2008年11月24日月曜日

第百五十九段 サウジ、手駒を動かす

海賊事件の頻発しているソマリアにおいて、サウジが動いた。以下のロイターの記事にある様に、手駒のイスラム原理主義勢力を動かして海賊攻撃に乗り出したのだ。

[モガディシオ 22日 ロイター] ソマリアのイスラム原理主義勢力が22日、活発化する同国の海賊に乗っ取られたサウジアラビアの超大型タンカー「シリウス・スター」を救出するため、攻撃に乗り出した。同勢力のスポークスマンが明らかにした。

 シリウス・スターは1億ドル(約96億円)相当の石油を搭載、フィリピンやサウジ、クロアチア、ポーランド、英国からの乗組員25人が乗船している。ソマリアの海岸線の中ほどにある町Haradheere近くの沖合いに停泊中とみられている。

 イスラム原理主義勢力の一派は、「イスラム教徒の」船を乗っ取ったことに対する報復として、海賊を攻撃すると宣言。スポークスマンは22日、ロイ ターの取材に「戦闘員を手配した」と語った。まずは物資や連絡を制限することで内地とシリウス・スターに乗っている海賊メンバーとのやり取りを遮断するこ とから始めるという。

 ただ、イスラム原理主義勢力の間でも動きは統一されておらず、Haradheere住民がロイターの電話取材で語ったところでは、別のグループは海賊が得た身代金の一部を何らかの条件と引き換えに得ようと海賊メンバーと交渉している。(出典:ロイター)

湧いて出てくるソマリ海賊に嫌気がさした各海運会社では、海賊の牙城アデン湾を通るスエズ航路を回避し、南アフリカ沖を通る喜望峰航路(バスコ・ダ・ガマがインドに到達した航路にほぼ該当)に乗り換える動きが進んでいるという。当然、輸送コストはかさみ、ペルシャ湾岸から欧州に向けての原油輸送にも支障が出てくることになる(以下の共同通信記事参照)。

カイロ23日共同】紅海に近いアフリカ東部ソマリア沖で海賊行為が頻発していることを受け、中東やアジア方面と欧州の間を航行する海運会社などのタンカーや貨物船が、紅海と地中海を結ぶスエズ運河を回避し、アフリカ南端を迂回するルートをとる傾向が強まっている。

 リスクを回避できるものの、より長い距離を航行することになり、輸送コストの増加が懸念されることから、海運各社は早急な海賊対策を各国政府に要求。スエズ運河の通航料が主要歳入のエジプト政府にとっても事態は深刻だ。

 ロイター通信によると、デンマークに本拠を置く大手の海運会社APモラー・マースクは石油タンカー50隻を南アフリカの喜望峰回りのルートに変更。ノルウェーのフロントラインも同様の対応を検討中だ。

 国際海事機関(IMO)のミトロプロス事務局長によると、喜望峰回りだと中東のペルシャ湾岸から欧州まで12日余計にかかるため原油の供給が遅れ、輸送コストも25-30%増加するという。(出典:共同通信)

上記記事で名前のあがった各国や周辺国がソマリ海賊の跋扈から受ける影響を考えてみたい。

まずロシアだが、ソマリ海賊の跋扈はロシアにとって好悪両面の影響があると考えられる。まず好影響の方だが、世界の石油の全輸送量の3割以上が通過するとされるアデン湾で海賊が蔓延ることにより、欧州がよりロシア産の石油・天然ガスに依然せざるを得ない状況が生まれることになる。
次に悪影響の方だが、アフリカ紛争地帯に対する武器輸出のコスト増加がある。今まではソマリアに荷揚げ港を設定することで、同国の無政府・混乱状態を隠れ蓑に、アフリカ紛争地域への武器輸出を進めることができたが(旧ソ連のトロール船を母船とする海賊集団(出典:ロイター)については、「貨物船の用心棒」等、ロシアと何らかの繋がりを有している可能性がある)、あまりに海賊勢力が割拠するようだと、ロシアと意を通じていない海賊も増加するわけで、当然、ロシアからの武器輸出船も海賊の標的にされてしまう危険性が増加することになる(実際、既に戦車などの重火器を搭載したウクライナ船籍の貨物船がソマリ海賊に乗っ取られる事件が発生している)。かといって他の東アフリカ諸国を見れば、それなりに中央政府が機能しているので(少なくともソマリアよりはまし)、紛争地域への武器輸出に当たって各国の監視の目をごまかす、あるいは黙認を取り付けるためにより多くのリベート、”手数料”の類を提供することになるだろう。また首尾よく新しい荷揚げ港を確保したとしても、、武器の積み出し港が黒海かバルト海の沿岸にある以上、海賊の脅威を避けるためにスエズ航路から喜望峰航路に変更した場合、燃料費が余計に喰われることになるのはその他一般的な貨物船と同じである。

サウジにとっては好影響は特にないと考えれられる。悪影響としては、航路変更により欧州向けの原油輸出でコストや到達日数が増加する結果、欧州でのシェアをロシアに奪われてしまう可能性の増加が挙げられよう。

エジプトにとっても、好影響はないだろう。寧ろ、国家財政に重きをなすスエズ運河の通行料が減少するという形で、ソマリ海賊跋扈の悪影響を直接的に受けることになる。国際的な金融危機でもう一方の国家収入の柱たる観光事業も減速が予想され、米国からの援助資金も現状維持なら御の字、減額も十分にあり得るという状態。そして今はムバラク父からムバラク息子への権力禅譲が控えた微妙な時期。泣きっ面に蜂と言っても過言ではないだろう。かといってソマリ海賊に対して軍事行動を取ろうとすれば、スーダンやイエメン、サウジといった周辺国の警戒心を徒に煽りかねず(特にスーダン、イエメンは、過去にエジプトと干戈を交えているだけに、強い態度で出てくるだろう)、却ってアデン湾から紅海、スエズ運河に至る一帯の不安定さを強化してしまう可能性がある。まさに痛し痒しであろう。

欧州としても、好影響は特段存在しないと考えられる。悪影響は二点考えられる。まず一点は、中東からの原油・天然ガス供給に支障が出てくることで、エネルギー面でのロシア依存が一段と進行する可能性が増大することだろう(その分、代替エネルギー分野への支援・補助が手厚くなることも考えられる)。もう一点は、欧州とアジア・太平洋地域を繋ぐ交易に支障をきたす可能性だろう。

もう一つ、好悪は判然としないが、影響を受ける可能性のある分野がある。欧州が音頭をとって進めてきた地球温暖化対策である。というのも、もしこのまま温暖化が進んだ場合、北極の海氷が激減・消滅することになる。その場合に誕生するのは(当ブログ第五十九段参照)、アジア・太平洋地域と欧州をより短距離で結ぶ新航路である(東京-ロンドン間の距離が、スエズ航路では約2.1万kmなのに対し、北極海航路では約1.6万kmとほぼ4分の3で済むことになる)。しかも、北極海は資源開発の最後のフロンティアとも目されている地域である。米露加EUといった北極海に権益を有する勢力の動向に目を光らせず、ただ闇雲に「温暖化対策」、「温暖化対策」と騒ぐだけならば、「欧州情勢ハ複雑怪奇」との迷言を残した平沼内閣の轍を踏んでもおかしくはない。