2008年12月10日水曜日

第百七十段 モスクワより関税引き上げを込めて

当ブログ第百六十五段にて「G20の「保護主義反対声明」なんてあてにならない」ということを書いてからちょうど1週間後の12月10日、ロシアが自動車の輸入関税を引き上げてきた(出典:時事通信)。

最近のルーブル安に加え、巷間囁かれているルーブル切り下げを仮に実行すれば、わざわざ物議を醸すような輸入関税引き上げなんぞしなくとも、ロシア国産車の価格競争力はそれなりに維持・強化されると思うのだが、今までのロシアの為替政策を顧みると「強い通貨=強い国家のステータス」と考えているふしがあり、政治的に「弱いルーブル」政策に舵を切りにくい事情があることは想像に難くない。

かといって世界的な金融危機の中で各国中銀が利下げや大規模資金供給に動いている中、ロシアのみが強い通貨政策を維持し続ければ、ルーブル高外貨安によってロシアの財・サービス輸入が加速し、同国の脆弱な製造業に致命傷を与える可能性が浮上する。そのような事態は、経済の石油・天然ガス依存からの脱却を焦眉の課題とするロシア政府にとって看過し得ないものであろう(現ロシアの前身たるソ連が原油依存の経済体制から脱却できぬまま、1980年代の原油価格低迷によって国家財政に痛撃を受け、崩壊への道に転げ落ちていったことを考えれば、メドベージェフ政権が現在感じている危機感もさぞやと思われる)。

つまり、今回のロシアの自動車輸入関税引き上げは、「強いルーブル政策の維持」と「自国産業保護」を両立させることを狙った措置と考えられる。懸念される欧米等からの批判については、恐らくメドベージェフ政権はアフガン問題を人質に取ることで実害が無い程度に抑え込めると踏んでいるのではないだろうか。

ここでアフガニスタンの状況に目を移せば、そもそもアフガニスタンは内陸国。従ってそこに展開する軍勢に補給を行うには、パキスタン、イラン、旧ソ連領中央アジアのいずれかを経由する必要がある。現在はパキスタン・ルートがアフガンに展開する米軍・多国籍軍への主要な補給ルートとなっているが、ここ最近、このパキスタン・ルートにおいて米軍・多国籍軍の補給部隊を狙った大規模な襲撃が仕掛けられている(出典:共同通信)。
もし今後、パキスタン・ルートが機能不全に陥るようなことになれば、代替ルートとして考えられるのは、前述のようにイラン・ルートかロシアが強い影響力を有する旧ソ連領中央アジア・ルートしかない。しかも米国のオバマ次期政権は、大統領選挙を通じて、一貫してアフガンに対する米国のコミット強化を訴えてきた。こうしたアフガニスタンの状況を考慮に入れれば、「多少ロシアが利己的な振る舞いに出た所で、アフガン問題を抱える西側の批判は腰の引けたものにならざるを得ない」とロシア側が判断してもおかしくは無い。

とまれ、ロシアの関税引き上げの狙いが何処にあるにしろ、逆風吹きすさぶ日本の自動車産業にとってまた一つ厄介事が加わったことは間違いないだろう。特にロシア外で生産した自動車をロシアに輸出するというビジネス形態を採っている企業にとっては、頭の痛い問題かと思われる。