2008年8月29日金曜日

第百七段 旧ソ連圏に鹿を逐う

南オセチア・グルジアにおけるロシアの武力行使以来、対露批判を強めるグルジアとウクライナ。そしてそれに呼応する形の、グルジア支援を目的とした黒海への米国艦艇派遣、EUやNATOのウクライナ取込強化。旧ソ連圏の勢力分布を巡る欧米とロシアの対立は確実に先鋭化しつつある。

軍事衝突の結果、グルジアが本土と親露派の南オセチア、アブハジアに分割された今、次の焦点はウクライナに移ってくるだろう。そのウクライナは、西部が親欧米派の地盤、東部と南部のクリミア半島が親露派・ロシア系住民の勢力範囲となっている。もしウクライナが完全に欧米の勢力圏になった場合、黒海におけるロシアの優越は消滅することになる。そうなると、ロシアはコーカサスは勿論、中東、東地中海域においても影響力を大きく減退させることになるだろう。高い経済力と豊富な原油資源に恵まれた中東への影響力やアクセスをロシアが諦める道理は無いから、ロシアのウクライナ引き留め工作もまた熾烈を極めることになるだろう。最悪、親欧米派の西部と親露派の東部との間で激しい衝突が発生し、そこにロシアが「ロシア系住民の保護」を旗印に武力介入を開始するシナリオも想定される(先般のグルジア・南オセチア紛争と同じ構図が場所を変えて繰り返されるわけだ)。

ウクライナでは、ロシア、中央アジアの天然ガスを欧州に送るためのパイプラインが東西を貫通する形で敷設されている。もし前述のようにウクライナが東西に分かれて争うような事態になれば、当然パイプラインの運営にも大きな影響が出ると予想される。その時、欧州は経済面を中心に大きなダメージを受けることが想定される。昨今の信用縮小の嵐で痛めつけられているEUにとっては、まさに悪夢としか言いようのない事態である。従ってロシア側としては「パイプライン途絶の恐怖」をうまく使って、当面の敵であるEUの切り崩しを計ってくるものと思われる。そして、EUの切り崩しに成功した所で、ウクライナの東西分割と東部親露派勢力支援のための軍事介入に踏み切るつもりではないか。

逆にEUが対露姿勢で一枚岩を貫くことができれば、ロシアもおいそれとウクライナに直接手を出すことはできないだろう。グルジアの戦火が黒海を超えてウクライナに波及するか否かは、ひとえにEUに懸っていると言えよう。