2008年8月11日月曜日

第百段 南オセチア紛争第2ラウンド開始

オリンピック開催国中国の面子なぞどこ吹く風で始まった、グルジアVSロシアの南オセチア紛争。第一ラウンドは、南オセチアの主要地域からのグルジア軍駆逐に成功したロシアの完勝と見ていいだろう。

しかし、「戦争とは血を流す政治である」と古の賢人が述べたように、戦争とは戦場での勝敗を以って終わるものではない。寧ろ戦場で得た結果を戦後秩序に結びつけるための政治フェイズ(相手国との交渉や内外世論への働きかけ等)こそ、戦争という行為の要である。端的に言えば、戦争とはポーカーゲームに似ている。戦場の勝敗は最初に配られた手札である。勝った側にはフルハウスやストレートといった好手があり、負けた側はワンペアやブタ。ただし、強国の支援や国際機関の介入といったカードチェンジのチャンスが無いわけではないし、例え悪手であっても心理戦で相手を疑心暗鬼に追い込めば十分に勝つことは可能。実際、歴史は戦場で勝利しながら(軍事的優位にありながら)政治フェイズで敗北し、勝利の果実を相手に握られてしまう皮肉を幾つも見せてくれる(例:ヴェトナム戦争、中国国共内戦)。従って、まだ戦場で勝利したロシアとて油断はできないし、戦場で苦杯を喫したグルジアに巻き返しのチャンスが無いわけでもない。

ここで当該紛争におけるロシアの勝利条件を想像するに、以下の事柄が完全に満たされた場合、ロシアがこの紛争で勝利したと言えるのではないか。
・反露的なサアカシュヴィリ・グルジア大統領の退陣。
・南オセチアの現状維持。
グルジアが当該紛争に一方的な停戦宣言を出したものの、ロシア側がこれを無視して対グルジア軍事行動を続けているのも、欧米の介入が本格化する前にグルジア現政権打倒まで一気に力で押し切ろうと考えてのものと思われる。
対するグルジアの勝利条件(というか、よりましな敗北条件)は以下のものが考えられる。
・サアカシュヴィリ現政権の維持。
・南オセチアからのロシア軍撤退。
・欧米からの永続的な支援についての合意獲得。
前述したようにグルジアが当該紛争について一方的な停戦宣言を出した(しかもクシュネル仏外相立ち合いで)のも、「負け戦の停戦に乗ってくれれば儲けもの、乗ってこなくても国際世論に「攻撃的なロシア」を印象付け、欧米の支援を得易くなる」という考えによるものと思われる。

現状ではグルジアとロシア、どちらに運命の女神が微笑むかは不明だが、仮にロシアが当該紛争で完勝した場合、以下の様な事態の発生が予想される。
1.旧ソ連圏諸国のロシア回帰が鮮明化する。
2.コーカサス・中央アジアの石油・天然ガスへのロシアの影響力が高まる。
3.一大エネルギー消費地EU圏へのロシアの影響力が強化される。
4.EU内の親露派(独仏といった「古い欧州」の対米自立派)と反露派(長年ロシアに支配
  されてきた東欧諸国、所謂「新しい欧州」)の対立激化。
5.NATOやEUの機能不全発生。
6.トルコの欧州志向に深刻なダメージが発生。
7.新たな地域秩序を模索することになったトルコとロシアやイランとの関係改善。
8.中東における欧米の影響力縮小。
このような事態の発生を防ぐために、欧米はグルジアを見捨てるわけにはいかないだろう(逆に欧米がグルジアを見捨てるということは、ロシアがユーラシアの管理人として振舞うことを認めたことになる)。

微妙な立ち位置なのが中国。ロシアは重要な外交上のパートナーなので今回の紛争で痛手を負って下手に弱体化されても困るが、一方で、今回の紛争がロシア完勝に終われば、帝政ロシア~ソ連時代に嫌というほど味わった西北からの脅威が復活しかねない。その上、グルジアが当該紛争で掲げる「国内の分離独立派制圧」という名分は、中国にとっても金科玉条の旗印。従って、ロシア側陣営として一方的なグルジア批判にも走り難い。従って、今回の一件について中国は沈黙を守るのがベターと言えそうだ。

また関連するニュースとして、BPが当該紛争がカスピ海、コーカサス地方における同社の操業には影響を与えていないと発表した。(出典:ブルームバーグ
エネルギー価格に世界の耳目が集まっている昨今、下手に民間石油設備を破壊した場合、一気に国際世論的な意味で悪役とされかねないため、今の所はグルジア・ロシア両国とも自重しているのだろう。ただし、今後紛争が長引くようなら、それぞれ相手国がやったかのように見せかけた石油設備への破壊活動を実施し、国際的な非難を相手国にぶつける戦術も俎上に上がってくるだろう。