2008年12月14日日曜日

第百七十三段 毒饅頭はペルシャ湾を超えるか?

イランの核開発問題が世界の耳目を集めて久しいが、そのペルシャ湾の向こう側でも核開発について動きがあったようである。UAEの英字紙Gulfnewsが12月13日に報じた所では、米国がUAEとの原子力協定締結に向けて動き出したという(記事原文は以下の通り)。

Dubai: US President George W. Bush's administration plans to sign a nuclear cooperation deal with the UAE in the next few weeks, the Wall Street Journal reported on Friday, citing a senior US official.

It said the UAE has agreed on nuclear material safeguards and will not develop its own fuel.

The country has already signed agreements with two US companies, Thorium Power Ltd of Virginia and Colorado's CH2M Hill Cos to oversee its nuclear energy plans, the Journal reported, saying the Bush administration has championed the nuclear agreement with the UAE as a model for promoting peaceful nuclear energy.

Rep Ileana Ros-Lehtinen of Florida, ranking Republican in the House Foreign Affairs Committee, introduced legislation this week that would set conditions before Congress could approve the agreement.

The newspaper said the UAE has pledged to purchase nuclear fuel for its reactors from outside suppliers, rather than developing its own fuel and would allow monitoring and snap inspections by the United Nations' International Atomic Energy Agency.

The report also said the UAE has hired a 30-year veteran of the US Nuclear Regulatory Commission, William Travers, to help run the country's nuclear regulatory body.(出典:Gulfnews)

要するに、米国のブッシュ政権は2~3週間以内にUAEとの原子力協定を締結する意向であること、UAEは独自ではなく米国と協調の上で核開発を進める意向であること、UAEは核開発にあたってIAEAの査察・監督も積極的に受け入れること、既にUAEは原子力開発にあたって二つの米国企業と契約を締結している他に自国の原子力規制委員会立ち上げのために米国原子力規制委員会のベテランを雇っていることを記事は伝えている。

中東の核開発と言えば、イランの核開発問題以外にも、GCC加盟国共同での核開発が提言されたり、ヨルダンが各国と積極的に原子力協定締結や仏アレバ社と組んでの国内ウラン鉱開発に乗り出したりといった動きがそれぞれ報じられている(ヨルダンの最近の核関連の動きについては当ブログ第百六十段参照)。これらの動きをみれば、イランとの関係が深いロシアやヨルダンと組んだフランスに負けじと米国が中東原子力ビジネスに力を入れるのもむべなるかなと思われる。

一方で軍事目的の核開発が懸念されているイランにとって、ペルシャ湾対岸のUAEは有数の貿易相手国。その上、イランから多くの情報関係者が既にUAEに浸透していると言われている。それを考えれば、米国がUAEに提供した核技術・情報がイランへ流出する可能性は捨てきれない。そう考えると、米・UAE原子力協定は、一見すると米国にとって仇敵イランの核開発を援助してしまいかねない、随分とリスキーな政策に見えてしまう(それに米国のイラン攻撃が実施された場合、UAEの原子炉がイランの報復対象なりかねない怖さもある)。

そこで、確かな根拠の全くない個人的な妄想だが、ひょっとして米国はわざとUAEを通じて偽の原子力技術・情報をイランにリークしようとしているのかもしれない。核開発(軍事目的か民生目的かは別として)に血道をあげるイランにとって、米国の原子力技術・情報は手を伸ばしたくなる魅力的な存在であると思われる。ならば、それを逆手にとって虚偽の原子力情報、致命的なバグを抱えた原子力技術をイランに流し、その核開発を頓挫させる策も机上では成り立つ。いや単なる机上の空論ではない。

この相手が欲する情報・技術という饅頭に虚偽・バグといった毒を仕込んで提供するという策略について、既に米国は経験を有している。それは、1982年の旧ソ連におけるパイプライン大規模爆発事件である。一説にその爆発規模はTNT火薬3キロトン相当。核爆発ではないかとの憶測も一時的に流れたというから、その爆発の凄まじさが知れよう。この事故には裏があった。当時、西側のハイテク情報を狙ったKGBの活動に業を煮やしたCIAは、意図的に一定条件で発現するバグを仕込んだパイプライン制御用ソフトウェアを開発し、それをKGBに掴ませることに成功する。そしてそのソフトウェアが実際に使用され、仕込んだバグが発現した結果、件の大規模爆発が発生したというのだ。結果、ソ連のパイプライン建設に多大な遅延が発生した他、西側産ソフトウェアに対する疑心暗鬼からソ連の経済・軍事活動は大きな打撃を受けることになったという。この話は、元米空軍長官でレーガン大統領の特別補佐官を務めたこともあるトーマス・C・リード氏の著作『At the Abyss: An Insider's History of the Cold War』に記載されている話である。

いや、或いは今回の対UAE原子力協定は、敢えて報復の対象となりかねない原子炉建設を明示することで、米国がイランに先制攻撃をする意図が無いことを示すためのサインと考えることも可能である。

また、点額法師個人としては、米国がUAEに提供するウランを何処から入手するかが非常に気になる。ここは是非カメコ(ccj:NYSE)からウランを取得して欲しいものだが・・・・。

単純な好奇心としても個人的な欲得絡みの話としても、今後の経過が興味深いニュースである。