2008年9月24日水曜日

第百二十六段 風雲急のパキスタン

最近、パキスタン情勢がどうにも危なっかしい。

まず一つ目は、対テロ戦争を巡るアメリカとパキスタンとの齟齬・溝の深刻化である。これは、アフガニスタン・パキスタン国境地帯に盤踞するタリバン以下のイスラム過激派に対し、米軍や多国籍軍がアフガン側から越境して展開するテロリスト掃討作戦でパキスタン国民への付随的被害が増加しつつあること、そして米軍や多国籍軍の越境作戦行動が、パキスタンの国家主権を踏みにじっているという印象をパキスタンの広範な層に与えているためことに起因している(9月22日には、パキスタン北西部ワジリスタンにおいて、アフガン側から越境してきた米軍ヘリに対してパキスタン国軍が銃撃を加えるという事象も発生している。出典:ロイター)。

二つ目は、パキスタン国内におけるテロ活動の活発化である。9月20日には、アル・カイダ等のイスラム過激派組織によると思われる米国系ホテルを狙った大規模なテロが発生し、チェコ大使、米軍関係者を含む50人以上が犠牲となった(出典:ロイター)。だが、ここでテロ組織やそのシンパを取り締まろうにも、パキスタン国軍や情報機関、治安機関にタリバンやアルカイダといったイスラム過激派のシンパが多数存在することから、取り締まる側と取り締まられる側との間が判然としない状態となっている(パキスタンとタリバン、アル・カイダとの繋がりについては、当ブログ七十二段にも概略を記しております)。

三つ目は、パキスタン経済の悪化である。世界的なコモディティ価格の上昇と高止まりにより、現在のパキスタンでは、米や小麦、乳製品といった食料品が、ここ2~3カ月程度で1.5~2倍に値上がりする等の深刻なインフレが発生し、国民の生活を圧迫している(出典:JETRO パキスタン・ニュースレター 2008/09/23 Vol.011)。パキスタンの苦しい経済事情は、同国の主要株価指数であるKSE100が、昨年10月比で40%近く下落していることにも表れている。そして社会保障制度や公的な異議申し立て制度が整備されていない途上国にあっては、国民の経済的困窮はそのまま反政府行動に繋がり易い面がある。

以上3点の問題を抱えるパキスタンの現政権の動向を考えるに、彼らが政権維持を何よりも優先すると仮定した場合、まず政府機関内部のテロ・シンパ洗い出しを掲げて国軍や情報機関、治安機関といった実力機関を刺激する真似はしないだろう。また、経済的に追い詰められた国民の不平不満については、手っ取り早く適当なスケープゴートをぶちあげ、政府への矛先を逸らす道を選択する可能性が高い。そう考えると、アフガニスタンからパキスタンに飛んできて軍事作戦を展開する米軍や多国籍軍は、ナショナリズム的にも宗教的にも恰好の生贄足り得る。従って、今後、パキスタンの現政権が、アフガンで展開する米軍や多国籍軍に供与している、領土、領空の通過許可や軍事基地の使用許可といった便宜を凍結・縮小する意向を示す可能性は高い。

もしそんな事態が実現したならば、アフガンに展開する米軍や多国籍軍は、補給路を断たれてアフガンで孤立するか、パキスタンにアフガンと外界を繋ぐ補給路を強引にこじ開けるか、それともアフガン以北に強い影響力を有するロシアと何らかの取引を行うことで北周りの補給路を開拓するか、といった困難な選択を迫られることになるだろう。また、パキスタン現政権が国内情勢の安定化に失敗した場合、同国が保有する核兵器の管理体制が危険な状態に陥る可能性についても、考慮しておく必要があるだろう。