2008年4月6日日曜日

第二十二段 人民元国際化への第一歩?

人民元というと、対ドルレート上昇速度の加速をめぐる米中の鞘当が注目されますが、2008年4月6日の日経新聞によると、北京政府は中朝貿易の人民元決済を制度として認めた模様です。もともと北朝鮮の貨幣流通状況は、1990年代以来の国際的な孤立で自国通貨・北朝鮮ウォンが信用を失い、米ドルと人民元が実質的な通貨として機能している状況にあります。そんな中で北京政府が投じたこの一球。その背景や狙いは何なのか、徒然なるままに素人考察でもしてみようかと思います。

一つは北朝鮮の自陣営取込というのがあるかと思われます。現在の北朝鮮の実質的な流通通貨は前述のように米ドルと人民元。そうなると北朝鮮の金融は実質的に米国と中国の影響下に置かれることになります。別の言い方をすると、実質的な核保有国の財布の紐が二つの大国に握られているということです。ここで北朝鮮の状況と米国の事情を見てみると、北朝鮮は経済的にのっぴきならない所まで追い詰められている。一方の米国は任期僅かとなったブッシュ政権がイラク失政を糊塗するためのレガシー作りにやっきとなっている。こんな状況下で中国にとって悪夢なのは、経済援助を梃に米朝和解が進み、核を持った親米国北朝鮮が誕生することです。そう考えると、中国が米朝和解が進展する前に北朝鮮を自陣営にビルトインする方向で動くのは当然の動きです。今回の中朝間貿易で人民元決済を認めることになったのも、北朝鮮から米ドルひいては米国の影響力を排除する動きの一環と考えられるのではないでしょうか。

二つ目は中国の鉄鉱石等の金属需要逼迫が考えられます。中国では目覚ましい経済発展と歩調を合わせて、鉄鋼の生産・需要も急拡大しています。そして他の新興国での鉄鋼需要拡大も相まって、原料の鉄鉱石価格も高騰しています。中国としては、BHPやヴァーレ等の金属メジャーに頼る従来の供給ルートに加え、新たな供給ルートを開発する必要があります。そこで注目されるのが北朝鮮。意外に日本では取り上げられることもありませんが、北朝鮮は鉄鉱石等のベースメタルや各種レアメタルといった金属資源が豊富な国です。従前からこの豊富な金属資源に目をつけた中国資本が北朝鮮内で活動していましたが(非公式情報では欧米資本も)。今回の人民元決済制度の開始は、中国資本の北朝鮮に於ける資源開発を加速させ、中国の金属需要を満たす狙いもあると思われます。

三つ目として、将来の人民元国際化に向けた演習というのも考えられます。自国通貨の国際化は同時に自国の国際影響力拡大をももたらします(それに伴うコストというか弊害も一緒に連れてきますが・・・)。北京政府としては、中朝貿易での人民元決済という限定された人民元国際化を通じて、将来の本格的な人民元国際化に向けた経験を蓄積していこうと考えているのではないでしょうか。

この話、日本政府にとっても悪い話ではありません。というのも、日本政府は拉致問題との兼ね合いで北朝鮮に対する経済制裁を解除することは当面できそうにありません。一方で核を持った金正日体制があまりに困窮した場合、どのような行動に出るかは予断を許しません。暴発しなくとも下手に体制が崩壊してしまえば、それはそれで難民問題等の厄介な問題が発生しますし、ポスト金正日政権が今の政権以上に物分かりの良い国際協調派になるとも限りません(正体の分かった悪の方が対策を講じやすい分、まだ見ぬ悪よりマシだというのは一つの真理でしょう)。
そこに出てきたのが今回の中朝貿易の人民元決済制度の開始という話。これによって2006年の核実験以来の国際的な対北朝鮮経済封鎖がある程度緩和されることで、現状の北朝鮮体制(正体のわかった悪)が維持され、日本としては国内の対北朝鮮強硬派に対して「日本政府は対北経済制裁をしっかりやっています」というスタンスを維持したまま、外交的には現北朝鮮体制を交渉相手として核問題等のソフトランディングを図り、軍事的には対北朝鮮宥和派に対して「北朝鮮が現状の独裁体制を維持し、核使用も辞さないという姿勢をとっている以上、何らかの物理的対策は必要」と主張してMDを進展させることが可能になります。

ここで気になるのは当然米国の動き。中国の動きを黙認するのか、それとも負けじと北朝鮮取込を活発化させるのか・・・?

<元ネタリンク>
日経ネット 2008.04.06