2008年12月10日水曜日

第百六十九段 家電下郷と3種の神器

中国の財務部と商務部は、農村部での家電購入に補助金を支給する「家電下郷」制度を来年2 月から4年間に渡り全国で実施すると発表した(現在は国内14省・自治区・直轄市で実施)。この結果、政策対象地域の総人口は3億9300万人に上り、9200億元(12兆6000億円)程度の経済効果が期待されているらしい。

因みに、「家電下郷」政策では対象となる商品を以下の4商品に限定しており、購入金額の13%程度を国が支給するものとなっている。
<対象商品>
・カラーテレビ
・冷蔵庫
・洗濯機
・携帯電話

・・・・どこかで見たことのある組み合わせだと思えば、高度経済成長期日本の「3種の神器」と殆ど変わらないことに気付く。
<3種の神器>
・白黒テレビ
・冷蔵庫
・洗濯機

白黒テレビがカラーテレビになり、携帯電話が加わっている所に20世紀中頃と21世紀初頭の差異が感じられるといえば感じられる。よく巷では中国沿海部と内陸部の圧倒的な経済格差について語られるが、上海や香港といった沿海部の都市が21世紀初頭の世界、そして「家電下郷」で恩恵が及ぶ内陸部や農村が1950年代の日本と考えると、GDPや平均所得といった数字を追いかけるよりも、中国が抱える巨大な経済格差(というか断絶)がより明確に浮かび上がってくる。

この「家電下郷」政策の狙いとしては、一般的に「世界的な景気減速を内需拡大で乗り切ることを狙った施策」と言われる。無論そうした一面も大きいのだろうが、点額法師には、「家電下郷」が大枚をはたいた北京政府の治安政策にも思える。

というのも、今中国の内陸部や農村地域では、地方政府による土地の恣意的な収用や金銭の徴発、それにともなう住民への暴力に反発しての騒擾事件が多発している(日本のニュースでも「中国××省で農民が役所を焼き打ち」といった具合に一部が報じられている)。これを根本的に解決するには、地方政府にメスを入れる必要があるが、複雑に利権の入り組んだ問題なので、一朝一夕に解決できるものではない。かといってこのまま頻発する騒擾事件を力のみで押さえつけていけば、国民の不平不満はより一層激化することになり、やがて北京政府は農民反乱の頻発で瓦解していった歴代中華帝国の轍を踏みかねない。ならば北京政府がとる手段としては、多くの国民に飴を与え、その甘みで国民の不平不満を慰撫しながら、問題の解決に着手するという手段がベターだと思われる。

その飴となるのが、今回の「家電下郷」なのではないか。実際、人間はある程度物を持ち、経済的な豊かさ・利便性をそれなりに実感できるようになれば、急速に保守化(安定化志向)に走る傾向がある。このことは「恒産無くして恒心無し」、「衣食足りて礼節を知る」といった古の聖賢の言葉にも顕れているし、現北京政府の開祖たる毛沢東が「最も革命を受け入れる」層として無産に等しい貧農を重視した事実によっても、逆説的に確認することができる。日本を顧みても、貧しい1950年代、60年代こそ安保反対闘争やら学生運動といった大規模騒擾事件が頻発したが、高度経済成長の実現と共に一気に下火となっていったのは周知のことである。

果たして、カラーテレビから流れる娯楽と冷蔵庫、洗濯機がもたらす利便性に国民の多くが酔いしれている間に、北京政府は騒擾の根本原因である政治腐敗の解決に道筋をつけられるか。実に興味深い所である(それにしても、携帯電話流通の拡大が沿海部と内陸部の反政府勢力をより結び付け易くする可能性を考えれば、よく北京政府は「家電下郷」の対象商品に携帯電話を加えたものだ)。

参考資料:ジェトロ北京ニューズレター 2008年12月9日号(Vol.14)