2008年9月8日月曜日

第百十三段 音速の遅い読書『国家の崩壊 新リベラル帝国主義と世界秩序』

今回の音速の遅い読書で取り上げるのは、『国家の崩壊 新リベラル帝国主義と世界秩序(2008年7月初版 日本経済新聞社 ロバート・クーパー著)という一冊。前近代を扱った書籍でもなく、しかも今年の下半期に入ってから出版された書籍を取り上げるという、「音速の遅い読書」としては真に異例の展開ではあります。

そんなことはさておき、この本の著者たるローバート・クーパー氏とこの書籍の目的について簡単に説明させて頂きます。ます、クーパー氏は英国の高級外務官僚であり、英国のブレア政権やEUの外交・安全保障政策立案にも深く関与した人物です。その外交・安全政策立案の基盤となった「新リベラル帝国主義」というコンセプトとそれによる世界の色分け(大仰に言えば世界観)を記したのが、この『国家の崩壊 新リベラル帝国主義と世界秩序』という一冊になります(以降は『国家の崩壊』と表記)。

では「新リベラル帝国主義」とは何かというと、まず世界を以下の三つに色分けします。
1.ポスト近代圏
→安全保障政策を隣国に対する軍事的優越性よりも、条約や国際機関による安全保
 障政策の透明性確保によって担保する傾向の強い世界。
 また、企業やNGOといった非国家主体が政策形成に影響力を持ち、内政と外交の
 垣根が低い世界でもある。
 主に欧州や日本といった所謂「先進国」からなる世界。
2.近代圏
→外交や内政において政府が絶対的な政策決定権を有し、安全保障政策は軍備や
 古典的な勢力均衡論に頼る面が大きい世界。
 中国やインドをはじめ、大半の国家が所属する。
3.プレ近代圏
→政府による武力の独占が成功せず、「万人の万人に対する闘争」に近い状態となっ
 ている国家・地域(管理人の見方だが、日本の戦国時代に近いイメージ)
 アフガニスタンやソマリア、その他多くのサハラ以南のアフリカ諸国が所属する。
その上で、ポスト近代圏に属する国家の主導の下、プレ近代圏の混沌と破壊を安定化に導き、近代圏の国家をポスト近代圏に移行させることで、世界的な平和と繁栄を創出しようというのが、「新リベラル帝国主義」というもの。

「帝国主義」という言葉があるため、一見鬼面人を驚かせる所があり、その論理には部分的にネオコンの主張と重なる部分があるものの、比較的穏健というか真っ当な意見です。また、軍事力や覇権国の力に依存することの限界についても著作で触れていますが、ここがネオコンと「新リベラル帝国主義」との最大の違いのように見えます。

この「新リベラル帝国主義」の考えを展開していく中で、ポスト近代圏と近代圏の両方に属するアメリカの両生類的な性格、自身はポスト近代国家としての性格を有しながらも周辺はバリバリの近代圏という日本の境遇にも論が及んでいきます。

そして読み進めていくうちに何故だか高まっていく既視感・・・・。( ̄w ̄;)
思い出した。世界をポスト近代圏、近代圏、プレ近代圏に分ける見方、そしてその中でのアメリカの両生類的な性格や近代圏に属する国家に取り囲まれて孤立する日本の境遇。どれも田中明彦氏の主張と同じだ。(参考例:田中明彦氏『新しい「中世」』(日本経済新聞社 1996年5月初版)、他多数)

そう考えると、日本のアカデミズムは、英国やEUの戦略基盤として採用されうるグランドセオリーを生み出す力を持っているわけで、それはそれで凄いことなのだけど、日本外交にそれが生かされているように見えないのは何故だろう・・・・?

ともあれ、政策実務者が自身のよって立つ理論的基盤を語ったこの一冊は、十分に興味深い存在です。

あとで『新しい中世』なんかと読み比べてみよ~っと。 ( ̄w ̄)