2008年7月17日木曜日

第八十八段 ジンバブエ天中殺

「民主主義とは、投票者ではなく集計者が権力を握る制度である」と言ったのは誰であっただろうか?
「権力は銃口から生まれる」と言ったのは誰であったろうか?

アフリカ南部のジンバブエと云う国の最近の有り様を見ていると、上記の言葉がこれほど見事に当てはまる国もなかなかあるまいという気にさせられる。
この国の最高権力者であるロバート・ムガベ大統領は、3月の大統領選で野党候補に負けると、「野党候補の得票が過半数に達していない」として6月27日に決選投票を行うこととした。そして軍や警察、民兵組織といった実力機関を使って野党勢力やその支持者への弾圧を開始し、その結果、6週間の選挙期間中に野党関係者に80人~500人の死者が発生したとされる。結局、野党候補は決選投票表からの撤退に追い込まれ、ムガベ政権続投が確定した。

それでも、鄧小平以来の中国共産党や韓国の軍事政権等に代表される開発独裁型政権のように、国家経済の近代化や国民生活水準の向上に多大な貢献があればまだ救いはあるのだが、ムガベ政権下のジンバブエ経済は極度のインフレ状態に追い込まれている。
(本日のロイターが伝える所では、物価上昇率が前年比220万%に達したとか・・・)

そもそも、ジンバブエと云う国は、鉄鉱石や石炭、クロム鉱といった各種鉱物資源に恵まれたこと、そして効率的な大規模農業を背景としてアフリカの中では比較的豊かで安定した経済状況にあった。しかし、ムガベ政権が2000年に白人農場主の土地を強制収用する決定を下したことにより、経営ノウハウを有した白人農家層が壊滅状態に置かれ、輸出に回せるほどだった農業生産も激減。そこに旱魃が重なったことで飢饉とインフレに火が着き、今日の有り様となっている。この状況下で高まった国民的不満が、3月大統領選における野党候補勝利に繋がるわけだが、それをムガベ大統領は集計結果の操作と暴力の行使によって(先達の言葉を忠実になぞることによって)無かったことにしてしまった。

あまりと言えばあまりなムガベ政権の振る舞いに、欧米は勿論、周辺国からも非難の声が上がった(たとえ控え目ではあったとしても)。しかし、ジンバブエ国民にとって憂鬱なことに、国際社会には言葉や文字によるムガベ政権非難以上のものは期待できないだろう。
国連では既に幾つかのムガベ政権に対する制裁案が中国とロシアに阻まれている。もともと中国は地下資源権益欲しさ、欧米の対ジンバブエ批判・制裁が自国に対する前例となることへの恐怖等から、ムガベ政権に同情的な立場をとってきた。
それに加え、去る7月14日、欧米主体の国際刑事裁判所が、資源権益で中国と強い繋がりを有するバーシル・スーダン大統領に対し、ダルフール紛争に関する人道上の罪で逮捕・訴追する意向を示した。中国から見れば自国のアフリカ資源権益を欧米が潰そうとしている構図となるわけで、アフリカの問題について欧米が常任理事国中国の協力を得ることは一層困難になったと言わざるを得ない。

仮に欧米が独自に制裁に乗り出したとしても、経済制裁では単にジンバブエにおける中国の勢力拡大を後押しする結果にしかならないだろう。軍事的な制裁にしても、欧州や周辺国にはその能力自体がない。唯一能力を有する米国は、イラクとアフガニスタンでイッパイイッパイの状況でジンバブエに手を回す余裕はない。

どうやら、ジンバブエ国民に残された一縷の希望は、ムガベ大統領の寿命が尽きることしかないようだ(それが政治的な意味でか生物的な意味でか、或いはその両方かは別として)。