2008年8月8日金曜日

第九十八段 南オセチア発火

今まで、コーカサスにおける帝政ロシア以来の各種権益・政治的影響力を維持・増進しようとしてきたロシアとNATO加盟や親欧米政策でロシアの頸木から脱しようとしてきたグルジア。鋭く対立してきた両国の関係が、遂に発火した。直接の契機は、今年8月8日(日本時間)のグルジアの南オセチア州侵攻である。(南オセチア州は、グルジアにおける親露派勢力の牙城としてグルジアからの分離独立を掲げ、平和維持を名目にしたロシア軍の駐留を受け入れることで、実質的にそれを達成していた)。

グルジアの南オセチア州侵攻を巡る動き(各マスコミの報じた順。日時は全て日本時間)
・8月8日(10:23 ロイター発):グルジア国防相、同国軍の南オセチア州都ツヒンバリ包囲を発表。
・8月8日(13:48 ロイター発):グルジア空軍の空爆をロシア・インタファクス通信が報じる。
・8月8日(17:20 時事発)  :国連安保理、親グルジア派の欧米と南オセチア州支持のロシアの対立で動けず。
・8月8日(17:30 時事発)  :グルジア大統領、総動員令の発令とロシア軍機によるグルジア領空爆を発表。
・8月8日(21:40 時事発)  :ロシア軍機に空爆されたグルジア軍基地には米軍顧問団が駐在している模様。
・8月8日(22:14 共同発)  :プーチン・ロシア首相、グルジアへの報復を表明。グルジア大統領、
                   戦車150両を含むロシア軍が南オセチアに展開したことを非難。

そしてグルジア周辺の勢力分布といえば、ますグルジアの友好国としてトルコとアゼルバイジャンが存在する。そしてトルコとアゼルバイジャンはカスピ海の資源やコーカサス地域の政治的影響力を巡ってロシアと(ある程度抑制されてはいるが)対立関係にある。一方で今回の紛争が長期化した場合、国内開発に与える悪影響が発生する可能性も高い(例:投資マネーの逃避や資源開発の遅滞等)。従って今回の紛争では、両国は主に外交面で、ロシアの面子を潰さない程度にグルジアが実利を得る形で事態が決着するように動くものと思われる。
続いてアルメニア。この国は歴史的・宗教的な背景からトルコ、アゼルバイジャンと激しく対立する一方、ロシアと強固な友好関係を築いてきた。従って今回の紛争ではロシア側に回るものと思われる。
続いてイラン。この国はロシアと、アルメニアと友好関係にある一方、核等を巡る欧米との仲介役としてトルコとの関係も深まっている。そして国内に多数のアゼルバイジャン人人口を抱え、彼らが多数エスタブリッシュメント層に進出しているという、非常に微妙な立場にある(因みに同国最高指導者のハメネイ師はアゼルバイジャン人の血も引いている)。地理的にやや離れた位置にあることもあり、今回の紛争で何か表立って動く可能性は低かろう。
最後に国家政府ではないが、トルコ東部のクルド人独立派の動きにも注意が必要と思われる。最近のトルコ・イラン関係の改善・強化によって、トルコ領内のクルド独立派は、アンカラとテヘランから東西挟撃される形となりつつある。クルド独立派は、これに対抗するために北方との連携強化、即ちアルメニア、ロシアとの共同戦線を構築する方向に動く可能性がある。トルコのエネルギーや地政学的な影響力の拡大を喜ばないアルメニア、ロシアにとってもこれは悪くない話である。そしてこのトルコ・イランの東西連携に対抗する形でクルド独立派・アルメニア・ロシアの南北枢軸が成立した場合、欧米や日本といった西側諸国が受ける影響としては、近日発生したトルコ東部でのパイプライン爆破を想像してもらうと最も分かり易いかと考えられる。

地図を見れば一目瞭然だが、コーカサス地方での大規模な騒乱は、そのまま世界経済のエネルギー庫である中東地域に波及しかねない怖さがある。さて、事態はどのような形で決着を見るのやら・・・?