2008年7月20日日曜日

第九十段 イラン核問題雑考

イランの核開発を巡る動きが慌ただしくなっている。世に流れている大半の関連情報は「絶対にイラン核兵器保有を認めない米国VS何が何でも核兵器保有を実現したいイラン」といったニュアンスで色付けされている。この色付けについて天邪鬼的な視点から少し考えてみたい。

そもそも、米国は絶対にイランの核兵器保有を認めないのか? 管理人はそうは考えない。核兵器保有を認めることへの見返り、そしてイスラエルの安全を保証するスキームさえ用意できれば、米国は寧ろ十分にイランの核を認め得ると考える。

過去(特に冷戦崩壊後)の核兵器拡散状況を見ると、パキスタンとインドの前例がある。1990年代後半の両国の核実験は米国の反発を喰らい、両国には米国主導の各種制裁が実行された。しかし、2008年現在を見るとそのインドやパキスタンに対する制裁はほぼ完全に無効化され、印パ両国の核兵器保有は既成事実として定着している。何故か? それは印パ両国が米国に相応の戦略的利益を提供した(或いは提供できることが見込める)からである。

パキスタンが米国に提供した(或いはできる)利益
1.同国のカーン博士を結節点とした北朝鮮と中東諸国を繋ぐ核コネクションの情報提供。
2.対テロ戦争に対する情報や基地の提供といった各種協力。
3.イランへの牽制役。
等々・・・

インドが米国に提供した(或いはできる)利益
1.対テロ戦争への協力。
2.莫大な人口を抱える自国市場の開放。
3.台頭する中国への牽制役。
4.3とも関連するが、中露を中心とした地域機構「上海協力機構(SCO)」への参加による
  トロイの木馬的役割(因みに現在はオブザーバー資格で参加中)。
等々・・・

従って、もしイランが対テロ戦争やイラク、アフガニスタンの治安安定化その他様々な事柄で米国に相応の利益を提供した場合(或いはできる見込みを具体的に示せば)、意外に米国はスンナリとイランの核兵器保有を認めると考えられる。
その際の問題点として「如何にイスラエルの安全保障を確保するか」が浮上してくるが、これについては以下の方策が考えられる。

1.イスラエルのNATO加盟
既にイスラエルは「地中海の対話国家」という位置付けでNATOとの共同軍事演習や治安維持協力等を進めている。また、意外かもしれないが、NATOの加盟条件に地理的な限定(例えば加盟国は欧州に限る等)はない。あるのは言論の自由や多党制が保障された民主国家か? 周辺諸国との間に紛争を抱えていないか? といった点。民主国家という点では既にイスラエルはクリアしている。周辺諸国との紛争についてもエジプトとは平和条約を締結しており、残るパレスチナ、レバノン、シリアについても一枚岩的にイスラエルとの対話拒否・対決姿勢を示している所は現状ない。従って難易度は高いが周辺国との間で何らかの和平合意が成立する可能性はある。その意味ではパレスチナ強硬派のハマスやレバノン各勢力に強い影響力を有するシリアの動きは要注目である。

2.核を以て核を制す
仮にイランが核兵器を保有することになった場合、他の要素に変化がなければ、中東のパワーバランスはイラン優位に動く。それを中和するために、米国はイスラエルと長年協力・友好関係を維持してきた(と同時に親米国でもあった)トルコ、エジプトに核兵器保有を認め、イランの核兵器保有のインパクトを薄めようとする可能性がある。特にトルコが核兵器を保有すれば、南方に位置するシリアへの圧力効果も期待できよう。ただし、両国とも近年イスラム教の価値観を強調する勢力の力が強まっている。これらの勢力は往々にして反米的姿勢(穏当に言えば米国と距離を取ろうとする姿勢)を採っていることもあり、この策を実行した場合、両国の政治状況如何によっては、結果的にイスラエルや米国の脅威を一層強めかねない怖さはある。

因みに、「米国とイランの緊張が武力衝突に繋がるか」について世界の耳目が集まっているが、米国株式市場における防衛セクターの値動きを見ると、どうやら市場は「ポスト・ブッシュ政権での財政再建 → 防衛費も削減される → 防衛企業の売上・利益減少」というシナリオを描いているようである。当然イランとの戦争が始まれば防衛費削減なんぞあり得ない話なので、米国株式市場としては「米・イラン武力衝突は無いだろう(少なくとも当面は)」と判断していると考えられる。従って、現時点での米国とイランの武力衝突発生の可能性は、巷間囁かれているよりは可能性が低いのではないかと管理人は考えている。