2008年4月5日土曜日

第二十段 音速の遅い読書『薔薇園』

今日の音速の遅い読書で取り上げるのは、『薔薇園 イラン中世の教養物語』(初版1964年 平凡社)という一冊。この本、13世紀後半にイラン史上屈指の詩人と称されるサアディーという人物によって著された散文集である。内容としては、短めの説話を語り、最後にそこから引き出される教訓を詩文で詠うというもので、体裁としては『イソップ寓話集』や『十訓抄』に近い。
短めのエピソードを集めた一冊なので、暇な時等に適当なページを開いて一つ、二つの話を読んではページを閉じるという気楽な付き合いができる。かといって、内容はお気楽極楽太平楽というわけではなく、人間や社会の駄目駄目な点をピリッとした辛辣なユーモアにくるんで指摘している。そこに描かれている人間や社会の諸相が現在のそれとあまりに変わらない所に軽い眩暈を覚える一方、読んでいて思わず「サアディー先生もご苦労されてたんでしょうねえ」と800年弱の年月を超えて著者に共感を覚えてしまうことも珍しくない。

因みに最近読んだ中で思わずにやけてしまったエピソードが二つ。
一つはある商人が子供に対して損失の発覚と他人の嘲笑を防ぐため、損失の発生を誰にも話すなと言った話。最近のソジェン巨額損失問題からベアリングズ社事件、住友銅取引事件、大和銀行巨額損失事件等を引き起こしたトレーダー達が不正取引を繰り返すにいたった心理も同じようなものだったのだろう。
もう一つは、占星術師が自身の妻の不倫を見抜けず、賢者から「家に誰がいるかもわからなかったのに、どうして大空のことが分かるんだ」と突っ込まれる話。他人の前世とかあの世とか遠い世界のことを滔滔と語りながら、テレビ局が霊視相手に事前に許可を取っていたのかどうかすら見抜けなかった某スピリチュアル・カウンセラーを連想してしまい、にやけるどころか飲んでいた緑茶を吹きかけてしまった。

良質のユーモアをお求めの方にもお勧めの一冊。