喰い物よこせ」暴動が世を騒がせた騒乱の日々。勢いに乗る金属メジャーが中国や日本の鉄鋼メーカに2倍近い鉄鉱石価格値上げを突き付けた熱狂の日々。

・・・それも今は昔の物語。今やWTIはピークから100ドル以上も下落し、農産品も鉱物も等しく価格下落に巻き込まれる毎日に御座います。その余波によって一時盛り上がった「資源小国日本は、資源の安定供給を如何に図るべきか」といった議論は胡散霧消してしまいました。

では、今後もコモディティ価格は下落の一途を辿り続けていくのでありましょうや?
いや、市場はどうもそう考えてはいないようです。と申しますのも、NYMEXやCBOTといった商品先物市場を見てみますとコンタンゴという状態が依然として継続しているからです。

そもそも先物市場を見てみれば、そこには「限月」というものが御座います。この限月とは先物契約の満了月、有態に言えば、取引決済の最終期限となる月のことです。この限月が最も近いものを「期近」、期近より未来のものを「期先」と申します。そして先物市場参加者は、限月の異なる先物を売買して利益確保やリスクヘッジを行っているわけです。WTIを例としますと、現在の期近が2009年2月となり、そこから一月毎に限月が設定されて、最も遠い期先が2017年12月となっております(基本的に米国の先物市場では期近が最も多く取引されるため、単に「WTI価格」といえば期近に付けられた価格のことを指します。このことはトウモロコシ等の農産物においても同様です)。

そしてコンタンゴとは、先物価格が期近から期先に行くに従って価格が上昇していく状態のことです。このような状態になる場合、先物市場では「現在は潤沢な商品供給が将来的には逼迫してくる」との予想が支配的であることを示します(逆に期近から期先に行くに従って価格が下落していくことを「バックワーデーション」と言い、市場が将来的な供給過多を予測していることを示します)。
それを具体的なグラフの形にしたのが以下の図に御座います。

WTI                                             トウモロコシ(シカゴ)

NYMEXデータより点額法師作成                             CBOTデータより点額法師作成

WTIをみれば、12月第2週から第4週にかけて全限月で価格が下落し、一方のトウモロコシ(シカゴ)では12月第3週から第4週にかけて全限月で価格が上昇していることが分かります。一見すると対照的な両者の動きですが、期近から期先に行くに従って価格が上昇している点、つまりコンタンゴの状態にあることは共通しております。特にWTIを見れば、2009年2月限から2011年8月限にかけての価格上昇が急になっているのが気になる所。(w ̄;)

この先物市場が示した原油やトウモロコシの先高予想。そして各国中銀が金融危機打開のために行った(そして今も行っている)大規模な市場への資金供給。この二つを考え合わせれば、金融危機終息後の世界がゴルディロックス経済の状態に戻ってくれることは、あまり期待できなさそうです。

第百七十九段 「友達」ねぇ・・・・

欧州の動物愛護活動家が自分達の国の獣食文化のみならず、他国の獣食文化にまでケチをつけることは、特段珍しいことではない(韓国の犬食然り、日本の海獣食然り・・・)。ところが今度は、「足のあるもので食べないのは机だけ。空を飛ぶもので食べないのは飛行機だけ」とまことしやかに囁かれる中国で、中国国民(の一部)が自国の獣食文化に物言いをつけたというのだから、なかなか面白い。

槍玉にあがったのは「猫食」。烽火が上がったのは広東省だという(詳細は以下の報道参照)。

「猫は友達、食べ物ではない」

中国、愛猫家が抗議活動

  【北京27日共同】さまざまな動物を食材にすることで知られる中国広東省で、猫を食用としていることへの抗議活動が広がっている。中国の愛猫家はインター ネットなどを通じて連携、「猫は友達で、食べ物ではない」との横断幕を掲げて駅前で街頭活動を行い、活発に世論に訴えている。

 背景には、生活水準の向上や食生活の変化による動物愛護意識の高まりがあるとみられる。猫の肉は広東料理の食材で、住民の一部は滋養強壮に効果があると信じている。煮込み料理に使うため冬場が旬とされ、地元紙によると、この季節には広東で1日1万匹前後が消費される。

 発端は今月上旬、江蘇省南京の駅から箱に詰められた5000匹以上の猫が広東省広州に運ばれたとの報道。これらは野良猫や飼い猫で、1匹10元(約130円)以上で売買され、流通ルートが確立しているという。

 報道はネット上で広まり、激怒した愛猫家20人以上が17日夜、広州駅前で抗議活動。北京の50人以上の愛猫家も広東省北京事務所に抗議の申し入れを行った。(出典:共同通信


猫の旬は冬。そーなのかー。
でも猫の肉って何となく筋張ってそうで、煮込むにしても牛スジと同じように結構時間を要するイメージがあるのだが、その辺どうなのか? (誰に聞いている?)

閑話休題、あの中国で市民が街頭活動を行えるようになってきたことに、何だか隔世の念を禁じえない(まぁ、中国の地方・中央当局にも「小規模で非政治的なデモ・街頭活動ならば、「ガス抜き」として許可・黙認してやってもよかろう」と考えている節があるようだが・・・・)。そして、この猫食抗議活動が発生したのが広東省であるという点から、中国沿海部の豊かさ・経済的余裕が欧州や米国、日本といった先進諸国に比肩しつつあることが改めて実感できる。さて貴州省や青海省、陝西省といった内陸諸省で同様のニュースが聞かれるようになるのはいつのことやら・・・・。

因みに、この中国の愛猫家の態度、「ボールは友達」と言いながら、後に自分たちの怒りをその友達(ボール)にぶつけた、キャプテンな翼君に比べれば、実に首尾一貫した態度と言えるかもしれない。
( ̄w ̄)

2008年12月17日水曜日

第百七十五段 音速の遅い読書『北極大変動 加速する氷解/資源ビジネスの野望』

今回の音速の遅い読書で取り上げるのは、以下の一冊。

NHKスペシャル 北極大変動―加速する氷解/資源ビジネスの野望 (NHKスペシャル)
NHK「北極大変動」取材班
単行本
日本放送出版協会
発売日 2008-11

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元々はテレビ番組としてNHKが放映したものを書籍化したのがこの一冊。

本書の構成もまた、番組の構成を踏襲して以下の二部構成となっております。
・第一部:氷が解け悲劇が始まった
→最近何かと話題に取り上げられる地球温暖化が北極圏に与える影響を主に環境面や
 自然科学に軸足を置く形で取り上げた章。
・第二部:氷の海から現れた巨大資源
→北極海海氷の大幅な減少によって、北極海に眠る莫大な天然資源の開発が可能とな
 りつつある状況について、ノルウェーの石油企業スタットオイルハイドロやロシアのガス
 プロムの動向を中心として取り上げた章。

第一部の内容も十分に面白いものだったのですが、点額法師個人として最も面白く読めたのが、北極海の資源を巡る各国政府や企業の動きを取り上げた第二章です。北極海という極限環境での資源開発に取り組むスタットオイル社やガスプロムですが、その両者の活動は各社の自己努力に加え、更に二本の柱に支えられています。一本目の柱が、三菱重工や日立造船、サムソン重工といった日韓の製造業が供給する、特殊船舶やプラント等の各種ハイテク装備。もう一本の柱が、北極海の資源開発を自国の国益に結び付けようという強固な政治的意思を持った政府の後押しです。第二章では、この石油企業、製造業、政府の動向が上手くまとめられており、北極海における資源開発の様子を立体的に浮かび上がらせていることに成功していると思います。

その第二章の中で印象深かったのは、以下の二点です。
・スタットオイル社は、油田・ガス田開発の遠隔支援施設をノルウェー本土のみならず、
 米国、中国にも設けることで、時差を利用しての資源開発24時間サポートを実現しよ
 うとしている。
 →何だか眠ることのない外為市場を彷彿とさせる動きですな。それに、スタットオイル
  社が北極海で使用しているハイテク装備品を考え合わせると、同社にとって将来的に
  は油田・ガス田開発支援サービスが新たな事業分野として立ち上がってくる予感も
  します。
・既にノルウェーが北極海で開発したガス田から、日本に向けて輸出が行われている。
 →本書によれば、2008年3月23日、ノルウェーが北極海で採掘した天然ガスを載
  せたLNG船が横浜に入港し、東京ガスの工場に天然ガス供給を行ったとのこと。
  LNG船はスエズ運河を通過して日本に至ったとのことですが、もしこのまま北極海の
  海氷が減少していけば、やがては北極海航路を利用した運搬も可能となるでしょうか?
  もしそうなれば、マラッカ海峡やアデン湾に跋扈する海賊は飯の食いあげですな。
  ( ̄w ̄)

地球温暖化の進展がもたらす影響について、様々な点から想像力を刺激してくれる一冊ではないかと思います。

2008年12月14日日曜日

第百七十三段 毒饅頭はペルシャ湾を超えるか?

イランの核開発問題が世界の耳目を集めて久しいが、そのペルシャ湾の向こう側でも核開発について動きがあったようである。UAEの英字紙Gulfnewsが12月13日に報じた所では、米国がUAEとの原子力協定締結に向けて動き出したという(記事原文は以下の通り)。

Dubai: US President George W. Bush's administration plans to sign a nuclear cooperation deal with the UAE in the next few weeks, the Wall Street Journal reported on Friday, citing a senior US official.

It said the UAE has agreed on nuclear material safeguards and will not develop its own fuel.

The country has already signed agreements with two US companies, Thorium Power Ltd of Virginia and Colorado's CH2M Hill Cos to oversee its nuclear energy plans, the Journal reported, saying the Bush administration has championed the nuclear agreement with the UAE as a model for promoting peaceful nuclear energy.

Rep Ileana Ros-Lehtinen of Florida, ranking Republican in the House Foreign Affairs Committee, introduced legislation this week that would set conditions before Congress could approve the agreement.

The newspaper said the UAE has pledged to purchase nuclear fuel for its reactors from outside suppliers, rather than developing its own fuel and would allow monitoring and snap inspections by the United Nations' International Atomic Energy Agency.

The report also said the UAE has hired a 30-year veteran of the US Nuclear Regulatory Commission, William Travers, to help run the country's nuclear regulatory body.(出典:Gulfnews)

要するに、米国のブッシュ政権は2~3週間以内にUAEとの原子力協定を締結する意向であること、UAEは独自ではなく米国と協調の上で核開発を進める意向であること、UAEは核開発にあたってIAEAの査察・監督も積極的に受け入れること、既にUAEは原子力開発にあたって二つの米国企業と契約を締結している他に自国の原子力規制委員会立ち上げのために米国原子力規制委員会のベテランを雇っていることを記事は伝えている。

中東の核開発と言えば、イランの核開発問題以外にも、GCC加盟国共同での核開発が提言されたり、ヨルダンが各国と積極的に原子力協定締結や仏アレバ社と組んでの国内ウラン鉱開発に乗り出したりといった動きがそれぞれ報じられている(ヨルダンの最近の核関連の動きについては当ブログ第百六十段参照)。これらの動きをみれば、イランとの関係が深いロシアやヨルダンと組んだフランスに負けじと米国が中東原子力ビジネスに力を入れるのもむべなるかなと思われる。

一方で軍事目的の核開発が懸念されているイランにとって、ペルシャ湾対岸のUAEは有数の貿易相手国。その上、イランから多くの情報関係者が既にUAEに浸透していると言われている。それを考えれば、米国がUAEに提供した核技術・情報がイランへ流出する可能性は捨てきれない。そう考えると、米・UAE原子力協定は、一見すると米国にとって仇敵イランの核開発を援助してしまいかねない、随分とリスキーな政策に見えてしまう(それに米国のイラン攻撃が実施された場合、UAEの原子炉がイランの報復対象なりかねない怖さもある)。

そこで、確かな根拠の全くない個人的な妄想だが、ひょっとして米国はわざとUAEを通じて偽の原子力技術・情報をイランにリークしようとしているのかもしれない。核開発(軍事目的か民生目的かは別として)に血道をあげるイランにとって、米国の原子力技術・情報は手を伸ばしたくなる魅力的な存在であると思われる。ならば、それを逆手にとって虚偽の原子力情報、致命的なバグを抱えた原子力技術をイランに流し、その核開発を頓挫させる策も机上では成り立つ。いや単なる机上の空論ではない。

この相手が欲する情報・技術という饅頭に虚偽・バグといった毒を仕込んで提供するという策略について、既に米国は経験を有している。それは、1982年の旧ソ連におけるパイプライン大規模爆発事件である。一説にその爆発規模はTNT火薬3キロトン相当。核爆発ではないかとの憶測も一時的に流れたというから、その爆発の凄まじさが知れよう。この事故には裏があった。当時、西側のハイテク情報を狙ったKGBの活動に業を煮やしたCIAは、意図的に一定条件で発現するバグを仕込んだパイプライン制御用ソフトウェアを開発し、それをKGBに掴ませることに成功する。そしてそのソフトウェアが実際に使用され、仕込んだバグが発現した結果、件の大規模爆発が発生したというのだ。結果、ソ連のパイプライン建設に多大な遅延が発生した他、西側産ソフトウェアに対する疑心暗鬼からソ連の経済・軍事活動は大きな打撃を受けることになったという。この話は、元米空軍長官でレーガン大統領の特別補佐官を務めたこともあるトーマス・C・リード氏の著作『At the Abyss: An Insider's History of the Cold War』に記載されている話である。

いや、或いは今回の対UAE原子力協定は、敢えて報復の対象となりかねない原子炉建設を明示することで、米国がイランに先制攻撃をする意図が無いことを示すためのサインと考えることも可能である。

また、点額法師個人としては、米国がUAEに提供するウランを何処から入手するかが非常に気になる。ここは是非カメコ(ccj:NYSE)からウランを取得して欲しいものだが・・・・。

単純な好奇心としても個人的な欲得絡みの話としても、今後の経過が興味深いニュースである。

2008年12月11日木曜日

第百七十一段 中国、トウモロコシ輸出を強化

北京政府は二匹目の泥鰌を首尾よく捕えることが出来るのだろうか? 鄧小平は「先に豊かになれる者から豊かになれ」と号令をかけて改革開放の一石を投じ、沿海都市部の不満を自由な経済活動に逸らすことで、共産党政権の延命と中国の強大化という二鳥を得た。農村地域で頻発する騒擾事件に頭を痛める胡錦濤政権もその顰に倣おうとしているようだ。

北京政府は11月13日に、鋼材や化学工業品、トウモロコシ、雑穀および同製粉などの食糧類について輸出関税を12月1日から撤廃する通達を公布した。特にトウモロコシ、雑穀類の輸出関税撤廃については、単に国内の余剰在庫を捌こうという意図以上に、農産物の増産・輸出拡大によって農村経済を潤し、農民たちの信認を取り戻そうとする北京政府の狙いが窺える(因みに、中国のトウモロコシ生産高は世界第2位)。12月10日には、関係者の話として「中国政府はトウモロコシについて最大500万トンの輸出割当枠発給を考えている」ことが報じられた。報道によれば、中国政府はトウモロコシ輸出について税金の払い戻しや輸送コストの助成も考えているというから、北京政府もそれなりに気合を入れた政策なのだろう(出典:ブルームバーグ)。

トウモロコシの用途は飼料や食用の他、精製したデンプン(所謂「コーンスターチ」)が食品加工用、工業用、製薬用に用いられる等、非常に用途の広い作物であり、最近では、エネルギー資源(バイオエタノール)や生分解性樹脂の原材料にも用いられている。もし中国のトウモロコシ増産と輸出拡大が実現した場合、トウモロコシの需給緩和による価格下落効果が広い範囲に及ぶ可能性が考えられる。特に最近の原油価格急落で価格競争力を失いつつあるバイオエタノールメーカーには、干天の慈雨となろう(因みに、オバマ次期米国大統領が選挙期間中、新エネルギー政策として「バイオエタノール重視」を掲げていたのは有名な話)。

一方で、トウモロコシという作物は成長多量の水を必要とする作物でもある。現在の中国が、砂漠化や都市部・工業部門で拡大する水需要、そして水そのものに対する深刻な汚染問題を抱えていることを考えれば、単純な増産は先々困難に直面すると思われる。そこで注目されるのがGMトウモロコシの存在である。GM作物の世界的大手であるモンサント(mon:NYSE)は、ドイツ化学大手BASF社と乾燥耐性のあるトウモロコシを開発しており、その商品化は遠くないとされている。既に中国ではGM綿花が導入されており(作付面積350万ha)、仮に乾燥耐性トウモロコシが商品化されれば、その導入についても大きな混乱や反対は生じないものと思われる。そしてそれはモンサント(mon:NYSE)の利益、引いてはその(弱小とは言え)一株主たる点額法師の利益にも繋がる。

北京政府が果たしてトウモロコシを梃に不満渦巻く農村部の経済発展に成功するのか? そしてそれがモンサントの利益に繋がってくるのか? 個人的に気になるトピックである。

参考資料
ジェトロ北京ニューズレター 2008年12月9日号(Vol.14)
Foresight 2008年11月号 新潮社

2008年12月10日水曜日

第百七十段 モスクワより関税引き上げを込めて

当ブログ第百六十五段にて「G20の「保護主義反対声明」なんてあてにならない」ということを書いてからちょうど1週間後の12月10日、ロシアが自動車の輸入関税を引き上げてきた(出典:時事通信)。

最近のルーブル安に加え、巷間囁かれているルーブル切り下げを仮に実行すれば、わざわざ物議を醸すような輸入関税引き上げなんぞしなくとも、ロシア国産車の価格競争力はそれなりに維持・強化されると思うのだが、今までのロシアの為替政策を顧みると「強い通貨=強い国家のステータス」と考えているふしがあり、政治的に「弱いルーブル」政策に舵を切りにくい事情があることは想像に難くない。

かといって世界的な金融危機の中で各国中銀が利下げや大規模資金供給に動いている中、ロシアのみが強い通貨政策を維持し続ければ、ルーブル高外貨安によってロシアの財・サービス輸入が加速し、同国の脆弱な製造業に致命傷を与える可能性が浮上する。そのような事態は、経済の石油・天然ガス依存からの脱却を焦眉の課題とするロシア政府にとって看過し得ないものであろう(現ロシアの前身たるソ連が原油依存の経済体制から脱却できぬまま、1980年代の原油価格低迷によって国家財政に痛撃を受け、崩壊への道に転げ落ちていったことを考えれば、メドベージェフ政権が現在感じている危機感もさぞやと思われる)。

つまり、今回のロシアの自動車輸入関税引き上げは、「強いルーブル政策の維持」と「自国産業保護」を両立させることを狙った措置と考えられる。懸念される欧米等からの批判については、恐らくメドベージェフ政権はアフガン問題を人質に取ることで実害が無い程度に抑え込めると踏んでいるのではないだろうか。

ここでアフガニスタンの状況に目を移せば、そもそもアフガニスタンは内陸国。従ってそこに展開する軍勢に補給を行うには、パキスタン、イラン、旧ソ連領中央アジアのいずれかを経由する必要がある。現在はパキスタン・ルートがアフガンに展開する米軍・多国籍軍への主要な補給ルートとなっているが、ここ最近、このパキスタン・ルートにおいて米軍・多国籍軍の補給部隊を狙った大規模な襲撃が仕掛けられている(出典:共同通信)。
もし今後、パキスタン・ルートが機能不全に陥るようなことになれば、代替ルートとして考えられるのは、前述のようにイラン・ルートかロシアが強い影響力を有する旧ソ連領中央アジア・ルートしかない。しかも米国のオバマ次期政権は、大統領選挙を通じて、一貫してアフガンに対する米国のコミット強化を訴えてきた。こうしたアフガニスタンの状況を考慮に入れれば、「多少ロシアが利己的な振る舞いに出た所で、アフガン問題を抱える西側の批判は腰の引けたものにならざるを得ない」とロシア側が判断してもおかしくは無い。

とまれ、ロシアの関税引き上げの狙いが何処にあるにしろ、逆風吹きすさぶ日本の自動車産業にとってまた一つ厄介事が加わったことは間違いないだろう。特にロシア外で生産した自動車をロシアに輸出するというビジネス形態を採っている企業にとっては、頭の痛い問題かと思われる。

第百六十九段 家電下郷と3種の神器

中国の財務部と商務部は、農村部での家電購入に補助金を支給する「家電下郷」制度を来年2 月から4年間に渡り全国で実施すると発表した(現在は国内14省・自治区・直轄市で実施)。この結果、政策対象地域の総人口は3億9300万人に上り、9200億元(12兆6000億円)程度の経済効果が期待されているらしい。

因みに、「家電下郷」政策では対象となる商品を以下の4商品に限定しており、購入金額の13%程度を国が支給するものとなっている。
<対象商品>
・カラーテレビ
・冷蔵庫
・洗濯機
・携帯電話

・・・・どこかで見たことのある組み合わせだと思えば、高度経済成長期日本の「3種の神器」と殆ど変わらないことに気付く。
<3種の神器>
・白黒テレビ
・冷蔵庫
・洗濯機

白黒テレビがカラーテレビになり、携帯電話が加わっている所に20世紀中頃と21世紀初頭の差異が感じられるといえば感じられる。よく巷では中国沿海部と内陸部の圧倒的な経済格差について語られるが、上海や香港といった沿海部の都市が21世紀初頭の世界、そして「家電下郷」で恩恵が及ぶ内陸部や農村が1950年代の日本と考えると、GDPや平均所得といった数字を追いかけるよりも、中国が抱える巨大な経済格差(というか断絶)がより明確に浮かび上がってくる。

この「家電下郷」政策の狙いとしては、一般的に「世界的な景気減速を内需拡大で乗り切ることを狙った施策」と言われる。無論そうした一面も大きいのだろうが、点額法師には、「家電下郷」が大枚をはたいた北京政府の治安政策にも思える。

というのも、今中国の内陸部や農村地域では、地方政府による土地の恣意的な収用や金銭の徴発、それにともなう住民への暴力に反発しての騒擾事件が多発している(日本のニュースでも「中国××省で農民が役所を焼き打ち」といった具合に一部が報じられている)。これを根本的に解決するには、地方政府にメスを入れる必要があるが、複雑に利権の入り組んだ問題なので、一朝一夕に解決できるものではない。かといってこのまま頻発する騒擾事件を力のみで押さえつけていけば、国民の不平不満はより一層激化することになり、やがて北京政府は農民反乱の頻発で瓦解していった歴代中華帝国の轍を踏みかねない。ならば北京政府がとる手段としては、多くの国民に飴を与え、その甘みで国民の不平不満を慰撫しながら、問題の解決に着手するという手段がベターだと思われる。

その飴となるのが、今回の「家電下郷」なのではないか。実際、人間はある程度物を持ち、経済的な豊かさ・利便性をそれなりに実感できるようになれば、急速に保守化(安定化志向)に走る傾向がある。このことは「恒産無くして恒心無し」、「衣食足りて礼節を知る」といった古の聖賢の言葉にも顕れているし、現北京政府の開祖たる毛沢東が「最も革命を受け入れる」層として無産に等しい貧農を重視した事実によっても、逆説的に確認することができる。日本を顧みても、貧しい1950年代、60年代こそ安保反対闘争やら学生運動といった大規模騒擾事件が頻発したが、高度経済成長の実現と共に一気に下火となっていったのは周知のことである。

果たして、カラーテレビから流れる娯楽と冷蔵庫、洗濯機がもたらす利便性に国民の多くが酔いしれている間に、北京政府は騒擾の根本原因である政治腐敗の解決に道筋をつけられるか。実に興味深い所である(それにしても、携帯電話流通の拡大が沿海部と内陸部の反政府勢力をより結び付け易くする可能性を考えれば、よく北京政府は「家電下郷」の対象商品に携帯電話を加えたものだ)。

参考資料:ジェトロ北京ニューズレター 2008年12月9日号(Vol.14)

2008年12月7日日曜日

第百六十八段 サルコジ仏大統領、ダライ・ラマ14世と会談

サルコジ仏大統領が、中国の反対を押し切る形でチベット亡命政府指導者のダライ・ラマ14世と会談を行った。経済的魅力を前面に押し出して多くの国々を靡かせてきた中国にとって、ここまで露骨に反発を無視されたのは、最近では珍しいのではないだろうか。

例えば、米国でさえ、今年10月の対台湾武器売却において中国に最大限の配慮を見せている。
というのも、当初台湾が米国側に購入を申し入れていた主要兵器は以下の通り。総額で約100億米ドル(台湾の年間防衛費にほぼ匹敵)に達する豪気な買い物である。

・F-16C/D戦闘機 66機
・ディーゼル潜水艦
・PAC-3(パトリオット迎撃ミサイル最新版) 6セット
・AH-64D攻撃ヘリ 30機
・E-2T早期警戒機
・ハープーン対艦ミサイル
・UH-60輸送ヘリ

以上の中で、台湾の防衛戦略に死活的重要性を持つのが(中国にとっては致命的に厄介なのが)、空海における台湾の優位性を維持するためのF-16C/D戦闘機とディーゼル潜水艦、そして弾道ミサイルの脅威を軽減するためのPAC-3である。そして、上記の内、実際に米国から台湾に売却が決定された武器は以下の通り。

・PAC-3(パトリオット迎撃ミサイル最新版) 4セット
・AH-64D攻撃ヘリ 30機
・E-2T早期警戒機
・ハープーン対艦ミサイル

米国は、台湾にとって死活的重要性を持つF-16C/D戦闘機とディーゼル潜水艦の購入希望を拒絶し、PAC-3については売却数を削減している(従って購入額は約65億米ドルまで減少)。これらは米国が対台湾武器売却にあたって、最大限中国の意向を忖度した結果と推測される。

実際、この武器売却を受けて中国側は形通りの非難を発表したものの、米中軍事交流の中止は今年11月末まで予定されていた高官相互訪問など比較的軽微なものに限定され、10月8日には中国駐米大使が「今後は米国の姿勢を見守りたい」との見解を示して早々に対米非難を打ち切っている。しかも、その後の中国側の対台湾窓口機関である「海峡両岸関係協会」会長陳雲林氏の訪台が予定通り決行されたのは周知の通り。
(参考文献:Foresight 2008年12月号(新潮社) 「台湾への「米国製武器売却」でほくそえむ中国」)

それだけに、今回のサルコジ仏大統領のダライ・ラマ14世との会談は、各国の対中行動の中で異彩を放っているといえよう。しかも、会談場所にポーランド・グダニスクを選んでいることからして、中国に対する強い当てこすりを感じてしまう。
というのも、ポーランド・グダニスクは自主管理労組「連帯」の発祥の地である。その「連帯」が主導したポーランドの民主化が東欧民主化の発火点となり、ソ連崩壊の一因となったことは知られている通りである。そして、この「連帯」が火付け役となった市民運動による民主化・共産党独裁の崩壊こそ、中国が「和平演変」として最も警戒・敵視している事態なのである。
そんな場所で中国指導部が蛇蝎の如く忌み嫌う「分離主義者」の指導者と会談するというのだから、サルコジ仏大統領は本当に思いきったことをしたと言えよう。

ここでフランスの過去の対中行動を回顧すると、90年代の台湾に対するミラージュ2000戦闘機、ラファイエット級フリーゲート艦の売却が思い当たる。この武器売却の結果、フランスは、取引にまつわる贈収賄工作の露見、フランス企業が受注していた広州地下鉄工事や大亜湾原子力発電所の第二期工事の取消といった中国政府によるフランス系企業への攻撃、在中領事館(広州)の強制閉鎖といった散々な目にあった挙句、94年に初めにジュッペ外相(当時)の名義で「仏政府は今後、二度と台湾への武器売却をしない」という詫び状を北京に提出することになった(そしてフランスが態のいい「見せしめ」となったことで、台湾に武器を供給する国は米国に限定されることになった)

一見するとサルコジ仏大統領のダライ・ラマ14世との会談は、90年代フランスの失敗を繰り返す所業にも思えるし、フランスがチベットに肩入れした所で実利的に得るものは無く、寧ろ中国市場へのアクセスに支障をきたしかねないだけなのだから、愚行以外の何物でもないように思える。しかし、そんなことはサルコジ仏大統領や彼を支えるフランス外務官僚たちも百の承知の筈だ。ならば何故、サルコジ仏大統領はダライ・ラマ14世と会談したのか? しかもソ連崩壊の着火点となったポーランド・グダニスクという場所で。そこが分からない。

ダライ・ラマ14世への肩入れを明確にすることでチベット亡命政府内の対中強硬派を牽制し、あくまで穏健派主導のチベット問題解決を図りたいのか? いや現時点で中国側にチベット亡命政府穏健派との話し合いでチベット問題解決を図る意図がない以上、各種リスクを背負ってまでダライ・ラマ14世への肩入れをする価値は考えにくい。寧ろダライ・ラマ14世の国際的求心力低下を印象付け、チベット亡命政府内で強硬派の勢力を伸張させ、強硬派と穏健派の内部抗争を惹起し、暴発した強硬派を中国の手で壊滅させ、内部抗争で弱体化したチベット穏健派を抱き込んだ中国の(中国による、中国のための)「チベット問題解決宣言」を素知らぬ顔で賞賛・承認した方がフランス(そしてその他諸国)にとって話は早いと思われるが・・・・。

中国に対してフランス・欧州が容易い交渉相手ではないことを示すための示威行動か? 米国の失速を背景に、今後の国際的な政治・経済秩序を欧州・中国間で話し合う機会も増加するであろうことは想像に難くない。それを見越して、フランス・欧州が唯々諾々と中国に靡く存在ではないことを広く国際社会にアピールするためのダシにダライ・ラマ14世に使ったということなのだろうか?

それとも、北京オリンピック辺りからフランスや欧州において広まった中国への反発に対する一種のガス抜きとしてサルコジ・ダライ会談が設定されたということなんだろうか? もしそうならば、事前にフランス・欧州と中国で「中国は、サルコジ仏大統領とダライ・ラマ14世との会談を他の政治・経済問題に波及させない。フランス・欧州はその見返りを中国に提供する」といった取引が成立している可能性があるわけで、そうなると当面は遠のいたと思われたEUの対中武器禁輸解除が、逆に早く成立する可能性もでてきたということか。

或いは、確固たる戦略や政策もなく、単に人権や自由といった大義名分に酔ったか、判官びいき的な感情に押し流されるままにサルコジ仏大統領はダライ・ラマ14世との会談を決断したのだろうか?

思いつくままに推測を書き連ねてみたが、やはりサルコジ仏大統領の意図が分からない。ただ、それだけに一層興味深い。果たして中国はこのサルコジ仏大統領が投じてきたくせ球をどう打ち返すのだろう? 本当に興味深い。

2008年12月2日火曜日

第百六十四段 ASEAN首脳会議は延期

12月中旬にタイ・チェンマイで開催予定だった3会議が、いずれも来年3月に延期されたそうです(出典:共同通信)。反政府組織の跋扈・騒擾が止まない現状下、鬼に加えて狸も大笑いしそうな話ですが、至極当然の決定と言えば当然の決定。でも来年かぁ・・・・、それまでASEAN自体が存続しているんですかねぇ?(ぉ

そんなことを感じながら各ニュースサイトをチェックしていると、そのタイ、政権自体が崩壊したようです。

タイのソムチャイ政権が崩壊、憲法裁命令 空港は部分再開へ

 【バンコク=三河正久】タイ憲法裁判所は2日、最大与党「国民の力党」など与党3党が昨年12月の総選挙で党ぐるみの選挙違反をしたと認め、解党を命じ る有罪判決を言い渡した。ソムチャイ首相ら各党幹部は5年間の政治活動を禁じられ、同首相は失職、政権は発足2カ月余りで崩壊した。一方、首相退陣を求め てバンコク近郊の国際空港を占拠していた反政府勢力「民主市民連合(PAD)」は運航再開で空港当局と合意した。

 解党3党の議員はあらかじめ受け皿として設立した別の党に60日以内に移り、連立を維持する構えだ。与党議員らは2日、連立の枠組みを維持することで合 意し、8日にも下院で暫定首相を決める指名選挙を行う。解党により幹部計109人が被選挙権を5年間取り上げられたが、首相を選出する下院では3党を含む 連立与党議員が依然として過半数を占める。(20:22)(出典:日経ネット)

何だか軍部、与党派、反政府派、司法を巻き込んでの泥仕合が一層激しくなっていくような予感がしてなりませんが、このタイの有様を見ていると、学生運動や安保反対闘争の嵐が吹き荒れながらも、その鎮静化に成功した(そして高度経済成長と統治機構の安定化を成功させた)1960年代日本の自民党や霞が関が、本当に偉大な存在に見えてきます(それが今や見る影もなくおちb(以下検閲により削除))。

堪らないは中国でしょうなぁ・・・。EUとの協力強化を誇示して米国にプレッシャーを与える好機でもあったEU・中国首脳会議がチベット問題を巡って中止となり、次いで強大な経済力と豊富な外貨準備高を背景に主役の座が約束されたも同然であったASEAN+3首脳会議、東アジア首脳会議は、不甲斐ないホスト国のせいで「延期」に追い込まれる。何かに呪われたかのように晴れ舞台の予定が潰されていく中国・・・・。誰か「中国調伏」の祈祷でもやってりして・・・・?

国際的な金融危機が本格的に波及してきた日本にとっても、ASEAN+3首脳会議、東アジア首脳会議は、地域諸国と連携して対応策を打ち出すための格好のセレモニーとして利用が見込めただけに、「勘弁してくれ」と言った所でしょうか?

とまれ、来年に延期されたASEAN首脳会議、ASEAN+3首脳会議、東アジア首脳会議の開催場所は、デモ隊や反政府組織が猖獗を極める半端な民主国家よりも、政府の国内統制がしっかりしたヴェトナムかシンガポール、若しくは政情の安定した豪日あたりでやることにした方が良いのではないですかねぇ・・・?
(´ヮ`;)

2008年12月1日月曜日

第百六十三段 EU・中国首脳会議は中止されました

当ブログ第百六十一段で取り上げたEU・中国首脳会議ですが、中止となっていたみたいです。しかも中止決定が公になったのが11月26日。そして「会議の帰趨が興味深い」という旨をブログで書いたのが11月28日
・・・・・恥ずかし過ぎるッ!! (/ω\)

中国、EUとの首脳会議取りやめを通告 ダライラマ訪欧で

 【ブリュッセル= 下田敏】欧州連合(EU)は26日、12月1日に仏リヨンで予定されていたEU・中国首脳会議の取りやめを中国が通告してきたことを明らかにした。チベッ ト仏教最高指導者ダライ・ラマ14世が欧州を訪れ、EU各国の首脳らと会談するため。EUと中国は今年春にチベット自治区での騒乱で対立した経緯がある。 首脳会議の突然の中止で関係が冷え込む恐れがある。

 EUは声明で「(首脳会議中止の)中国の決定は遺憾だ。EUは国際的な金融・経済情勢などで中国と関係強化の用意がある」とした。EU 議長国フランスのサルコジ大統領は12月6日にポーランドでダライ・ラマと会談する予定で、中国はフランスに「(会談には)断固反対する」と伝えていた。(出典:日経ネット)

・・・・気を取り直して、今回の中止による中国とその周辺の国々の利害得失を考えると、以下のようになろうかと思われます。

<日本>
・EUの対中武器禁輸措置の解除が遠のいたという点では悪い話ではないと思われます。
・EUとの連携が難しくなった中国が一気に対米協調外交に舵を切ってきた場合、台湾海峡
 や朝鮮半島を巡る枠組み・合意が、日本の頭越しに米中間で形成されてしまう可能性に
 ついては注意が必要かと思われます。

<中国>
・新鋭兵器の調達源について、当面はロシア依存を続けざるを得なくなったという点で
 失点と言えるかと思います(因みに、ロシアは自国配備のものより能力水準を下げた
 武器を中国に売却しています。その理由は、主に、両国が国境を直に接している、
 そして過去(ロマノフ朝以来)何度も鋭い対立を繰り返して干戈を交えている、といった点
 にあります)
・次代の国際的な経済・政治秩序の形成にあたって、米国に張り合うためのパートナー
 としてEUに積極的な期待が当面は持てなくなった点で失点と言えるでしょう。

<ロシア>
・武器売却のお得意様をEUに奪われる危険性が減ったという意味で、朗報と言えるでしょう。
・共にロシアの原油・天然ガスの一大消費先である中国とEUの連携が見えにくくなったことで、
 強気の資源外交を進め易くなるという点で、朗報と言えるでしょう。

中国にとっても失うものの多いEU・中国首脳会議中止決定ですが、「チベットは誰が何と言おうと手放さない」という中国側の従来通りの意思表示という面の他に、ひょっとしたら中国側は、米国の次期国務長官に親中派と目されているヒラリー・クリントン氏が有力視されるという状況を考慮し、「EUがガタガタ文句を言うならば、我が国は米国と組むぞ」というメッセージも込めて今回の決定を下したのかもしれません。とまれ、巨大な人口と高い経済成長率、世界最大級の外貨準備高を誇る中国との関係が拗れたままというのは、景気後退という課題と新国際金融秩序の主導権確保という野望を有するEUにとっても頭の痛い問題の筈。中国が投げてきた首脳会議中止というボールをEUがどう返すのか、注目していきたいと思います。



でも、本当に恥ずかしい・・・・。 (/ω\)

2008年11月27日木曜日

第百六十段 ヨルダンの原子力開発

中東にヨルダンという国がある。イスラエル、シリア、イラク、サウジアラビアに囲まれためぼしい産業のない国である。そのヨルダンが最近、原子力開発に力を入れているらしい。ネット上で確認できるものを拾ってみると、実際、以下のようなニュースを確認することができた。

<ヨルダンの核開発の軌跡(2008年11月26日時点まで)>
・2008年11月4日  日本の資源エネルギー庁原子力政策課長、
             講演で「ヨルダン等から原子力開発にかかる協力要請がある」旨を公表。
(出典:日本原子力産業協会(原子力関連ニュース))
・2008年10月24日 韓国と原子力協定を仮締結
(出典:Yahoo!ニュース)
・2008年10月2日  仏アレバ社とヨルダン中央部におけるウラン共同探査協定締結
(出典:日本原子力産業協会(原子力関連ニュース))
・2008年8月19日  中国と原子力協定を締結
(出典:サーチナ)
・2008年6月29日  英国と原子力協定を仮締結
(出典:時事通信)

元来石油資源に恵まれず(天然ガスは多少あるものの、殆どが希少な外貨獲得手段として輸出に回されている)、ヨルダン川の汚染や枯渇懸念、都市人口の急増に悩むヨルダン政府にとって、原子力による発電能力の強化や海水淡水化事業は魅力的なものだろう。

また、個人的な独断と偏見だが、ヨルダンの核開発には、イランの核開発問題に神経を尖らせるサウジの意向も見え隠れしているように思える。イランに核開発の独走を許してしまえば、サウジの中東における政治的影響力は大きく後退することになる。かといってサウジ自身や同国の影響力が強いGCCという枠組みで核開発を行った場合、どうしても対イラン牽制という色合いが強く出てしまう上、「何故豊富な原油・天然ガスがあるのに、原子力にこだわるのか?」という現在イランが欧米諸国から突き付けられているのと同じ疑問に直面し、徒に欧米の疑念すらも高めてしまいかねない怖さがある。

そこでサウジとしては、同じイスラム教スンニ派の王制国家であり、同時に全方位等距離外交を掲げ、石油資源に乏しいヨルダンに核開発を先行させることで、イランや欧米の警戒感を煽ることなく、いざという時に備えて各種ノウハウや放射性物資の提供を受けようという狙いがあるのではないかと考えることもできよう。

そしてヨルダンの地理的配置をもう一度確認して見れば、北方には親イランのシリア、そしてそのシリアとイランの支援を受けたヒズボラが割拠するレバノンが鎮座している。西にはイスラエル、そしてイランの支援を受けるハマスと欧米の支援を受けるファタハが内部抗争を繰り広げるパレスチナ自治区が存在する。一見するとヨルダンの原子力施設は随分と剣呑な位置にあるように思えるが、イランの中東における影響力の拡大を防止するという意味で、ヨルダンの核開発を支援・擁護することについてサウジとイスラエルには寧ろ共通の利害が発生するのではないだろうか。最近イスラエルがハマスの勢力圏であるガザを中心に掃討作戦を強化しているのも、或いはヨルダンの原子力開発の安全を図るという意図を含んでのことかもしれない。

2008年11月24日月曜日

第百五十九段 サウジ、手駒を動かす

海賊事件の頻発しているソマリアにおいて、サウジが動いた。以下のロイターの記事にある様に、手駒のイスラム原理主義勢力を動かして海賊攻撃に乗り出したのだ。

[モガディシオ 22日 ロイター] ソマリアのイスラム原理主義勢力が22日、活発化する同国の海賊に乗っ取られたサウジアラビアの超大型タンカー「シリウス・スター」を救出するため、攻撃に乗り出した。同勢力のスポークスマンが明らかにした。

 シリウス・スターは1億ドル(約96億円)相当の石油を搭載、フィリピンやサウジ、クロアチア、ポーランド、英国からの乗組員25人が乗船している。ソマリアの海岸線の中ほどにある町Haradheere近くの沖合いに停泊中とみられている。

 イスラム原理主義勢力の一派は、「イスラム教徒の」船を乗っ取ったことに対する報復として、海賊を攻撃すると宣言。スポークスマンは22日、ロイ ターの取材に「戦闘員を手配した」と語った。まずは物資や連絡を制限することで内地とシリウス・スターに乗っている海賊メンバーとのやり取りを遮断するこ とから始めるという。

 ただ、イスラム原理主義勢力の間でも動きは統一されておらず、Haradheere住民がロイターの電話取材で語ったところでは、別のグループは海賊が得た身代金の一部を何らかの条件と引き換えに得ようと海賊メンバーと交渉している。(出典:ロイター)

湧いて出てくるソマリ海賊に嫌気がさした各海運会社では、海賊の牙城アデン湾を通るスエズ航路を回避し、南アフリカ沖を通る喜望峰航路(バスコ・ダ・ガマがインドに到達した航路にほぼ該当)に乗り換える動きが進んでいるという。当然、輸送コストはかさみ、ペルシャ湾岸から欧州に向けての原油輸送にも支障が出てくることになる(以下の共同通信記事参照)。

カイロ23日共同】紅海に近いアフリカ東部ソマリア沖で海賊行為が頻発していることを受け、中東やアジア方面と欧州の間を航行する海運会社などのタンカーや貨物船が、紅海と地中海を結ぶスエズ運河を回避し、アフリカ南端を迂回するルートをとる傾向が強まっている。

 リスクを回避できるものの、より長い距離を航行することになり、輸送コストの増加が懸念されることから、海運各社は早急な海賊対策を各国政府に要求。スエズ運河の通航料が主要歳入のエジプト政府にとっても事態は深刻だ。

 ロイター通信によると、デンマークに本拠を置く大手の海運会社APモラー・マースクは石油タンカー50隻を南アフリカの喜望峰回りのルートに変更。ノルウェーのフロントラインも同様の対応を検討中だ。

 国際海事機関(IMO)のミトロプロス事務局長によると、喜望峰回りだと中東のペルシャ湾岸から欧州まで12日余計にかかるため原油の供給が遅れ、輸送コストも25-30%増加するという。(出典:共同通信)

上記記事で名前のあがった各国や周辺国がソマリ海賊の跋扈から受ける影響を考えてみたい。

まずロシアだが、ソマリ海賊の跋扈はロシアにとって好悪両面の影響があると考えられる。まず好影響の方だが、世界の石油の全輸送量の3割以上が通過するとされるアデン湾で海賊が蔓延ることにより、欧州がよりロシア産の石油・天然ガスに依然せざるを得ない状況が生まれることになる。
次に悪影響の方だが、アフリカ紛争地帯に対する武器輸出のコスト増加がある。今まではソマリアに荷揚げ港を設定することで、同国の無政府・混乱状態を隠れ蓑に、アフリカ紛争地域への武器輸出を進めることができたが(旧ソ連のトロール船を母船とする海賊集団(出典:ロイター)については、「貨物船の用心棒」等、ロシアと何らかの繋がりを有している可能性がある)、あまりに海賊勢力が割拠するようだと、ロシアと意を通じていない海賊も増加するわけで、当然、ロシアからの武器輸出船も海賊の標的にされてしまう危険性が増加することになる(実際、既に戦車などの重火器を搭載したウクライナ船籍の貨物船がソマリ海賊に乗っ取られる事件が発生している)。かといって他の東アフリカ諸国を見れば、それなりに中央政府が機能しているので(少なくともソマリアよりはまし)、紛争地域への武器輸出に当たって各国の監視の目をごまかす、あるいは黙認を取り付けるためにより多くのリベート、”手数料”の類を提供することになるだろう。また首尾よく新しい荷揚げ港を確保したとしても、、武器の積み出し港が黒海かバルト海の沿岸にある以上、海賊の脅威を避けるためにスエズ航路から喜望峰航路に変更した場合、燃料費が余計に喰われることになるのはその他一般的な貨物船と同じである。

サウジにとっては好影響は特にないと考えれられる。悪影響としては、航路変更により欧州向けの原油輸出でコストや到達日数が増加する結果、欧州でのシェアをロシアに奪われてしまう可能性の増加が挙げられよう。

エジプトにとっても、好影響はないだろう。寧ろ、国家財政に重きをなすスエズ運河の通行料が減少するという形で、ソマリ海賊跋扈の悪影響を直接的に受けることになる。国際的な金融危機でもう一方の国家収入の柱たる観光事業も減速が予想され、米国からの援助資金も現状維持なら御の字、減額も十分にあり得るという状態。そして今はムバラク父からムバラク息子への権力禅譲が控えた微妙な時期。泣きっ面に蜂と言っても過言ではないだろう。かといってソマリ海賊に対して軍事行動を取ろうとすれば、スーダンやイエメン、サウジといった周辺国の警戒心を徒に煽りかねず(特にスーダン、イエメンは、過去にエジプトと干戈を交えているだけに、強い態度で出てくるだろう)、却ってアデン湾から紅海、スエズ運河に至る一帯の不安定さを強化してしまう可能性がある。まさに痛し痒しであろう。

欧州としても、好影響は特段存在しないと考えられる。悪影響は二点考えられる。まず一点は、中東からの原油・天然ガス供給に支障が出てくることで、エネルギー面でのロシア依存が一段と進行する可能性が増大することだろう(その分、代替エネルギー分野への支援・補助が手厚くなることも考えられる)。もう一点は、欧州とアジア・太平洋地域を繋ぐ交易に支障をきたす可能性だろう。

もう一つ、好悪は判然としないが、影響を受ける可能性のある分野がある。欧州が音頭をとって進めてきた地球温暖化対策である。というのも、もしこのまま温暖化が進んだ場合、北極の海氷が激減・消滅することになる。その場合に誕生するのは(当ブログ第五十九段参照)、アジア・太平洋地域と欧州をより短距離で結ぶ新航路である(東京-ロンドン間の距離が、スエズ航路では約2.1万kmなのに対し、北極海航路では約1.6万kmとほぼ4分の3で済むことになる)。しかも、北極海は資源開発の最後のフロンティアとも目されている地域である。米露加EUといった北極海に権益を有する勢力の動向に目を光らせず、ただ闇雲に「温暖化対策」、「温暖化対策」と騒ぐだけならば、「欧州情勢ハ複雑怪奇」との迷言を残した平沼内閣の轍を踏んでもおかしくはない。

2008年11月22日土曜日

第百五十七段 食はカンボジアにあり?

一時の狂乱的なコモディティ・バブルも崩壊し、石油や各種金属資源、農産物の市場価格が下落に転じたことで、食料危機やエネルギー危機といった言葉もすっかり忘れ去られようとしております今日この頃。しかし、世の中には食料の安定供給に気を抜いていない国も依然としてあるように御座います。2008年11月21日のThe Financial Times紙が「Cambodia holds land deal talks」という題の記事でそんな各国の動向の一端を伝えております。

記事の概要としては、現在クウェート、カタール、中国、そして今年はコメ不足に泣いた韓国やフィリピンといった国々がカンボジアでの農地投資に強い関心を示したり、実際に投資を行っているというものです。カンボジアの農業状況を鑑みれば、メコン河とトンレサップ湖という水源に恵まれた大地が広がっていることから、国土面積:約18万K㎡の21%が農地として利用され、人口:約1400万人の34%が農業従事人口という農業国家。主要作物としてはコメ、天然ゴム等があります(以上、参考文献:『データブック・オブ・ザ・ワールド 2007年版』 二宮書店)。記事によれば、そんなカンボジアに対し、クウェートが約5.5億ドルの農業投資でカンボジアと合意し、中国(そう、メコン河の源流たるチベットを押さえ、カンボジア内戦時にはポル・ポト派やシアヌーク派のパトロンとして影響力をふるった、あの中国です)は昨年に約6億ドルの資金貸与を行ったとか。(因みに日本で今話題になっている「定額給付金」の規模が約200億ドル。規模の大小は兎も角として、クウェートや中国の対カンボジア投資の方がよっぽど生きたお金の使い方に見えるのは僻目ですか? そうですか)

FT紙の記事ではカンボジアが取り上げられておりましたが、資金的に豊かな国々が途上国に農業投資を行うという事例は他にもありまして、スーダンやルーマニア、ウクライナ、パキスタンや中南米諸国にも農業投資を目的とした中東マネーが流入しているとか・・・(参考文献:『フォーサイト 2008年10月号』 新潮社

経済的に豊かな国の資金が農業投資という形で途上国に流入するのは、経済発展から取り残されがちな途上国農村部の生活水準向上に繋がる一面があり、個人的には良いことだと考えております(無論、農業投資の契約内容やそれによる果実が公正に分配されるか? といった問題があるのは事実で、そういった問題点について解決や悪影響低減のために国際的なガイドラインも場合によっては必要となってくるでしょう。)

ここで食料の大半を輸入に頼る(というか頼らざるを得ない)日本の状況に視点を移すと、日本で「食料安全保障」というと、どうしても議論が「どうやって国内自給率を上昇させるか」に集中していく傾向が御座います。しかし考えてみれば、「どうやって国内自給率を上昇させるか」という議論については、単純に食料自給率を上げた所で、もし日本自体が冷夏等の異常気象に襲われてしまえばあまり意味がないわけで、リスク分散の観点からは不十分な議論と考えられます。本来ならば「日本国民に対して好都合(安全性や価格、嗜好等の面で)な食料供給態勢を如何に築くか?」という議論が初めにあり、その上で「何処までを輸入に頼るのか?」、「何処までを自給でやっていくのか?」といった議論に入っていくのが本筋のように思われます。

閑話休題、個人的にこういったニュースを見ると、「新興国の成長によるコモディティ需要の逼迫」というシナリオが完全に死んだわけではない、と少しだけ勇気づけられる気がします(モンサント(mon:NYSE)やポタッシュ社(pot:NYSE)に直接的影響が及ばないにしろ)。
(´ヮ`;) サイキンノシジョウノウゴキニハ、ウチノメサレッパナシダッタカラナァ・・・

2008年11月21日金曜日

第百五十六段 21世紀の矛盾論

楚(注1)に盾と矛を売る者がいた。盾を褒めて言うには、「この盾の堅いことと言ったら、突き通せるものなど御座いません」。矛を褒めて言うには「この矛の鋭いことと言ったら、突き通せないものは御座いません」。そこで見物人が問うに「じゃあ、あんたの矛であんたの盾を突いたらどうなるんだい?」と。商人は答えることができずに黙りこくってしまった。

注1:長江中流域にあった古代国家。現代中国の地域区分で言えば、
   湖北省、湖南省を中心とした一帯を支配していた。

ご存じ、「矛盾」という言葉の語源となった故事に御座います(出典は『韓非子』)。

つい最近まで、点額法師はこの故事を「韓非が論を進めるために創ったフィクション」だと思っておりました。でも今では、「意外と本当にあった出来事なのかも知れない」と思っています。考えを変えるキッカケとなったのが、ロイターに載っていた以下のニュースです。

死去した富豪、「永遠の命」保証の風水師に

遺産譲る遺言=報道


[香港 11日 ロイター] 昨年4月にがんで死去した香港の富豪の女性が生前、「永遠の命」を約束した風水師に財産を譲り渡す遺言を作成していたなどと、11日付の地元紙が報じた。

 この女性は、生前アジアで最も裕福な女性だったニナ・ワンさん。メディア報道によると、ワンさんの遺産は推定120億ドル(約1兆2000億円)余りに上るが、2通の相反する遺言が存在して相続手続きが難航している。

 実業家で熱心な風水愛好家のトニー・チャン氏が2006年にワンさんが病床で作成した遺言では自分が唯一の相続人だと訴える一方、ワンさんの家族は2002年の遺言に基づき相続権を主張している。

 サウス・チャイナ・モーニング・ポストは、ワンさんの家族の弁護士が当地の高裁で、「われわれは、トニー・チャン氏がワンさんに対し、遺言にチャン氏の名前を入れることなどが永遠の命や長寿を保証するだろうなどとうそをついたと主張する」と述べたと伝えた。

出典:ロイター

「不死」を保証した風水師のために遺言状で便宜を図る不死と遺言状。まさに突き通せるものの無い盾と突き通せないものの無い矛の関係。聞けば「不死が保証されてんのに、何で遺言状なんぞ作るんだ?」と突っ込まずにはおれない話。これが凄いのは、紀元前作の例え話ではなく21世紀の香港で発生した実話ということ(誤報やヤラセでない限り)。(w ̄;)

一見すると「始皇帝以来、不老不死の好きな国民性ですね」と思ってしまいますが、考えると甘言・佞言を弄して人に取り入ろうとする不埒な輩はいつの世、いつの国においても存在するもの(例えば永田町とか、永田町とか、ながたt・・・・)。いざ自分の前にそんな輩が現れた時、「じゃあ、あんたの矛であんたの盾を突いたらどうなるんだい?」と突っ込める冷静さを常に心がけたいものです。

2008年11月17日月曜日

第百五十五段 チベットの暗澹

チベットの方がどうもキナ臭くなってきた。共同通信社が伝える所では、ダライ・ラマ十四世を中心とする穏健派が主導してきた「高度な自治」の対極に位置する「完全独立」を望む声が高まっているらしい。

3割が中国からの完全独立を要求

チベットで強硬意見浮上

  【ダラムサラ17日共同】チベット亡命政府のカルマ・チョフェル議長は17日、チベット人による緊急会議が開幕したインド北部ダラムサラで記者会見し、中 国との対話方針に関し、チベット自治区内に居住するチベット人約1万7000人の意見を集約することに成功、うち約3割が中国からの完全な独立を要求する と回答したことを明らかにした。

 チベット仏教最高指導者ダライ・ラマ14世がこれまで推進してきた、独立ではない「高度の自治」を求める「中道のアプローチ」が失敗したことを受け、チベット内部でも独立を求める強硬意見が浮上していることを裏付けた。

 同議長は意見集約の具体的な方法などは明らかにしなかったが、5000人以上が中道のアプローチの手法を転換し、完全な独立を求めるべきだと主張した。(出典:共同通信

ここで中国政府にとってのチベットの価値というのを考えると、金属資源の供給地、インドとの緩衝材等色々と思いつくが、やはり大きいのは水資源の供給地としての側面だろう。地図を見れば一目瞭然だが、チベットは長江、メコン河、紅河といった大河の水源地である。有態に言えば、チベットは華南から東南アジア大陸部、インド・ベンガル地方に至る広大な地域の水甕として機能している。もしここが中国政府の手から離れた場合、中国政府は水資源を梃にした東南アジア地域への影響力拡大を断念させられる他、自分たち自身が「渇水か服従か」を迫られる悪夢にうなされることになる(仮にチベット亡命政府が「そんな脅迫は考えていない」と言った所で、中国政府がそれを信用することはないだろう。相手が自分たちが長年虐げてきた相手なら尚更そうだ)。従って中国がチベットの支配権を弱めることは非常に考えにくい。たとえダライ・ラマ十四世に同情的な国際世論(というか欧米世論)が非難の声を挙げようとも・・・・だ。

そう考えると、チベット亡命政府の中で強硬意見が勢力を拡大することは、逆説的だが中国にとって悪い話ではない。

まず第一に、穏健派の中心であるダライ・ラマ十四世の追い落としが期待できる。チベット問題における中国に批判的な欧米世論は、ダライ・ラマ十四世の努力や人脈によって喚起されている面が大きい。もしダライ・ラマ十四世が失脚した場合、チベットに対する欧米の関心が今まで通り維持されるとは考えにくい。それは中国にとってチベットに対する自由裁量権が拡大することを意味する(要するに誰に監視されることも無く、何でもかんでもやり放題)。

第二にチベット亡命政府の内部分裂が期待できる。歴史上、ある組織が強硬派と穏健派に分かれて凄惨な路線闘争を展開することは珍しくない。今まで穏健派のダライ・ラマ十四世のカリスマによってまとまってきた亡命政府が強硬派と穏健派に分かれた場合、両者の対立が亡命政府自体の瓦解に繋がることを期待できる他、「敵の敵は味方」の論理で対立する両者の一方を抱き込み、チベット問題の円満解決を宣言することも可能になる。

第三に、中国にとってはチベットに対して強硬策を取り易くなる。第一でも述べたが、現在のチベットに同情的な欧米世論は、あくまでダライ・ラマ十四世の対中穏健政策による部分が非常に大きい。もしこれが路線転換され、チベット亡命政府が暴力を厭わない対中強硬策に転じた場合、中国のチベットにおける苛烈な弾圧は正当化し易いものとなるだろう(特にチベット強硬派のテロによって北京や上海で市民・外国人に死者が発生した場合は・・・・)。これにはイスラム過激派との提携が疑われ、急速に欧米世論の同情と関心を失ったチェチェンという実例がある。

今日の国際情勢を鑑みるに、金融危機に喘ぐ世界において、巨大な外貨準備高と(比較的とは言え)高い成長率を誇る中国沿海部を押さえる北京政府の機嫌を損ねてまでチベットに肩入れする主要国家が現れるとは到底考えにくい。従って現時点でチベット問題の帰趨を考えるに、最終的には中国がチベット亡命政府を屈服させる形で落着すると考えるのが妥当な線だろう。

2008年11月11日火曜日

第百五十三段 音速の遅い読書『GA-芸術科アートデザインクラス (2)』

今回の音速の遅い読書で取り上げるのは、以下の一冊。

GA-芸術科アートデザインクラス (2) (まんがタイムKRコミックス) (まんがタイムKRコミックス)
きゆづき さとこ
コミック
芳文社
総合評価 5.0
発売日 2008-01-28

アマゾン通販

波濤激しきグローバル経済という大海の中、頼りになる組織・コネクションも無く、残された道は、毛沢東やスターリン、フランクリン・ローズヴェルトの如く、徹底した機会主義と実利主義をあらゆる局面において追求してサバイバルしていく道のみ。そんな荒涼人生を生き抜くことを決断した人間にとって、日々繰り返す大なり小なりの「万人の万人に対する闘争」で消耗した精神を如何にリフレッシュさせるかは、次の生き残り戦の結果にも直結する一大事で御座いましょう。

そんな精神的回復手段をお求めの方にお勧めなのが、『GA-芸術科アートデザインクラス 』に御座います。現在2巻まで発売されている当作品は、高校の美術科(正確に言えば「芸術科アートデザインクラス」。略して「GA」)に通う5人の女の子たちの日々を中心に描いた4コマ漫画です。

柔らかくふんわりとした画風、カラーページの瀟洒な色使い、色彩や美術の小ネタ、個性溢れるキャラがガチで繰り広げる切れ味鋭いボケとツッコミの応酬。これらが点額法師個人が考える本作の魅力です。そんな個々の魅力が相乗効果を発揮することで、なんとも心地よい読み心地が醸し出されているように思えます。そんな本作に触れると、日々理と利の計算に明け暮れ、僅かな数値の揺らぎにすら大きく心を乱され、当局者やキー・パーソンの発言・声明の裏を勘ぐり、行間を読み解くことに血眼になっている生活で積もりに積もった心の凝りが一気に解きほぐされるような感覚を覚えます(寒風吹きすさぶ夜にホット・コーヒーを口にした時の感覚とでも申しましょうか・・・・)。

金融市場の風濤は止まず、実体経済の悪化も当面続きそうな状況だからこそ、強張りの解けた精神で臨んでいきたいもの。そんな時によく効く一冊です。

2008年11月9日日曜日

第百五十二段 音速の遅い読書『国際紛争―理論と歴史』

今回の音速の遅い読書で取り上げるのは、以下の一冊。

国際紛争―理論と歴史
ジュニア,ジョセフ・S. ナイ
単行本
有斐閣
総合評価 4.5
発売日 2005-04

アマゾン通販

著者のジョゼフ・S・ナイ氏と言えば、日本では、クリントン政権時代の日米関係が困難であった時期に国防次官補を務め、日米同盟を世界の平和と安定の維持の礎として位置付ける「ナイ・イニシアティブ」を打ち出して日米同盟の漂流と座礁を未然に防止した時の印象から、辣腕の実務家という印象を持たれることが多いかもしれません。一方で彼には、今や国際関係を語る時に欠かせない「相互依存(これはロバート・コヘインとの共同研究)」や「ソフト・パワー」といった概念を提唱した一流の国際政治学者としての一面もあります(因みに現在はハーバード大学特別功労教授。従って、以降はナイ教授と表記します)。

そんな実務家としても学者としても大きな仕事をしているナイ教授が、国際政治学を志す学生たちに向けて執筆し、それを同じく国際政治学を研究している田中明彦教授(現東京大学東洋文化研究所教授)と村田晃嗣教授(同志社大学法学部教授)が訳したのが、今回取り上げる一冊。
(因みに、本書は国際政治という生ものを扱っているためか、度々改訂版が発表されております。今回当ブログで取り上げたのは第5版になりますが、2008年11月時点では第6版が出版されております)

構成としては、紀元前古代ギリシャのペロポネソス戦争や二つの世界大戦、冷戦、グローバリゼーションの進展といった具体的な事例に基づきながら、「現実主義」、「バランス・オブ・パワー」、「集団安全保障」といった国際政治学に於ける諸学説や諸概念を説明していくという形をとっています。各章の最後には関連年表と共に「学習上の論点」というのがあり、読者はこれを基に様々な問題を考察したり、或いは参考にして自分なりの問題設定を行うことができる仕掛けとなっています。

点額法師が個人的に面白く思った点が二点あります。
一点は、本書の中で示されるナイ教授の反実仮想の奨め。要するに、事実や各学説の理論体系等を注意深く取捨選択した上で、歴史に「if」を持ちこんで考察を行うことは、様々な事象の因果関係をより明瞭に把握する上で有効であるというものです。点額法師自身も含めて、人間どうしても目先の出来事につられたり、今現在の結果を単純に過去・未来に敷衍して物事を考え、決断してしまう所があります。そんな悪しき思考の単純化の解毒剤として反実仮想と言う思考方法を上手く使っていけるようになりたいと思わされました。
(w ̄;)
ジブン、ダボハゼナミニタンジュンナトコロガアルカラナァ・・・・。
もう一点は、あらゆる時代を通じて見出せる普遍性と時代毎の特殊性(一言で言えば「不易流行」とでも申しましょうか)の両者に注意深く目を光らせることの重要性が陰に陽に強調されていることです。権力闘争に於ける生き残り術については人類史上屈指の人物たる毛沢東も、その文書の中で「戦争全般における普遍的法則性と中国革命戦争に於ける特殊性の両者を正しく把握しない限り、勝利を手にすることはできない」といった旨を申しております。現実の政治世界で功績を挙げる人物の思考方法が、掲げる主義主張に関係なく、似通ったものになってくる点が実に興味深く印象に残ったことでした。

日々のニュースを単なる”断片”として味わうことに飽き足らなくなった人にお勧めの一冊です。

2008年11月7日金曜日

第百五十段 オバマ次期大統領は石油の使者か?

去る2008年11月4日の米国大統領選で勝利し、次期大統領の座を射止めたオバマ氏。その彼がどんな政策を打ち出してくるのか? そしてそれが日本や世界にどんな影響を与えるのか? について様々な人々が希望或いは恐怖を込めて予想を語っております。点額法師もそんな口さがない京雀の群れの一員となり、独断と偏見に満ちた見通しを示してみようかと思います。

結論として、オバマ政権は日本の石油戦略・安全保障戦略にとって望ましい状況を作り出してくれる可能性がある、と点額法師は考えます。何故そのような結論を導き出したか、以下の文章でご説明致します。

大統領選でブッシュ政権からの「Change」を掲げて大勝を収めたオバマ氏ですが、意外に「Change」の余地は無いかと思われます。というのも第二期に入ってからのブッシュ政権は、外交では穏健な国際協調主義、経済政策についてはウォール街に口も金も出す介入主義に転じているからです。

外交面の変化について、第一期ブッシュ政権(特に911テロ後の)は、卓絶した軍事力を背景に「世界をアメリカにとって安全なものに作り変える」という一大戦略の下、先制と単独行動を行動原理とした国際秩序の変革者(破壊者)として行動しました。その戦略がイラクで頓挫した結果、第二期ブッシュ政権は地域大国や国連との協調を中心とした現状維持・安定優先の外交スタンスに舵を切ります。このことは、極東アジアに於いては六カ国協議や中国に対する抑制された態度、中東に於いては国連常任理事国や欧州との協調を優先した対イラン政策を見れば一目瞭然です。

経済面の変化について、当初のブッシュ政権は民間の自由な経済活動に対して不介入主義を旨としてきました。ところが、住宅バブルの崩壊が世界を揺るがす一大金融危機に発展するや、金融機関への公的資金の投入や市場規制の強化といった介入主義に転じております。

つまり、オバマ氏が大統領選で掲げた国際協調的な外交政策、経済に対する政府のコントロール回復は、既に第二期ブッシュ政権で大枠として採用済みの路線と言えます。従って、オバマ氏が選挙期間中に訴えた外交政策や経済政策を実行に移した場合、意外な程に前政権との違いが見えにくいものとなる可能性が高いと言えます。これは「Change」を最大の旗印とするオバマ政権にとって非常に厄介な問題となります(有態に言えば、飽きられて次の大統領選が危うくなる)。

そこでオバマ政権には、前政権との違いを明確に示す政策を実施する必要が出てきます。その切り札として有力な存在が、オバマ次期大統領が選挙期間中に度々口にしてきた「イラク撤退」と「アフガン安定化」です。一方でオバマ次期大統領が引き継ぐことになる米国には、「イラク撤退」と「アフガン安定化」を独力で達成するだけの資産は殆ど残っていません。よって誰か有力な協力者を獲得しなければならないのは自明の理。ならばその協力者とはどの国か? 地理的配置と政治的影響力を考えれば、その最右翼はイランとなるでしょう。パキスタンやインドと言った前例を考えれば、米国が「平和的」核開発の容認と経済制裁解除を実施し、イランがイラク、アフガン安定化に向けた対米協力を行うという形で、米・イラン関係が電撃的に改善する可能性があります。

そこで出てくるのが日本。少資源国日本にとって、イランの豊富な原油(2005年時点埋蔵量世界2位)・天然ガス(2005年時点埋蔵量世界2位)は真に魅力的な存在です。実際に日本は2005年時点で原油輸入量の13%程度をイランから購入しています。と同時に、今までイランが日本の同盟国たる米国と緊張した関係にあったため、日本のイランに於ける資源権益は日米同盟の不安定要因ともなってきました。もしオバマ政権の米国が、政治的必要性の命じるままにイランとの関係改善に動いた場合、日本にとっては日米同盟への悪影響を心配することなく、イランでの資源権益獲得に邁進できるという夢のような環境が現れることになります。

同時に、日本にとって安全保障上の脅威となっている中国の軍備強化に一定の制限を加えることも可能となるかもしれません。日本とイランとの経済関係が強化され、その結果として流入してきたジャパンマネーをイランが軍事費につぎ込んだ場合、イスラエルや欧州への脅威度が上昇することになります。当然彼らは日本に懸念を伝えてくるでしょうが、この時日本は次のように言えばよいのです。「君たち(欧州やイスラエル)は中国に兵器や軍事技術を売却・提供している。それが止むまで我々はイランに金を流し続ける」と。

実際にオバマ政権の米国とイランとの間で関係改善があるかは、神のみぞ知る所ではありますが、一つの可能性として考慮に入れておくのも悪くないかと思われます。( ̄w ̄)

2008年11月6日木曜日

第百四十九段 音速の遅い読書『イエズス会の世界戦略』

今回の音速の遅い読書で取り上げるのは、以下の一冊

イエズス会の世界戦略 (講談社選書メチエ)
高橋 裕史
単行本
講談社
発売日 2006-10-11

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「イエズス会」というと、現代日本では、日本史に於けるフランシスコ・ザビエルとの関係や上智大学の経営母体といった認識のされ方が一般的なものだろう。ただ、この組織をもう少し詳しく見てみると、会員数2万人、展開地域は112ヶ国に及ぶという巨大組織としての顔が浮かび上がってくる。

しかし、その巨大組織も16世紀スペインで産声を上げた時は、創始者たるイグナティウス・ロヨラを含めて7人の超零細修道会に過ぎなかった。そんな弱小勢力がどのようにしてカトリック最大の男子修道会に成長していったのか、その過程で発生した資金や組織運営の在り方といった問題にどう対処していったのかを記したのが、今回取り上げる『イエズス会の世界戦略』である。

本書の中で点額法師が興味を覚えたのが、第四章「「情報」の収集・分析とイエズス会」と第六章「神の使者たちの「錬金術」」である。

まず第四章「「情報」の収集・分析とイエズス会」であるが、16世紀のイエズス会は誕生間もない時期から活動範囲が急速に拡大し、新大陸から日本に及ぶまでの文字通り地球規模で布教範囲が広がっていた。そんな状況下でイエズス会は如何にして各地域の情報を集め、分析し、宣教活動に役立てていたのか? 当該章ではインド洋から日本に至る地域を管轄したイエズス会インド管区を例として取り上げて分析・説明している。それによれば、イエズス会は書簡を通じて各布教地の情報をローマ本部に一元的に集め、分析する一方で、複数管区間で情報の開示・共有の徹底を求める規則を定め、ローマ本部―布教管区といった上下方向情報伝達回路のみならず、A布教管区―B布教管区という水平方向の情報伝達回路を構築することで、より現場の実態に即した布教戦略を採ることを可能としていたという。巨大化した組織を効率的に運用していくには、ある程度各部門の自主性に頼らざるを得ないが、その時に部門部門がベストな判断を下していくことを水平方向の情報伝達を密にすることで支援し、一方で各部門の自主的な動きが割拠主義や遠心力に転じないように、中枢部が下部門の動きに目を光らせるという、現在の組織経営論にも十分に適用できそうな話に興味をそそられた。

次に第六章「神の使者たちの「錬金術」」である。如何に神聖・崇高な理念・使命を掲げていても、この世で組織を維持・運営していくには、どうしても先立つものが必要となってくる。ではイエズス会はその活動資金をどのようにして調達してきたのかを取り扱ったのが当該章である。これによると、16世紀イエズス会の資金源としては「信者からの喜捨」、「ローマ教皇からの給付金」、「ポルトガル王からの給付金」、「各地域の不動産収益」等があったが、「信者からの喜捨」や「各地域の不動産収益」は安定性や額の大きさといった面で有望な資金源とは言えず、「ローマ教皇からの給付金」や「ポルトガル王からの給付金」に依存する面が大きくなっていった。だがこれも安定性に欠ける面があったため、やがてイエズス会自身がポルトガル王等から認可を受けて香辛料や生糸貿易に乗り出していくことになっていったという。その経過やそうやって集めた資金が具体的にどんなことに支出されていったのかが、「プラクドール」という財務・会計担当司祭の地位向上といった事例と共に活写されており、これがまた滅法面白い。

成功する組織、生き残り続ける組織といったものは、時代や所属する宗教・文明を超えて似通ってくるものである。全章を読了した時、そんな感想が脳裏をよぎった。

2008年11月5日水曜日

第百四十八段 アメリカ大統領選決着

予備選の段階から幾つもの下馬評、固定観念を薙ぎ倒して展開してきた2008年米国大統領選。それが遂に決着を見ました。

勝者は民主党のオバマ-バイデン・コンビ。獲得選挙人数は競争相手の共和党マケイン-ペイリン・コンビにダブルスコアの差をつける334人(因みにマケイン-ペイリン・コンビは157人の獲得に止まった)。

当ブログの第百四段で点額法師はマケイン候補の当選を予想しておりました。その時の根拠として挙げたのが、予備選でオバマ氏と民主党大統領候補の座を激しく争ったヒラリー氏の支持者たちが、2012年大統領選を睨んでマケイン支持に傾くという見通しでした。ところが、現実には民主党支持者の大分裂と言う事態は起こらず、寧ろ無党派層も長年の共和党政権への不満や飽き等を背景にオバマ支持に流れ、オバマ大勝の流れを形成しました。また、国際金融市場の暴風雨による実体経済の落ち込みが、与党共和党への逆風となったことも見逃せないでしょう。

しかし、オバマ大統領が率いることになる次期政権ですが、下手に期待水準が高い分、何かの拍子にそれが暗転した時のショックが恐ろしゅう御座いますな。これは何も「チェンジ」に沸き立つ米国内に限った話では御座いません。イスラム圏では「オバマ氏がイスラム教徒だ」という噂が広がり、米国の外交政策がイスラム世界に宥和的なものになることへの期待が膨らんでいるとか(出典:ブルームバーグ 何やら中世ヨーロッパに広まったプレスター・ジョン伝説を彷彿とさせます)。そんなイスラム圏の(一方的で不正確な)期待が果たされなかった場合、彼らの(手前勝手な)怒りがどのようにして爆発することになるのやら・・・・?

そして、非WASPの若くカリスマに溢れた民主党大統領というと、どうしてもダラスの事件に考えが及んでしまうのは仕方のない所。アメリカの卓絶したハード・パワー、ソフト・パワーを前提とした今までの国際的な政治経済秩序の揺れが暫く続くであろうことを考えると、あまり実現して欲しくはない可能性では御座います。が、はてさてどうなる事やら(それでも外交通で上院議員生活の長いバイデン氏が副大統領に控えていることを考えれば、マケイン-ペイリンで類似のケースが発生した場合より、遥かに安心感はある)。

当年とって47歳と言う若き大統領がこれからどのような歴史を紡いで行くか? 神ならぬ浅学非才の身にはわかりかねますが、唯一つ、唯一つの望みを申せば、この若き大統領とそのブレーンたちには、「世の中には正義、人権、民主主義よりも、まず安定、秩序、均衡が優先されるべき領域がある」ということ理解した上で様々の決断を下して欲しいものです(さもなくば、イラクを泥沼と化し、自らもそこに沈んだ第四十三代大統領の轍を踏みましょうぞ!)。

2008年11月4日火曜日

第百四十七段 音速の遅い読書『猫神やおよろず 1』

今回の音速の遅い読書で取り上げるのは、以下の一冊

猫神やおよろず 1 (1) (チャンピオンREDコミックス)
FLIPFLOP
s
コミック

秋田書店
総合評価 5.0
発売日 2008-0
5-20
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二十一世紀のこの世でも、神様の数はいと多く。曰く、ちよろず、やおよろず。

そんな出だしで始まる、神様たちの活躍絵巻が本書の内容。
とはいっても、アイアン・メイデンや火刑、異端審問官、自爆テロに思想言論弾圧といった物騒極まりないものを世に蔓延らせ、魔女やら悪魔やら異教徒やらの絶滅に血道をあげる神様は出てきません。(ぉ

本書に出てくる神様といえば、レゲー中毒(レゲエに非ず)だったり、コンビニでビールを買ったり、官憲に道を尋ねたりするぐらい、現代日本に溶け込んでおります(でも、扶養控除の頭数には入らないらしい・・・・)。そんな何とも人間臭い神様たちと人間の繰り広げる日常ストーリーが、穢濁悪逆が横溢する世の中で冷え切ってしまった心をほっこりと暖めてくれます。(´ヮ`)

数あるお話の中で、投資家点額法師にとって最も印象に残ったのが「貧乏神インスペクト」というお話。要するに貧乏神が主人公の猫神様が住む街にやってくる話なわけですが、その貧乏神様と言うのがまた凄い武勇伝を噂される大物。具体的に言えば世界恐慌を始め、様々のバブル崩壊のトリガーを引いたとされる強力貧乏神。そんなのが街に乗り込んできた日には・・・・。((((;゜Д゜)))
その顛末の如何は本書を参照して頂くとして、何とも含蓄があるのが、好況と不況、生と死、幸と不幸がどうしようもなく不可分であるというくだり。普通に読んでも実に味わい深いシーンなのですが、点額法師が本書を購入した2008年5月は世間的にはコモディティ・バブル華やかなりし時代。その熱に浮かされて、当時のブログ第五十三段で点額法師は以下のようなことを書いております。

↓熱病の記憶


今にして思えば、この時点で既に貧乏神様はアップを開始していたのでしょう。

その後の金融大海嘯(中国では今回の世界的金融危機をこう呼んでいるとか・・・・)で直撃を受けて現在に至る投資の軌跡を回顧する時、件のくだりが実に身に沁み入ってくるように思われるのです。
と同時に、ペイバックタイムもいずれ訪れるでしょうと、落ち着いた気分にもさせてくれます。VIXやバルチック海運指数の動きを見ると、まだまだ貧乏神様のバブル潰しは続きそうですが、果たして第2巻が出る頃にはどうなっていることやら・・・・? 

まぁ、慌てず騒がず、落花流水の心持と神様たちのゆる~い日常ストーリーをお供に、ゆっくりじっくり機を見計らっていきますかねぇ。
( ̄w ̄)

2008年11月1日土曜日

第百四十四段 音速の遅い読書『アメリカ外交の大戦略 先制・単独行動・覇権』

今回の音速の遅い読書で取り上げるのは、以下の一冊。

アメリカ外交の大戦略―先制・単独行動・覇権
ジョン・ルイス ギャディス
単行本
慶應義塾大学出版会
発売日 2006-11

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副題に掲げられている「先制・単独行動・覇権」という外交スタンスは、世間一般の理解ではブッシュ(ジュニア)政権の専売特許として受け止められている(もっと粗雑な議論になると、その淵源がジョージ・W・ブッシュ大統領の個人的資質や陰謀論に結び付けられていたりもする)。

しかし、米国に於ける冷戦史研究の泰山北斗たるジョン・ルイス・ギャディス博士は、この本の中で「先制・単独行動・覇権」というブッシュ政権の外交スタンスは、911テロの洗礼の中から生まれた突然変異的な戦略ではなく、寧ろ19世紀アメリカの外交スタンスへの先祖返りとして見るべきものであることを、米国の歴史を振り返りながら指摘している。

博士の記述によれば、まず第一に、19世紀米国の周囲には、広大なフロンティアのみならず、カナダに英国、アラスカ及びサンフランシスコに至る米国西海岸にロシア、フロリダにスペインといった具合に欧米列強の植民地が存在した。そうした各植民地で本国政府の統制が及ばないもの、米国が掌握しきれていないフロンティアといった「力の真空地帯(ギャディス博士はこれを現在で言う所の「破綻国家」になぞらえている)」は、容易に米国に敵対的な先住民、盗賊・海賊の類の巣窟と化していた。

また、第二に、19世紀米国には、他国との条約締結は、米国を他国の面倒事に巻き込ませるものだというコンセンサスが存在していた。

第三には、ドングリの背比べ的に似通った力を持った諸国が割拠する欧州では、「勢力均衡」と言いながらも、外交関係は均衡点で安定することはなく、寧ろ長年にわたって戦乱を繰り返してきたという事実があった。

以上三点を踏まえて19世紀米国の外交官(そしてギャディス博士が「大戦略家」と評する)ジョン・クインシー・アダムズは、災厄の淵源となるかもしれない対象に対する「先制」、米国はその安全を他国の善意・力ではなく自国の力に依拠すべきである、従って、他国との国益の調整をおこなうような義務は負わず、米国の国益が挑戦を受けた時も他国との相互援助を制約すべきではないとする「単独行動」、同じような実力を持つ諸国家の共存を前提とする「勢力均衡」が安定と平和の獲得に役に立たない以上、米国は北米を中心に領土、国力の面で卓絶した勢力となることで、地域に平和と安定をもたらすべきであるとする「覇権」、以上三つのコンセプトをセットとした戦略を構築する。この三位一体の戦略は、その後の米国の基本的な戦略として機能し続け、米国は西半球の大国として安定と平和を享受することになる。

転機が訪れたのは第二次大戦の勃発である。空母や航空戦力の発達によって今まで米国を西半球に専念させてきた太平洋・大西洋の距離による安全保障が機能しなくなる中で、米国は外交戦略の再検討を迫られることになる。時の大統領フランクリン・ローズヴェルト(以下「FDR」と表記)は、今まで米国が採ってきた外交戦略を支える「先制・単独行動・覇権」というコンセプトの中で、最も優先されるべきものは「覇権」であると考え(但し、アダムズの「覇権」の範囲が西半球の域を一歩も出なかったのに対し、FDRのそれは世界を対象としていた)、それを実現・維持するための手段として、過去にウィルソンが確立しようとして挫折した「多国間協調主義」と時に冷酷なパワーポリティクスの論理を上手く接合することに成功する。この時FDRによって確立された新戦略が第二次大戦後から911勃発に至るまでの米国の規定戦略となっていく。

そして2001年9月11日に発生した911テロ。FDRの新戦略があくまで「国家を主体とした世界」を想定して作成されたものである以上、国家ではないテロ組織が米国及び他の主権国家の安全を脅かす時代に、そのままでは対応しきれないものであることは自明の理。では、米国はどのようにして新たな脅威の時代を生きていくべきかを考えた時、現ブッシュ政権が採用したのは、アダムズ戦略への回帰であったというのが、ギャディス博士の結論。

本書では、上記結論を踏まえた上で、復活したアダムズ戦略は果たして上手く機能しているのか、主役の座を降りることになったFDR戦略にもまだ十分な利用価値があるのではないかといった所まで、論を進めている。文体は簡潔にして研ぎ澄まされた刃の様な美しさも感じる(これは訳者の力も非常に大きいと思う)。当段では省略した米国外交の軌跡やFDRのしたたかさも含め、過去との生き生きとした対話によって現在・未来の見取り図を示す賢人の冴えを堪能できる一冊ではないか。

2008年10月28日火曜日

第百四十二段 大事なものは三つ。石油。石油。石油。

「石油の一滴は血の一滴」と申した時代が御座いました。2007年10月から始まり2008年7月にピークを迎えたWTI高騰期には、その言葉が身に沁みるような場面も多々あったと聞き及んでおります。そして今やWTIは下落に下落を重ねて「1バレル=64.40ドル」とピーク時の半分以下の価格水準。世界的景気後退懸念の強まりに、最早新興国の需要拡大による原油価格の上昇といったストーリーは見向きもされなくなった感が御座います。

そんな中でも、13億人以上の人口と何だかんだで9~11%の経済成長率を擁する中国は、今も原油の安定供給に貪欲な姿勢を堅持しているようで・・・・。そんなことを思わされたのが以下の2件のニュース。
中国:ロシアのロスネフチなど石油2社に250億ドル融資も-ロイター

10月28日(ブルームバーグ):ロイター通信は27日、中国がロシアの石油 会社ロスネフチと石油パイプライン会社トランスネフチに対し、両社からの輸出 を担保に最大で250億ドル(約2兆4000億円)規模の融資を行う可能性がある と報じた。ロシアはアジアのエネルギー市場での事業拡張を狙っている。

ロイターが事情に詳しい匿名の関係者の話を基に伝えたところによれば、中国 の温家宝首相は28日、ロシア当局者との間で石油調達の合意書に署名する。こ れにより、中国は向こう20年間にわたり、年間需要の4%に当たる3億トンの 石油が入手可能となる。

一方、ロスネフチとトランスネフチは信用収縮のなか、世界最大の外貨準備保 有国である中国から資金を調達できることになる。ロイターによると、ロスネフ チは120億-150億ドルを借り入れる可能性があり、トランスネフチはシベリア 東部のパイプライン建設のため、80億-100億ドルの融資を受ける見込みだ。 (出典:ブルームバーグ


中国向け支線建設で協定=ロシアの太平洋パイプライン

  【モスクワ28日時事】ロシアを訪問している中国の温家宝首相は28日、プーチン首相とモスクワで会談、両国のエネルギー協力推進などで合意した。これを 受け、ロシア国営パイプライン運営会社トランスネフチと中国石油最大手、中国石油天然ガス集団(CNPC)は、東シベリアからの石油を運ぶ太平洋パイプラ インの中国向け支線建設に関する協定に調印した。(2008/10/28-22:34)(出典:時事通信

ここ最近の金融危機でロシアの資源企業の資金繰りが厳しくなっているというニュースが度々報じられておりましたが、世界最大の外貨準備高(2007年時点では約1.5兆ドル)を誇る中国がここで登場してきました。「安くなったからもういいじゃない」とばかりに、原油輸入の中東依存是正、近隣諸国とのエネルギー分野での協力体制の構築といったエネルギー戦略を巡る議論が胡散霧消してしまった感のある日本を尻目に、金融危機で弱ったロシアの主要石油企業に救いの手を差し伸べ、しっかりと対価の約束を取り付ける中国政府の手腕は鮮やかなものが御座いますな。

危機・混乱の最中にあって助けるべき対象とそうでないものを識別する眼力、そして助けた相手からは支援に応じた対価をしっかり回収する(少なくとも対価の約束を取り付ける)交渉力といったものは、不安定性を増す五濁末世の世の中にあって、個人、組織を問わずに求められる場面が増えてくるものと思われます。今回の中国の行動は、その善い手本に思えたので当ブログでも取り上げたものです(まあ、協定が無かったことにされるとか、最終的には失策となる可能性も無いわけではありませんが・・・・)。

でも、こんなこと(リンク先:ロイター)を言って実際に米ドルが基軸通貨としての影響力を減じた場合、一番ダメージを受ける(国富的な意味で)のはそちらさん達なんじゃないですかねぇ・・・・。(△ ̄;)

第百四十一段 極東アジアとブラジル

バルチック海運指数が、ニュートンのリンゴも真っ青な自由落下ぶりを見せております。具体的に申しますと、今年の5月20日に最高値の11793ポイントをつけて昨日10月27日は1048ポイント。5ヶ月間で90%以上の下落に御座います。

各種鉱石や穀物等を運搬するバラ積み船運賃の国際指標たるバルチック海運指数がここまで低迷しているのは、様々な理由はあれど、以下のニュースで伝えられる動きがその一因になっていることは想像に難くありません。

鉄鉱石値上げ攻防 最大の買い手・中国とブラジル・ヴァーレ

 世界最大の鉄鉱石輸入国の中国と、鉄鉱石世界最大手のブラジル、ヴァーレ(リオドセ)が鉄鉱石値上げを巡り舌戦を繰り広げている。世界景気が減速傾向を強める中、資源価格の攻防が顕著になってきた。

 発端はヴァーレが9月、日本や中国などの顧客に対して「欧州向け価格とそろえる」として年度途中では異例の値上げを求めたこと。中国では自動車需要の減 速などを背景に鉄鋼需要も減少。港では引き取られない輸入鉄鉱石が大量に滞留している状態で、鋼材の値下げも相次いでいる。(10:47)

出典:日経ネット

資源爆食中国のいわば影法師として存在感を高めてきた資源国ブラジル。そのブラジルが、徐々に極東アジアに於いて単なる原材料供給国の範疇を超えて存在感を増しつつあります。

今年4月10日には国営石油会社ペトロブラスが日本のエクソン系製油会社南西石油を買収しております(出典:ブルームバーグ)。意外に知られておりませんが、この南西石油という会社は、沖縄県の西原町に精油施設を抱えている関係から、在沖米軍にジェット燃料の供給も行っていた会社です。台湾海峡や朝鮮半島の発火抑止が在沖米軍の行動能力に依っている面が大きいことを考えると、その在沖米軍の動力源の少なくとも一部に、米国との友好関係を維持する一方で中国との経済的繋がりの大きいブラジルという存在が関与することになったことは、地域安全保障の文脈上、軽視できない動きでしょう。

また、ブラジルが極東アジアで展開する外交について、以下のニュースも興味深いものがあります。

北朝鮮に大使館開設検討=時期は未定-ブラジル

 【サンパウロ27日時事】ブラジル外務省当局者は27日、北朝鮮の平壌に大使館開設を検討していることを明らかにした。両国は2001年3月に国交を結び、北朝鮮はブラジルの首都ブラジリアに既に大使館を設けている。
 同当局者は「長期的な視野で大使館をつくる方針で、互いに協議中だ」と語った。設置時期は「まだ予備的な検討で未定」としている。(2008/10/28-08:24)(出典:時事通信

当ブログでも度々「北朝鮮は地下資源に恵まれた地域である」という点について触れてきましたが、そこに鉄鉱石シェア世界第1位の金属メジャーたるヴァーレを擁するブラジルが、大使館開設を検討しているとの由。ヴァーレの民営化が97年と最近のことで、今も同社とブラジル政府との間に強いコネクションがあることを考えると、今回のブラジルの動きは、ヴァーレが将来的に北朝鮮に於ける資源権益を獲得していくための援護射撃といった見方もできるでしょう。ヴァーレのADR(rio:NYSE)を保有する者の観点からすれば、少なくとも悪くはないニュースです。

今後、極東アジアの政治経済にブラジルがどれだけのインパクトを与える存在となっていくのか、非常に興味深い所です。( ̄w ̄)

2008年10月20日月曜日

第百三十九段 音速の遅い読書『東アジア戦略概観 2008』

今回の音速の遅い読書で取り上げるのは、以下の一冊。

東アジア戦略概観 2008
単行本
ジャパンタイムズ
発売日 2008-05-30

アマゾン通販





これは、防衛省の一機関である防衛研究所が、一年毎に日本とその周辺地域の安全保障環境の動向を概略的にまとめて発表しているシリーズの最新版である。

構成としては、レギュラー的に米国、ロシア、日本、中国、朝鮮半島、東南アジアという6地域・国家の安全保障政策・環境をそれぞれ取り上げた章、そしてその年、その年で安全保障の観点から注目されるトピックに触れた一章からなる。因みに、2008年版では加速する中国の宇宙開発を取り上げている。

こと安全保障や国際情勢について触れた書物・論文・記事は、良くも悪くも著者の思考的偏りを反映した声高な「べき論」に陥りがちだが、『東アジア戦略概観』では、流石にシンクタンクが提供している一冊だけあって、鬼面人を驚かすような表現やセンセーショナルな言葉を交えること無く、地域の安全保障環境や抱える問題、今後の展望等を抑制の利いた文章と堅実な論理展開で記している。といっても、無味乾燥な文章が淡々と記されているわけではなく、具体的な数字や図表を取り入れた説明により、読む人を飽きさせない文章となっている(と個人的には思う)。

この本で得られた知識が投資等に直結するわけではないが、今日の巨大化した金融市場は経済の論理が優先される先進国のみで構成される時代を既に終え、SWFや巨大な外貨準備等を通じて国家の論理、安全保障の論理を優先しがちな新興国・途上国をも主要なプレーヤーとするに至っている。また、戦争や大規模テロ、政情不安等に起因する「地政学的リスク」という言葉も、今や金融市場において完全な市民権を得るに至っている(なお、地政学的リスクの具体的な例としては、911テロによる米国市場の動揺、中東やロシアの情勢が原油市場に与える影響等がある)。従って、最早安全保障と金融市場の動向は切り離して考えるべきではなくなったと考えられる(影響の大小は別にして)。そんな金融市場の変化に対応してサバイバルをしていかねばならない人間にとって、この一冊を熟読することは決して損にはならないだろう(最近の金融動乱が逆に各国・各地域の安全保障環境にどういった影響を与えるのかを考えながら読むといった楽しみ方もできる)。

個人的にこの本を読んでいて気になったのが、日本の政策担当者として名の挙げられている人物の多くが、2008年10月時点で殆ど安全保障政策の現場から姿を消していること(安倍首相然り、福田首相然り、各防衛大臣然り)。何やら、衰えつつある覇権国・英国と新興の意気上がるドイツに挟まれながら、政界の混乱から抜け出せなかった第三共和政フランスと、米中の狭間で埋没しつつある日本の姿が二重写しになって仕方ないが、さて、今後はどうなる事やら・・・・?

2008年9月24日水曜日

第百二十六段 風雲急のパキスタン

最近、パキスタン情勢がどうにも危なっかしい。

まず一つ目は、対テロ戦争を巡るアメリカとパキスタンとの齟齬・溝の深刻化である。これは、アフガニスタン・パキスタン国境地帯に盤踞するタリバン以下のイスラム過激派に対し、米軍や多国籍軍がアフガン側から越境して展開するテロリスト掃討作戦でパキスタン国民への付随的被害が増加しつつあること、そして米軍や多国籍軍の越境作戦行動が、パキスタンの国家主権を踏みにじっているという印象をパキスタンの広範な層に与えているためことに起因している(9月22日には、パキスタン北西部ワジリスタンにおいて、アフガン側から越境してきた米軍ヘリに対してパキスタン国軍が銃撃を加えるという事象も発生している。出典:ロイター)。

二つ目は、パキスタン国内におけるテロ活動の活発化である。9月20日には、アル・カイダ等のイスラム過激派組織によると思われる米国系ホテルを狙った大規模なテロが発生し、チェコ大使、米軍関係者を含む50人以上が犠牲となった(出典:ロイター)。だが、ここでテロ組織やそのシンパを取り締まろうにも、パキスタン国軍や情報機関、治安機関にタリバンやアルカイダといったイスラム過激派のシンパが多数存在することから、取り締まる側と取り締まられる側との間が判然としない状態となっている(パキスタンとタリバン、アル・カイダとの繋がりについては、当ブログ七十二段にも概略を記しております)。

三つ目は、パキスタン経済の悪化である。世界的なコモディティ価格の上昇と高止まりにより、現在のパキスタンでは、米や小麦、乳製品といった食料品が、ここ2~3カ月程度で1.5~2倍に値上がりする等の深刻なインフレが発生し、国民の生活を圧迫している(出典:JETRO パキスタン・ニュースレター 2008/09/23 Vol.011)。パキスタンの苦しい経済事情は、同国の主要株価指数であるKSE100が、昨年10月比で40%近く下落していることにも表れている。そして社会保障制度や公的な異議申し立て制度が整備されていない途上国にあっては、国民の経済的困窮はそのまま反政府行動に繋がり易い面がある。

以上3点の問題を抱えるパキスタンの現政権の動向を考えるに、彼らが政権維持を何よりも優先すると仮定した場合、まず政府機関内部のテロ・シンパ洗い出しを掲げて国軍や情報機関、治安機関といった実力機関を刺激する真似はしないだろう。また、経済的に追い詰められた国民の不平不満については、手っ取り早く適当なスケープゴートをぶちあげ、政府への矛先を逸らす道を選択する可能性が高い。そう考えると、アフガニスタンからパキスタンに飛んできて軍事作戦を展開する米軍や多国籍軍は、ナショナリズム的にも宗教的にも恰好の生贄足り得る。従って、今後、パキスタンの現政権が、アフガンで展開する米軍や多国籍軍に供与している、領土、領空の通過許可や軍事基地の使用許可といった便宜を凍結・縮小する意向を示す可能性は高い。

もしそんな事態が実現したならば、アフガンに展開する米軍や多国籍軍は、補給路を断たれてアフガンで孤立するか、パキスタンにアフガンと外界を繋ぐ補給路を強引にこじ開けるか、それともアフガン以北に強い影響力を有するロシアと何らかの取引を行うことで北周りの補給路を開拓するか、といった困難な選択を迫られることになるだろう。また、パキスタン現政権が国内情勢の安定化に失敗した場合、同国が保有する核兵器の管理体制が危険な状態に陥る可能性についても、考慮しておく必要があるだろう。

2008年9月22日月曜日

第百二十四段 ニュースの後日談・・・

先週は金融市場の動揺を始め、色々なニュースが御座いました。その中で、当ブログで取り上げた二つのニュースについて、後日談を語らせて頂きます。

1.「ロシア取引所閉鎖」のその後
98年経済危機以来の下落を記録したことで、17日に一時閉鎖されていたロシア株式市場ですが、19日に再開の運びとなりました。ところが、今度は市場の急反騰で値幅制限が突破されたことで、同日、再閉鎖に追い込まれました。株価急落で閉鎖して、再開すれば今度は急上昇で再閉鎖・・・・。何だかコントみたいな流れですが、悲しいけどこれって現実なのよね。
因みに、22日のロシア株式市場は問題無く再開されたようです。
それにしても、新興国市場が持つリスクというものをまざまざと見せつけてくれる国ではあります(先頃のグルジア騒動含めて)。 
(ヮ ̄;)
・ロシア株式市場再閉鎖(出典:ロイター
・22日ロシア株式市場(出典:ロイター

2.「潜水艦騒動」のその後
豊後水道にて国籍不明の潜水艦が日本領海を侵犯したというニュースですが、その後、衝撃のニュースが!!

潜水艦の正体はクジラ? 防衛省、結論迷宮入り

 高知県・足摺岬沖の豊後水道周辺で国籍不明の潜水艦が領海侵犯したとされる問題で、防衛省・自衛隊はクジラを潜水艦と見誤った公算が大きいとの見方を固めた。複数の関係者が20日、明らかにした。ただクジラと断定できる「証拠」もなく、結論は迷宮入りになりそうだ。

  防衛省の14日午後の発表では、同日午前6時56分、海上自衛隊のイージス艦「あたご」が豊後水道周辺の領海内で「潜望鏡らしきもの」を視認。音波を出し て反響音で船舶などを探知するアクティブソナーで、約30分後「潜水艦の可能性が高い」と判断したという。スクリュー音など音の特徴を示す「音紋」は取れ なかった。

 関係者によれば、具体的には、ブリッジの外にいた砲術長が約1キロ先に潜望鏡らしきものを目視で発見。約10秒間見た後、そばにいた艦長に伝え、艦長は水面下に消えかかった潜望鏡らしきものとその影響で波打つ水面を確認した。

 「あたご」は「潜望鏡らしきもの」の方向へかじを切り、アクティブソナーから何度も音波を発信したが、何らかの動くものを探知したのは2回。いずれも領海外からの反響音で、特に最初は、潜水艦の速度では想定できないほど現場から遠い地点からの反応だったという。(出典:共同通信

この一件で考えられる可能性は以下の通り。
1.本当は某国の潜水艦だったが、今回の一件で軋轢を深めることを嫌った日本政府と某国政府と
  の間で手打ちが成立し、問題を有耶無耶にして終わらせることとなった。
2.本当にクジラを潜水艦と誤認した。

なんにせよ、「この潜水艦騒動を外交問題にまで波及させたくない」という日本政府の断固たる決意だけは感じられるニュースではあります(「なら、最初から公表するなよ」と突っ込みたいニュースでもあります)。それにしてもクジラかぁ・・・。南氷洋とかの反捕鯨国の目と鼻の先で調査捕鯨をやって彼らを挑発するより、いっそのこと、調査捕鯨は日本の領海内(若しくは排他的経済水域内)のみで続けることにした方が、エコ・テロリストの取り締まりや撃退、日本近海水産資源の現状把握といった点から望ましいように思えるんですが、どうなんですかねぇ・・・? ( ̄w ̄)

2008年9月15日月曜日

第百十九段 潜水艦騒動

去る9月14日、国籍不明の潜水艦が日本領海を侵犯したとのニュースが御座いました。ことの詳細は日経ネットが伝える所では、以下のようなことだとか。

高知県沖、領海内に国籍不明の潜水艦

 14日午前7時前、高知県沖の豊後水道周辺の日本領海内で国籍不明の潜水艦が潜望鏡を出して潜航しているのを海上自衛隊イージス艦「あたご」が発見した。約5分後に領海外に出たとみられる。ただちに追尾したが、同8時40分ごろ見失った。海自はP3C哨戒機や護衛艦などを派遣して、周辺海域の捜索を続 けている。

 防衛省によると、発見現場は足摺岬の南南西約57キロメートル、領海の内側約7キロメートル地点。横須賀港(神奈川県)から母港の舞鶴港(京都府)に帰る途中、艦橋にいた艦長や見張り員が目視で確認した。

 潜水艦は南方に向けて航行していたという。関係機関に照会した結果、自衛隊や米軍の所属ではないと判明した。林芳正防衛相は同日夕、省内で記者団に「大 変遺憾だ。国籍が判明すれば外交ルートを通じて抗議する」と強調。中国の潜水艦ではないかとの指摘には「確認中だ」と述べるにとどめた。(14日  19:01)(出典:日経ネット

この国籍不明潜水艦が発見された豊後水道は、少し北上すれば海上自衛隊呉基地や在日米海兵隊岩国基地を指呼の間に望む要衝でもあります。

そんな場所に侵入した潜水艦の所属国が気になる所ですが、日本列島周辺で軍事行動を起こす可能性があり、かつ潜水艦の運用能力を持っている国としては、日米以外では中国、ロシア、韓国、台湾が挙げられます。この中から件の潜水艦所属国を探って見たいと思います。

第一に韓国ですが、これは以下の点で容疑者から外れるものと思われます。
・韓国保有の潜水艦の音紋は同盟国米国が把握しており、日本から米国に件の潜水艦情報
 が渡った場合、それが韓国のものであれば、すぐに特定されると想定される。
・日本政府が「潜水艦による領海侵犯」を公表したことは、日本政府としては「事件を内々に
 穏便に処理する気はない」ということを宣言したことに等しい。もし件の潜水艦が韓国のもの
 であれば、東アジアにおける同盟国同士の諍い・不信が表面化することを恐れた米国の圧
 力により、事件自体公表されることはなかったと想定される。
・現在の朝鮮半島情勢は、北朝鮮の金正日総書記の健康状態とその後継を巡ってセンシティ
 ブな状態にある。そんな中で、わざわざ韓国が「領海侵犯(しかも日本の内懐ともいうべき場
 所で)」という一歩間違えれば戦闘行為に発展しかねない挑発行為をするとは考えにくい。

第二に台湾ですが、これも以下の点で容疑者からは外れるものと思われます。
・韓国の場合と同様に、台湾保有の潜水艦の音紋は米国に把握されていると考えられ、その
 特定は困難ではないものと思われる。
・韓国の場合と同様、米国の同盟国である台湾、日本間の対立が表面化することは米国にと
 っては望ましくない事態である。従って、もし件の潜水艦が台湾所属のものであった場合、
 「領海侵犯」という事件自体が公表されず、内々に処理されるものと考えられる。
・中国との対立が本格的に解消したわけでもない状況下で、台湾が日本を敵に回しかねない
 (控え目に言っても、反発を高めかねない)挑発をすることは考えにくい。

こうなると、残るのが中国とロシア。両国とも水上艦や航空機による日本の領海・領空侵犯については実績があるだけに判断に迷う所です。ただし、以下の点を考えれば、件の潜水艦が中国所属である可能性が6割、ロシア所属である可能性が4割といった所かと思われます。
・ロシアには「西(欧米)と関係が悪化した場合は東(日本、中国、インド)との関係強化を図る」
 という外交パターンがあり、折しも今はグルジアを巡ってロシアと欧米との関係が冷却化して
 いる時期である。従って日米の離間を図ることはあっても、日本の反露感情を徒に煽る行動
 は考えにくい。
・中国には最近でも潜水艦による日本領海侵犯を引き起こした実績がある。
・冷戦時代の遺産としてロシア太平洋艦隊の主要な展開ルート(対馬海峡や津軽海峡、宗谷
 海峡等)には比較的充実した日米の監視体制が構築されている。

2008年9月13日土曜日

第百十八段 秋刀魚とアービトラージ

秋らしい爽快な晴天が続く今日この頃。こうなってくると秋刀魚を食べたくなるのは管理人だけではない筈。そんな秋刀魚について気になるニュースが二つ御座いました。

先ずはJETROのメールマガジン「WORLD INFO TRAIN ★ NEWS STATION」(9月11日配信版)で知ったことなのですが、着実に経済発展を遂げるヴェトナムで、秋刀魚の消費量が急拡大中であり、日本からの対ヴェトナム秋刀魚輸出量が、2008年1月~7月では前年同期比の65倍(3800トン)に達したというもの。食べ方としてはサンマとトマト等をヌックマム(魚醤)に漬けて煮るのだとか(交通手段や保存技術の発展によってある地域に新しい食材が持ち込まれることで、その地域の食文化に新しい可能性が芽生えるというのは、グローバル化の善き側面だと管理人は考えます)。一方で日本においては豊漁によって秋刀魚の値崩れが起きているとのこと(出典:共同通信)。

ヴェトナムでは需要が急拡大する一方、日本では過剰供給による値崩れ。何とも対照的な有様です。これを見ると、「値崩れした日本で安く秋刀魚を買い、需要拡大中のヴェトナムに売れば利鞘が稼げる」という素人考えが頭を過ります。実際、米国の農家は農産品市場動向をパソコン等を通じて把握しながら、より需要の強い作物を優先して作付したり、収穫物を振り分けたりして(例えばバイオエタノールに回すか、飼料に回すか等)、利潤の最大化を図っております。要するに金融市場でいう所のアービトラージが可能な状態に米国の農家はあるということです(アービトラージとは、一つのものに対して各市場間で異なる値段が付けられている場合、割安な市場で買って割高な市場で売ることを言います。今回の話で説明すれば、秋刀魚について日本では割安、ヴェトナムでは割高な値段がついている場合、日本で買った秋刀魚をヴェトナムで売って両市場の価格差から利鞘を稼ぐ行為がアービトラージと言えます。また、割安市場で買って割高な市場で売るという行為が続けられた結果、割安市場では買い(需要)が強まるので商品価格が上昇し、一方の割高市場では売り(供給)が強まるので商品価格が下落し、最終的に両市場間の価格差が解消されることになります)

このアービトラージを世界最大の人口地帯であるアジア圏の食料供給に生かせないでしょうか? つまり、少子高齢化による人口減少によって将来的な食料需要の縮小が予想される日本国内のみならず、アジア圏の生鮮食料品の価格動向(何処で何が割安・割高か?)をより容易に把握できるようなスキームを構築することで、輸出業者や生産者がより機動的に生産・収穫物の振り分け先を決定し、利潤最大化を追求できる状態を現出させます。そうすることで過足の地域から不足の地域へと生産物と対価が動き(アービトラージが働いた状態)、結果として生産者が豊作貧乏、豊漁貧乏に悩まされることも減少し、食料不足の悪影響も軽減できると考えられます。少なくとも日本にとっては、補助金や輸入関税に頼る従来の農林水産業支援よりは、EPA交渉やWTO会合でより多くの国々の賛同を得易いのではないでしょうか(そもそも、補助金や関税といった手段は政治的圧力によるリソース配分の歪みが発生し易く、その上不当利権や汚職の温床になりがちです)。

秋刀魚を巡る対照的なニュースを見聞して、そんなことをふと思いました。

2008年9月10日水曜日

第百十六段 不幸は大変な寂しがり屋・・・

「不幸は大変な寂しがり屋である。だから訪れる時は常に数多の友人とともにやってくる」とは誰の言葉でしたでしょうか・・・・? 言葉の出典は兎も角として、持ち株の株価急落を嘆いた翌日、炊飯器が壊れ(「今後コメを食いたきゃリゾットを食え」という天の配列か?)、入浴中に浴室の電球が切れ、トイレで大きい方の用を足している最中にトイレの電球も切れるという、散々としか言いようのない目に遭った点額法師には、実に胸に迫ってくる言葉ではあります。

立場・属性其々に異なれど、点額法師と同じような感慨に囚われている方は世に多いものと思われます。

目立つ所では、ロシアのメドベージェフ大統領がそうでしょうか? グルジアを巡る欧米との対立では引くに引けぬ地点まで追い込まれる一方、盟友と恃む中国他のSCO加盟国からは「ロシアの対グルジア行動は支持、でも南オセチア。アブハジアの独立承認は留保」という何とも煮え切らぬ回答しか得られませんでした(因みに2008年9月10日時点で南オセチア、アブハジアの独立を承認した国家は、ロシア以外ではニカラグアのみ。ハッキリ言って、米国のイラク戦争に対する国際的支持以上にお寒い状態です)。

そんな風にしてロシアの国際的孤立感が強まる中、今までロシアが様々な意味で頼みの綱としてきた原油価格が、騰勢が衰えるどころか、寧ろ下落基調がすっかり定着という有様。それでもロシア経済は依然として石油・天然ガス頼みの構造のまま。よく考えれば積年の課題である少子高齢化・人口減少問題にも改善の兆しは見えておりません。その他にも展望の見えないチェチェン紛争、依然として高水準のインフレ・・・・等等、多数の問題が文字通り山積という状態。極東亡国のFKDとかいう首相ならば、一目散に職務放棄してどっかの山にでも隠遁したくなりそうな状況ではあります。

特に原油価格の下落基調については、80年代のサウジ増産による原油価格低迷が、原油輸出国であったソ連の非効率経済に痛撃を与え、ひいてはソ連邦崩壊の一因ともなっただけに、メドベージェフ大統領やプーチン首相、その他ロシア首脳部のメンバーは気が気でないでしょう。

OPEC内の減産派で、ロシア同様に高騰する石油価格で国際的な発言力を高めてきたイランやベネズエラと組んで何か仕掛けてきたりして?

2008年9月9日火曜日

第百十四段 北の国から08 脳卒中疑惑

北の将軍様こと金正日北朝鮮総書記について、「体調が優れないらしい」とか「健康上の理由で建国60周年記念行事には顔を出さないそうだ」といった情報がここ最近飛び交っておりましたが、22時41分の日経ネットに「金正日総書記、脳卒中か」という情報が載っておりました(出典:日経ネット)。

まぁ彼の健康不安説は今までにも度々報じられておりましたし、66歳という年齢とメディアで報じられている体格を見れば、糖尿病や高血圧ぐらいなら患っていても不思議はないような気はします。そうなると、勢い後継は誰になるかという話になりがちですが、点額法師個人としては、後継者個人云々よりも、後継者のバックにどの国家がつくのかが気になります。

そもそも北朝鮮の政治史を振り返ると、不明な点はまだ多いものの、隣の巨人中国から如何に独立を維持するかの歴史であったと見ることもできます。それは内にあっては親中派と民族派の権力闘争をもたらし、外にあってはソ連と中国とを互いに牽制させ、両者から利益を引き出すという外交政策として現われました。そして1991年にソ連が崩壊すると、競争相手の消失と1980年代に始まる経済大国化によって中国が一気に北朝鮮(同時に韓国)への影響力を高めてきます。この動きに対して中国に呑み込まれることへの危機感を強めた北朝鮮首脳部が、新たな対中牽制力として着目したのが米国であり、その米国の気を引くために起こしたのが弾道ミサイル実験や二度に亘る朝鮮半島核危機だったと言えるでしょう。では、北朝鮮の支配権を中国に渡すのを潔しとしなかった金正日総書記の没後、その後継者は中国に従うのか、米中を手玉にとって独立(というか金一族の支配権)を維持するのか、それとも日本や韓国と同様に米国の安全保障の傘に入る道を選ぶのかが問題となってきます。

米国がイラクやアフガニスタンの泥沼にあがき、その上、ロシアとの関係も緊張が高まっているのを見ると、現在の米国には、朝鮮半島や極東アジアに手を回す余裕はなく(或いは中国によるユーラシア東部からのロシア牽制への見返りとして)、朝鮮半島における中国の勢力拡大を黙認する可能性は十分にあります。一方で中国が米国に敵対的な姿勢をとるようなら、米国は核兵器容認や経済援助等の対北朝鮮テコ入れ策を実施することで、中国牽制の駒として北朝鮮を利用する道を選び、それに北朝鮮が呼応する可能性もあります。もう一つ、米中の北朝鮮を巡る対立が、北朝鮮内部の騒乱を引き起こすといったシナリオも考えられます。最終的にポスト金正日の北朝鮮がどのような道に進むか、判断できる材料はまだまだ少ないですが、米中を中心に「次」への影響力を確保しようとする動きは既に始まっていると見てよさそうです。

点額法師個人としては、鉄鉱石豊富な北朝鮮が中国に呑み込まれるという事態は、投資先ヴァーレ(鉄鉱石生産世界最大手(2008年9月上旬時点)の資源メジャー)の対中価格交渉力を弱めかねない、北朝鮮の金属資源が中国企業に独占されるといった点から、あまり望ましい事態とは言い難いので、どちらかと言えば米国に頑張って欲しい所ではあります。( ̄w ̄;)

2008年9月8日月曜日

第百十三段 音速の遅い読書『国家の崩壊 新リベラル帝国主義と世界秩序』

今回の音速の遅い読書で取り上げるのは、『国家の崩壊 新リベラル帝国主義と世界秩序(2008年7月初版 日本経済新聞社 ロバート・クーパー著)という一冊。前近代を扱った書籍でもなく、しかも今年の下半期に入ってから出版された書籍を取り上げるという、「音速の遅い読書」としては真に異例の展開ではあります。

そんなことはさておき、この本の著者たるローバート・クーパー氏とこの書籍の目的について簡単に説明させて頂きます。ます、クーパー氏は英国の高級外務官僚であり、英国のブレア政権やEUの外交・安全保障政策立案にも深く関与した人物です。その外交・安全政策立案の基盤となった「新リベラル帝国主義」というコンセプトとそれによる世界の色分け(大仰に言えば世界観)を記したのが、この『国家の崩壊 新リベラル帝国主義と世界秩序』という一冊になります(以降は『国家の崩壊』と表記)。

では「新リベラル帝国主義」とは何かというと、まず世界を以下の三つに色分けします。
1.ポスト近代圏
→安全保障政策を隣国に対する軍事的優越性よりも、条約や国際機関による安全保
 障政策の透明性確保によって担保する傾向の強い世界。
 また、企業やNGOといった非国家主体が政策形成に影響力を持ち、内政と外交の
 垣根が低い世界でもある。
 主に欧州や日本といった所謂「先進国」からなる世界。
2.近代圏
→外交や内政において政府が絶対的な政策決定権を有し、安全保障政策は軍備や
 古典的な勢力均衡論に頼る面が大きい世界。
 中国やインドをはじめ、大半の国家が所属する。
3.プレ近代圏
→政府による武力の独占が成功せず、「万人の万人に対する闘争」に近い状態となっ
 ている国家・地域(管理人の見方だが、日本の戦国時代に近いイメージ)
 アフガニスタンやソマリア、その他多くのサハラ以南のアフリカ諸国が所属する。
その上で、ポスト近代圏に属する国家の主導の下、プレ近代圏の混沌と破壊を安定化に導き、近代圏の国家をポスト近代圏に移行させることで、世界的な平和と繁栄を創出しようというのが、「新リベラル帝国主義」というもの。

「帝国主義」という言葉があるため、一見鬼面人を驚かせる所があり、その論理には部分的にネオコンの主張と重なる部分があるものの、比較的穏健というか真っ当な意見です。また、軍事力や覇権国の力に依存することの限界についても著作で触れていますが、ここがネオコンと「新リベラル帝国主義」との最大の違いのように見えます。

この「新リベラル帝国主義」の考えを展開していく中で、ポスト近代圏と近代圏の両方に属するアメリカの両生類的な性格、自身はポスト近代国家としての性格を有しながらも周辺はバリバリの近代圏という日本の境遇にも論が及んでいきます。

そして読み進めていくうちに何故だか高まっていく既視感・・・・。( ̄w ̄;)
思い出した。世界をポスト近代圏、近代圏、プレ近代圏に分ける見方、そしてその中でのアメリカの両生類的な性格や近代圏に属する国家に取り囲まれて孤立する日本の境遇。どれも田中明彦氏の主張と同じだ。(参考例:田中明彦氏『新しい「中世」』(日本経済新聞社 1996年5月初版)、他多数)

そう考えると、日本のアカデミズムは、英国やEUの戦略基盤として採用されうるグランドセオリーを生み出す力を持っているわけで、それはそれで凄いことなのだけど、日本外交にそれが生かされているように見えないのは何故だろう・・・・?

ともあれ、政策実務者が自身のよって立つ理論的基盤を語ったこの一冊は、十分に興味深い存在です。

あとで『新しい中世』なんかと読み比べてみよ~っと。 ( ̄w ̄)

2008年9月6日土曜日

第百十一段 中国の市場主義的環境対策

中国の環境問題の深刻さは、マスコミの報道等を通じてよく知られている。知られているだけではなく、偏西風や海流の流れに乗って中国発の各種汚染物質が日本に漂着し、酸性雨や光化学スモッグ、海洋生態系への悪影響(例:エチゼンクラゲの大量発生による漁業被害)といった実害も生んでいる。そして国際的に温暖化問題への注目が集まる中で、「資源爆食」ともいわれる非効率な産業体系が生む大量の二酸化炭素についても中国に対する海外の厳しい視線が注がれるようになってきた。

思うに、中国の経済躍進に伴う環境問題の発生で実害を被る日本としては、中国が「改革・開放」を唱えて経済成長に邁進し始めた1980年代から、莫大な円借款の内、単純なアンタイド部分を減らして主に環境分野に資金が流れるようにし、そして投じられた資金がしっかりと環境保護に役立てられているかの監察スキームを構築するといった各種施策を講じておくべきだったのだろうが、今更それを悔いても仕方がない。今後の日中の環境面での協力前進に期待するのみである(地政学的な損益が対立しがちな日中両国において、環境問題はWin-Winの関係が比較的築き易い分野でもあり、両国間の接触チャネルの確保といった点からも重要度は高いと言えよう)。

閑話休題、そんな環境問題に揺れる中国(Foreign Policy誌の2007年3/4月号では、「中国にとって最大のリスクは、環境問題等の生態学的リスクだ」と指摘されている)では、2008年8月5日に「上海環境エネルギー取引所」という取引所が開設された。JETROの9月5日付ニューズレターで知ったのだが、以下のようなことらしい。
環境保護・エネルギー技術の総合取引所を開設
-汚染物質などの排出権取引も視野に-(8月5日)
環境保護・エネルギーに関する技術や資産の取引市場「上海環境エネルギー取引所」(中国語名:上海環境能源交易所)が8月5日に設立された。国内最大の財産権取引市場である上海市連合産権取引所に設置される。環境保護・エネルギー分野に特化した技術や資産の取引所開設は中国初。上海市政府は、同取引所で二酸化硫黄(SO2)などの汚染物質やクリーン開発メカニズム(CDM)にかかわる排出権取引を行うことも視野に入れ、関連政策の策定を急いでいる。
(詳細は、2008年8月8日付け通商弘報をご参照ください)
出典:JETRO(リンク先PDF)
この中国当局の動きには、現在店頭取引となっている温室効果ガス排出枠取引を取引所取引とすることで、価格形成の透明性を高める一方、排出枠取引における価格決定権を欧米に独占させまいとする狙いがあるようだ(出典:人民網日本語版)

思うに環境関連特許や温室効果ガス排出枠取引なら、日本でももっと早い時期から取引所取引の枠組みを構築することが可能であったろうに、今年になってからやっと東証で排出枠取引の研究会が始まり、特許等の財産権取引の取引所取引実現は遥か霞の彼方という体たらく。この国では「進取の気性」は最早絶滅してしまったのだろうか?

何はともあれ、上海環境エネルギー取引所の設置が、中国の環境問題改善に資するものになってくれることを、偏西風の風下、東シナ海一帯の海流が流れ着く先の列島に住む住人としては期待したい(エコノミストの山崎元氏がビジネス誌等で発生の可能性を指摘している「エコバブル」の乱気流に呑まれなければよいが・・・・)

2008年8月31日日曜日

第百九段 ここに葉月果て、長月始まる

8月31日、本日の日中は実に清々しき晴天。喜々として洗濯を行う。洗った衣服を干そうとベランダに出てみれば、時折吹く風は乾いた涼しさを帯び、空には大鯉のまさに潜らんとする様を連想させる鱗雲の一群。季節が移り変わらんとしていることを実感する。

ネットでニュースサイトをチェックすれば、明日からのイスラム圏のラマダン入りが報じられている。(日経ネットGulfnews等)。ラマダンは、預言者ムハンマドのメッカからメディナへの聖遷の苦難を偲んで、日の出から日の没するまで断食行が行われる、イスラム教徒にとって重要な月。従って米国やイスラエルのイラン核施設攻撃があるとしても、この月が明けるまでは実行されないと点額法師は睨んでいる(もし実行した場合、米国やイスラエルは完全にイスラム圏の人々を敵に回すことになる)。

9月1日は、同時に米国共和党大会の開催日でもある。実際に開催されるかはハリケーン「グスタフ」の動向に左右されるが、これで共和党、民主党共に正副大統領候補が正式に確定し、覇権国アメリカの次期政権を巡る熱戦が正式に幕を開けることになる。最初の山場である9月26日の大統領候補者討論会はどうなることやら・・・?

そして控える9月11日は。言わずと知れた「911」の日。この恐るべきテロから早7年の時がたとうとしている。このテロが突き付けた「自由と安全の均衡点の所在」、非国家主体でも各種テクノロジーの利用・アクセスが容易になったことによる「ハルマゲドンの民主化」といった問題への回答について、世界はまだ試行錯誤を繰り返している。

金融経済に的を絞れば、9月4日、18日にECB理事会、9月9日にOPEC定例総会、9月16日にFOMC、9月17日にGCC財務相会議がそれぞれ予定されている。特にGCC財務相会議では、オーマーン以外の5カ国による通貨統合準備組織設立が予定されているとのこと。これに関連して米ドルとの関係について要人発言があれば、為替の波乱要因となるだろう。OPEC定例総会では恐らく産油量の現状据え置きか減産が確認されて終わると思われる。

何はともあれ、猛暑と雷雨の8月は今日で終わり。明日から始まる9月には、爽快な涼風とスパァーッと突き抜けるようなクリスタルブルーの空を期待したい所。

2008年8月29日金曜日

第百七段 旧ソ連圏に鹿を逐う

南オセチア・グルジアにおけるロシアの武力行使以来、対露批判を強めるグルジアとウクライナ。そしてそれに呼応する形の、グルジア支援を目的とした黒海への米国艦艇派遣、EUやNATOのウクライナ取込強化。旧ソ連圏の勢力分布を巡る欧米とロシアの対立は確実に先鋭化しつつある。

軍事衝突の結果、グルジアが本土と親露派の南オセチア、アブハジアに分割された今、次の焦点はウクライナに移ってくるだろう。そのウクライナは、西部が親欧米派の地盤、東部と南部のクリミア半島が親露派・ロシア系住民の勢力範囲となっている。もしウクライナが完全に欧米の勢力圏になった場合、黒海におけるロシアの優越は消滅することになる。そうなると、ロシアはコーカサスは勿論、中東、東地中海域においても影響力を大きく減退させることになるだろう。高い経済力と豊富な原油資源に恵まれた中東への影響力やアクセスをロシアが諦める道理は無いから、ロシアのウクライナ引き留め工作もまた熾烈を極めることになるだろう。最悪、親欧米派の西部と親露派の東部との間で激しい衝突が発生し、そこにロシアが「ロシア系住民の保護」を旗印に武力介入を開始するシナリオも想定される(先般のグルジア・南オセチア紛争と同じ構図が場所を変えて繰り返されるわけだ)。

ウクライナでは、ロシア、中央アジアの天然ガスを欧州に送るためのパイプラインが東西を貫通する形で敷設されている。もし前述のようにウクライナが東西に分かれて争うような事態になれば、当然パイプラインの運営にも大きな影響が出ると予想される。その時、欧州は経済面を中心に大きなダメージを受けることが想定される。昨今の信用縮小の嵐で痛めつけられているEUにとっては、まさに悪夢としか言いようのない事態である。従ってロシア側としては「パイプライン途絶の恐怖」をうまく使って、当面の敵であるEUの切り崩しを計ってくるものと思われる。そして、EUの切り崩しに成功した所で、ウクライナの東西分割と東部親露派勢力支援のための軍事介入に踏み切るつもりではないか。

逆にEUが対露姿勢で一枚岩を貫くことができれば、ロシアもおいそれとウクライナに直接手を出すことはできないだろう。グルジアの戦火が黒海を超えてウクライナに波及するか否かは、ひとえにEUに懸っていると言えよう。

第百六段 御名は「グスタフ」とぞ申しける

ハリケーン「グスタフ」の進路を睨んで、産油・精油施設の閉鎖とそれに伴う原油価格の上昇が生じて御座います。何でもこのグスタフは、メキシコ湾を襲うハリケーンとしては悪名高き「カタリーナ」に勝るとも劣らない強さだとか(出典:ブルームバーグ)。

思えば、あのカタリーナやリタがメキシコ湾一帯を席捲した2005年。管理人は日米中の石油株(例:中国海洋石油、昭和シェル石油、エクソンモービル等)でがっちり甘い汁を吸わせて頂きました。今しみじみと脳裏に浮かぶ古き良き思い出に御座ます。現在の点額法師ポートフォリオでは、石油関連銘柄はペトロブラス(pbr:NYSE:ブラジル国営石油会社)とカメコ(ccj:NYSE:石油の代替エネルギーとして注目されるウランの生産世界最大手)しかないため、グスタフの直接の恩恵はカタリーナやリタの時よりも極めて限定的なものになる見込みですが、それでもハリケーンのメキシコ湾襲来は個人的にはポジティブなニュース。それに、米国中西部産穀物の集積地たるニューオリンズまで累が及べば、モンサント(mon:NYSE:GM作物種子大手メーカー)やポタッシュ(pot:NYSE:カリウム肥料生産世界最大手)の株価的にも悪くない話ではあります。

同じ名前を持つスウェーデン王グスタフ・アドルフが、その高機動戦術で武名を17世紀欧州に轟かせたのと同様に、今回のハリケーンも一気呵成にメキシコ湾の産油・精油施設を衝いてくるのか? それとも、名前とは裏腹にどこぞの有象無象の一帯でぐずぐずと停滞して弱体化の道を歩むのか? 要注目ですな。 ( ̄w ̄)

閑話休題。
石油で思い出しましたが、昨日、UAE中銀総裁が「原油価格は60~80ドルまで下落の可能性がある」と発言したとか(出典:ロイター)。要するに「だから今後の増産はありません。ひょっとすると減産の可能性もあるんでよろしく」ということなのでしょうが、グルジア、ウクライナ、東欧を前線とした欧米とロシアの対立激化、進展の兆しが見えないイラン核問題、核保有国パキスタンの政情不安懸念といった地政学リスク。上述のようなハリケーンのメキシコ湾襲来といった突発イベントの発生。北半球の冬季入りを睨んだ灯油・ヒーティングオイルの需要増加。これらの諸事象に加えてこのUAE中銀総裁の発言。WTIはもう少し底堅い展開が続きそうです。

となると、BRICsの中でもエネルギー資源の自給率に難のあるインドにはやや辛い展開? そして中国は埋蔵量豊富な石炭に一層頼ることになるんでしょうか? もしそうなれば、当然石炭価格も強含むことになるので、BHPビリトンといった石炭権益を有する企業には善き展開(我がヴァーレはあまり石炭権益を有していないので少し残念)。一方、製鉄業は石炭を原料とするコークス価格の値上がりに繋がるので、こちらにはよろしくない話となりそうです。

2008年8月25日月曜日

第百五段 教師の生徒より借金する者あり

末法汚辱のあさましき世で日々を過ごしていると、驚き呆れるしかない出来事を耳にすることも多くなろうというもの。今回取り上げるのはそんな話。
教師、女子生徒から三十万円借金のこと
勤務する学校の女子生徒から計30万円を借りるなどしたとして、静岡県教育委員会は25日、県東部の県立高校男性教諭(33)を減給10分の1(1カ月) の懲戒処分とした。教諭は、家庭の事情で一時的な借金があり、「貸してくれると言うので甘えてしまった」と反省しているという。
県教委によると、教諭は4月から5月にかけて、昨年8月から委員会活動で指導していた女子生徒から、4万円を1回と13万円を2回、計30万円を借りた。(2008/08/25-20:56)
出典:時事通信
まぁ、あれだ。人生色んなことがある。時には天運に恵まれず、借金を背負ってしまうこともあるだろう。
家庭の事情だってみんながみんな順風満帆とはいかないさ。

でも、そんなヘヴィー極まりない相談を同僚や上司ではなく、銀行や消費者金融でもなく、ましてや闇金ですらなく、高校生にしてる時点で、「それは新手のコントですか?」と問わざるを得ない。(w ̄;)
しかも「貸してくれると言うので甘えてしまった」って教師、女子高生、共にツッコミ所多過ぎ!
もっと言えば、借金を相談されてそれに応えるって、二人はどんな仲なんだよ!∑(△ ̄;)
(因みに、点額法師なら借金を求められた時点で、万人に対して「お帰り下さい」か「あ~あ~何も聞こえない。何も聞こえないや」の一点張りですな)

それに、その女子高生は4月~5月の間に貸出資金(合計30万円)を何処から調達したんだ?
そもそも、公務員30代が自らの蓄えの中から30万円も調達できないってどんな金銭感覚で日々を送ってきたのか、激しく疑問を感じる。(´д`;)

もう一点気になるのが、普通借金が行われた場合、貸した側は借りた側に何らかの要求を突きつけるもの(一般的なのが利子の支払。良心的か否かは別として)。今回教師に30万円の貸し付けを行った女子生徒は見返りに何を得たのやら・・・・?

何はともあれ、「みっともない」という言葉がこれほど似合う事件もなく、強く印象に残ったので、ここで取り上げるものである。

でも公務員30代が高校生から借金って・・・・ぷッ

第百四段 米国大統領選本選を前にして

去りし8月23日、米国大統領選における実質的な民主党候補となったオバマ氏が、副大統領候補として外交通として知られる民主党重鎮バイデン氏を指名した。副大統領候補指名で共和党候補マケイン氏に一歩先んじる形である。そして、この後に控える8月25日民主党大会(於コロラド州デンバー)、9月1日共和党大会(於ミネソタ州セントポール)で両党の正副大統領候補が正式に確定し、10月中の両党正副大統領候補による討論会を経て、11月4日の大統領選一般投票で次期米国大統領が誕生することになる。

現状、オバマ氏とマケイン氏の支持率争いは、僅差ながらもややオバマ氏優位で推移している。日本や諸外国のメディアの報道には「もうオバマ氏で決まりでしょう」という雰囲気が漂っているが、それはやや拙速に過ぎる見方のように点額法師には感じられる。

そもそも、前述したように現状ではオバマ氏とマケイン氏の支持率はかなり拮抗している(マスコミが言う所のオバマ旋風なるものが吹き荒れた割に)。それに今回の大統領選自体、下馬評を覆し続けて今に至っていることを忘れるべきではないだろう。

当初、ポスト・ブッシュが囁かれだした頃は「民主党はヒラリー候補共和党はジュリアーニ候補で本選が戦われることになるだろう」という見方が専らだった。しかし実際は、予備選の嚆矢となったアイオワ州で民主党はオバマ候補、共和党はハッカビー候補がそれぞれ勝利を手にした。その後、民主党ではヒラリーVSオバマの熾烈な戦いが繰り広げられた末、初戦勝利の勢いを維持することに成功したオバマ氏が勝利した。共和党では、本命視されていたジュリアーニ候補は団栗の背比べ状態の中から一貫して抜け出せず、寧ろ資金や支持率の面から早期撤退の観測すら出ていたマケイン候補と彼の中道的姿勢に飽き足らない共和党支持層の取り込みに成功したハッカビー候補との一騎打ちに事態は集約していき、最終的にマケイン候補が予備選を制することになった。各候補の支持者やその団体を別にすれば、このような事態の経過を正しく予測できた人や組織を点額法師は寡聞にして知らない。

本選もまた、予備選以上に予想外のことが起きるだろう(そもそもオバマ氏やマケイン氏は党内主流派とは言えない立場に身を置いてきたため、各党の伝統的な支持層(例:民主党における白人労働者層共和党における宗教保守派)への浸透が今一つという弱点を互いに抱えている)。

良くも悪くも唯一の覇権国である米国。その次期大統領が誰になるか(もっと言えばどんな考え方を持った政策集団がホワイトハウス入りするか)は、世界に大きな影響を与える(少なくとも日本にとっては衆院選や参院選とかいうマイナー選挙よりも影響が大きい)。予断や先入観に惑わされず、今後も注目していきたい。

因みに、点額法師個人の現時点の予想では、マケイン候補が本選を制するのではないかと考えている。何故かというと、副大統領候補の政治的カラーにもよるだろうが、宗教保守派は結局「オバマよりはマケインの方がマシだ」と考えて投票行動に移ると考えられること。そして民主党支持層の中でヒラリーを支持した人々が「年齢的にも(本人の意思の面でも)一期で終わるであろうマケイン政権が誕生した方が、大きな失政がない限り二期目も狙ってくるオバマ政権が誕生するよりもヒラリー・クリントンに有利だ」と考えて投票行動をとると考えているからだ(もっとも、この予想は10月の討論会如何で大きく変更するかもしれないので、あしからず)。

2008年8月18日月曜日

第百二段 南オセチアの埋み火

ロシアとグルジアの軍事対決まで至った南オセチア紛争で、和平の調印が行われた。グルジアに対して圧倒的な軍事的アドバンテージを確保しながら、結局グルジア・サアカシュヴィリ政権転覆まで踏み切らなかった(踏み切れなかった)ロシアは、明らかに将来への禍根を残したと言えるだろう。その上、ロシアは幾つかの代償も払うことになった。まずグルジアではサアカシュヴィリ政権が生き残った上、反露ナショナリズムの高まりによって同政権の求心力も高まってしまった。国際世論の面では、西側マスメディアの報道によって「そもそも今回の紛争の引き金を引いたのはグルジアである」という事実は忘却の闇に押し込められ、寧ろ「小国グルジアを横暴な大国ロシアが踏みにじろうとしている」という構図が広範に流布されてしまった。そしてこの巷間に広められたイメージに乗る形で、西側諸国は様々な名目をつけてグルジアへの支援を強化している(日本でもロシア人スパイ容疑者への書類送検が報じられたり(8月13日:時事通信)、グルジアへの「人道支援」が表明されたのも(8月15日:日本外務省)、同じ流れの上の出来事と見ていいだろう)。

それにしても、今回の紛争におけるロシアの行動は稚拙だったと言わざるを得ない。前述したように、そもそも今回の紛争はグルジアが南オセチア州に対して武力行使を行ったことが直接の原因である。ならば、ロシアは南オセチア州に対して極力目立たないように支援を行う一方、「グルジア軍の攻撃によって家を追われる難民」、「グルジア軍の蛮行の跡」といった西側世論を扇動し易い情報・映像を流布し、「グルジア=悪人集団」というイメージを西側世論の間で固めさせ、西側諸国をロシアの対グルジア作戦を認めざるを得ない(少なくとも黙認せざるを得ない)立場に追い込んでから正規軍を大規模に投入するべきだったのだろう。

しかし、現実では悪役はロシアに割り振られ、グルジアには可哀想な被害者の役が割り振られることになってしまった。何やら、ボスニア紛争で広報戦略に失敗したセルビア勢力が「民族浄化に血道をあげる極悪人集団」として国際世論の一方的・集中的な非難と空爆を受けるに至った過ちを、(地域こそ違えど)同じスラブ系民族のロシアが再現しているように見えて仕方がない(因みにボスニア紛争において各勢力が展開した広報戦略とその情け容赦ない帰結を活写した書物として、『戦争広告代理店』(講談社 初版2002年6月 高木徹著 文庫版もあり)が挙げられる)。

現状、ロシアは和平案を受け入れてしまった以上、グルジアには迂闊に手を出せず、下手な行動に出れば「和平をぶち壊したのはロシアだ」ということになって一層の孤立化を招きかねない。戦闘ではグルジアを追い詰めながら、結局その優位を生かしきれないまま、痛し痒しの状況に追い込まれたロシアでは、今後以下のような事態の発生が考えられる。
・欧米の圧力に屈する形でグルジアとの和平に調印した政権に対する、
 ロシア国内の対外強硬派からの攻撃激化。
 (その意味では、プーチン首相がグルジアや欧米に対する強硬姿勢を鮮明にする一方、
  メドベージェフ大統領が和平案受入れ等の対外宥和的な態度を取った(取らされた?)
  ことは、プーチン首相の政治的影響力維持という面からすれば、非常に都合のよい役割
  分担だったと言えるだろう)
・メドベージェフ政権が「外圧に屈した弱腰政権」という国内反政権派からのレッテル貼りを
 防ぐため、対西側外交をより攻撃的・非協力的な方向にシフトする。
 (これが実現した場合、東欧へのMD配備やイラン核問題にも大きな影響が及ぶだろう)
・「祖国ロシア受難の時こそ、強い指導者が必要だ」というプーチン首相の大統領職再登板
 を求める声の高まり。

また、南オセチア紛争が極東アジアに与える影響としては、中国にとってはロシアが西側諸国からの非難の矢面に立ってくれたことで、自国の問題に対する西側の非難を有耶無耶にできること、そして対西側外交でロシアの協力を得易くなったこと、以上の点でプラスになると思われる。逆に西側に属する日本にとっては、エネルギー資源問題や領土問題におけるロシアの姿勢硬化、ロシアが欧米離れの反動で中国との関係を一層強化することで、西北の安全を強化した中国がより活発に東シナ海域一帯への進出を加速させる可能性を高めるといった点でマイナスの影響が及ぶと思われる。

2008年8月11日月曜日

第百段 南オセチア紛争第2ラウンド開始

オリンピック開催国中国の面子なぞどこ吹く風で始まった、グルジアVSロシアの南オセチア紛争。第一ラウンドは、南オセチアの主要地域からのグルジア軍駆逐に成功したロシアの完勝と見ていいだろう。

しかし、「戦争とは血を流す政治である」と古の賢人が述べたように、戦争とは戦場での勝敗を以って終わるものではない。寧ろ戦場で得た結果を戦後秩序に結びつけるための政治フェイズ(相手国との交渉や内外世論への働きかけ等)こそ、戦争という行為の要である。端的に言えば、戦争とはポーカーゲームに似ている。戦場の勝敗は最初に配られた手札である。勝った側にはフルハウスやストレートといった好手があり、負けた側はワンペアやブタ。ただし、強国の支援や国際機関の介入といったカードチェンジのチャンスが無いわけではないし、例え悪手であっても心理戦で相手を疑心暗鬼に追い込めば十分に勝つことは可能。実際、歴史は戦場で勝利しながら(軍事的優位にありながら)政治フェイズで敗北し、勝利の果実を相手に握られてしまう皮肉を幾つも見せてくれる(例:ヴェトナム戦争、中国国共内戦)。従って、まだ戦場で勝利したロシアとて油断はできないし、戦場で苦杯を喫したグルジアに巻き返しのチャンスが無いわけでもない。

ここで当該紛争におけるロシアの勝利条件を想像するに、以下の事柄が完全に満たされた場合、ロシアがこの紛争で勝利したと言えるのではないか。
・反露的なサアカシュヴィリ・グルジア大統領の退陣。
・南オセチアの現状維持。
グルジアが当該紛争に一方的な停戦宣言を出したものの、ロシア側がこれを無視して対グルジア軍事行動を続けているのも、欧米の介入が本格化する前にグルジア現政権打倒まで一気に力で押し切ろうと考えてのものと思われる。
対するグルジアの勝利条件(というか、よりましな敗北条件)は以下のものが考えられる。
・サアカシュヴィリ現政権の維持。
・南オセチアからのロシア軍撤退。
・欧米からの永続的な支援についての合意獲得。
前述したようにグルジアが当該紛争について一方的な停戦宣言を出した(しかもクシュネル仏外相立ち合いで)のも、「負け戦の停戦に乗ってくれれば儲けもの、乗ってこなくても国際世論に「攻撃的なロシア」を印象付け、欧米の支援を得易くなる」という考えによるものと思われる。

現状ではグルジアとロシア、どちらに運命の女神が微笑むかは不明だが、仮にロシアが当該紛争で完勝した場合、以下の様な事態の発生が予想される。
1.旧ソ連圏諸国のロシア回帰が鮮明化する。
2.コーカサス・中央アジアの石油・天然ガスへのロシアの影響力が高まる。
3.一大エネルギー消費地EU圏へのロシアの影響力が強化される。
4.EU内の親露派(独仏といった「古い欧州」の対米自立派)と反露派(長年ロシアに支配
  されてきた東欧諸国、所謂「新しい欧州」)の対立激化。
5.NATOやEUの機能不全発生。
6.トルコの欧州志向に深刻なダメージが発生。
7.新たな地域秩序を模索することになったトルコとロシアやイランとの関係改善。
8.中東における欧米の影響力縮小。
このような事態の発生を防ぐために、欧米はグルジアを見捨てるわけにはいかないだろう(逆に欧米がグルジアを見捨てるということは、ロシアがユーラシアの管理人として振舞うことを認めたことになる)。

微妙な立ち位置なのが中国。ロシアは重要な外交上のパートナーなので今回の紛争で痛手を負って下手に弱体化されても困るが、一方で、今回の紛争がロシア完勝に終われば、帝政ロシア~ソ連時代に嫌というほど味わった西北からの脅威が復活しかねない。その上、グルジアが当該紛争で掲げる「国内の分離独立派制圧」という名分は、中国にとっても金科玉条の旗印。従って、ロシア側陣営として一方的なグルジア批判にも走り難い。従って、今回の一件について中国は沈黙を守るのがベターと言えそうだ。

また関連するニュースとして、BPが当該紛争がカスピ海、コーカサス地方における同社の操業には影響を与えていないと発表した。(出典:ブルームバーグ
エネルギー価格に世界の耳目が集まっている昨今、下手に民間石油設備を破壊した場合、一気に国際世論的な意味で悪役とされかねないため、今の所はグルジア・ロシア両国とも自重しているのだろう。ただし、今後紛争が長引くようなら、それぞれ相手国がやったかのように見せかけた石油設備への破壊活動を実施し、国際的な非難を相手国にぶつける戦術も俎上に上がってくるだろう。

2008年8月8日金曜日

第九十八段 南オセチア発火

今まで、コーカサスにおける帝政ロシア以来の各種権益・政治的影響力を維持・増進しようとしてきたロシアとNATO加盟や親欧米政策でロシアの頸木から脱しようとしてきたグルジア。鋭く対立してきた両国の関係が、遂に発火した。直接の契機は、今年8月8日(日本時間)のグルジアの南オセチア州侵攻である。(南オセチア州は、グルジアにおける親露派勢力の牙城としてグルジアからの分離独立を掲げ、平和維持を名目にしたロシア軍の駐留を受け入れることで、実質的にそれを達成していた)。

グルジアの南オセチア州侵攻を巡る動き(各マスコミの報じた順。日時は全て日本時間)
・8月8日(10:23 ロイター発):グルジア国防相、同国軍の南オセチア州都ツヒンバリ包囲を発表。
・8月8日(13:48 ロイター発):グルジア空軍の空爆をロシア・インタファクス通信が報じる。
・8月8日(17:20 時事発)  :国連安保理、親グルジア派の欧米と南オセチア州支持のロシアの対立で動けず。
・8月8日(17:30 時事発)  :グルジア大統領、総動員令の発令とロシア軍機によるグルジア領空爆を発表。
・8月8日(21:40 時事発)  :ロシア軍機に空爆されたグルジア軍基地には米軍顧問団が駐在している模様。
・8月8日(22:14 共同発)  :プーチン・ロシア首相、グルジアへの報復を表明。グルジア大統領、
                   戦車150両を含むロシア軍が南オセチアに展開したことを非難。

そしてグルジア周辺の勢力分布といえば、ますグルジアの友好国としてトルコとアゼルバイジャンが存在する。そしてトルコとアゼルバイジャンはカスピ海の資源やコーカサス地域の政治的影響力を巡ってロシアと(ある程度抑制されてはいるが)対立関係にある。一方で今回の紛争が長期化した場合、国内開発に与える悪影響が発生する可能性も高い(例:投資マネーの逃避や資源開発の遅滞等)。従って今回の紛争では、両国は主に外交面で、ロシアの面子を潰さない程度にグルジアが実利を得る形で事態が決着するように動くものと思われる。
続いてアルメニア。この国は歴史的・宗教的な背景からトルコ、アゼルバイジャンと激しく対立する一方、ロシアと強固な友好関係を築いてきた。従って今回の紛争ではロシア側に回るものと思われる。
続いてイラン。この国はロシアと、アルメニアと友好関係にある一方、核等を巡る欧米との仲介役としてトルコとの関係も深まっている。そして国内に多数のアゼルバイジャン人人口を抱え、彼らが多数エスタブリッシュメント層に進出しているという、非常に微妙な立場にある(因みに同国最高指導者のハメネイ師はアゼルバイジャン人の血も引いている)。地理的にやや離れた位置にあることもあり、今回の紛争で何か表立って動く可能性は低かろう。
最後に国家政府ではないが、トルコ東部のクルド人独立派の動きにも注意が必要と思われる。最近のトルコ・イラン関係の改善・強化によって、トルコ領内のクルド独立派は、アンカラとテヘランから東西挟撃される形となりつつある。クルド独立派は、これに対抗するために北方との連携強化、即ちアルメニア、ロシアとの共同戦線を構築する方向に動く可能性がある。トルコのエネルギーや地政学的な影響力の拡大を喜ばないアルメニア、ロシアにとってもこれは悪くない話である。そしてこのトルコ・イランの東西連携に対抗する形でクルド独立派・アルメニア・ロシアの南北枢軸が成立した場合、欧米や日本といった西側諸国が受ける影響としては、近日発生したトルコ東部でのパイプライン爆破を想像してもらうと最も分かり易いかと考えられる。

地図を見れば一目瞭然だが、コーカサス地方での大規模な騒乱は、そのまま世界経済のエネルギー庫である中東地域に波及しかねない怖さがある。さて、事態はどのような形で決着を見るのやら・・・?

2008年8月4日月曜日

第九十六段 革命とウォッカ、そしてイラク

ある国のある時代の小話。
スターリンが死後、あの世でニコライ2世に会った。
ニコライ2世曰く「なあ、ヨシフさんよ。ロシアは相変わらず強国かい?」
スターリン曰く「勿論だ」
ニコライ2世曰く「まだ軍隊は強力かい?」
スターリン曰く「当然だ」
ニコライ2世曰く「秘密警察は健在かい?」
スターリン曰く「無論。ルビヤンカはあんたのオフラナより強力だ」
ニコライ2世曰く「まだ政治犯はシベリヤ送りかい?」
スターリン曰く「それ以外に選択肢はない」
ニコライ2世「ロシア人はまだウォッカを飲んでいるかい?」
スターリン曰く「昔と何も変わらない」
ニコライ2世曰く「ウォッカのアルコール度数は40%のままかい?」
スターリン曰く「いや、ソ連になってからは42%だ」
ニコライ2世曰く「・・・なあ、ヨシフさん。たった2%のためにあんな大革命を起こしたのかい?」

最近のイラクを巡る動きを見ていると、不意にこんな小話が脳裏をかすめました。

まず、サダム政権下で与党(というか実質的な政府機関)であったバース党の元職員達の職場復帰が進行しているとのこと(詳細は『中東TODAY』No1097参照)。民族・宗教のモザイクに莫大な石油利権が絡みついたイラクで安定した統治を実現するには、何よりも経験ある実務者が必要なことはよく理解できます。ただ、わざわざバース党政権を破壊して結局そこの職員に頼ることになるぐらいならば、最初から湾岸戦争以来のイラク・イラン二重封じ込め政策を継続し、サダム・フセイン政権の2代、3代後に穏健な国際協調的政権ができるのを待っていた方がよっぽどマシだったような気がします(その意味では、蒋経国・李登輝政権が成立するまでアメリカン・デモクラシーの洗礼(「空爆」とも言う)を受けなかった台湾は幸運でしたな)。

次に、トルコとイランのPKK掃討での協力(出典:日経ネット)や核問題協議を名目とした両国の各種接触を見ると、「イラク北部はトルコの勢力圏、南部はイランの勢力圏、クッション役が中部のバグダッド政権」という構図がおぼろ気ながら浮かんできた様に思えます。・・・確か米国(あと、目立ちませんが西側欧州諸国やソ連)は、イラク南部の油田地帯がイランの勢力下に入ることを嫌い、イラン・イラク戦争でイラクのフセイン政権に梃入れしていた筈。そこまでして実現を阻みたかった事態を20年越しで(しかも主要メンバーは当時と殆ど変わらず)自ら実現しつつあるのが米国の悲劇と言えば悲劇(傍から見れば喜劇)。

因みに、イラクという地域がトルコ勢力圏とイラン勢力圏に分割(程度は兎も角)されるのは、オスマン帝国とサファヴィー朝以来の伝統的構図。極東アジアにおける朝鮮半島への中国の影響力拡大と言い、古い時代の地政学があちこちで復活してきてますなぁ。( ̄w ̄)

「歴史は繰り返す」とは言い古された表現ですが、それでもロシアは革命によってウォッカのアルコール度数に2%の進歩がありました。禁酒を掲げる(少なくとも建前上は)回教の国イラクではレジーム・チェンジでどんな進歩があるんでしょうか?

2008年7月30日水曜日

第九十四段 囲師には必ず・・・

人類史上に於ける戦略書のアルファにしてオメガとも言うべき『孫子』の九変編に以下のような言葉が御座います。
囲師には必ず闕き、窮寇には迫ること勿れ。

要するに、「敵を包囲する時はワザと一部に逃げ道を作り、進退窮まった敵を完全に追い詰めてはならない」という意味です。

何故か? 別に人道主義や憐憫の情を重んじての言葉ではありません。「窮鼠猫を噛む」という俚諺が御座いますが、退路を失った人間というものは、往々にして信じられないような蛮勇や力を発揮するもの。そんなものと戦ってひどい損害を受けるよりは、敵にわざと退路や生存の希望を見せることで、決死の覚悟というものを持たせず、ひと押しすれば勝手に自壊するように仕向けるべきことを述べた言葉なのです。

さて、ユーラシアの西端では、欧州に供給される天然ガスを巡ってロシアが活発な動きを見せております。過去にも、ロシアとウクライナの天然ガス紛争や天然ガス版OPECの創設提唱がありましたが、最近も、ロシア・ガスプロムがリビアに対して同国生産の石油・天然ガス全量買い取りを提唱、ロシア・アルジェリア間のエネルギー分野における協力強化合意、帝政ロシア以来関係の深いカスピ海沿岸・中央アジア諸国に対してロシアを排除する形の対欧州エネルギー資源供給に参加しないように働きかける等の動きがあります。

一見すると、ロシアは実に効果的にエネルギー面での対欧州包囲網を構築しているように見えますが、逆にここまでロシアの優位が見えてくると、危機感を覚えた欧州の代替エネルギー開発を一層加速させてくる可能性があります。のみならず、イラク戦争以来遠心力が働いてきた欧米関係が、「エネルギー資源を梃に強大化するロシアの脅威」を背景として、再び求心力を取り戻してくる可能性もあります。

もしこれらの可能性が現実のものとなると、ロシアは完全な欧州包囲網を構築したおかげで、影響力の源泉であったエネルギー資源の価値低下と強化された欧米同盟に直面するという非常に有難くない状況下に置かれることになります(まさに窮鼠に噛まれた猫状態)。そうならないために、ロシアは欧州に包囲網の抜け道(偽りの希望)を用意する必要があると思われます。さて、ロシアはどのようなイリュージョンで欧州を幻惑してくるのでしょうか? それとも資源価格高騰のもたらすユーフォリアに酔いしれ、微妙なハンドル捌きをしないまま、最悪の結果まで突き進んでしまうのでしょうか? ( ̄w ̄)

2008年7月25日金曜日

第九十二段 米軍撤退後のイラク経済は?

ある日、反ブッシュの人物と親ブッシュの人物が口論をした。
反ブッシュ:「ブッシュのイラク侵攻はとんでもない愚行だった。おかげでどれだけの無益な
       犠牲がでたことか・・・」
親ブッシュ:「いや、ブッシュ大統領のイラク解放によって、イラクにアメリカン・デモクラシー
       が根付いた」
反ブッシュ:「君は何を言っている? 今のイラクでは役職はコネで決められ、貧富の差が
       どうしようもないほど広がり、多くの人々が銃で殺されているんだぞ!」
親ブッシュ:「君こそ何を言っている? 今君が言った事こそ、アメリカン・デモクラシーの真
       髄じゃないか!」

政治家の評価は棺覆いて後定まるとは申しますが、覇権国アメリカの第43代大統領、即ち当今の治天たるW.ブッシュ氏は、「弱く不安定なイラク」と「イランの影響力拡大」を(少なくとも一時的に)もたらした大統領との評価を避けることはできないでしょう。

さて、そのイラク、「イランに対する防波堤」から「イランの実質的な勢力圏」に移行しつつあるイラクでは、最近、資金需要が上昇傾向にあると在イラク米国大使館が申しているとか。ロイターが米国大使館の調査結果として報じている所によれば、民間銀行が今年2月に実施した融資総額は約7.5億ドル、3月時点の信用状残高も1.9億ドル近くにまで達したとのこと。米国大使館はこれを以って「イラクの金融セクターが回復傾向にある」としています。(記事リンク:ロイター

まあ、「イラクの復興は順調ですよ」と印象付けたいが為の主催者発表臭がニュースに漂うのは兎も角(因みに、記事によれば、米国大使館から同調査についての情報提供要請があった時、イラクの中銀と財務省はこれを拒否したとか・・・)、気になるのが、米軍撤退後のイラクにおける金融経済と通貨覇権の帰趨。

ここで視点を北方にずらして、欧州バルカン半島はコソヴォの状況を見てみますと、特筆すべき産業も無く、隣接するセルビアとも対立するコソヴォの経済は、NATOやEU、国連等の落とすユーロやドルに強く依存した状態にあります。そのため、地域情勢が下手に安定化してNATOやEU、国連が撤退してしまうことを恐れる空気もあるとか。

現在のイラクでは、駐留米軍とその周辺が落とす米ドルが大きな影響力を持っていると推測されますが、ポスト・ブッシュ政権が米軍のイラク撤退を実行した時、巨大な需要マシーンでもある米軍の消失にイラク経済が耐えられるのか? そこが気になる一点目です。
もう一点気になるのが、莫大な原油埋蔵量を擁し、同時に中東の地理的中心でもあるイラクで米ドルの影響力が落ちた時、勢力を強める通貨はドコか? ユーロか? ロシア・ルーブルか? イラン・リヤルか? それとも・・・。

2008年7月22日火曜日

第九十一段 音速の遅い読書『宇治拾遺物語』

『宇治拾遺物語』という作品が御座います。
書誌的な情報としては、13世紀前半頃に成立した説話集であり、作者は判然としておりません(Wiki参照)。全15巻197話からなり、日本、唐土や天竺にわたる様々の話を載せています。
2008年7月に至るまで影印から完全現代語訳までが様々な出版社から出版されていますが、ここのブログで取り上げるものは、小学館の日本古典文学全集28(1973年初版)によります。
(とはいっても、あらすじにおける抜粋・現代語訳の責は、管理人にあります。)

全15巻197話もある中から今回取り上げるのは、巻8の第6話「猟師仏を射る事」。
話のあらすじは以下の通りです。
 1.昔、愛宕の山に長年修業を積んできた僧侶が住んでいた。
 2.近くにはその僧侶を慕う猟師が住んでいた。
 3.ある日、僧侶は猟師に対して「最近、自分の所に普賢菩薩がお見えになるのだ」と告げ、
   今晩は僧坊に泊って共に有難い菩薩に礼拝することを勧める。
 4.猟師は僧侶の申し出を快諾する。
 5.深夜になり、僧侶、猟師とそのお供の童の所に神々しい光と共に普賢菩薩が姿を現す。
 6.僧侶は感激して深く祈りを捧げる。
 7.一方の猟師は「長年修業を積まれたお坊様にのみ菩薩が見えるなら兎も角、
   仏事などロクにせず、罪深い殺生を重ねてきた自分や童子にまで菩薩が見
   えるのはおかしい」と訝る。
 8.やおら猟師は弓に矢をつがえ、さっと菩薩を射る。
 9.射られた菩薩は光を失い、鳴声を上げて逃げ出してしまう。
10.取り乱して詰め寄る僧侶に、猟師は「立派な貴方のみならず、罪深い私にも見え
   たのが不思議で射たのです。真の仏ならば弓矢如きで傷付くこともないでしょう。
   それなのに弓矢が突き刺さったのは不思議なことです」と言う。
11.翌日、3人が血の跡を辿っていくと、谷の底で大狸が死んでいた。僧侶はこの大狸
   に化かされていたである。僧侶は信仰心こそあったが思慮に欠けていたため、まんまと
   騙され、猟師は信仰心こそなかったが思慮があったため、偽りを見破れたのであった。

大狸にしてやられた僧侶の滑稽さが際立つお話ですが、時は中世。迷信・俗信の多く蔓延った時代に、理知的な判断を下せた猟師の方こそ褒められるべきでしょう。
そしてこのお話は遠い時代の怪奇譚に止まるものではありません。マスコミ等が実態以上に派手派手しく大げさに取り上げる話題・論調に振り回されてしまう現代日本の我々もまた、偽りの普賢菩薩を伏し拝んだ僧侶とあまり変わる所はないのではないでしょうか。
見た目の華々しさ、仰々しさに囚われることなく、一歩引いた冷静な目で観察と考察を行う(そして行動に移せる)猟師の精神の有り様を常に心に銘じて日々を送りたい、そう思わされた一話でした。

2008年7月20日日曜日

第九十段 イラン核問題雑考

イランの核開発を巡る動きが慌ただしくなっている。世に流れている大半の関連情報は「絶対にイラン核兵器保有を認めない米国VS何が何でも核兵器保有を実現したいイラン」といったニュアンスで色付けされている。この色付けについて天邪鬼的な視点から少し考えてみたい。

そもそも、米国は絶対にイランの核兵器保有を認めないのか? 管理人はそうは考えない。核兵器保有を認めることへの見返り、そしてイスラエルの安全を保証するスキームさえ用意できれば、米国は寧ろ十分にイランの核を認め得ると考える。

過去(特に冷戦崩壊後)の核兵器拡散状況を見ると、パキスタンとインドの前例がある。1990年代後半の両国の核実験は米国の反発を喰らい、両国には米国主導の各種制裁が実行された。しかし、2008年現在を見るとそのインドやパキスタンに対する制裁はほぼ完全に無効化され、印パ両国の核兵器保有は既成事実として定着している。何故か? それは印パ両国が米国に相応の戦略的利益を提供した(或いは提供できることが見込める)からである。

パキスタンが米国に提供した(或いはできる)利益
1.同国のカーン博士を結節点とした北朝鮮と中東諸国を繋ぐ核コネクションの情報提供。
2.対テロ戦争に対する情報や基地の提供といった各種協力。
3.イランへの牽制役。
等々・・・

インドが米国に提供した(或いはできる)利益
1.対テロ戦争への協力。
2.莫大な人口を抱える自国市場の開放。
3.台頭する中国への牽制役。
4.3とも関連するが、中露を中心とした地域機構「上海協力機構(SCO)」への参加による
  トロイの木馬的役割(因みに現在はオブザーバー資格で参加中)。
等々・・・

従って、もしイランが対テロ戦争やイラク、アフガニスタンの治安安定化その他様々な事柄で米国に相応の利益を提供した場合(或いはできる見込みを具体的に示せば)、意外に米国はスンナリとイランの核兵器保有を認めると考えられる。
その際の問題点として「如何にイスラエルの安全保障を確保するか」が浮上してくるが、これについては以下の方策が考えられる。

1.イスラエルのNATO加盟
既にイスラエルは「地中海の対話国家」という位置付けでNATOとの共同軍事演習や治安維持協力等を進めている。また、意外かもしれないが、NATOの加盟条件に地理的な限定(例えば加盟国は欧州に限る等)はない。あるのは言論の自由や多党制が保障された民主国家か? 周辺諸国との間に紛争を抱えていないか? といった点。民主国家という点では既にイスラエルはクリアしている。周辺諸国との紛争についてもエジプトとは平和条約を締結しており、残るパレスチナ、レバノン、シリアについても一枚岩的にイスラエルとの対話拒否・対決姿勢を示している所は現状ない。従って難易度は高いが周辺国との間で何らかの和平合意が成立する可能性はある。その意味ではパレスチナ強硬派のハマスやレバノン各勢力に強い影響力を有するシリアの動きは要注目である。

2.核を以て核を制す
仮にイランが核兵器を保有することになった場合、他の要素に変化がなければ、中東のパワーバランスはイラン優位に動く。それを中和するために、米国はイスラエルと長年協力・友好関係を維持してきた(と同時に親米国でもあった)トルコ、エジプトに核兵器保有を認め、イランの核兵器保有のインパクトを薄めようとする可能性がある。特にトルコが核兵器を保有すれば、南方に位置するシリアへの圧力効果も期待できよう。ただし、両国とも近年イスラム教の価値観を強調する勢力の力が強まっている。これらの勢力は往々にして反米的姿勢(穏当に言えば米国と距離を取ろうとする姿勢)を採っていることもあり、この策を実行した場合、両国の政治状況如何によっては、結果的にイスラエルや米国の脅威を一層強めかねない怖さはある。

因みに、「米国とイランの緊張が武力衝突に繋がるか」について世界の耳目が集まっているが、米国株式市場における防衛セクターの値動きを見ると、どうやら市場は「ポスト・ブッシュ政権での財政再建 → 防衛費も削減される → 防衛企業の売上・利益減少」というシナリオを描いているようである。当然イランとの戦争が始まれば防衛費削減なんぞあり得ない話なので、米国株式市場としては「米・イラン武力衝突は無いだろう(少なくとも当面は)」と判断していると考えられる。従って、現時点での米国とイランの武力衝突発生の可能性は、巷間囁かれているよりは可能性が低いのではないかと管理人は考えている。