2008年5月4日日曜日

第四十六段 トルコの空爆と米・イラン関係

去る5月1日、2日にかけてトルコ軍がイラク北部を空爆しました。目的は反トルコ政府組織クルド労働者党(以下「PKK」と表記)の掃討とされています。

空爆結果について、5月3日、トルコ軍側は「PKKメンバー150人を無力化した」と発表し(要するに150人の殺害に成功したということですな)、一方のPKK側は「150人も殺されてなんかいない」とトルコ軍側の発表を否定しています。これだけなら、いつものことなので特に注意を惹かれたりはしないのですが、今回はPKK側が「PKK以外の反イラン政府クルド人組織に死者(6人)が出ている」由の発言をしている点が気になります。

ここでイラクとそこを取り巻く関係国をざっと見てみると、まずイラクでは中部に米国の支援するバグダッド政府(イスラム教シーア派主体)があり、北部はクルド自治政府の実質的な支配下(徐々にその支配権がバグダッド政府に浸食されているとの話も聞きますが・・・)、南部はバグダッド政府とシーア派反バグダッド政府組織の仁義なき争いが断続的に発生しています。周辺国を見るとまずイランは、同じシーア派の誼でバグダッド政府とシーア派反バグダッド組織の両方にパイプを持つ一方、イラク北部がクルド人独立運動の聖域と化すことへの懸念をトルコやシリアと共有しています。そしてトルコはクルド独立運動封じ込めの一環として(そして恐らくはイラク北部の油田地帯への影響力拡大も狙って)、イラク北部への軍事行動を度々行っています。これはアメリカの長年の同盟国(同時にイスラエルとも事実上の同盟関係)であり、NATO加盟国の中でもトップレベルの兵力を有するトルコだからこそ可能なことで、同じことをイランやシリアがやると、第三次世界大戦に引火しかねません。

このような状況下で5月1日、2日に実施されたトルコ軍のイラク北部空爆ですが、諸勢力が入り乱れる地上と違い、イラク上空は100%米国の制圧下にあります。当然今回のトルコ軍空爆についても、米国は様々なルートでそのことを事前に知っていたと思われます。ここで過去に行われたトルコの対PKK軍事行動を思い出すと、昨年12月の軍事行動では、トルコ軍参謀総長が米軍からPKKに関する情報提供を受けた旨を言明しています。今年2月下旬に行われた軍事行動では米国はPKKを「トルコと米国にとって共通の敵」と表明しています。従って、今回の軍事行動でも米国からトルコに対して情報面での協力がなされた可能性は高く、「米国が協力したトルコの軍事行動で反イラン政府組織のメンバーが死亡した」という構図が描けるかと思います。

この構図が正しいとすると、米国とイランの間で何らかのディールが成立した可能性があります。ではイランが反政府組織の敵側に回ってくれた米国に与える見返りとは何でしょうか? 現時点で考え付くのは核問題に於けるイランの譲歩、イラクやアフガンの治安状況改善に向けた協力、ハマスやヒズボラへの支援凍結といった所。はてさて、イランはどう動くのか・・・?

<元ネタリンク>
2008.05.04 ロイター