2008年5月25日日曜日

第五十九段 今、極北が熱い!

長い間、氷と雪に閉ざされてきた不毛の北極圏ですが、ここをめぐる各国の権利主張が熱を帯びてきました。要因は、一つが温暖化による(とされている)氷の減少と原油や天然ガス、各種金属価格高騰によって北極海での資源開発が採算ベースに乗り始めてきたこと。もう一つは海氷の減少によって新たな航路開設の可能性が高まってきたことです。

今年5月28日からはデンマーク領グリーンランドにおいて、米国、露、加、ノルウェー、デンマークの5ヶ国で北極圏開発についての閣僚級会議が開かれることになりました。もし北極海の資源開発、特に石油や天然ガスの開発が進行すれば、エネルギー資源消費国にとってはOPECの意向に左右されない化石燃料がより多く供給される利点があります。問題は、投資家としてこの動きからどうすれば利益を引き出せるかということ。北極海やその周辺での資源開発進行から恩恵を受けられそうな企業でも探してみますか。

因みに日本や中国にとっても、北極海航路の開設は以下の点で福音です。

1.航路の治安向上
アジア・太平洋地域から欧州へ海路輸送を行う場合、マラッカ海峡、アデン湾・紅海、スエズ運河を経るとになります。しかしマラッカ海峡や
アデン湾・紅海は周辺諸国の治安維持能力が低いこともあって海賊どもの巣窟ともなっています。また、スエズ運河についても、管理者たるエジプト政府はスエズ半島に拠点を築きつつあるアル・カイーダ系イスラム過激派の摘発や、同じくイスラム過激派組織たるハマスが実効支配しているガザとの国境管理に失敗しており、運河周辺の治安悪化が懸念されています。従ってこの航路を利用しようとすると、船舶の安全管理や保険料に余計なコストが発生してしまいます。
一方の北極海では厳しい気候のために人口が希薄、周辺諸国のガバナンスや軍事・治安能力が比較的優れていることもあり、航行船舶が海賊やテロ活動に悩まされる可能性は、現行のアジア・欧州間航路よりも軽減されると思われます(もっとも航路開設後は関係諸国で何らかの安全協議機構が必要になってくるでしょうし、航行する船舶についても砕氷機能や二重船殻といった安全対策が新たに必要となってきますが・・・)

2.燃料コストの軽減
アジア・太平洋地域(ここでは東京を想定)から欧州(ここではロンドンを想定)に向かう場合、スエズ運河を利用する航路では約2.1万km、パナマ運河を利用する場合は約2.3万kmの距離があります。一方、北極海航路では距離が約1.6万kmで済みます。インドや中国のテイク・オフが燃料需要の拡大とかかる費用を押し上げていることを考えれば、北極海航路利用による節約効果は無視できないものと考えられます。

ふと思ったのですが、もし北極海航路が開ければ、新たな輸出拠点として北朝鮮の日本海側にある清津等の港湾都市が脚光を浴びてくるかもしれません。さて、そうなると北朝鮮を巡る米中の角逐にどんな影響が出てくるか、それも楽しみです。 ( ̄w ̄)

2008年5月22日木曜日

第五十七段 ためにする交渉

交渉事と言うと、何となく「最終的に相手との合意を目指すもの」というイメージが一般的かと思います。しかし、世の中はそう単純なものではありません。寧ろ「交渉相手との決裂は織込み済み」、もっと言えば「交渉相手との決裂が目標」という交渉も確実に存在します。でもそんな交渉を行うことに意味はあるのでしょうか? 答えは「Yes」です。ではその交渉で狙うものとは何か? それは相手の評判悪化や相手に対する攻撃的な行動の正当化です。要するに「向こうは理性的な話し合いの通じる相手ではない」というネガティブな相手イメージの流布を狙った交渉、「自分たちは話し合いでどうにかしたかったのに相手はそれを拒んだ。だから我々がこんな乱暴な手段に訴えるのも仕方ないことなんだ」と周囲に訴えることを狙った交渉、そういったものが世の中には存在するということです。

何故そんな話をするかと言うと、一昨日にロイターで「イスラエルとシリア、トルコの仲介で、和平交渉を開始」というニュースを目にした時、咄嗟に「これは決裂織込み(若しくは”狙い”)の交渉では?」という考えが頭に浮かんだからです。以下に各国の思惑についての個人的な推測をまとめてみました。

1.トルコ
イスラエルとシリアの交渉が決裂したとしても、両国関係の歴史的背景を考えれば国際社会に特段の驚きはなく、仲介が失敗してもトルコの失うものはありません。逆に両国の交渉が何らかの成果を生めば、仲介役たるトルコの国際的な評価も上昇し、クルド人問題での強面な一面から国際世論の目をそらすことができますし、「地域の安定に努力するトルコ」のイメージが広まることで積年の念願であるEU加盟問題にも資する可能性があります。要するにトルコにとって今回の仲介はどう転んでもマイナスにはならない、ゼロかプラスの道しかない割の良い賭けといえるでしょう。

2.シリア
アサド政権は今回の交渉で合意を出す必要性は感じていないと思われます。何故なら、一つはイスラエルとの緩衝地帯であるレバノンに於いて親シリア組織のヒ ズボラが順調に勢力を拡大しているから。もう一つは、下手にイスラエルと関係改善した場合、国民の不満のはけ口、スケープゴートとしてイスラエルを利用す ることができなくなり、国民の怒りや不平が直接アサド政権に向けられることになるからです。特にコモディティ価格の上昇を背景としたインフレが広くシリア国民の生活を圧迫している現状では、現シリア政府が自ら好き好んでスケープゴートを手放すとは思えません。寧ろ今回の交渉を決裂させて「話し合いを拒む好戦的なイスラエルの脅威」を訴え、国内の引き締めと周辺アラブ諸国の親シリア感情の醸成・亢進に利用してくると思われます。

3.イスラエル
現在、オルメルト政権は過去の対外的失策(レバノン・ヒズボラ攻撃等)に加え、首班たるオルメルト首相自身の汚職疑惑で政権の求心力がかなり脆弱化しています。そこで「我が政府は、現在、画期的かつ困難な交渉に臨んでいるのです」という姿勢を打ち出すことで、政権への逆風を緩和させようとしているのではないでしょうか? もし万が一、対シリア交渉で何か成果が出たなら、それを大いに顕彰して政権浮上の起爆剤とし、大方の予想通りに失敗したら失敗したで「平和的な交渉を拒んだシリア」というイメージを流布させることにより、国内外で現イスラエル政府寄りの世論を形成するためのイメージ戦略にも利用できます。

<元ネタリンク>
2008.05.21 ロイター

2008年5月17日土曜日

第五十四段 四川省地震異聞

浜の真砂は尽きるとも、世にツッコミの種は消えまじ。

四川省地震についても、この真理が通用するのだなぁ、と思わされたニュースが御座いました。
(以下、黒太字部分が引用箇所となります)

1.指導者視察に「迷惑」の声=歓迎で捜索中断(時事通信社)
香港紙サウス・チャイナ・モーニング・ポストは17日、中国四川省で起きた大地震の被災地で、胡錦濤国家主席ら指導者が現地へ視察に来ると、歓迎するため行方不明者の捜索作業が中断するので迷惑だといった声が出ていると報じた。
北川県の元教師は同紙に対し、胡主席が16日に同県を訪れた際、兵士や消防士が捜索をやめて胡主席を出迎えたことから、作業は2時間も完全に止まったと語った。

日本でもかつて中越地震の際に似たような話がありました。流石一衣帯水の両国。こんなどうしようもない政治文化もしっかりと共有されているのですね。

2.中国地震で10万ドル支援=北朝鮮(時事通信社)
朝鮮中央通信は17日、北朝鮮政府が中国四川省で発生した地震災害の復旧のため、10万ドル(約1000万円)の資金を中国政府に提供したと報じた。
同通信は「被災地住民が一日も早く被害を回復し、安定した生活を享受できるよう支援する」としている。韓国の聯合ニュースが伝えた。

・・・。 ( ̄w ̄;)
何ともツッコミ箇所がこぼれんばかりに満載なニュースですが、「援助資金が全て偽札だった」なんてオチを幻視してしまったのは、管理人の心が荒みきっている証拠でしょうか?

2008年5月15日木曜日

第五十二段 四川省地震とミャンマー・サイクロンと感染症

四川省の大地震救援活動で展開している中国人民解放軍と武装警察部隊の人数が凄いことになっています。現状で展開しているのが両部門併せて4万8千人前後。そして更に投入人員を3万人追加する決定が下されたとのこと。今回の地震がそれだけ大規模なものということかもしれませんが、他に震災にかこつけて発生しかねない略奪や放火、暴動といったものを抑止する意味合いも強いのだろうなとも思います。だが一方でより気になることがあります。

それは人を食い物にする輩の大発生・新登場です。といっても、義援金を騙った各種詐欺や親を亡くした子供を狙う人身売買組織といった組織犯罪の話をしたいわけではありません。今回気になったのは、文字通り人間を餌にして種族の存続を図る細菌やウィルスといった病原菌です。現在、アジア地域では、サイクロン被害を受けたミャンマー、地震が発生した中国四川省、その一帯で公衆衛生が著しく悪化した状態になっています。両地域の高温多湿といった気候条件(しかもこれから夏を控えて気温は上昇トレンド)、被災者のストレスや栄養状態の劣悪さ、人口密集度も考え合わせると、現状は各種病原菌にとって、免疫力の弱った人間という好餌が大量に存在する巨大バイキングが発生したも同然。しかもそのバイキングは、何度も繁殖を繰り返すことでより毒性の高い変種を生み出す一種のトレーニングルームともなり得ます。

そして、その四川省とミャ ンマーの中間地点にある雲南省はインフルエンザの故郷とされている場所です(一説によれば黒死病の発祥地もここだとか・・・)。また、中国内では現在、手足口病が各地で蔓延しており、過去にはSARSの発生がありました。周辺地域に目を転じれば、インドネシアや日本では、現在、鳥インフルエンザが発生しています(日本では対人感染は報告されていませんが・・・)。これらを考慮に入れると、四川省やミャンマーで既存感染症の大規模な蔓延が発生する危険性は勿論、両地域のどちらか若しくは両方が起点となって新型感染症(特にウィルス型の)が発生・流行するリスクが現実的な問題としてあろうかと思われます。前述の四川省地震における人民解放軍および武装警察部隊の大規模な展開には、被災地域における救援活動や治安維持の他に、恐らくは危険な感染症が発生した地域を封鎖(最悪、封殺)することも目的に含まれていると考えられます。

一方、大規模な軍や警察の動員が伝えられないミャンマーで爆発的な感染症流行が発生した場合を考えると、背筋に流れる冷たいものも相当量になろうというものです。 ( ̄△ ̄;)

2008年5月13日火曜日

第五十一段 四川省にて地震のこと

中国四川省でM7.9の地震が発生しました。管理人としては、四川省の天然ガス生産への影響、地震対策による中国内のインフレへ の影響、胡錦濤政権への影響、この三点が気になります。

まず天然ガスへの影響ですが、四川省は天然ガス埋蔵量で中国全体の約40%、産出量で約22% (2006年時点)を占める一大生産地です。現時点で生産・精製施設等への影響は不明ですが、ここのダメージが大きいようだと、今後、中国内の経済活動を萎縮させる一方で国際的にはエネルギー資源の供給逼迫感を強め、原油や石炭の価格にも影響が波及し、国際的なインフレ懸念をより強めかねません(地震直後には各発電施設の運転停止からエネルギー需要後退が浮上してWTIの下落要因となりましたが・・・)。また、四川省は時価総額世界最大級企業ペトロチャイナの勢力圏(正確に言えば、親会社である中国石油天然気集団(CNPC)の勢力範囲)であり、当然少なくない権益や施設が存在しています。そんな地域が大地震に見舞われたわけですから、上海や香港市場の動向も気になります。(因みに今日時点では上海は昨日比で下落したのに対し、香港は寧ろ上昇してましたねぇ)。

次に中国内のインフレに対する影響ですが、地震被害からの復興政策を考えると、省政府は勿論、北京政府も何らかの財政出動を行う可能性が高いと思われます。引き締めに動いている金融政策も一時的な休止若しくは緩和に向かって動きかねません。そうなると、ただでさえ進行しているインフレを更に加速させてしまうことになるでしょう。中国有数の穀倉地帯でもある四川省が災害に見舞われたことで、中国内外の農産品価格上昇が加速される可能性もあります。

最後の政権への影響については、今の時代に「天人感応説」をとるわけではありませんが、大規模災害によって社会や行政機構の不備、矛盾が満天下に晒されてしまうことにより、それに対する批判が現政権の求心力を削ぎ落としてしまうことは珍しくありません。その上、災害対策の初動で政権が躓いた場合、それが政権のレームダック化の始まりともなることは某超大国の例を見ても明らかでしょう。逆に現政権が、災害で露呈した問題点を上手く前政権や対立集団の責任として擦り付けることに成功したり、災害の被害最小限化に成功した場合は、政権基盤はより強化される結果となります。その意味では、胡錦濤政権或いはその対抗勢力(上海閥や太子党)に とって今回の地震は、一つの分水嶺になるかもしれません。

そういえば、四川省ってチベット族も多数居住している地域なんですよねぇ。果たして今後どうなることやら・・・。( ̄△ ̄;)

2008年5月9日金曜日

第四十八段 原油高バッチコーイ!!

ここ最近、原油価格について欧米金融機関が強気の見方を続々発表しています。特に強気なのはゴールドマン・サックス社の「今後2年間で1バレル= 200USドル到達」という予想でしょうか。現実のWTI相場も、120USドル突破後は瞬く間に122UDドル台、123USドル台、124USドル台、125USドル台と 過去最高値を更新し続けています。

こんな原油市場の有様について、欧米金融機関と並んで産油諸国からも原油価格について強気の発言(一種のポジション トーク?)が目立っております。主なものを拾い上げていくと、

・カタールのエネルギー・産業相の「年内に1バレル=200USドル到達」発言(4月30日ブルームバーグ報)
・リビア国営石油会社会長の「週内に1バレル=125USドル到達」発言(5月7日ブルームバーグ報)
・イラン石油相の「現状続けば1バレル= 200USドルまで上昇の可能性」発言(5月8日ロイター報)
・OPEC議長の「1バレル当たり200USドルに上昇する可能性」発言(5月8日ブルームバーグ 報)

これらの発言と併せてOPECの頑なな原油増産否定の姿勢を見ると、なんと言っていいのか・・・こう・・・あれです。「産油国の皆さん、グッジョブ!!!」という言葉しか思いつきません。∑d(>ヮ<)
おかげで前段でも記しましたように、油田・ガス田開発サービス企業のシュルンベルジェ株が好調、それにルクオイルやロスネフチ、ガスプロムといったロシア・エネルギー資源株も好調(メドベージェフ大統領就任で嵩上げされている面はあるものの・・・)。それに石油からのウランへの代替を見越してか、ウランメジャーのカメコ株も好調。本当にニヤツキが止まりません。本当に産油国様々です。

ついては産油国政府の皆様、高騰続く石油資源とそれで得た富を外部の脅威から守るため、信頼と実績で名高い米国産兵器の大規模受注をご検討されては如何でしょう。セキュリティーは常日頃からガッチリと固めることが肝要です。お財布に余裕があり、まだ大規模な紛争が発生していない今の内に決断されることを切に願っております。(´ヮ`)

2008年5月8日木曜日

第四十七段 とりとめなきこと

色々と珍しいことや心呆れることを見聞してきて幾星霜。今週もまた、如何なる因縁によるものか、心驚かされることが御座いました。

一つはWTIが1バレル =120USドルの壁をぶち破ったこと。十年一昔とは申しますが、1998年には1バレルが20USドルにも満たなかったことも、最早遥か遠い別世界の出来事と感じられます。おかげでシュルンベルジェの株価もここ最近は取得価額の1.2倍超で安定的に推移しております。自家用車は無いのでガソリン高騰もほぼ他人事。単純にこの先WTIがどこまで上昇するのかが楽しみで仕方がありません。

二つ目はミャンマーのサイクロン被害。既に周辺各国が援助・支援を開始 しているようですが、その中で強く興味を引かれたのがこの写真。支援物資を搭載した軍用機が到着した様子を撮影したものなのですが、写っている軍用機の国旗がタイ国旗。ご存知タイは立憲君主国、対するミャンマーは社会主義を掲げる軍事政権。イデオロギーだけ見れば決して友好的とは思えない両国。そし て歴史的にも近接するが故に諍いも耐えなかった両国の関係を考えると、よくミャンマー軍政側はタイ軍機の乗り入れを許可したものです(因みに人権問題で対 立する米国の支援申し出は拒否している)。それと、現時点(2008年5月7日)で管理人が目にした各国の支援内容ですが、シンガポールが20万USドル 相当の支援、インドネシアが10万USドル相当の支援、タイが現金と物資で45万USドル相当の支援、日本が28万USドル相当の支援、中国が100万USドル相当の支援となっております。やはりと言うかなんと言うか、中国の一桁多い援助額と先程のタイ軍機の写真を見ると、地政学的要地ミャンマーを巡る "災害外交"は既に始まっているのだなぁ、としみじみ思わされたことです。

三つ目が、世界最長の海上橋として1日に開通した中国の杭州湾跨海大橋(全長36km)が、安全対策が不十分なまま見切り発車的に開通したものであるということ。具体的にどんな点が不十分なのかは時事通信社HPを見て頂ければと思いますが、このニュースを目にした時、管理人は一瞬ですが『天空の城ラピュタ』の一場面を思い出してしまいました。そう、走ると同時に崩れる線路の上を装甲列車なんかの砲撃を受けながら激走するドーラ一家のあのシーンです。そう言えば、マリオシリーズにも同様に乗ると同時に落ちていくんでBダッシュ必須のトラップがありましたねぇ。

2008年5月4日日曜日

第四十六段 トルコの空爆と米・イラン関係

去る5月1日、2日にかけてトルコ軍がイラク北部を空爆しました。目的は反トルコ政府組織クルド労働者党(以下「PKK」と表記)の掃討とされています。

空爆結果について、5月3日、トルコ軍側は「PKKメンバー150人を無力化した」と発表し(要するに150人の殺害に成功したということですな)、一方のPKK側は「150人も殺されてなんかいない」とトルコ軍側の発表を否定しています。これだけなら、いつものことなので特に注意を惹かれたりはしないのですが、今回はPKK側が「PKK以外の反イラン政府クルド人組織に死者(6人)が出ている」由の発言をしている点が気になります。

ここでイラクとそこを取り巻く関係国をざっと見てみると、まずイラクでは中部に米国の支援するバグダッド政府(イスラム教シーア派主体)があり、北部はクルド自治政府の実質的な支配下(徐々にその支配権がバグダッド政府に浸食されているとの話も聞きますが・・・)、南部はバグダッド政府とシーア派反バグダッド政府組織の仁義なき争いが断続的に発生しています。周辺国を見るとまずイランは、同じシーア派の誼でバグダッド政府とシーア派反バグダッド組織の両方にパイプを持つ一方、イラク北部がクルド人独立運動の聖域と化すことへの懸念をトルコやシリアと共有しています。そしてトルコはクルド独立運動封じ込めの一環として(そして恐らくはイラク北部の油田地帯への影響力拡大も狙って)、イラク北部への軍事行動を度々行っています。これはアメリカの長年の同盟国(同時にイスラエルとも事実上の同盟関係)であり、NATO加盟国の中でもトップレベルの兵力を有するトルコだからこそ可能なことで、同じことをイランやシリアがやると、第三次世界大戦に引火しかねません。

このような状況下で5月1日、2日に実施されたトルコ軍のイラク北部空爆ですが、諸勢力が入り乱れる地上と違い、イラク上空は100%米国の制圧下にあります。当然今回のトルコ軍空爆についても、米国は様々なルートでそのことを事前に知っていたと思われます。ここで過去に行われたトルコの対PKK軍事行動を思い出すと、昨年12月の軍事行動では、トルコ軍参謀総長が米軍からPKKに関する情報提供を受けた旨を言明しています。今年2月下旬に行われた軍事行動では米国はPKKを「トルコと米国にとって共通の敵」と表明しています。従って、今回の軍事行動でも米国からトルコに対して情報面での協力がなされた可能性は高く、「米国が協力したトルコの軍事行動で反イラン政府組織のメンバーが死亡した」という構図が描けるかと思います。

この構図が正しいとすると、米国とイランの間で何らかのディールが成立した可能性があります。ではイランが反政府組織の敵側に回ってくれた米国に与える見返りとは何でしょうか? 現時点で考え付くのは核問題に於けるイランの譲歩、イラクやアフガンの治安状況改善に向けた協力、ハマスやヒズボラへの支援凍結といった所。はてさて、イランはどう動くのか・・・?

<元ネタリンク>
2008.05.04 ロイター