2008年9月24日水曜日

第百二十六段 風雲急のパキスタン

最近、パキスタン情勢がどうにも危なっかしい。

まず一つ目は、対テロ戦争を巡るアメリカとパキスタンとの齟齬・溝の深刻化である。これは、アフガニスタン・パキスタン国境地帯に盤踞するタリバン以下のイスラム過激派に対し、米軍や多国籍軍がアフガン側から越境して展開するテロリスト掃討作戦でパキスタン国民への付随的被害が増加しつつあること、そして米軍や多国籍軍の越境作戦行動が、パキスタンの国家主権を踏みにじっているという印象をパキスタンの広範な層に与えているためことに起因している(9月22日には、パキスタン北西部ワジリスタンにおいて、アフガン側から越境してきた米軍ヘリに対してパキスタン国軍が銃撃を加えるという事象も発生している。出典:ロイター)。

二つ目は、パキスタン国内におけるテロ活動の活発化である。9月20日には、アル・カイダ等のイスラム過激派組織によると思われる米国系ホテルを狙った大規模なテロが発生し、チェコ大使、米軍関係者を含む50人以上が犠牲となった(出典:ロイター)。だが、ここでテロ組織やそのシンパを取り締まろうにも、パキスタン国軍や情報機関、治安機関にタリバンやアルカイダといったイスラム過激派のシンパが多数存在することから、取り締まる側と取り締まられる側との間が判然としない状態となっている(パキスタンとタリバン、アル・カイダとの繋がりについては、当ブログ七十二段にも概略を記しております)。

三つ目は、パキスタン経済の悪化である。世界的なコモディティ価格の上昇と高止まりにより、現在のパキスタンでは、米や小麦、乳製品といった食料品が、ここ2~3カ月程度で1.5~2倍に値上がりする等の深刻なインフレが発生し、国民の生活を圧迫している(出典:JETRO パキスタン・ニュースレター 2008/09/23 Vol.011)。パキスタンの苦しい経済事情は、同国の主要株価指数であるKSE100が、昨年10月比で40%近く下落していることにも表れている。そして社会保障制度や公的な異議申し立て制度が整備されていない途上国にあっては、国民の経済的困窮はそのまま反政府行動に繋がり易い面がある。

以上3点の問題を抱えるパキスタンの現政権の動向を考えるに、彼らが政権維持を何よりも優先すると仮定した場合、まず政府機関内部のテロ・シンパ洗い出しを掲げて国軍や情報機関、治安機関といった実力機関を刺激する真似はしないだろう。また、経済的に追い詰められた国民の不平不満については、手っ取り早く適当なスケープゴートをぶちあげ、政府への矛先を逸らす道を選択する可能性が高い。そう考えると、アフガニスタンからパキスタンに飛んできて軍事作戦を展開する米軍や多国籍軍は、ナショナリズム的にも宗教的にも恰好の生贄足り得る。従って、今後、パキスタンの現政権が、アフガンで展開する米軍や多国籍軍に供与している、領土、領空の通過許可や軍事基地の使用許可といった便宜を凍結・縮小する意向を示す可能性は高い。

もしそんな事態が実現したならば、アフガンに展開する米軍や多国籍軍は、補給路を断たれてアフガンで孤立するか、パキスタンにアフガンと外界を繋ぐ補給路を強引にこじ開けるか、それともアフガン以北に強い影響力を有するロシアと何らかの取引を行うことで北周りの補給路を開拓するか、といった困難な選択を迫られることになるだろう。また、パキスタン現政権が国内情勢の安定化に失敗した場合、同国が保有する核兵器の管理体制が危険な状態に陥る可能性についても、考慮しておく必要があるだろう。

2008年9月22日月曜日

第百二十四段 ニュースの後日談・・・

先週は金融市場の動揺を始め、色々なニュースが御座いました。その中で、当ブログで取り上げた二つのニュースについて、後日談を語らせて頂きます。

1.「ロシア取引所閉鎖」のその後
98年経済危機以来の下落を記録したことで、17日に一時閉鎖されていたロシア株式市場ですが、19日に再開の運びとなりました。ところが、今度は市場の急反騰で値幅制限が突破されたことで、同日、再閉鎖に追い込まれました。株価急落で閉鎖して、再開すれば今度は急上昇で再閉鎖・・・・。何だかコントみたいな流れですが、悲しいけどこれって現実なのよね。
因みに、22日のロシア株式市場は問題無く再開されたようです。
それにしても、新興国市場が持つリスクというものをまざまざと見せつけてくれる国ではあります(先頃のグルジア騒動含めて)。 
(ヮ ̄;)
・ロシア株式市場再閉鎖(出典:ロイター
・22日ロシア株式市場(出典:ロイター

2.「潜水艦騒動」のその後
豊後水道にて国籍不明の潜水艦が日本領海を侵犯したというニュースですが、その後、衝撃のニュースが!!

潜水艦の正体はクジラ? 防衛省、結論迷宮入り

 高知県・足摺岬沖の豊後水道周辺で国籍不明の潜水艦が領海侵犯したとされる問題で、防衛省・自衛隊はクジラを潜水艦と見誤った公算が大きいとの見方を固めた。複数の関係者が20日、明らかにした。ただクジラと断定できる「証拠」もなく、結論は迷宮入りになりそうだ。

  防衛省の14日午後の発表では、同日午前6時56分、海上自衛隊のイージス艦「あたご」が豊後水道周辺の領海内で「潜望鏡らしきもの」を視認。音波を出し て反響音で船舶などを探知するアクティブソナーで、約30分後「潜水艦の可能性が高い」と判断したという。スクリュー音など音の特徴を示す「音紋」は取れ なかった。

 関係者によれば、具体的には、ブリッジの外にいた砲術長が約1キロ先に潜望鏡らしきものを目視で発見。約10秒間見た後、そばにいた艦長に伝え、艦長は水面下に消えかかった潜望鏡らしきものとその影響で波打つ水面を確認した。

 「あたご」は「潜望鏡らしきもの」の方向へかじを切り、アクティブソナーから何度も音波を発信したが、何らかの動くものを探知したのは2回。いずれも領海外からの反響音で、特に最初は、潜水艦の速度では想定できないほど現場から遠い地点からの反応だったという。(出典:共同通信

この一件で考えられる可能性は以下の通り。
1.本当は某国の潜水艦だったが、今回の一件で軋轢を深めることを嫌った日本政府と某国政府と
  の間で手打ちが成立し、問題を有耶無耶にして終わらせることとなった。
2.本当にクジラを潜水艦と誤認した。

なんにせよ、「この潜水艦騒動を外交問題にまで波及させたくない」という日本政府の断固たる決意だけは感じられるニュースではあります(「なら、最初から公表するなよ」と突っ込みたいニュースでもあります)。それにしてもクジラかぁ・・・。南氷洋とかの反捕鯨国の目と鼻の先で調査捕鯨をやって彼らを挑発するより、いっそのこと、調査捕鯨は日本の領海内(若しくは排他的経済水域内)のみで続けることにした方が、エコ・テロリストの取り締まりや撃退、日本近海水産資源の現状把握といった点から望ましいように思えるんですが、どうなんですかねぇ・・・? ( ̄w ̄)

2008年9月15日月曜日

第百十九段 潜水艦騒動

去る9月14日、国籍不明の潜水艦が日本領海を侵犯したとのニュースが御座いました。ことの詳細は日経ネットが伝える所では、以下のようなことだとか。

高知県沖、領海内に国籍不明の潜水艦

 14日午前7時前、高知県沖の豊後水道周辺の日本領海内で国籍不明の潜水艦が潜望鏡を出して潜航しているのを海上自衛隊イージス艦「あたご」が発見した。約5分後に領海外に出たとみられる。ただちに追尾したが、同8時40分ごろ見失った。海自はP3C哨戒機や護衛艦などを派遣して、周辺海域の捜索を続 けている。

 防衛省によると、発見現場は足摺岬の南南西約57キロメートル、領海の内側約7キロメートル地点。横須賀港(神奈川県)から母港の舞鶴港(京都府)に帰る途中、艦橋にいた艦長や見張り員が目視で確認した。

 潜水艦は南方に向けて航行していたという。関係機関に照会した結果、自衛隊や米軍の所属ではないと判明した。林芳正防衛相は同日夕、省内で記者団に「大 変遺憾だ。国籍が判明すれば外交ルートを通じて抗議する」と強調。中国の潜水艦ではないかとの指摘には「確認中だ」と述べるにとどめた。(14日  19:01)(出典:日経ネット

この国籍不明潜水艦が発見された豊後水道は、少し北上すれば海上自衛隊呉基地や在日米海兵隊岩国基地を指呼の間に望む要衝でもあります。

そんな場所に侵入した潜水艦の所属国が気になる所ですが、日本列島周辺で軍事行動を起こす可能性があり、かつ潜水艦の運用能力を持っている国としては、日米以外では中国、ロシア、韓国、台湾が挙げられます。この中から件の潜水艦所属国を探って見たいと思います。

第一に韓国ですが、これは以下の点で容疑者から外れるものと思われます。
・韓国保有の潜水艦の音紋は同盟国米国が把握しており、日本から米国に件の潜水艦情報
 が渡った場合、それが韓国のものであれば、すぐに特定されると想定される。
・日本政府が「潜水艦による領海侵犯」を公表したことは、日本政府としては「事件を内々に
 穏便に処理する気はない」ということを宣言したことに等しい。もし件の潜水艦が韓国のもの
 であれば、東アジアにおける同盟国同士の諍い・不信が表面化することを恐れた米国の圧
 力により、事件自体公表されることはなかったと想定される。
・現在の朝鮮半島情勢は、北朝鮮の金正日総書記の健康状態とその後継を巡ってセンシティ
 ブな状態にある。そんな中で、わざわざ韓国が「領海侵犯(しかも日本の内懐ともいうべき場
 所で)」という一歩間違えれば戦闘行為に発展しかねない挑発行為をするとは考えにくい。

第二に台湾ですが、これも以下の点で容疑者からは外れるものと思われます。
・韓国の場合と同様に、台湾保有の潜水艦の音紋は米国に把握されていると考えられ、その
 特定は困難ではないものと思われる。
・韓国の場合と同様、米国の同盟国である台湾、日本間の対立が表面化することは米国にと
 っては望ましくない事態である。従って、もし件の潜水艦が台湾所属のものであった場合、
 「領海侵犯」という事件自体が公表されず、内々に処理されるものと考えられる。
・中国との対立が本格的に解消したわけでもない状況下で、台湾が日本を敵に回しかねない
 (控え目に言っても、反発を高めかねない)挑発をすることは考えにくい。

こうなると、残るのが中国とロシア。両国とも水上艦や航空機による日本の領海・領空侵犯については実績があるだけに判断に迷う所です。ただし、以下の点を考えれば、件の潜水艦が中国所属である可能性が6割、ロシア所属である可能性が4割といった所かと思われます。
・ロシアには「西(欧米)と関係が悪化した場合は東(日本、中国、インド)との関係強化を図る」
 という外交パターンがあり、折しも今はグルジアを巡ってロシアと欧米との関係が冷却化して
 いる時期である。従って日米の離間を図ることはあっても、日本の反露感情を徒に煽る行動
 は考えにくい。
・中国には最近でも潜水艦による日本領海侵犯を引き起こした実績がある。
・冷戦時代の遺産としてロシア太平洋艦隊の主要な展開ルート(対馬海峡や津軽海峡、宗谷
 海峡等)には比較的充実した日米の監視体制が構築されている。

2008年9月13日土曜日

第百十八段 秋刀魚とアービトラージ

秋らしい爽快な晴天が続く今日この頃。こうなってくると秋刀魚を食べたくなるのは管理人だけではない筈。そんな秋刀魚について気になるニュースが二つ御座いました。

先ずはJETROのメールマガジン「WORLD INFO TRAIN ★ NEWS STATION」(9月11日配信版)で知ったことなのですが、着実に経済発展を遂げるヴェトナムで、秋刀魚の消費量が急拡大中であり、日本からの対ヴェトナム秋刀魚輸出量が、2008年1月~7月では前年同期比の65倍(3800トン)に達したというもの。食べ方としてはサンマとトマト等をヌックマム(魚醤)に漬けて煮るのだとか(交通手段や保存技術の発展によってある地域に新しい食材が持ち込まれることで、その地域の食文化に新しい可能性が芽生えるというのは、グローバル化の善き側面だと管理人は考えます)。一方で日本においては豊漁によって秋刀魚の値崩れが起きているとのこと(出典:共同通信)。

ヴェトナムでは需要が急拡大する一方、日本では過剰供給による値崩れ。何とも対照的な有様です。これを見ると、「値崩れした日本で安く秋刀魚を買い、需要拡大中のヴェトナムに売れば利鞘が稼げる」という素人考えが頭を過ります。実際、米国の農家は農産品市場動向をパソコン等を通じて把握しながら、より需要の強い作物を優先して作付したり、収穫物を振り分けたりして(例えばバイオエタノールに回すか、飼料に回すか等)、利潤の最大化を図っております。要するに金融市場でいう所のアービトラージが可能な状態に米国の農家はあるということです(アービトラージとは、一つのものに対して各市場間で異なる値段が付けられている場合、割安な市場で買って割高な市場で売ることを言います。今回の話で説明すれば、秋刀魚について日本では割安、ヴェトナムでは割高な値段がついている場合、日本で買った秋刀魚をヴェトナムで売って両市場の価格差から利鞘を稼ぐ行為がアービトラージと言えます。また、割安市場で買って割高な市場で売るという行為が続けられた結果、割安市場では買い(需要)が強まるので商品価格が上昇し、一方の割高市場では売り(供給)が強まるので商品価格が下落し、最終的に両市場間の価格差が解消されることになります)

このアービトラージを世界最大の人口地帯であるアジア圏の食料供給に生かせないでしょうか? つまり、少子高齢化による人口減少によって将来的な食料需要の縮小が予想される日本国内のみならず、アジア圏の生鮮食料品の価格動向(何処で何が割安・割高か?)をより容易に把握できるようなスキームを構築することで、輸出業者や生産者がより機動的に生産・収穫物の振り分け先を決定し、利潤最大化を追求できる状態を現出させます。そうすることで過足の地域から不足の地域へと生産物と対価が動き(アービトラージが働いた状態)、結果として生産者が豊作貧乏、豊漁貧乏に悩まされることも減少し、食料不足の悪影響も軽減できると考えられます。少なくとも日本にとっては、補助金や輸入関税に頼る従来の農林水産業支援よりは、EPA交渉やWTO会合でより多くの国々の賛同を得易いのではないでしょうか(そもそも、補助金や関税といった手段は政治的圧力によるリソース配分の歪みが発生し易く、その上不当利権や汚職の温床になりがちです)。

秋刀魚を巡る対照的なニュースを見聞して、そんなことをふと思いました。

2008年9月10日水曜日

第百十六段 不幸は大変な寂しがり屋・・・

「不幸は大変な寂しがり屋である。だから訪れる時は常に数多の友人とともにやってくる」とは誰の言葉でしたでしょうか・・・・? 言葉の出典は兎も角として、持ち株の株価急落を嘆いた翌日、炊飯器が壊れ(「今後コメを食いたきゃリゾットを食え」という天の配列か?)、入浴中に浴室の電球が切れ、トイレで大きい方の用を足している最中にトイレの電球も切れるという、散々としか言いようのない目に遭った点額法師には、実に胸に迫ってくる言葉ではあります。

立場・属性其々に異なれど、点額法師と同じような感慨に囚われている方は世に多いものと思われます。

目立つ所では、ロシアのメドベージェフ大統領がそうでしょうか? グルジアを巡る欧米との対立では引くに引けぬ地点まで追い込まれる一方、盟友と恃む中国他のSCO加盟国からは「ロシアの対グルジア行動は支持、でも南オセチア。アブハジアの独立承認は留保」という何とも煮え切らぬ回答しか得られませんでした(因みに2008年9月10日時点で南オセチア、アブハジアの独立を承認した国家は、ロシア以外ではニカラグアのみ。ハッキリ言って、米国のイラク戦争に対する国際的支持以上にお寒い状態です)。

そんな風にしてロシアの国際的孤立感が強まる中、今までロシアが様々な意味で頼みの綱としてきた原油価格が、騰勢が衰えるどころか、寧ろ下落基調がすっかり定着という有様。それでもロシア経済は依然として石油・天然ガス頼みの構造のまま。よく考えれば積年の課題である少子高齢化・人口減少問題にも改善の兆しは見えておりません。その他にも展望の見えないチェチェン紛争、依然として高水準のインフレ・・・・等等、多数の問題が文字通り山積という状態。極東亡国のFKDとかいう首相ならば、一目散に職務放棄してどっかの山にでも隠遁したくなりそうな状況ではあります。

特に原油価格の下落基調については、80年代のサウジ増産による原油価格低迷が、原油輸出国であったソ連の非効率経済に痛撃を与え、ひいてはソ連邦崩壊の一因ともなっただけに、メドベージェフ大統領やプーチン首相、その他ロシア首脳部のメンバーは気が気でないでしょう。

OPEC内の減産派で、ロシア同様に高騰する石油価格で国際的な発言力を高めてきたイランやベネズエラと組んで何か仕掛けてきたりして?

2008年9月9日火曜日

第百十四段 北の国から08 脳卒中疑惑

北の将軍様こと金正日北朝鮮総書記について、「体調が優れないらしい」とか「健康上の理由で建国60周年記念行事には顔を出さないそうだ」といった情報がここ最近飛び交っておりましたが、22時41分の日経ネットに「金正日総書記、脳卒中か」という情報が載っておりました(出典:日経ネット)。

まぁ彼の健康不安説は今までにも度々報じられておりましたし、66歳という年齢とメディアで報じられている体格を見れば、糖尿病や高血圧ぐらいなら患っていても不思議はないような気はします。そうなると、勢い後継は誰になるかという話になりがちですが、点額法師個人としては、後継者個人云々よりも、後継者のバックにどの国家がつくのかが気になります。

そもそも北朝鮮の政治史を振り返ると、不明な点はまだ多いものの、隣の巨人中国から如何に独立を維持するかの歴史であったと見ることもできます。それは内にあっては親中派と民族派の権力闘争をもたらし、外にあってはソ連と中国とを互いに牽制させ、両者から利益を引き出すという外交政策として現われました。そして1991年にソ連が崩壊すると、競争相手の消失と1980年代に始まる経済大国化によって中国が一気に北朝鮮(同時に韓国)への影響力を高めてきます。この動きに対して中国に呑み込まれることへの危機感を強めた北朝鮮首脳部が、新たな対中牽制力として着目したのが米国であり、その米国の気を引くために起こしたのが弾道ミサイル実験や二度に亘る朝鮮半島核危機だったと言えるでしょう。では、北朝鮮の支配権を中国に渡すのを潔しとしなかった金正日総書記の没後、その後継者は中国に従うのか、米中を手玉にとって独立(というか金一族の支配権)を維持するのか、それとも日本や韓国と同様に米国の安全保障の傘に入る道を選ぶのかが問題となってきます。

米国がイラクやアフガニスタンの泥沼にあがき、その上、ロシアとの関係も緊張が高まっているのを見ると、現在の米国には、朝鮮半島や極東アジアに手を回す余裕はなく(或いは中国によるユーラシア東部からのロシア牽制への見返りとして)、朝鮮半島における中国の勢力拡大を黙認する可能性は十分にあります。一方で中国が米国に敵対的な姿勢をとるようなら、米国は核兵器容認や経済援助等の対北朝鮮テコ入れ策を実施することで、中国牽制の駒として北朝鮮を利用する道を選び、それに北朝鮮が呼応する可能性もあります。もう一つ、米中の北朝鮮を巡る対立が、北朝鮮内部の騒乱を引き起こすといったシナリオも考えられます。最終的にポスト金正日の北朝鮮がどのような道に進むか、判断できる材料はまだまだ少ないですが、米中を中心に「次」への影響力を確保しようとする動きは既に始まっていると見てよさそうです。

点額法師個人としては、鉄鉱石豊富な北朝鮮が中国に呑み込まれるという事態は、投資先ヴァーレ(鉄鉱石生産世界最大手(2008年9月上旬時点)の資源メジャー)の対中価格交渉力を弱めかねない、北朝鮮の金属資源が中国企業に独占されるといった点から、あまり望ましい事態とは言い難いので、どちらかと言えば米国に頑張って欲しい所ではあります。( ̄w ̄;)

2008年9月8日月曜日

第百十三段 音速の遅い読書『国家の崩壊 新リベラル帝国主義と世界秩序』

今回の音速の遅い読書で取り上げるのは、『国家の崩壊 新リベラル帝国主義と世界秩序(2008年7月初版 日本経済新聞社 ロバート・クーパー著)という一冊。前近代を扱った書籍でもなく、しかも今年の下半期に入ってから出版された書籍を取り上げるという、「音速の遅い読書」としては真に異例の展開ではあります。

そんなことはさておき、この本の著者たるローバート・クーパー氏とこの書籍の目的について簡単に説明させて頂きます。ます、クーパー氏は英国の高級外務官僚であり、英国のブレア政権やEUの外交・安全保障政策立案にも深く関与した人物です。その外交・安全政策立案の基盤となった「新リベラル帝国主義」というコンセプトとそれによる世界の色分け(大仰に言えば世界観)を記したのが、この『国家の崩壊 新リベラル帝国主義と世界秩序』という一冊になります(以降は『国家の崩壊』と表記)。

では「新リベラル帝国主義」とは何かというと、まず世界を以下の三つに色分けします。
1.ポスト近代圏
→安全保障政策を隣国に対する軍事的優越性よりも、条約や国際機関による安全保
 障政策の透明性確保によって担保する傾向の強い世界。
 また、企業やNGOといった非国家主体が政策形成に影響力を持ち、内政と外交の
 垣根が低い世界でもある。
 主に欧州や日本といった所謂「先進国」からなる世界。
2.近代圏
→外交や内政において政府が絶対的な政策決定権を有し、安全保障政策は軍備や
 古典的な勢力均衡論に頼る面が大きい世界。
 中国やインドをはじめ、大半の国家が所属する。
3.プレ近代圏
→政府による武力の独占が成功せず、「万人の万人に対する闘争」に近い状態となっ
 ている国家・地域(管理人の見方だが、日本の戦国時代に近いイメージ)
 アフガニスタンやソマリア、その他多くのサハラ以南のアフリカ諸国が所属する。
その上で、ポスト近代圏に属する国家の主導の下、プレ近代圏の混沌と破壊を安定化に導き、近代圏の国家をポスト近代圏に移行させることで、世界的な平和と繁栄を創出しようというのが、「新リベラル帝国主義」というもの。

「帝国主義」という言葉があるため、一見鬼面人を驚かせる所があり、その論理には部分的にネオコンの主張と重なる部分があるものの、比較的穏健というか真っ当な意見です。また、軍事力や覇権国の力に依存することの限界についても著作で触れていますが、ここがネオコンと「新リベラル帝国主義」との最大の違いのように見えます。

この「新リベラル帝国主義」の考えを展開していく中で、ポスト近代圏と近代圏の両方に属するアメリカの両生類的な性格、自身はポスト近代国家としての性格を有しながらも周辺はバリバリの近代圏という日本の境遇にも論が及んでいきます。

そして読み進めていくうちに何故だか高まっていく既視感・・・・。( ̄w ̄;)
思い出した。世界をポスト近代圏、近代圏、プレ近代圏に分ける見方、そしてその中でのアメリカの両生類的な性格や近代圏に属する国家に取り囲まれて孤立する日本の境遇。どれも田中明彦氏の主張と同じだ。(参考例:田中明彦氏『新しい「中世」』(日本経済新聞社 1996年5月初版)、他多数)

そう考えると、日本のアカデミズムは、英国やEUの戦略基盤として採用されうるグランドセオリーを生み出す力を持っているわけで、それはそれで凄いことなのだけど、日本外交にそれが生かされているように見えないのは何故だろう・・・・?

ともあれ、政策実務者が自身のよって立つ理論的基盤を語ったこの一冊は、十分に興味深い存在です。

あとで『新しい中世』なんかと読み比べてみよ~っと。 ( ̄w ̄)

2008年9月6日土曜日

第百十一段 中国の市場主義的環境対策

中国の環境問題の深刻さは、マスコミの報道等を通じてよく知られている。知られているだけではなく、偏西風や海流の流れに乗って中国発の各種汚染物質が日本に漂着し、酸性雨や光化学スモッグ、海洋生態系への悪影響(例:エチゼンクラゲの大量発生による漁業被害)といった実害も生んでいる。そして国際的に温暖化問題への注目が集まる中で、「資源爆食」ともいわれる非効率な産業体系が生む大量の二酸化炭素についても中国に対する海外の厳しい視線が注がれるようになってきた。

思うに、中国の経済躍進に伴う環境問題の発生で実害を被る日本としては、中国が「改革・開放」を唱えて経済成長に邁進し始めた1980年代から、莫大な円借款の内、単純なアンタイド部分を減らして主に環境分野に資金が流れるようにし、そして投じられた資金がしっかりと環境保護に役立てられているかの監察スキームを構築するといった各種施策を講じておくべきだったのだろうが、今更それを悔いても仕方がない。今後の日中の環境面での協力前進に期待するのみである(地政学的な損益が対立しがちな日中両国において、環境問題はWin-Winの関係が比較的築き易い分野でもあり、両国間の接触チャネルの確保といった点からも重要度は高いと言えよう)。

閑話休題、そんな環境問題に揺れる中国(Foreign Policy誌の2007年3/4月号では、「中国にとって最大のリスクは、環境問題等の生態学的リスクだ」と指摘されている)では、2008年8月5日に「上海環境エネルギー取引所」という取引所が開設された。JETROの9月5日付ニューズレターで知ったのだが、以下のようなことらしい。
環境保護・エネルギー技術の総合取引所を開設
-汚染物質などの排出権取引も視野に-(8月5日)
環境保護・エネルギーに関する技術や資産の取引市場「上海環境エネルギー取引所」(中国語名:上海環境能源交易所)が8月5日に設立された。国内最大の財産権取引市場である上海市連合産権取引所に設置される。環境保護・エネルギー分野に特化した技術や資産の取引所開設は中国初。上海市政府は、同取引所で二酸化硫黄(SO2)などの汚染物質やクリーン開発メカニズム(CDM)にかかわる排出権取引を行うことも視野に入れ、関連政策の策定を急いでいる。
(詳細は、2008年8月8日付け通商弘報をご参照ください)
出典:JETRO(リンク先PDF)
この中国当局の動きには、現在店頭取引となっている温室効果ガス排出枠取引を取引所取引とすることで、価格形成の透明性を高める一方、排出枠取引における価格決定権を欧米に独占させまいとする狙いがあるようだ(出典:人民網日本語版)

思うに環境関連特許や温室効果ガス排出枠取引なら、日本でももっと早い時期から取引所取引の枠組みを構築することが可能であったろうに、今年になってからやっと東証で排出枠取引の研究会が始まり、特許等の財産権取引の取引所取引実現は遥か霞の彼方という体たらく。この国では「進取の気性」は最早絶滅してしまったのだろうか?

何はともあれ、上海環境エネルギー取引所の設置が、中国の環境問題改善に資するものになってくれることを、偏西風の風下、東シナ海一帯の海流が流れ着く先の列島に住む住人としては期待したい(エコノミストの山崎元氏がビジネス誌等で発生の可能性を指摘している「エコバブル」の乱気流に呑まれなければよいが・・・・)