2008年11月9日日曜日

第百五十二段 音速の遅い読書『国際紛争―理論と歴史』

今回の音速の遅い読書で取り上げるのは、以下の一冊。

国際紛争―理論と歴史
ジュニア,ジョセフ・S. ナイ
単行本
有斐閣
総合評価 4.5
発売日 2005-04

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著者のジョゼフ・S・ナイ氏と言えば、日本では、クリントン政権時代の日米関係が困難であった時期に国防次官補を務め、日米同盟を世界の平和と安定の維持の礎として位置付ける「ナイ・イニシアティブ」を打ち出して日米同盟の漂流と座礁を未然に防止した時の印象から、辣腕の実務家という印象を持たれることが多いかもしれません。一方で彼には、今や国際関係を語る時に欠かせない「相互依存(これはロバート・コヘインとの共同研究)」や「ソフト・パワー」といった概念を提唱した一流の国際政治学者としての一面もあります(因みに現在はハーバード大学特別功労教授。従って、以降はナイ教授と表記します)。

そんな実務家としても学者としても大きな仕事をしているナイ教授が、国際政治学を志す学生たちに向けて執筆し、それを同じく国際政治学を研究している田中明彦教授(現東京大学東洋文化研究所教授)と村田晃嗣教授(同志社大学法学部教授)が訳したのが、今回取り上げる一冊。
(因みに、本書は国際政治という生ものを扱っているためか、度々改訂版が発表されております。今回当ブログで取り上げたのは第5版になりますが、2008年11月時点では第6版が出版されております)

構成としては、紀元前古代ギリシャのペロポネソス戦争や二つの世界大戦、冷戦、グローバリゼーションの進展といった具体的な事例に基づきながら、「現実主義」、「バランス・オブ・パワー」、「集団安全保障」といった国際政治学に於ける諸学説や諸概念を説明していくという形をとっています。各章の最後には関連年表と共に「学習上の論点」というのがあり、読者はこれを基に様々な問題を考察したり、或いは参考にして自分なりの問題設定を行うことができる仕掛けとなっています。

点額法師が個人的に面白く思った点が二点あります。
一点は、本書の中で示されるナイ教授の反実仮想の奨め。要するに、事実や各学説の理論体系等を注意深く取捨選択した上で、歴史に「if」を持ちこんで考察を行うことは、様々な事象の因果関係をより明瞭に把握する上で有効であるというものです。点額法師自身も含めて、人間どうしても目先の出来事につられたり、今現在の結果を単純に過去・未来に敷衍して物事を考え、決断してしまう所があります。そんな悪しき思考の単純化の解毒剤として反実仮想と言う思考方法を上手く使っていけるようになりたいと思わされました。
(w ̄;)
ジブン、ダボハゼナミニタンジュンナトコロガアルカラナァ・・・・。
もう一点は、あらゆる時代を通じて見出せる普遍性と時代毎の特殊性(一言で言えば「不易流行」とでも申しましょうか)の両者に注意深く目を光らせることの重要性が陰に陽に強調されていることです。権力闘争に於ける生き残り術については人類史上屈指の人物たる毛沢東も、その文書の中で「戦争全般における普遍的法則性と中国革命戦争に於ける特殊性の両者を正しく把握しない限り、勝利を手にすることはできない」といった旨を申しております。現実の政治世界で功績を挙げる人物の思考方法が、掲げる主義主張に関係なく、似通ったものになってくる点が実に興味深く印象に残ったことでした。

日々のニュースを単なる”断片”として味わうことに飽き足らなくなった人にお勧めの一冊です。