2008年11月6日木曜日

第百四十九段 音速の遅い読書『イエズス会の世界戦略』

今回の音速の遅い読書で取り上げるのは、以下の一冊

イエズス会の世界戦略 (講談社選書メチエ)
高橋 裕史
単行本
講談社
発売日 2006-10-11

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「イエズス会」というと、現代日本では、日本史に於けるフランシスコ・ザビエルとの関係や上智大学の経営母体といった認識のされ方が一般的なものだろう。ただ、この組織をもう少し詳しく見てみると、会員数2万人、展開地域は112ヶ国に及ぶという巨大組織としての顔が浮かび上がってくる。

しかし、その巨大組織も16世紀スペインで産声を上げた時は、創始者たるイグナティウス・ロヨラを含めて7人の超零細修道会に過ぎなかった。そんな弱小勢力がどのようにしてカトリック最大の男子修道会に成長していったのか、その過程で発生した資金や組織運営の在り方といった問題にどう対処していったのかを記したのが、今回取り上げる『イエズス会の世界戦略』である。

本書の中で点額法師が興味を覚えたのが、第四章「「情報」の収集・分析とイエズス会」と第六章「神の使者たちの「錬金術」」である。

まず第四章「「情報」の収集・分析とイエズス会」であるが、16世紀のイエズス会は誕生間もない時期から活動範囲が急速に拡大し、新大陸から日本に及ぶまでの文字通り地球規模で布教範囲が広がっていた。そんな状況下でイエズス会は如何にして各地域の情報を集め、分析し、宣教活動に役立てていたのか? 当該章ではインド洋から日本に至る地域を管轄したイエズス会インド管区を例として取り上げて分析・説明している。それによれば、イエズス会は書簡を通じて各布教地の情報をローマ本部に一元的に集め、分析する一方で、複数管区間で情報の開示・共有の徹底を求める規則を定め、ローマ本部―布教管区といった上下方向情報伝達回路のみならず、A布教管区―B布教管区という水平方向の情報伝達回路を構築することで、より現場の実態に即した布教戦略を採ることを可能としていたという。巨大化した組織を効率的に運用していくには、ある程度各部門の自主性に頼らざるを得ないが、その時に部門部門がベストな判断を下していくことを水平方向の情報伝達を密にすることで支援し、一方で各部門の自主的な動きが割拠主義や遠心力に転じないように、中枢部が下部門の動きに目を光らせるという、現在の組織経営論にも十分に適用できそうな話に興味をそそられた。

次に第六章「神の使者たちの「錬金術」」である。如何に神聖・崇高な理念・使命を掲げていても、この世で組織を維持・運営していくには、どうしても先立つものが必要となってくる。ではイエズス会はその活動資金をどのようにして調達してきたのかを取り扱ったのが当該章である。これによると、16世紀イエズス会の資金源としては「信者からの喜捨」、「ローマ教皇からの給付金」、「ポルトガル王からの給付金」、「各地域の不動産収益」等があったが、「信者からの喜捨」や「各地域の不動産収益」は安定性や額の大きさといった面で有望な資金源とは言えず、「ローマ教皇からの給付金」や「ポルトガル王からの給付金」に依存する面が大きくなっていった。だがこれも安定性に欠ける面があったため、やがてイエズス会自身がポルトガル王等から認可を受けて香辛料や生糸貿易に乗り出していくことになっていったという。その経過やそうやって集めた資金が具体的にどんなことに支出されていったのかが、「プラクドール」という財務・会計担当司祭の地位向上といった事例と共に活写されており、これがまた滅法面白い。

成功する組織、生き残り続ける組織といったものは、時代や所属する宗教・文明を超えて似通ってくるものである。全章を読了した時、そんな感想が脳裏をよぎった。