2008年8月31日日曜日

第百九段 ここに葉月果て、長月始まる

8月31日、本日の日中は実に清々しき晴天。喜々として洗濯を行う。洗った衣服を干そうとベランダに出てみれば、時折吹く風は乾いた涼しさを帯び、空には大鯉のまさに潜らんとする様を連想させる鱗雲の一群。季節が移り変わらんとしていることを実感する。

ネットでニュースサイトをチェックすれば、明日からのイスラム圏のラマダン入りが報じられている。(日経ネットGulfnews等)。ラマダンは、預言者ムハンマドのメッカからメディナへの聖遷の苦難を偲んで、日の出から日の没するまで断食行が行われる、イスラム教徒にとって重要な月。従って米国やイスラエルのイラン核施設攻撃があるとしても、この月が明けるまでは実行されないと点額法師は睨んでいる(もし実行した場合、米国やイスラエルは完全にイスラム圏の人々を敵に回すことになる)。

9月1日は、同時に米国共和党大会の開催日でもある。実際に開催されるかはハリケーン「グスタフ」の動向に左右されるが、これで共和党、民主党共に正副大統領候補が正式に確定し、覇権国アメリカの次期政権を巡る熱戦が正式に幕を開けることになる。最初の山場である9月26日の大統領候補者討論会はどうなることやら・・・?

そして控える9月11日は。言わずと知れた「911」の日。この恐るべきテロから早7年の時がたとうとしている。このテロが突き付けた「自由と安全の均衡点の所在」、非国家主体でも各種テクノロジーの利用・アクセスが容易になったことによる「ハルマゲドンの民主化」といった問題への回答について、世界はまだ試行錯誤を繰り返している。

金融経済に的を絞れば、9月4日、18日にECB理事会、9月9日にOPEC定例総会、9月16日にFOMC、9月17日にGCC財務相会議がそれぞれ予定されている。特にGCC財務相会議では、オーマーン以外の5カ国による通貨統合準備組織設立が予定されているとのこと。これに関連して米ドルとの関係について要人発言があれば、為替の波乱要因となるだろう。OPEC定例総会では恐らく産油量の現状据え置きか減産が確認されて終わると思われる。

何はともあれ、猛暑と雷雨の8月は今日で終わり。明日から始まる9月には、爽快な涼風とスパァーッと突き抜けるようなクリスタルブルーの空を期待したい所。

2008年8月29日金曜日

第百七段 旧ソ連圏に鹿を逐う

南オセチア・グルジアにおけるロシアの武力行使以来、対露批判を強めるグルジアとウクライナ。そしてそれに呼応する形の、グルジア支援を目的とした黒海への米国艦艇派遣、EUやNATOのウクライナ取込強化。旧ソ連圏の勢力分布を巡る欧米とロシアの対立は確実に先鋭化しつつある。

軍事衝突の結果、グルジアが本土と親露派の南オセチア、アブハジアに分割された今、次の焦点はウクライナに移ってくるだろう。そのウクライナは、西部が親欧米派の地盤、東部と南部のクリミア半島が親露派・ロシア系住民の勢力範囲となっている。もしウクライナが完全に欧米の勢力圏になった場合、黒海におけるロシアの優越は消滅することになる。そうなると、ロシアはコーカサスは勿論、中東、東地中海域においても影響力を大きく減退させることになるだろう。高い経済力と豊富な原油資源に恵まれた中東への影響力やアクセスをロシアが諦める道理は無いから、ロシアのウクライナ引き留め工作もまた熾烈を極めることになるだろう。最悪、親欧米派の西部と親露派の東部との間で激しい衝突が発生し、そこにロシアが「ロシア系住民の保護」を旗印に武力介入を開始するシナリオも想定される(先般のグルジア・南オセチア紛争と同じ構図が場所を変えて繰り返されるわけだ)。

ウクライナでは、ロシア、中央アジアの天然ガスを欧州に送るためのパイプラインが東西を貫通する形で敷設されている。もし前述のようにウクライナが東西に分かれて争うような事態になれば、当然パイプラインの運営にも大きな影響が出ると予想される。その時、欧州は経済面を中心に大きなダメージを受けることが想定される。昨今の信用縮小の嵐で痛めつけられているEUにとっては、まさに悪夢としか言いようのない事態である。従ってロシア側としては「パイプライン途絶の恐怖」をうまく使って、当面の敵であるEUの切り崩しを計ってくるものと思われる。そして、EUの切り崩しに成功した所で、ウクライナの東西分割と東部親露派勢力支援のための軍事介入に踏み切るつもりではないか。

逆にEUが対露姿勢で一枚岩を貫くことができれば、ロシアもおいそれとウクライナに直接手を出すことはできないだろう。グルジアの戦火が黒海を超えてウクライナに波及するか否かは、ひとえにEUに懸っていると言えよう。

第百六段 御名は「グスタフ」とぞ申しける

ハリケーン「グスタフ」の進路を睨んで、産油・精油施設の閉鎖とそれに伴う原油価格の上昇が生じて御座います。何でもこのグスタフは、メキシコ湾を襲うハリケーンとしては悪名高き「カタリーナ」に勝るとも劣らない強さだとか(出典:ブルームバーグ)。

思えば、あのカタリーナやリタがメキシコ湾一帯を席捲した2005年。管理人は日米中の石油株(例:中国海洋石油、昭和シェル石油、エクソンモービル等)でがっちり甘い汁を吸わせて頂きました。今しみじみと脳裏に浮かぶ古き良き思い出に御座ます。現在の点額法師ポートフォリオでは、石油関連銘柄はペトロブラス(pbr:NYSE:ブラジル国営石油会社)とカメコ(ccj:NYSE:石油の代替エネルギーとして注目されるウランの生産世界最大手)しかないため、グスタフの直接の恩恵はカタリーナやリタの時よりも極めて限定的なものになる見込みですが、それでもハリケーンのメキシコ湾襲来は個人的にはポジティブなニュース。それに、米国中西部産穀物の集積地たるニューオリンズまで累が及べば、モンサント(mon:NYSE:GM作物種子大手メーカー)やポタッシュ(pot:NYSE:カリウム肥料生産世界最大手)の株価的にも悪くない話ではあります。

同じ名前を持つスウェーデン王グスタフ・アドルフが、その高機動戦術で武名を17世紀欧州に轟かせたのと同様に、今回のハリケーンも一気呵成にメキシコ湾の産油・精油施設を衝いてくるのか? それとも、名前とは裏腹にどこぞの有象無象の一帯でぐずぐずと停滞して弱体化の道を歩むのか? 要注目ですな。 ( ̄w ̄)

閑話休題。
石油で思い出しましたが、昨日、UAE中銀総裁が「原油価格は60~80ドルまで下落の可能性がある」と発言したとか(出典:ロイター)。要するに「だから今後の増産はありません。ひょっとすると減産の可能性もあるんでよろしく」ということなのでしょうが、グルジア、ウクライナ、東欧を前線とした欧米とロシアの対立激化、進展の兆しが見えないイラン核問題、核保有国パキスタンの政情不安懸念といった地政学リスク。上述のようなハリケーンのメキシコ湾襲来といった突発イベントの発生。北半球の冬季入りを睨んだ灯油・ヒーティングオイルの需要増加。これらの諸事象に加えてこのUAE中銀総裁の発言。WTIはもう少し底堅い展開が続きそうです。

となると、BRICsの中でもエネルギー資源の自給率に難のあるインドにはやや辛い展開? そして中国は埋蔵量豊富な石炭に一層頼ることになるんでしょうか? もしそうなれば、当然石炭価格も強含むことになるので、BHPビリトンといった石炭権益を有する企業には善き展開(我がヴァーレはあまり石炭権益を有していないので少し残念)。一方、製鉄業は石炭を原料とするコークス価格の値上がりに繋がるので、こちらにはよろしくない話となりそうです。

2008年8月25日月曜日

第百五段 教師の生徒より借金する者あり

末法汚辱のあさましき世で日々を過ごしていると、驚き呆れるしかない出来事を耳にすることも多くなろうというもの。今回取り上げるのはそんな話。
教師、女子生徒から三十万円借金のこと
勤務する学校の女子生徒から計30万円を借りるなどしたとして、静岡県教育委員会は25日、県東部の県立高校男性教諭(33)を減給10分の1(1カ月) の懲戒処分とした。教諭は、家庭の事情で一時的な借金があり、「貸してくれると言うので甘えてしまった」と反省しているという。
県教委によると、教諭は4月から5月にかけて、昨年8月から委員会活動で指導していた女子生徒から、4万円を1回と13万円を2回、計30万円を借りた。(2008/08/25-20:56)
出典:時事通信
まぁ、あれだ。人生色んなことがある。時には天運に恵まれず、借金を背負ってしまうこともあるだろう。
家庭の事情だってみんながみんな順風満帆とはいかないさ。

でも、そんなヘヴィー極まりない相談を同僚や上司ではなく、銀行や消費者金融でもなく、ましてや闇金ですらなく、高校生にしてる時点で、「それは新手のコントですか?」と問わざるを得ない。(w ̄;)
しかも「貸してくれると言うので甘えてしまった」って教師、女子高生、共にツッコミ所多過ぎ!
もっと言えば、借金を相談されてそれに応えるって、二人はどんな仲なんだよ!∑(△ ̄;)
(因みに、点額法師なら借金を求められた時点で、万人に対して「お帰り下さい」か「あ~あ~何も聞こえない。何も聞こえないや」の一点張りですな)

それに、その女子高生は4月~5月の間に貸出資金(合計30万円)を何処から調達したんだ?
そもそも、公務員30代が自らの蓄えの中から30万円も調達できないってどんな金銭感覚で日々を送ってきたのか、激しく疑問を感じる。(´д`;)

もう一点気になるのが、普通借金が行われた場合、貸した側は借りた側に何らかの要求を突きつけるもの(一般的なのが利子の支払。良心的か否かは別として)。今回教師に30万円の貸し付けを行った女子生徒は見返りに何を得たのやら・・・・?

何はともあれ、「みっともない」という言葉がこれほど似合う事件もなく、強く印象に残ったので、ここで取り上げるものである。

でも公務員30代が高校生から借金って・・・・ぷッ

第百四段 米国大統領選本選を前にして

去りし8月23日、米国大統領選における実質的な民主党候補となったオバマ氏が、副大統領候補として外交通として知られる民主党重鎮バイデン氏を指名した。副大統領候補指名で共和党候補マケイン氏に一歩先んじる形である。そして、この後に控える8月25日民主党大会(於コロラド州デンバー)、9月1日共和党大会(於ミネソタ州セントポール)で両党の正副大統領候補が正式に確定し、10月中の両党正副大統領候補による討論会を経て、11月4日の大統領選一般投票で次期米国大統領が誕生することになる。

現状、オバマ氏とマケイン氏の支持率争いは、僅差ながらもややオバマ氏優位で推移している。日本や諸外国のメディアの報道には「もうオバマ氏で決まりでしょう」という雰囲気が漂っているが、それはやや拙速に過ぎる見方のように点額法師には感じられる。

そもそも、前述したように現状ではオバマ氏とマケイン氏の支持率はかなり拮抗している(マスコミが言う所のオバマ旋風なるものが吹き荒れた割に)。それに今回の大統領選自体、下馬評を覆し続けて今に至っていることを忘れるべきではないだろう。

当初、ポスト・ブッシュが囁かれだした頃は「民主党はヒラリー候補共和党はジュリアーニ候補で本選が戦われることになるだろう」という見方が専らだった。しかし実際は、予備選の嚆矢となったアイオワ州で民主党はオバマ候補、共和党はハッカビー候補がそれぞれ勝利を手にした。その後、民主党ではヒラリーVSオバマの熾烈な戦いが繰り広げられた末、初戦勝利の勢いを維持することに成功したオバマ氏が勝利した。共和党では、本命視されていたジュリアーニ候補は団栗の背比べ状態の中から一貫して抜け出せず、寧ろ資金や支持率の面から早期撤退の観測すら出ていたマケイン候補と彼の中道的姿勢に飽き足らない共和党支持層の取り込みに成功したハッカビー候補との一騎打ちに事態は集約していき、最終的にマケイン候補が予備選を制することになった。各候補の支持者やその団体を別にすれば、このような事態の経過を正しく予測できた人や組織を点額法師は寡聞にして知らない。

本選もまた、予備選以上に予想外のことが起きるだろう(そもそもオバマ氏やマケイン氏は党内主流派とは言えない立場に身を置いてきたため、各党の伝統的な支持層(例:民主党における白人労働者層共和党における宗教保守派)への浸透が今一つという弱点を互いに抱えている)。

良くも悪くも唯一の覇権国である米国。その次期大統領が誰になるか(もっと言えばどんな考え方を持った政策集団がホワイトハウス入りするか)は、世界に大きな影響を与える(少なくとも日本にとっては衆院選や参院選とかいうマイナー選挙よりも影響が大きい)。予断や先入観に惑わされず、今後も注目していきたい。

因みに、点額法師個人の現時点の予想では、マケイン候補が本選を制するのではないかと考えている。何故かというと、副大統領候補の政治的カラーにもよるだろうが、宗教保守派は結局「オバマよりはマケインの方がマシだ」と考えて投票行動に移ると考えられること。そして民主党支持層の中でヒラリーを支持した人々が「年齢的にも(本人の意思の面でも)一期で終わるであろうマケイン政権が誕生した方が、大きな失政がない限り二期目も狙ってくるオバマ政権が誕生するよりもヒラリー・クリントンに有利だ」と考えて投票行動をとると考えているからだ(もっとも、この予想は10月の討論会如何で大きく変更するかもしれないので、あしからず)。

2008年8月18日月曜日

第百二段 南オセチアの埋み火

ロシアとグルジアの軍事対決まで至った南オセチア紛争で、和平の調印が行われた。グルジアに対して圧倒的な軍事的アドバンテージを確保しながら、結局グルジア・サアカシュヴィリ政権転覆まで踏み切らなかった(踏み切れなかった)ロシアは、明らかに将来への禍根を残したと言えるだろう。その上、ロシアは幾つかの代償も払うことになった。まずグルジアではサアカシュヴィリ政権が生き残った上、反露ナショナリズムの高まりによって同政権の求心力も高まってしまった。国際世論の面では、西側マスメディアの報道によって「そもそも今回の紛争の引き金を引いたのはグルジアである」という事実は忘却の闇に押し込められ、寧ろ「小国グルジアを横暴な大国ロシアが踏みにじろうとしている」という構図が広範に流布されてしまった。そしてこの巷間に広められたイメージに乗る形で、西側諸国は様々な名目をつけてグルジアへの支援を強化している(日本でもロシア人スパイ容疑者への書類送検が報じられたり(8月13日:時事通信)、グルジアへの「人道支援」が表明されたのも(8月15日:日本外務省)、同じ流れの上の出来事と見ていいだろう)。

それにしても、今回の紛争におけるロシアの行動は稚拙だったと言わざるを得ない。前述したように、そもそも今回の紛争はグルジアが南オセチア州に対して武力行使を行ったことが直接の原因である。ならば、ロシアは南オセチア州に対して極力目立たないように支援を行う一方、「グルジア軍の攻撃によって家を追われる難民」、「グルジア軍の蛮行の跡」といった西側世論を扇動し易い情報・映像を流布し、「グルジア=悪人集団」というイメージを西側世論の間で固めさせ、西側諸国をロシアの対グルジア作戦を認めざるを得ない(少なくとも黙認せざるを得ない)立場に追い込んでから正規軍を大規模に投入するべきだったのだろう。

しかし、現実では悪役はロシアに割り振られ、グルジアには可哀想な被害者の役が割り振られることになってしまった。何やら、ボスニア紛争で広報戦略に失敗したセルビア勢力が「民族浄化に血道をあげる極悪人集団」として国際世論の一方的・集中的な非難と空爆を受けるに至った過ちを、(地域こそ違えど)同じスラブ系民族のロシアが再現しているように見えて仕方がない(因みにボスニア紛争において各勢力が展開した広報戦略とその情け容赦ない帰結を活写した書物として、『戦争広告代理店』(講談社 初版2002年6月 高木徹著 文庫版もあり)が挙げられる)。

現状、ロシアは和平案を受け入れてしまった以上、グルジアには迂闊に手を出せず、下手な行動に出れば「和平をぶち壊したのはロシアだ」ということになって一層の孤立化を招きかねない。戦闘ではグルジアを追い詰めながら、結局その優位を生かしきれないまま、痛し痒しの状況に追い込まれたロシアでは、今後以下のような事態の発生が考えられる。
・欧米の圧力に屈する形でグルジアとの和平に調印した政権に対する、
 ロシア国内の対外強硬派からの攻撃激化。
 (その意味では、プーチン首相がグルジアや欧米に対する強硬姿勢を鮮明にする一方、
  メドベージェフ大統領が和平案受入れ等の対外宥和的な態度を取った(取らされた?)
  ことは、プーチン首相の政治的影響力維持という面からすれば、非常に都合のよい役割
  分担だったと言えるだろう)
・メドベージェフ政権が「外圧に屈した弱腰政権」という国内反政権派からのレッテル貼りを
 防ぐため、対西側外交をより攻撃的・非協力的な方向にシフトする。
 (これが実現した場合、東欧へのMD配備やイラン核問題にも大きな影響が及ぶだろう)
・「祖国ロシア受難の時こそ、強い指導者が必要だ」というプーチン首相の大統領職再登板
 を求める声の高まり。

また、南オセチア紛争が極東アジアに与える影響としては、中国にとってはロシアが西側諸国からの非難の矢面に立ってくれたことで、自国の問題に対する西側の非難を有耶無耶にできること、そして対西側外交でロシアの協力を得易くなったこと、以上の点でプラスになると思われる。逆に西側に属する日本にとっては、エネルギー資源問題や領土問題におけるロシアの姿勢硬化、ロシアが欧米離れの反動で中国との関係を一層強化することで、西北の安全を強化した中国がより活発に東シナ海域一帯への進出を加速させる可能性を高めるといった点でマイナスの影響が及ぶと思われる。

2008年8月11日月曜日

第百段 南オセチア紛争第2ラウンド開始

オリンピック開催国中国の面子なぞどこ吹く風で始まった、グルジアVSロシアの南オセチア紛争。第一ラウンドは、南オセチアの主要地域からのグルジア軍駆逐に成功したロシアの完勝と見ていいだろう。

しかし、「戦争とは血を流す政治である」と古の賢人が述べたように、戦争とは戦場での勝敗を以って終わるものではない。寧ろ戦場で得た結果を戦後秩序に結びつけるための政治フェイズ(相手国との交渉や内外世論への働きかけ等)こそ、戦争という行為の要である。端的に言えば、戦争とはポーカーゲームに似ている。戦場の勝敗は最初に配られた手札である。勝った側にはフルハウスやストレートといった好手があり、負けた側はワンペアやブタ。ただし、強国の支援や国際機関の介入といったカードチェンジのチャンスが無いわけではないし、例え悪手であっても心理戦で相手を疑心暗鬼に追い込めば十分に勝つことは可能。実際、歴史は戦場で勝利しながら(軍事的優位にありながら)政治フェイズで敗北し、勝利の果実を相手に握られてしまう皮肉を幾つも見せてくれる(例:ヴェトナム戦争、中国国共内戦)。従って、まだ戦場で勝利したロシアとて油断はできないし、戦場で苦杯を喫したグルジアに巻き返しのチャンスが無いわけでもない。

ここで当該紛争におけるロシアの勝利条件を想像するに、以下の事柄が完全に満たされた場合、ロシアがこの紛争で勝利したと言えるのではないか。
・反露的なサアカシュヴィリ・グルジア大統領の退陣。
・南オセチアの現状維持。
グルジアが当該紛争に一方的な停戦宣言を出したものの、ロシア側がこれを無視して対グルジア軍事行動を続けているのも、欧米の介入が本格化する前にグルジア現政権打倒まで一気に力で押し切ろうと考えてのものと思われる。
対するグルジアの勝利条件(というか、よりましな敗北条件)は以下のものが考えられる。
・サアカシュヴィリ現政権の維持。
・南オセチアからのロシア軍撤退。
・欧米からの永続的な支援についての合意獲得。
前述したようにグルジアが当該紛争について一方的な停戦宣言を出した(しかもクシュネル仏外相立ち合いで)のも、「負け戦の停戦に乗ってくれれば儲けもの、乗ってこなくても国際世論に「攻撃的なロシア」を印象付け、欧米の支援を得易くなる」という考えによるものと思われる。

現状ではグルジアとロシア、どちらに運命の女神が微笑むかは不明だが、仮にロシアが当該紛争で完勝した場合、以下の様な事態の発生が予想される。
1.旧ソ連圏諸国のロシア回帰が鮮明化する。
2.コーカサス・中央アジアの石油・天然ガスへのロシアの影響力が高まる。
3.一大エネルギー消費地EU圏へのロシアの影響力が強化される。
4.EU内の親露派(独仏といった「古い欧州」の対米自立派)と反露派(長年ロシアに支配
  されてきた東欧諸国、所謂「新しい欧州」)の対立激化。
5.NATOやEUの機能不全発生。
6.トルコの欧州志向に深刻なダメージが発生。
7.新たな地域秩序を模索することになったトルコとロシアやイランとの関係改善。
8.中東における欧米の影響力縮小。
このような事態の発生を防ぐために、欧米はグルジアを見捨てるわけにはいかないだろう(逆に欧米がグルジアを見捨てるということは、ロシアがユーラシアの管理人として振舞うことを認めたことになる)。

微妙な立ち位置なのが中国。ロシアは重要な外交上のパートナーなので今回の紛争で痛手を負って下手に弱体化されても困るが、一方で、今回の紛争がロシア完勝に終われば、帝政ロシア~ソ連時代に嫌というほど味わった西北からの脅威が復活しかねない。その上、グルジアが当該紛争で掲げる「国内の分離独立派制圧」という名分は、中国にとっても金科玉条の旗印。従って、ロシア側陣営として一方的なグルジア批判にも走り難い。従って、今回の一件について中国は沈黙を守るのがベターと言えそうだ。

また関連するニュースとして、BPが当該紛争がカスピ海、コーカサス地方における同社の操業には影響を与えていないと発表した。(出典:ブルームバーグ
エネルギー価格に世界の耳目が集まっている昨今、下手に民間石油設備を破壊した場合、一気に国際世論的な意味で悪役とされかねないため、今の所はグルジア・ロシア両国とも自重しているのだろう。ただし、今後紛争が長引くようなら、それぞれ相手国がやったかのように見せかけた石油設備への破壊活動を実施し、国際的な非難を相手国にぶつける戦術も俎上に上がってくるだろう。

2008年8月8日金曜日

第九十八段 南オセチア発火

今まで、コーカサスにおける帝政ロシア以来の各種権益・政治的影響力を維持・増進しようとしてきたロシアとNATO加盟や親欧米政策でロシアの頸木から脱しようとしてきたグルジア。鋭く対立してきた両国の関係が、遂に発火した。直接の契機は、今年8月8日(日本時間)のグルジアの南オセチア州侵攻である。(南オセチア州は、グルジアにおける親露派勢力の牙城としてグルジアからの分離独立を掲げ、平和維持を名目にしたロシア軍の駐留を受け入れることで、実質的にそれを達成していた)。

グルジアの南オセチア州侵攻を巡る動き(各マスコミの報じた順。日時は全て日本時間)
・8月8日(10:23 ロイター発):グルジア国防相、同国軍の南オセチア州都ツヒンバリ包囲を発表。
・8月8日(13:48 ロイター発):グルジア空軍の空爆をロシア・インタファクス通信が報じる。
・8月8日(17:20 時事発)  :国連安保理、親グルジア派の欧米と南オセチア州支持のロシアの対立で動けず。
・8月8日(17:30 時事発)  :グルジア大統領、総動員令の発令とロシア軍機によるグルジア領空爆を発表。
・8月8日(21:40 時事発)  :ロシア軍機に空爆されたグルジア軍基地には米軍顧問団が駐在している模様。
・8月8日(22:14 共同発)  :プーチン・ロシア首相、グルジアへの報復を表明。グルジア大統領、
                   戦車150両を含むロシア軍が南オセチアに展開したことを非難。

そしてグルジア周辺の勢力分布といえば、ますグルジアの友好国としてトルコとアゼルバイジャンが存在する。そしてトルコとアゼルバイジャンはカスピ海の資源やコーカサス地域の政治的影響力を巡ってロシアと(ある程度抑制されてはいるが)対立関係にある。一方で今回の紛争が長期化した場合、国内開発に与える悪影響が発生する可能性も高い(例:投資マネーの逃避や資源開発の遅滞等)。従って今回の紛争では、両国は主に外交面で、ロシアの面子を潰さない程度にグルジアが実利を得る形で事態が決着するように動くものと思われる。
続いてアルメニア。この国は歴史的・宗教的な背景からトルコ、アゼルバイジャンと激しく対立する一方、ロシアと強固な友好関係を築いてきた。従って今回の紛争ではロシア側に回るものと思われる。
続いてイラン。この国はロシアと、アルメニアと友好関係にある一方、核等を巡る欧米との仲介役としてトルコとの関係も深まっている。そして国内に多数のアゼルバイジャン人人口を抱え、彼らが多数エスタブリッシュメント層に進出しているという、非常に微妙な立場にある(因みに同国最高指導者のハメネイ師はアゼルバイジャン人の血も引いている)。地理的にやや離れた位置にあることもあり、今回の紛争で何か表立って動く可能性は低かろう。
最後に国家政府ではないが、トルコ東部のクルド人独立派の動きにも注意が必要と思われる。最近のトルコ・イラン関係の改善・強化によって、トルコ領内のクルド独立派は、アンカラとテヘランから東西挟撃される形となりつつある。クルド独立派は、これに対抗するために北方との連携強化、即ちアルメニア、ロシアとの共同戦線を構築する方向に動く可能性がある。トルコのエネルギーや地政学的な影響力の拡大を喜ばないアルメニア、ロシアにとってもこれは悪くない話である。そしてこのトルコ・イランの東西連携に対抗する形でクルド独立派・アルメニア・ロシアの南北枢軸が成立した場合、欧米や日本といった西側諸国が受ける影響としては、近日発生したトルコ東部でのパイプライン爆破を想像してもらうと最も分かり易いかと考えられる。

地図を見れば一目瞭然だが、コーカサス地方での大規模な騒乱は、そのまま世界経済のエネルギー庫である中東地域に波及しかねない怖さがある。さて、事態はどのような形で決着を見るのやら・・・?

2008年8月4日月曜日

第九十六段 革命とウォッカ、そしてイラク

ある国のある時代の小話。
スターリンが死後、あの世でニコライ2世に会った。
ニコライ2世曰く「なあ、ヨシフさんよ。ロシアは相変わらず強国かい?」
スターリン曰く「勿論だ」
ニコライ2世曰く「まだ軍隊は強力かい?」
スターリン曰く「当然だ」
ニコライ2世曰く「秘密警察は健在かい?」
スターリン曰く「無論。ルビヤンカはあんたのオフラナより強力だ」
ニコライ2世曰く「まだ政治犯はシベリヤ送りかい?」
スターリン曰く「それ以外に選択肢はない」
ニコライ2世「ロシア人はまだウォッカを飲んでいるかい?」
スターリン曰く「昔と何も変わらない」
ニコライ2世曰く「ウォッカのアルコール度数は40%のままかい?」
スターリン曰く「いや、ソ連になってからは42%だ」
ニコライ2世曰く「・・・なあ、ヨシフさん。たった2%のためにあんな大革命を起こしたのかい?」

最近のイラクを巡る動きを見ていると、不意にこんな小話が脳裏をかすめました。

まず、サダム政権下で与党(というか実質的な政府機関)であったバース党の元職員達の職場復帰が進行しているとのこと(詳細は『中東TODAY』No1097参照)。民族・宗教のモザイクに莫大な石油利権が絡みついたイラクで安定した統治を実現するには、何よりも経験ある実務者が必要なことはよく理解できます。ただ、わざわざバース党政権を破壊して結局そこの職員に頼ることになるぐらいならば、最初から湾岸戦争以来のイラク・イラン二重封じ込め政策を継続し、サダム・フセイン政権の2代、3代後に穏健な国際協調的政権ができるのを待っていた方がよっぽどマシだったような気がします(その意味では、蒋経国・李登輝政権が成立するまでアメリカン・デモクラシーの洗礼(「空爆」とも言う)を受けなかった台湾は幸運でしたな)。

次に、トルコとイランのPKK掃討での協力(出典:日経ネット)や核問題協議を名目とした両国の各種接触を見ると、「イラク北部はトルコの勢力圏、南部はイランの勢力圏、クッション役が中部のバグダッド政権」という構図がおぼろ気ながら浮かんできた様に思えます。・・・確か米国(あと、目立ちませんが西側欧州諸国やソ連)は、イラク南部の油田地帯がイランの勢力下に入ることを嫌い、イラン・イラク戦争でイラクのフセイン政権に梃入れしていた筈。そこまでして実現を阻みたかった事態を20年越しで(しかも主要メンバーは当時と殆ど変わらず)自ら実現しつつあるのが米国の悲劇と言えば悲劇(傍から見れば喜劇)。

因みに、イラクという地域がトルコ勢力圏とイラン勢力圏に分割(程度は兎も角)されるのは、オスマン帝国とサファヴィー朝以来の伝統的構図。極東アジアにおける朝鮮半島への中国の影響力拡大と言い、古い時代の地政学があちこちで復活してきてますなぁ。( ̄w ̄)

「歴史は繰り返す」とは言い古された表現ですが、それでもロシアは革命によってウォッカのアルコール度数に2%の進歩がありました。禁酒を掲げる(少なくとも建前上は)回教の国イラクではレジーム・チェンジでどんな進歩があるんでしょうか?