2008年10月20日月曜日

第百三十九段 音速の遅い読書『東アジア戦略概観 2008』

今回の音速の遅い読書で取り上げるのは、以下の一冊。

東アジア戦略概観 2008
単行本
ジャパンタイムズ
発売日 2008-05-30

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これは、防衛省の一機関である防衛研究所が、一年毎に日本とその周辺地域の安全保障環境の動向を概略的にまとめて発表しているシリーズの最新版である。

構成としては、レギュラー的に米国、ロシア、日本、中国、朝鮮半島、東南アジアという6地域・国家の安全保障政策・環境をそれぞれ取り上げた章、そしてその年、その年で安全保障の観点から注目されるトピックに触れた一章からなる。因みに、2008年版では加速する中国の宇宙開発を取り上げている。

こと安全保障や国際情勢について触れた書物・論文・記事は、良くも悪くも著者の思考的偏りを反映した声高な「べき論」に陥りがちだが、『東アジア戦略概観』では、流石にシンクタンクが提供している一冊だけあって、鬼面人を驚かすような表現やセンセーショナルな言葉を交えること無く、地域の安全保障環境や抱える問題、今後の展望等を抑制の利いた文章と堅実な論理展開で記している。といっても、無味乾燥な文章が淡々と記されているわけではなく、具体的な数字や図表を取り入れた説明により、読む人を飽きさせない文章となっている(と個人的には思う)。

この本で得られた知識が投資等に直結するわけではないが、今日の巨大化した金融市場は経済の論理が優先される先進国のみで構成される時代を既に終え、SWFや巨大な外貨準備等を通じて国家の論理、安全保障の論理を優先しがちな新興国・途上国をも主要なプレーヤーとするに至っている。また、戦争や大規模テロ、政情不安等に起因する「地政学的リスク」という言葉も、今や金融市場において完全な市民権を得るに至っている(なお、地政学的リスクの具体的な例としては、911テロによる米国市場の動揺、中東やロシアの情勢が原油市場に与える影響等がある)。従って、最早安全保障と金融市場の動向は切り離して考えるべきではなくなったと考えられる(影響の大小は別にして)。そんな金融市場の変化に対応してサバイバルをしていかねばならない人間にとって、この一冊を熟読することは決して損にはならないだろう(最近の金融動乱が逆に各国・各地域の安全保障環境にどういった影響を与えるのかを考えながら読むといった楽しみ方もできる)。

個人的にこの本を読んでいて気になったのが、日本の政策担当者として名の挙げられている人物の多くが、2008年10月時点で殆ど安全保障政策の現場から姿を消していること(安倍首相然り、福田首相然り、各防衛大臣然り)。何やら、衰えつつある覇権国・英国と新興の意気上がるドイツに挟まれながら、政界の混乱から抜け出せなかった第三共和政フランスと、米中の狭間で埋没しつつある日本の姿が二重写しになって仕方ないが、さて、今後はどうなる事やら・・・・?