2008年10月28日火曜日

第百四十二段 大事なものは三つ。石油。石油。石油。

「石油の一滴は血の一滴」と申した時代が御座いました。2007年10月から始まり2008年7月にピークを迎えたWTI高騰期には、その言葉が身に沁みるような場面も多々あったと聞き及んでおります。そして今やWTIは下落に下落を重ねて「1バレル=64.40ドル」とピーク時の半分以下の価格水準。世界的景気後退懸念の強まりに、最早新興国の需要拡大による原油価格の上昇といったストーリーは見向きもされなくなった感が御座います。

そんな中でも、13億人以上の人口と何だかんだで9~11%の経済成長率を擁する中国は、今も原油の安定供給に貪欲な姿勢を堅持しているようで・・・・。そんなことを思わされたのが以下の2件のニュース。
中国:ロシアのロスネフチなど石油2社に250億ドル融資も-ロイター

10月28日(ブルームバーグ):ロイター通信は27日、中国がロシアの石油 会社ロスネフチと石油パイプライン会社トランスネフチに対し、両社からの輸出 を担保に最大で250億ドル(約2兆4000億円)規模の融資を行う可能性がある と報じた。ロシアはアジアのエネルギー市場での事業拡張を狙っている。

ロイターが事情に詳しい匿名の関係者の話を基に伝えたところによれば、中国 の温家宝首相は28日、ロシア当局者との間で石油調達の合意書に署名する。こ れにより、中国は向こう20年間にわたり、年間需要の4%に当たる3億トンの 石油が入手可能となる。

一方、ロスネフチとトランスネフチは信用収縮のなか、世界最大の外貨準備保 有国である中国から資金を調達できることになる。ロイターによると、ロスネフ チは120億-150億ドルを借り入れる可能性があり、トランスネフチはシベリア 東部のパイプライン建設のため、80億-100億ドルの融資を受ける見込みだ。 (出典:ブルームバーグ


中国向け支線建設で協定=ロシアの太平洋パイプライン

  【モスクワ28日時事】ロシアを訪問している中国の温家宝首相は28日、プーチン首相とモスクワで会談、両国のエネルギー協力推進などで合意した。これを 受け、ロシア国営パイプライン運営会社トランスネフチと中国石油最大手、中国石油天然ガス集団(CNPC)は、東シベリアからの石油を運ぶ太平洋パイプラ インの中国向け支線建設に関する協定に調印した。(2008/10/28-22:34)(出典:時事通信

ここ最近の金融危機でロシアの資源企業の資金繰りが厳しくなっているというニュースが度々報じられておりましたが、世界最大の外貨準備高(2007年時点では約1.5兆ドル)を誇る中国がここで登場してきました。「安くなったからもういいじゃない」とばかりに、原油輸入の中東依存是正、近隣諸国とのエネルギー分野での協力体制の構築といったエネルギー戦略を巡る議論が胡散霧消してしまった感のある日本を尻目に、金融危機で弱ったロシアの主要石油企業に救いの手を差し伸べ、しっかりと対価の約束を取り付ける中国政府の手腕は鮮やかなものが御座いますな。

危機・混乱の最中にあって助けるべき対象とそうでないものを識別する眼力、そして助けた相手からは支援に応じた対価をしっかり回収する(少なくとも対価の約束を取り付ける)交渉力といったものは、不安定性を増す五濁末世の世の中にあって、個人、組織を問わずに求められる場面が増えてくるものと思われます。今回の中国の行動は、その善い手本に思えたので当ブログでも取り上げたものです(まあ、協定が無かったことにされるとか、最終的には失策となる可能性も無いわけではありませんが・・・・)。

でも、こんなこと(リンク先:ロイター)を言って実際に米ドルが基軸通貨としての影響力を減じた場合、一番ダメージを受ける(国富的な意味で)のはそちらさん達なんじゃないですかねぇ・・・・。(△ ̄;)

第百四十一段 極東アジアとブラジル

バルチック海運指数が、ニュートンのリンゴも真っ青な自由落下ぶりを見せております。具体的に申しますと、今年の5月20日に最高値の11793ポイントをつけて昨日10月27日は1048ポイント。5ヶ月間で90%以上の下落に御座います。

各種鉱石や穀物等を運搬するバラ積み船運賃の国際指標たるバルチック海運指数がここまで低迷しているのは、様々な理由はあれど、以下のニュースで伝えられる動きがその一因になっていることは想像に難くありません。

鉄鉱石値上げ攻防 最大の買い手・中国とブラジル・ヴァーレ

 世界最大の鉄鉱石輸入国の中国と、鉄鉱石世界最大手のブラジル、ヴァーレ(リオドセ)が鉄鉱石値上げを巡り舌戦を繰り広げている。世界景気が減速傾向を強める中、資源価格の攻防が顕著になってきた。

 発端はヴァーレが9月、日本や中国などの顧客に対して「欧州向け価格とそろえる」として年度途中では異例の値上げを求めたこと。中国では自動車需要の減 速などを背景に鉄鋼需要も減少。港では引き取られない輸入鉄鉱石が大量に滞留している状態で、鋼材の値下げも相次いでいる。(10:47)

出典:日経ネット

資源爆食中国のいわば影法師として存在感を高めてきた資源国ブラジル。そのブラジルが、徐々に極東アジアに於いて単なる原材料供給国の範疇を超えて存在感を増しつつあります。

今年4月10日には国営石油会社ペトロブラスが日本のエクソン系製油会社南西石油を買収しております(出典:ブルームバーグ)。意外に知られておりませんが、この南西石油という会社は、沖縄県の西原町に精油施設を抱えている関係から、在沖米軍にジェット燃料の供給も行っていた会社です。台湾海峡や朝鮮半島の発火抑止が在沖米軍の行動能力に依っている面が大きいことを考えると、その在沖米軍の動力源の少なくとも一部に、米国との友好関係を維持する一方で中国との経済的繋がりの大きいブラジルという存在が関与することになったことは、地域安全保障の文脈上、軽視できない動きでしょう。

また、ブラジルが極東アジアで展開する外交について、以下のニュースも興味深いものがあります。

北朝鮮に大使館開設検討=時期は未定-ブラジル

 【サンパウロ27日時事】ブラジル外務省当局者は27日、北朝鮮の平壌に大使館開設を検討していることを明らかにした。両国は2001年3月に国交を結び、北朝鮮はブラジルの首都ブラジリアに既に大使館を設けている。
 同当局者は「長期的な視野で大使館をつくる方針で、互いに協議中だ」と語った。設置時期は「まだ予備的な検討で未定」としている。(2008/10/28-08:24)(出典:時事通信

当ブログでも度々「北朝鮮は地下資源に恵まれた地域である」という点について触れてきましたが、そこに鉄鉱石シェア世界第1位の金属メジャーたるヴァーレを擁するブラジルが、大使館開設を検討しているとの由。ヴァーレの民営化が97年と最近のことで、今も同社とブラジル政府との間に強いコネクションがあることを考えると、今回のブラジルの動きは、ヴァーレが将来的に北朝鮮に於ける資源権益を獲得していくための援護射撃といった見方もできるでしょう。ヴァーレのADR(rio:NYSE)を保有する者の観点からすれば、少なくとも悪くはないニュースです。

今後、極東アジアの政治経済にブラジルがどれだけのインパクトを与える存在となっていくのか、非常に興味深い所です。( ̄w ̄)

2008年10月20日月曜日

第百三十九段 音速の遅い読書『東アジア戦略概観 2008』

今回の音速の遅い読書で取り上げるのは、以下の一冊。

東アジア戦略概観 2008
単行本
ジャパンタイムズ
発売日 2008-05-30

アマゾン通販





これは、防衛省の一機関である防衛研究所が、一年毎に日本とその周辺地域の安全保障環境の動向を概略的にまとめて発表しているシリーズの最新版である。

構成としては、レギュラー的に米国、ロシア、日本、中国、朝鮮半島、東南アジアという6地域・国家の安全保障政策・環境をそれぞれ取り上げた章、そしてその年、その年で安全保障の観点から注目されるトピックに触れた一章からなる。因みに、2008年版では加速する中国の宇宙開発を取り上げている。

こと安全保障や国際情勢について触れた書物・論文・記事は、良くも悪くも著者の思考的偏りを反映した声高な「べき論」に陥りがちだが、『東アジア戦略概観』では、流石にシンクタンクが提供している一冊だけあって、鬼面人を驚かすような表現やセンセーショナルな言葉を交えること無く、地域の安全保障環境や抱える問題、今後の展望等を抑制の利いた文章と堅実な論理展開で記している。といっても、無味乾燥な文章が淡々と記されているわけではなく、具体的な数字や図表を取り入れた説明により、読む人を飽きさせない文章となっている(と個人的には思う)。

この本で得られた知識が投資等に直結するわけではないが、今日の巨大化した金融市場は経済の論理が優先される先進国のみで構成される時代を既に終え、SWFや巨大な外貨準備等を通じて国家の論理、安全保障の論理を優先しがちな新興国・途上国をも主要なプレーヤーとするに至っている。また、戦争や大規模テロ、政情不安等に起因する「地政学的リスク」という言葉も、今や金融市場において完全な市民権を得るに至っている(なお、地政学的リスクの具体的な例としては、911テロによる米国市場の動揺、中東やロシアの情勢が原油市場に与える影響等がある)。従って、最早安全保障と金融市場の動向は切り離して考えるべきではなくなったと考えられる(影響の大小は別にして)。そんな金融市場の変化に対応してサバイバルをしていかねばならない人間にとって、この一冊を熟読することは決して損にはならないだろう(最近の金融動乱が逆に各国・各地域の安全保障環境にどういった影響を与えるのかを考えながら読むといった楽しみ方もできる)。

個人的にこの本を読んでいて気になったのが、日本の政策担当者として名の挙げられている人物の多くが、2008年10月時点で殆ど安全保障政策の現場から姿を消していること(安倍首相然り、福田首相然り、各防衛大臣然り)。何やら、衰えつつある覇権国・英国と新興の意気上がるドイツに挟まれながら、政界の混乱から抜け出せなかった第三共和政フランスと、米中の狭間で埋没しつつある日本の姿が二重写しになって仕方ないが、さて、今後はどうなる事やら・・・・?