2009年12月28日月曜日

第三百四十段 最近の気になったニュースを地図上にまとめる

ここ最近(大体1週間程度)の気になったニュースを戯れ半分に地図上にまとめてみた。


拡大中東地域



アフリカ


やはり個人的にはスーダンとチャドの関係改善の動きが一番気になる。

2009年12月14日月曜日

第三百三十八段 古胡今習?

習近平・中国国家副主席の来日にあたって、民主党が今までの慣例を破る形で副主席と今上天皇との接見を設定したことが国内各所に波紋を呼んでいる。それについてふと思ったことを書き連ねてみる。

考えると最近来日した中国要人で今上天皇と接見した人物と言えばまず2008年に来日した胡錦濤主席、それ以外となると2007年の温家宝首相、さらに遡って1998年の主席時代の江沢民氏となる。いずれも錚々たるメンバーである(因みに、先般来日した梁光烈国防相は今上天皇とは接見せずに帰国している)。しかも、当然ながらこれら中国の主席や首相と今上天皇との接見は今回問題になっている「1ヶ月ルール」に則った形で行われている。

それに比べると、副国家主席に就任してから1年程度の習近平氏に対し、今までの国家主席や首相に対してまで守られてきた慣例を無視して今上天皇との接見を設定するというのは、かなり破格の待遇といってもいいだろう。無論これは中国との関係を重視する日本民主党が新しい政権与党になったという点が大きく、中国に対して警戒心の高い日本国内保守派層を中心とした反発を読んでいる。


一方で今回の今上天皇との接見は、習近平副主席にとってもリスクとなり得る側面がある。例えば今まで国家主席や首相が来日した際に日本の今上天皇と接見したとしても、「首脳外交上の一儀礼」として中国内に説明すれば問題のない話である。
しかし、国家副主席に就任してまだ日が浅く、特に目を引くような功績も無い習近平副主席が来日し、それに日本側が天皇接見を始めとした最高待遇(しかも一部慣例を破ってまでの)で迎えたとしたらどうなるだろう? その場合、習近平氏とその勢力は以下の危険、若しくはそれらが複合化した危険を背負うことになる。

1.胡錦濤現指導部からの疑念
  →今回、就任して日の浅い副国家主席に破格の待遇を日本側は示したわけだが、どうだろう?
   部下が取引相手から自分と同等かそれ以上の待遇で接待されたと分かった時、平静でいられる
   上司はどれだけいるだろうか? 寧ろ部下に対して「早くも俺と同格になったつもりか?」と疑念
   に駆られたり、或いは「部下は取引先と結託して自分の追い落としを図っているのではないか?」
   といった具合に警戒感を高める事の方が多いのではないか?
   少なくとも「君は俺よりも好待遇の接待を受けたのか。そりゃよかった」と喜ぶ上司はいない筈で
   ある。そして未だ政権交代が制度化されておらず、最高指導者の人格に多くの面を負っている
   中国政府の有り様を考えると、今回の日本側の破格の待遇が習近平氏の今後に好影響を与え
   ることは考えにくかろう。

2.対日強硬派からの攻撃
  →たとえば日本で考えてみよう。大臣等に就任してまだ間もない人物が外国訪問をし、そこで
   慣例無視の接待を受けたとする。この時、多くの国民は「わぁ、就任間もない我が国の大臣を
   ここまで歓迎してくれるなんて、あの国は何と良い国なのだろう」と思うだろうか? しかもその国と
   は歴史的にも経済的にも多くの摩擦や問題を抱えているとしたらどうだろう?
   寧ろ多くの人々は「今回の大臣、就任間もないのにあんな関係を受けるなんて、どこか不自然じゃ
   ないか?」と疑念を抱くのではないだろうか?
   そしてそんな状態で対外強硬派が「あの新大臣は相手国に我が日本の国益を売り渡した売国
   奴だ!」と攻撃を加えたらどうなるか? 恐らく事実関係がどうであれ、多くの人は新大臣に対し
   て日本の国益を託すには望ましからざる人物だという印象を抱くと思われる。
   同じことが中国についても当てはまるだろう。しかも、中国共産党の中国支配の正統性は、何よ
   りも「中国大陸の人民を腐敗した国民党と残虐極まりない軍国主義日本から解放した」ことによっ
   ている(というか、それしかないとも言える)。そんな党の要人に「対日宥和派」のレッテルが張られ
   た場合、張られた側の政治的ダメージが如何に大きいか?
   それはかつての国家主席胡耀邦の対日穏健外交が「中曽根首相の靖国参拝を抑え込めなかっ
   た軟弱外交」との批判を浴び、それが彼の後日の失脚の一因ともなったことからも窺える。

以上の点から、今回の今上天皇との接見は、習近平副主席にとっても有難迷惑(贔屓の引き倒し)的な側面があると考えられよう。

逆に言うと日本側としては、習近平国家副主席に訪日以降至れり尽くせりの待遇を続け、中国側に「習近平は日本と親密」というイメージを定着させ、その後「靖国」や「歴史問題」で中国の反日感情をわざと炎上させることで、親日イメージのついた習近平氏の失脚を狙うという火遊びもないわけではない。

そしてそこまで狙って民主党政権が今回の接見設定を行ったのだとしたら、個人的には少しは同政権を見直すのだが、そうは全く見えない所が残念でならない。

そんなことをつらつらと考えていたら、時事通信に興味深いニュースが載っていた。それが以下のニュースである。
 【北京時事】中国国営新華社通信が発行する国際問題紙・国際先駆導報は14日、習近平国家副主席と天皇陛下との会見問題について「日本の民主党は戦後政 治の改革を進めており、宮内庁の主張する(会見1カ月前の申し出という)慣例も改革の対象の一つだ」と指摘し、会見を手配した鳩山由紀夫首相を擁護する論 調の記事を掲載した。
 記事の下には、鳩山首相の写真と民主党の選挙スローガンを入れた同紙年間購読の広告を掲載。記事は「(会見問題は)非難す るほどの問題ではない。中国のために慣例を破ろうが、日本のメディアがあら探しをしようが、共通点を求めて相違点を残し、共に発展を求めることこそが中日 外交の最優先事項だ」という見解を日本の世論として伝えた。(2009/12/14-12:43)(出典:時事通信

最後の「日本の世論」とやらはどう考えても中国共産党指導部の見解にしか見えないのだが、そこはさて置き、「今回の異例の天皇接見は日本側が言いだしたから、仕方なくそれに応じてやっているんだ」という、中国内の対日強硬派に対する予防線というか弁解じみたニュアンスを感じてしまうのは、あまりに牽強付会が過ぎるというものだろうか?

2009年12月11日金曜日

第三百三十六段 ギリシア債務問題に対する地政学的妄想

リーマンショックから1年以上の時を経て幾多の不安を抱えながらもそれなりの回復基調にある世界経済。だが、やはりあちこちに地雷は潜んでいるようで、2009年11月下旬にはドバイ政府系持株会社ドバイ・ワールドの債務繰り延べ要請に端を発する世界的な金融波乱があり、12月に入ってからは南欧ギリシャで財政悪化によるデフォルト懸念が浮上するなど、世界経済は未だ剣が峰を歩むような不安定な状態にあると言えよう。

それら世界経済の懸念材料の中で、ふと気になったのがギリシャの財政悪化である。今の所、EU各国やIMFはこの問題を「ギリシャ政府自身が解決すべき問題だ」として静観の構えをとっている。
そのことの是非やギリシャが果たして自力で財政赤字を解決できるのかについての経済学的な分析は自分の手の及ぶ範囲ではない。
気になったのはギリシャ財政赤字問題が東地中海世界の安全保障に与える影響である。

地図を見てもらえば一目瞭然だが、ギリシャの国土というのはバルカン半島が地中海に深く入り込んだ地帯とその周辺の島嶼部から構成されている。
その中でも注目すべきはクレタ島の存在である。この島は黒海の海軍力(地図内:赤矢印)、そしてレバントの海軍力(地図内:緑矢印)が勢力を地中海に広げようとした場合、真っ先に関門として立ちはだかる要衝にある。
イタリア都市国家のヴェネツィア、そして大英帝国が地中海においてオスマン帝国やロマノフ朝ロシア、フランスといった強大なライバルたちに対して優位に立つことができたのも、ヴェネツィアや大英帝国がクレタ島を押さえ、そこに強力な海軍力を駐留させておいたことに負う面が少なくなかった。また、米海軍がクレタ島を「空母休養寄港地」として頻繁に利用していることからも、同島の戦略的重要性が現代においても大きく減じていないことが読み取れよう。

だが、逆の視点、黒海やレバントに海軍力を展開させている勢力の視点から見れば、クレタ島は自身の勢力拡大を阻む忌まわしい枷以外の何物でもない。もし、この東地中海の「不沈空母」を自国の勢力圏に収める、悪くとも軍事的に無力化させることができる機会があるとすれば、彼らは喜んでそれを利用しようとするだろう。
そんな中で起きたのが、クレタ島を領有するギリシャ政府の財政危機である。「困窮したギリシャ政府に救いの手を差し伸べる。そして見返りにクレタ島の利用権を獲得する(若しくは他の利用者を締め出す)」という取引を持ちかける国があったとしても不思議はない。

そこで注目されるのがロシアの存在である。同じ正教圏の国として、ロシアは帝政の時代からギリシャを支援し続けてきたこともあり、両国関係は強固。そしてロシアはシリアに海軍基地を置くなど、冷戦時代のソ連さながらに地中海域での活動を活発化させていると同時に、現在ウクライナ領クリミアに間借りしている形となっている黒海艦隊の新たな根城を探す必要にも迫られている(現時点ではノヴォロシースクが移転先として有力のようだが)。

これらの事情を考えると、ロシアがギリシャに対する「緊急経済援助」を申し出てそれをギリシャが受け入れた場合、その見返りとして「クレタ島」が俎上に上がる可能性は十分に考えられる。
そして、もしそれが現実のものとなった場合、黒海に続いて東地中海が「ロシアの湖」と化すことになるだろうし、その影響はスエズ運河を超えて紅海、インド洋にも及ぶことになるだろう。

そもそも、ロシアには「アイスランド」という実例がある。

ワシントン(地図内:黄四角)とモスクワ(地図内:赤四角)のほぼ中間、北大西洋と北極海の境目、そして不凍港を有するという格好のロケーションを保持するこの島国が2008年に金融危機の大津波に呑み込まれた時、すかさず救援の第一声を上げたのがロシアだった。
当初アイスランド支援に冷ややかだった欧米はこのロシアの動きの前に掌を返すが如くアイスランド支援パッケージを用意することになる。

結局アイスランドは欧米の支援を受け入れることになり、ロシアの「支援」が実現することはなかったのだが、資源価格上昇を追い風に資金潤沢となったロシアの「通貨外交」の有り様を窺わせるには十分なインパクトがあったというべきだろう。

ここで再度視点をギリシャに移してみるとどうだろう? 一つの可能性として、ロシアの緊急ギリシャ支援発表とそれに慌てて対抗策を発表する欧米の姿が浮かんでこないだろうか? もしこの可能性が実現した場合、出遅れた欧米勢はロシアよりも寛大な援助策をギリシャに提示するか、それとも前述のように東地中海がロシアの勢力圏と化すのを拱手傍観するかの二択を迫られることになるだろう。

はてさて、結局ギリシャ財政問題がどのような決着を見せるのか? 今後が非常に興味深い。

また贅言ではあるが、ギリシャとしては、弱者の恫喝というか、ロシアの存在をちらつかせて米国やEUに迫り、最高の援助政策を勝ち取ることが可能となるかもしれない。

2009年12月5日土曜日

第三百三十五段 米国とイスマイル派の相似形

イスラム教がスンニー派とシーア派の二大潮流に分かれていることは割合人口に膾炙した話である。しかし、それは非常に大雑把な話である。イスラム教が誕生してからほぼ1400年。それだけの長い歴史があれば、当然ながら様々な分派活動があり、一般にスンニー派と称される流派の中にもワッハーブ派やハナフィー派等々様々な流れが存在する。同様の傾向はシーア派にもあり、十二イマーム派やザイド派など幾つかの流派が存在する。そしてそれらの諸流派は長い歴史の中で興亡を繰り返し、ある時代には隆盛を誇ったものが今や全くの少数派に転落してしまったり、滅びたり、或いは逆に今や押しも押されぬ一大勢力に成長しているものもある。

そんなイスラム諸流派の中で今回取り上げるのが、シーア派の中の一流派イスマイル派である。

イスマイル派の来歴や哲学といった詳しい話は省略するが、この教団は敵対する勢力の要人に対して優れた技能を有する暗殺者を派遣し、目標を的確に仕留めることでその威勢を中東一帯に鳴り響かせていた。バグダッドのアッバース朝カリフや各地方政権の君侯たち、そしてレバント地方に割拠する十字軍国家までもが貢納をおさめ、辞を低くしてイスマイル派の脅威から免れようとしたのである。

ではイスマイル派台頭の原動力となった暗殺者を、教団はどのように調達し、そして派遣された暗殺者たちはどのようにして憐れな獲物を屠ったのだろうか。
13世紀に活躍したイタリア商人マルコ・ポーロの旅行記、所謂『東方見聞録』、そして同じく13世紀にモンゴル帝国の中東遠征軍総大将フレグの下にクビライからの使者として派遣された劉郁の著作『西使記』、そしてそのフレグの息子アバカの統治下にあったイラク地方でシーア派集団の顔役として重きをなしたイブン・アッティクタカーの著作『アルファフリー』が一致して語る所によれば、次のようなものであったという。
教団は有能な若者を選抜するや、これに薬を飲ませて気絶させ、これを贅を尽くした秘密の庭園に運び込み、若者が目を覚ますや「ここは天国なのだ」と吹き込んで官能の限りを尽くした歓待を行い、しばらくたつとまた若者に一服盛って気絶させ、これを庭園の外に運び出す。若者はかつて「天国」で受けた歓待を忘れられず、それを再度受けること渇望するようになり、死への恐怖を無くしてしまう。教団はそれを見透かして、若者に短剣を渡し、「もう一度天国に行きたければ、どこそこのなにがしは異端者なのでこれを殺害せよ。そうすればお前の天国行きは約束されたものとなる」と告げるのである。
狂信と天国への渇望止まぬ若者はその短剣を懐に、獲物のいる場所への潜入し、僅かな間隙を縫って獲物の心臓に短剣を突き立てたのだ。
そしてイスマイル教団の暗殺劇は礼拝堂やバザールなど衆人環視の下で行われたのである。

この話を知った時、自分がまず想起したのは米軍の精密誘導攻撃とのあまりの相似であった。

というのも、イスマイル教団には各地に散らばるシンパから各国要人の動向について広汎な情報が寄せられていた。その情報に基づいて教団の勢力伸長にとって邪魔となる人物を特定し、それに対して有能な少数の暗殺者を派遣してこれを屠る。しかも暗殺は衆人環視の環境で行われるため、目撃者は多く、彼らは口で或いは手紙や文書を通じて自らが目撃した事件を相手に吹聴することになる。結果、イスマイル教団の恐るべき戦闘力についていわば口コミで評判が広まり、それが各国に「イスマイル教団侮り難し」との印象をより強めたことは想像に難くない。
米国の精密誘導攻撃もまた同じである。米国は様々な情報源から自国の脅威となる人物や政府(そしてその拠点)を割り出し、そこに少数の巡航ミサイルや精密誘導爆弾を投下して、獲物を屠る。
その有様はCNNやBBCその他の有力国際メディアを通じて世界中に喧伝され、各国は「米国に刃向うとどんなことになるのか」をまざまざと見せつけられることになる。
つまり、少数の攻撃を極めて効率的かつ正確に目標にヒットさせ、その成果を口コミそしてマスコミを通じて広めることで他国に無言の圧力を与えるという点において、イスマイル教団と米国の軍事行動は極めて似通っているのである。

自然界では同じ環境に適応していった結果、全く異なる種類の生き物が見た目では区別がつかないほどに似通う収斂進化という事例が知られている(例:サメとシャチ)。
その収斂進化は政治の世界においてもどうやら通用する理のようである。

第三百三十四段 アメリカのアフガン撤退策についての雑考

些か旧聞で恐縮だが、2009年12月1日にオバマ大統領は泥沼化して久しいアフガン(というか、アフガンが泥沼化していない時代は18世紀のドゥッラーニ朝まで遡らないと見出せない気もするが・・・・)について、「三万人規模の増派」と「2011年7月の撤退開始」を発表した。

かつてニクソン政権が「ベトナム戦争のベトナム化」達成のためにハノイを交渉の場に引きずり出そうとして北爆を強化した故事を彷彿とさせるオバマ政権の発表である。そして個人的には、「2011年からのアフガン撤退開始」を言明したのは実に巧妙な外交的一手だと考えている。その理由は以下の三点に求められる。

1.偉大な損切り
そもそも考えてみるに、911テロの煽りを受けて米国は多額の資金と膨大な兵力をアフガンに投じることになった。その結果生み出された巨額の米財政赤字は深刻な陰影を国際経済に投げかけている。
そしてアフガニスタンでの作戦を成功させるため、米国はロシアや中国、インドといった自国のイスラム勢力弾圧で悪評のある国々との協力関係強化を大っぴらに進めざるを得なくなり、皮肉なことに中東を始めとした世界中のイスラム教徒から向けられる批判と憎悪を増大させている。
その上、米軍が多大な兵力をアフガンに張り付けていることによって、他地域での米国のプレゼンスが惨めな程に低下し、それが特定の国々の地政学的な野心を高める結果に繋がっているのである。
だが、アフガニスタンに、そこまで様々な危険と負担を背負って介入し続けるだけの意味は果たしてあるのだろうか?恐らく「無い」と自分は考えている。何故ならアフガニスタンには見るべき地下資源もあまりなく、人口的に見ても新たな経済フロンティアとしての魅力は薄く、中央アジアの資源をロシアを迂回して運び出すための経路としての重要性も、中国やイラン、そしてアゼルバイジャンといった国々との協力で十分に相殺可能であると考えられるからだ。
つまり、米国にとってアフガンは労多くして益少なき事業の象徴ともいえる存在なのだ。ならばそんな事業は切って捨てるに限る。

2.イランへの牽制

核開発問題で一向に歩み寄りの気配を見せないイランであるが、その強気の判断を支えている根拠の中に「アフガン安定化で米国はイランの協力を必要としている」、「幾ら「軍事行動」の可能性に言及した所で、アフガンであらゆるアセットを消耗している米国にそんなことはできない」というアフガン・ファクターがある可能性は十分に高い。
更に、米国は今までカブール政権を支えるために、タリバンと長年敵対してきたハザラ人等のシーア派勢力にも支援の手を差し伸べてきた。そして米国にとっては皮肉なことに、イランにとっては有難いことに、アフガン国内のシーア派勢力を通じてイランはある程度の影響力をアフガンに及ぼすことができてきた。
だが、仮に米国がアフガンから姿を消したらどうなるだろうか? それはイランにとっての春の終わりを告げるものになるかもしれない。
まず米国は「アフガンの安定化」に口先以上の責任を負う必要性が無くなり、それに応じてイランに配慮を示す必要性も減少する。また、アフガンという傷口の止血に成功した米国はイラン攻撃に乗り出すだけの力をやがて回復させてくるだろう。そうなるとイランの現体制要人は寝ようとする度に枕元に立つ「オシラクの亡霊」にうなされることになるだろう。
更に考えていくと、米軍撤退後のアフガンではタリバンが新たな支配者になることが予想されるが、彼らの90年代の振る舞いを考えると、ハザラ人等のシーア派勢力に対する弾圧・迫害が再開されることは想像に難くない。さて、そうなった時イスラム教シーア派の盟主を以て任じるイランはどのような選択をするのだろう。もし「シーア派保護」を名目にアフガンに出兵すれば、各方面から多大な非難を受ける上、現在の米国が悩まされている問題をそのまま引き継ぐ形になってしまう。
かと言って、ハザラ人等のシーア派勢力に対するタリバンの弾圧を傍観した場合、ヒズボラやハマスでイランに対する不信が高まることは避けられないだろうし、それはイスラエルに対するイランの持ち駒が弱体化することを意味する。
その上、アフガンからの米軍撤退に伴う混乱の惹起は、難民や麻薬のイランに対する流入を加速させることになるかもしれない。
以上のような「米国のアフガン撤退」によってもたらされるであろう事態は、イランの野心に冷や水を浴びせ、より穏健な外交姿勢への転換をもたらすかもしれない。

3.中国への牽制
アフガンからの米国撤退は、恐らくアフガン自体に大きな混乱をもたらすものと考えられる。そしてその影響が波及する国としては前述のイランに加え、パキスタンが予想される。
そのパキスタンという国は、中国の対インド政策にとって欠くべからざる”戦略的資産”である。そこが大規模な混乱に見舞われた場合、中国は救援の手を差し伸べるか、インドのパキスタン介入を座視するか、恐らくはこの二択を突き付けられることになるだろう。もし後者を選択した場合、中国はインド洋への出口を失い、同時にチベットの後背に強大化したインドの存在を許すことになってしまう。これは北京の望む所ではあるまいから、中国は混乱する西方の舎弟救援に乗り出さざるを得なくなると考えられる。自然、北京の注意とアセットは西方にに主に注がれることになり、アジア・太平洋地域における中国のプレゼンス拡大に一定の歯止めをかけることになるだろう。

結語

つまり、米国はアフガンという重荷を投げ捨てることによって、自身が身軽になるばかりではなく、イランや中国といったライバル達の負担を高めることが可能になるのである。これが自分がオバマ大統領の「アフガン撤退」策を妙手と考える理由である。問題は、オバマ政権がぶれずにアフガン撤退を進めることができるか否か。様々な困難や反発が予想されるが、オバマ政権には頑張ってもらいたいものである。

2009年11月16日月曜日

第三百三十一段 イエメンに第二のヒズボラは勃興するか?

ソマリア海賊の跳梁跋扈ですっかり有名になったアデン湾。その北岸に位置するイエメンで、フーシ族等のイスラム教シーア派を奉じる勢力、イスラム教スンニ派が主導権を握るイエメン政府とそれを陰に陽に支援するサウジ政府、この両勢力が抗争を繰り広げている。そして当初は主にイエメン政府の後方支援に止まっていたサウジ政府が、ここ最近はシーア派勢力の国境侵犯を名目に直接空爆に乗り出している。

このイエメンにおけるスンニ派勢力とシーア派勢力の衝突について、点額法師がtwitterでフォローしている
カフェバグダッドさんが気になる呟きを発していた。即ち、「イエメンで、サウジ正規軍の攻撃を受けているイスラム教シーア派部族フーシ部族は、スンニ派に対峙する第二のヒズボラになりうる?」と。

中々に面白い呟きなので、足りない脳みそに煙を吐かせて考えてみた。

そもそも
フーシ族の対比として挙げられているヒズボラという組織であるが、これはレバノンに根拠をおくシーア派住民を支持母体とする組織であり、レバノン・シーア派住民の政治的権利や社会保障を促進する政治組織としての顔と、シリアやイランの支援を背景に地域軍事大国イスラエルに対しても一歩も引かない武装闘争組織としての顔を有するヤヌス的な存在である。

では、
フーシ族は第二のヒズボラたりえるのか?

それについては、サウジとの軍事闘争の成り行き、つまり
サウジがフーシ族の武力を壊滅することに成功するのか否か、そしてイエメン政府が政治的権利や経済的果実の分配についてどの程度シーア派住民を排除するのかによって、以下の四通りの可能性が考えられる。

1.サウジがフーシ族等のシーア派勢力の武力を壊滅に追い込む。
  同時に、イエメン政府が経済的果実や政治的権利の分配を通じてシーア派住民の
  取り込みに成功する。
  →この場合、深刻なダメージを受けたシーア派の武装闘争路線は、支持母体となる筈のシーア派
   住民の支持を思うように受けられず、衰弱死の道を歩むことになる。
   従って、イエメンで第二のヒズボラが台頭することはなくなると考えられる。

2.
サウジがフーシ族等のシーア派勢力の武力を壊滅することに失敗する。
  同時に、イエメン政府がシーア派住民への弾圧や締め付けを強化する。
  →この場合、武力を温存することに成功した
シーア派勢力は、イエメン政府に対するシーア派
   住民の不満・反発を取り込んで強大化することになる。
   従って、イエメンで第二のヒズボラが台頭することになると考えられる。

3.
サウジがフーシ族等のシーア派勢力の武力を壊滅に追い込む。
  
同時に、イエメン政府がシーア派住民への弾圧や締め付けを強化する。
  →この場合、深刻なダメージを受けたシーア派の
武装闘争路線は当面大人しくなるだろうが、
   イエメン政府に対する
シーア派住民の不満・反発を背景に徐々に力を取り戻していき、
   やがてヒズボラほど強力ではないにしろ、イエメンやサウジにとっては目障りな存在として
   復活してくると考えられる。

4.
サウジがフーシ族等のシーア派勢力の武力を壊滅することに失敗する。
  同時に、イエメン政府が経済的果実や政治的権利の分配についてシーア派住民に妥協する。
  →この場合、
シーア派武装闘争路線
はサウジやイエメン政府に対する軍事的勝利によって
   勢いづく一方、イエメン政府のシーア派融和政策を受け入れ、イエメン政府との共存を模索する
   シーア派勢力も一定度の力を得てくると思われる。
   従って、シーア派部内での派閥・路線闘争が新たに生じ、それにイエメンやサウジ、そしてイラン
   が介入する不安定な局面が続くことになると考えられる。

イエメン紛争の将来が上記四つのシナリオのいずれに帰着するのか? それともどのシナリオとも全く異なる決着を見せるかはまだはっきりとはしないが、ヒズボラがそのすぐ後ろににシリアという恰好の避難所兼庇護者を有していたのに対し、イエメンのシーア派勢力にはそのような避難所を見出すことが難しいこと、そして支援者とみなされているイランとも海によって隔てられること、サウジを止められる数少ない力である欧米が現時点ではサウジの攻撃を黙認していること、以上の三点がその成長にとって不利な点として挙げられる。

2009年9月13日日曜日

第三百三十段段 三沢F-16撤退と米朝直接対話

米国が日本列島に配備している所謂「在日米軍」は、大きな観点で言えば、ユーラシア大陸の国家が西太平洋上にまで勢力を広げ、米国と競合する大国として台頭することを抑止するために存在する。もう少し具体的に言えば、中国の台湾軍事制圧やロシア(かつてはソ連)の南下政策、北朝鮮の南進や崩壊に伴う混乱といった事態に対応するために存在する。

そんな在日米軍に注目すべき動きがあった。それは三沢基地からのF-16撤退構想である。9月11日の共同通信は以下のように伝えている。
米政府がことし4月初旬、米軍三沢基地(青森県三沢市)に配備しているF16戦闘機約40機すべてを早ければ年内から撤収させるととも に、米軍嘉手納基地(沖縄県嘉手納町など)のF15戦闘機50機余りの一部を削減させる構想を日本側に打診していたことが分かった。複数の日米関係筋が 11日、明らかにした。

 オバマ米政権の発足に伴う国防戦略の見直 しを反映した動き。日本側は北朝鮮情勢や在日米軍再編への影響を懸念し、いずれにも難色を示して保留状態になっているという。日米両政府は現在の米軍配備 を前提として在日米軍再編案に合意した。鳩山新政権の発足に伴い、この問題をめぐる協議が始まり、停滞している米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の嘉手 納基地への統合案などが再浮上する可能性もある。

 三沢基地の F16は冷戦末期の1980年代に旧ソ連をにらんで配備され、冷戦終結後は北朝鮮への外科的先制攻撃(サージカルアタック)を想定しているとされてきた。 ただ日米両政府内には、実際に先制攻撃する公算は小さい上、仮に攻撃せざるを得ない事態でも空母やグアムからの攻撃が可能で、三沢基地に配備する価値が低 減しているとの指摘があった。

 日本政府関係者はF16を撤収させ た場合「グアムの米軍基地から次世代型戦闘機F35を巡回の形で駐留させる可能性がある」と予測している。ただF35は量産態勢にまだ入っていない。これ を配備するとしても5年以上先で、三沢基地から常駐の米戦闘機がなくなる公算が出てきた。(出典:共同通信


記事にもある様に、三沢のF-16は最近はもっぱら北朝鮮に対する抑止力として機能してきた。それを撤退させるというのだから、「米国にとって北朝鮮は最早抑止対象ではなくなったのか?」という疑問が浮かんでくるのもやむを得ない所である。しかも、同日付に以下のようなニュースが報じられているのをみると、前述の疑問は「?」から「かもしれない」話に変化してくる。

【ワシントン共同】クローリー米国務次官補(広報担当)は11 日の記者会見で、北朝鮮が求めている米国との直接対話について「6カ国協議の前進につながるなら2国間協議の用意がある」と述べ、実現に前向きな考えを示 した。時期や場所は「決めていない」とし、今後数週間かけて検討すると語った。

 米国は、北朝鮮が6カ国協議復帰の意思を表明しなければ直接対話には応じられないとして慎重な構えを見せていた。次官補は「政策転換ではない」と説明したが、前提条件を一歩譲った形で、柔軟姿勢に転じた。

 次官補は、直接対話は「6カ国協議に復帰し、非核化への行動を取るよう北朝鮮を説得するため」として、協議の枠組み内との位置付けを強調。北朝鮮を除く5カ国の間で「共通認識ができている」と述べた。

  また今月下旬のニューヨークでの国連総会に合わせ、6カ国協議の参加国間で個別のハイレベル協議が予想されると指摘。オバマ大統領やクリントン国務長官ら が関係国と北朝鮮への対応をさらに話し合う機会になるとの見方を示した。国務長官が国連総会に合わせ北朝鮮側と接触する予定はないとした。(出典:共同通信


北朝鮮にとって最も優先順位が高い目標は「国体護持」である(要は金一族とその周辺の富貴と安全を確保することである)。その国体護持を脅かしかねない最大の脅威は現在の所米国であり、その米国と接触できる数少ない機会であるからこそ、中国が音頭をとる六カ国協議にも顔を出していたのだが、米国と直接対話できるチャネルが別に発生すれば、ますます以って北朝鮮の六カ国協議に対する熱意は冷めていくものと考えられる。

では米国は何故この時期、北朝鮮に対して「三沢F-16撤退構想」と「米朝直接対話の用意」というあからさまな宥和策を打ち出してきたのだろうか。可能性は二つ考えられる。

一つ目の可能性は、「功名の誘惑」である。ブッシュ前政権からのChangeを掲げて熱狂的な国民的支持の下発足したオバマ政権であるが、最近はアフガンの泥沼化加速と医療制度改革への反発、雇用の明確な改善が見られないこと(こればっかりは一概にオバマ政権のせいではないのだが・・・)を受け、自慢の支持率にも陰りが見え始めている。そのような状況下、目に見える手っ取り早い成果を求め、クリントン(夫)政権以来、米国外交にとっての難題であり続けた「北朝鮮との関係正常化」にオバマ政権が舵を切った可能性がある。その場合、当然ながら北朝鮮の核開発は黙認・放置されることとなり、北朝鮮の周辺国は「核兵器を保有した北朝鮮」との共存策を真剣に考えざるを得なくなってこよう。

二つ目の可能性は、北朝鮮の対中牽制網へ取り込みである。冒頭にも述べたように、米国の安全保障にとって重要なことは、ユーラシアの国家が陸軍国としてのみならず海上進出を果たして海軍強国として台頭することを防止することである。そんな台頭防止対象として真っ先に思い浮かぶのが中国であり、それに対する牽制役リストを充実させるために米国が北朝鮮取り込みを図っているという可能性が考えられる。考えれば米国がマラッカ以東に持つ同盟国は豪州と言い、日本と言い、韓国と言い、いずれも非核保有国であり、ここに核保有(疑惑)国北朝鮮を加えることができれば、米国の対中牽制役リストは戦略的オプションの増強に成功することになる。この二つ目の可能性の場合も、やはり北朝鮮の核開発・保有は既定事実として認められることになるので、やはり北朝鮮周辺国は「核兵器を保有した北朝鮮」との共存策を真剣に考えざるを得なくなってくる。

なお、北朝鮮が米国と接近した場合、最も割を食うのは六カ国協議主催の中国である。今後、北朝鮮を軸に米中がどのように動いてくるのか、非常に興味深い所である。

2009年9月7日月曜日

第三百二十七段 ブラジル次期戦闘機はラファールか?

次期戦闘機計画というと古くはF-2を巡る日米間のごたごた、最近ではF-22を巡るこれまた日米間のごたごたが頭に浮かぶが、旧式になりつつある戦闘機の更改を迫られているのは何も日本の話だけではなく、南米の大国ブラジルもまた、予算規模約40億ドル、購入機数36機という内容で戦闘機更改に向けた機種選定を進めている。

現在候補として残っているのは、米ボーイング社のF/A-18E/Fスーパー・ホーネット、スウェーデン・サーブ社のJAS39グリペン、仏ダッソー・アビアシオン社のラファールの三機種である(ロッキード・マーチンの株主としては、ここにF-16やF-35が存在しないことが残念でならないが・・・・)。各企業はブラジルへの技術移転等も視野に入れながら熾烈な受注合戦を繰り広げていたのだが、ここにきてダッソー・アビアシオン社が頭一つ抜け出したらしい。2009年9月7日のブルームバーグは以下のように伝えている。

9月6日(ブルームバーグ):ブラジルのルラ大統領は6日、フランスの航空機メーカー、ダッソー・アビアシオンから「ラファール」戦闘機36機を購入する交渉について、「大いに進展している」と語った。

ルラ大統領はブラジリアでラジオ・フランス・アンテルナショナル(RFI)のインタビューに応じ、数日中にジョビン国防相とダッソーの戦闘機について話し 合うと語った。ダッソーは、「F18スーパーホーネット」を生産する米ボーイング、「グリペン」を製造するスウェーデンのサーブとブラジルの受注獲得を 争っている。

大統領はインタビューで、「協議は順調に進んでいる」と述べ、「ダッソーとの話し合いは大いに進展しており、われわれは良い結果を期待できると思う」と説明した。

ブラジルは昨年10月、軍の近代化を支援する企業の最終候補として、ダッソーとサーブ、ボーイングの3社を選定。ただ、ルラ大統領は今週のサルコジ仏大統領のブラジル訪問中に契約が調印されるかどうかは明言できないとしている。(出典:ブルームバーグ


フランスもブラジルも米国とは一応の友好関係にありながら、地域大国としての誇りを胸に、決して米国に従順とは言えない振る舞いを見せるという点で実に似た者同士である。そんな共通点が両国を近づけたのか、古くはフランス製戦闘機ミラージュⅢをブラジルが採用したり、最近ではフランスがブラジルの原子力潜水艦建造に向けた協力を開始するといった具合に、仏伯両国は一定の軍事協力関係を構築している。今回の次期戦闘機選定でラファールが優位に立ったのもそういった背景があってのことだと言えよう。
もしこのまま首尾よくラファールが受注にまで漕ぎつけた場合、ブラジルは同機初の海外ユーザーということになり、JAS39グリペンとユーロファイター・タイフーンの狭間で存在感が霞んでいたラファールに注目を集める良い機会となるであろうことは想像に難くない。

さて、目を極東に移して政権交代の発生した日本では、F-X計画はどのような決着を見せるのだろうか? 既に2010年度予算の概算要求では
F-X調達経費の計上が見送られた上に、「アジア共同体」や「予算の無駄排除」を旗印とした民主党政権が成立。対中配慮や「福祉優先」の掛け声の下、計画自体無かったことにされそうな気もする・・・・。

2009年9月1日火曜日

第三百二十四段 中国二題

台風一過ですっきりした晴天の広がった2009年9月2日の東京。しかし、そんな澄み渡るような青空とは対照的に、なんとも先行き不透明感が漂っているのが最近の中国であり、その動静の中で特に気になったのが以下の二点である。

1.不調上海株
ある日、ルーズベルト大統領は私に対して、こんどの戦争をなんと呼ぶべきかについて、一般の意見を求めていると言った。私は即座に『無益の戦争』と答えた。前大戦の戦禍を免れて、世界に残されていたものを破壊しつくしたこんどの戦争ほど、防止することが容易だった戦争はかつてなかったのだ。

ウィンストン・チャーチル 『第二次世界大戦』

本日2009年9月2日は反発して終わったが、上海株がどうにも不調である。元来株式とは値段の上下するものであり、時に過剰な期待と過剰な不安がよりその振幅を大きくさせるものであることは贅言を要しない。だが、もし最近の上海株不調が、「過剰な期待の」の剥落や「過剰な不安」によるものではなく、中国経済の変調を正しく反映したものだとしたら、話は厄介である。
何故なら、それは北京政府の支配を動揺させ、悪影響を経済面のみならず、安全保障の分野にまで及ぼしてくる可能性が出てくるからだ。
そもそも、天安門事件以降の北京政府が用いてきた国内統治の要諦とは、鉄拳(軍・警察)かパン(経済成長)を国民の口を押し込み、以って政府批判を噴出を押さえることであり、現状で北京政府はそれ以外の有効な国内統治策を見出せていない。そのような状況下、もし上海株の不調が示すように中国経済自体が弱まっているのだとしたら、それは北京政府が目くらまし用にばらまくパンの在庫が払底しつつあることを示し、やがては北京政府が統治の二本柱のうち一本を失うことを意味する。そうなると、北京政府としては残るもう一本の柱、即ち鉄拳への依存を強めた統治をせざるを得なくなってくる。
それでも北京政府の鉄拳があくまで国内に向けられ続けるのならば全く問題はないのだが、一方で北京政府の鉄拳が南シナ海や東シナ海、台湾海峡や琉球諸島に向けられないという保障は存在しない(民衆の反発に直面した政権が、「外敵の脅威」を煽り立てることで民衆の怒りの矛先を逸らし、自分たちの保身を図るという現象は歴史上まま見られるものである)。
その上、昨今の経済危機で困窮した国民が政府への不満を募らせている現状は、何も中国に限った話ではない。程度の差こそあれ、日本や韓国、台湾、ASEAN諸国、どこでも見られる光景であり、少しばかり配慮を欠いた行為が相手の過剰反応を呼び起こし易い状態となっている。
別の言い方をすれば、現在の東アジア情勢は中国を弱い環としながら、各国がいつ誘爆するか分からない爆弾を抱えているかのような不気味さの中に佇んでいると言えるのだ。
こうした背筋にうすら寒いものが走るユーラシア東部の情景を目にする時、選挙大勝のユーフォリアに悪酔いして無邪気に「アジア共同体」、「アジア共通通貨」と声高らかに唱道している某国の新与党の姿勢はあまりに太平楽に過ぎるような気がする(というか、たかが株価不調でここまで心配する自分も大概だとは思うが・・・・)。

2.ミャンマー難民

囲師には必ず闕き、窮寇には迫ること勿れ

孫武 『孫子』

8月、ミャンマー北東部でコーカン族を中心とした少数民族と同国軍事政権との間で武力衝突が発生し、28日に至るや1万~3万人の難民が中国雲南省に流入したという(出典:共同通信)。
それをうけて8月29日には雲南省国境地帯にも着弾があり、数人の死傷者が発生したという報道があった(出典:時事通信)。
如何に「反政府組織鎮圧」のためとは言え、他国領内に砲弾を撃ち込んだミャンマーもミャンマーだが、撃ち込まれた方の中国が実に抑制的な態度だったことが印象に残った。
2008年3月1日、反政府組織コロンビア革命軍(FARC)の蠢動に悩むコロンビア政府が、エクアドル領内に空爆を加えてFARC幹部のラウル・レジェス殺害に成功した。だが、自国領内に爆弾を落とされたエクアドル及びその友好国ベネズエラはコロンビアの措置に強く反発し、国交断絶にまで至っている。この事例を思えば、今回の雲南省着弾に対する中国の静けさはとりわけ印象深いものがある。
そもそも、ミャンマー軍事政権を支援している筈の中国は、何故コーカン族は全人口で大体15万程度で約800人の兵力を持つとされている。対してミャンマー政府がコーカン攻撃に投入した兵力は最大で7千人程度(出典:asahi.com)。
兵力差だけを見れば包囲殲滅戦を仕掛けることが可能な状態であったし、実際に仕掛けていれば一敵対勢力を消滅させ、他の少数民族勢力に対する見せしめとして一定の効果を上げられたと考えられる。
にも関わらず、ミャンマー軍の包囲網は無欠とはならなかったし、そうさせたのはミャンマー政府を支援している筈の中国。何故か? 以前報じられた「ミャンマー核開発疑惑」と何らかの関連があるのか?
考えれば考えるほどに面白い案件である。

2009年8月30日日曜日

第三百二十三段 箴言2

箴言

「ウィン・ウィン」とは何か?
不都合を結果的に第三者に押しつける取り決め。

「チーム・プレイ」とは何か?
失敗は押しつけられ、功績は他人に持っていかれる作業形態。

「幸せ」とは何か?
自分が獲得できなくとも我慢できるが、他人が獲得するのは我慢ならないもの。

「正義」と「不正」とを分つものは何か?
ある行為を強者が行うか弱者が行うかの違い。

「卑怯」とは何か?
敗者の別名。

「楽しみ」とは何か?
一冊の良書、一篇の佳曲、一杯の好茶、異境の陣太鼓。

2009年8月27日木曜日

第三百二十一段 新露仏同盟?

帝国主義華やかなりし19世紀後半~20世紀初頭の欧州、鉄血宰相ビスマルクの辣腕と第二次産業革命の波に乗って新興国ドイツが急速に存在感を高めつつあった。
それに対して普仏戦争でドイツに苦杯を喫したフランスとドイツの東方拡大に脅威を覚えるロマノフ朝ロシアは、露仏同盟締結によってドイツの脅威封じ込めを図った。
一方のドイツは敵対的なフランスとロシアによって東西から挟撃されることを恐れてロシアに接近し、ロシアの注意を欧州から極東アジアに向けさせようとした。
そして露仏同盟とドイツの対ロ接近によって西側の患いをなからしめたロシアは、マンチュリアや朝鮮半島での支配権確立に走り、同じ地域での勢力拡大を図る大日本帝国と熾烈な戦いを繰り広げることになるのである。

そんなかつての政治劇を思い出したのは、ロシアの国営通信社Novostiが報じた以下のニュースがきっかけであった。

ULAN BATOR, August 26 (RIA Novosti) - Russia is planning on signing by the end of 2009 a contractual agreement with France on the purchase of a Mistral class amphibious assault ship, the chief of the Russian General Staff said on Wednesday.

"We are planning to reach an agreement [with France] this year on the production and the purchase of a Mistral class vessel," Gen. Nikolai Makarov told a news conference in the Mongolian capital, Ulan Bator.

"We are negotiating the purchase of one ship at present, and later planning to acquire 3-4 ships [of the same class] to be jointly built in Russia," the general said.

A Mistral class ship is capable of transporting and deploying 16 helicopters, four landing barges, up to 70 vehicles including 13 main battle tanks, and 450 soldiers. The vessel is equipped with a 69-bed hospital and could be used as an amphibious command ship.

Makarov did not disclose the amount of the deal, but a high-ranking Russian source close to negotiations earlier said the ship could be worth between 300 and 400 million euros ($430-580 mln).

The purchase, if successful, would be the first large-scale arms import deal concluded by Russia since the collapse of the Soviet Union.

Russia first expressed an interest in bilateral cooperation with France in naval equipment and technology in 2008, when Navy chief Adm. Vladimir Vysotsky visited the Euronaval 2008 arms show in France.

The admiral said at the time that the Russian Navy was interested in "joint research and also direct purchases of French naval equipment."

According to other military sources, the possibility of buying a Mistral class amphibious assault ship was discussed at the naval show in St. Petersburg in June this year.

Russia's current weapons procurement program through 2015 does not envision construction or purchases of large combat ships, so the possible acquisition of a French Mistral class ship is most likely to happen under the new program for the years up to 2020, which is still in the development.(出典:Novosti


記事の概要は、以下の通りである。
・ロシアがフランスからミストラル級強襲揚陸艦を輸入するために交渉を行っている。
・Makarov将軍が言う所では「現在は1席の輸入を目指して交渉しているが、今後、3~4隻の
 同型艦について仏との共同生産を行うことも計画している」。
・艦の値段としては4.3億ドル~5.8億ドルが想定されている。
・もし交渉が交渉が成立すれば、ソ連崩壊後のロシアにおいて初の大規模兵器輸入となる。
・ロシアがフランスとの海軍装備・技術の2国間協力に興味を示したのは2008年に遡る。

普段は人権やら自由やらご大層なお題目を掲げてロシアを批判し、2008年のグルジア紛争ではロシアの大国主義に懸念を示していた欧米諸国だが、いざビジネスとなればそんなものは歯牙にもかけない所がある意味で清々しい(因みに、Novostiが8月7日に報じた所によれば、ロシアは2010年の軍備支出として150億ドルを予定しているそうなので(出典:Novosti)、上手く食い込めば結構なビジネスチャンスが期待できる)

閑話休題、今回のニュースに象徴されるように露仏の軍事協力が進展し、独露関係もまた天然ガス権益に梃子に強化方向にあることを考えれば、現状、EUの中核たるパリ-ベルリン枢軸とロシアとの関係は大筋で改善方向にあるといっても差支えないだろう。そして、このことはロシア極東部に隣接する中国、モンゴル、日本、韓国といった国々の外交に一定度の影を落とすものと考えられる。

というのも、冒頭で少し触れたように、ロシアという国は、ロマノフ朝の昔から、西との関係が安定すれば東に攻め入り、東と和睦すれば西に侵攻する行動パターンを示してきたからだ。
そのことを考えるならば、ロシアと欧州(西)との関係改善によって、中国、モンゴル、日本、韓国といった東の国々の中に、露欧関係強化のとばっちりを受ける国があると予想するのも突飛な話ではないだろう。そして、恐らく露欧関係強化のとばっちりを受ける可能性が最も高いのは、所謂「北方領土問題」をロシアとの間に抱える日本と予想される。

もし日本が一人ロシアからの寒風に晒される状態を予防しようと思うのならば、未だ反露感情の強い中東欧諸国をロシアに対してけしかけるか、最近の米中接近を梃にロシアの対中疑心を強めるなどの外交工作が必要となってくるものと考えられる(特に前者については付随効果としてEUの内部分裂を誘発できる可能性もあるので、EUの「環境問題」を錦の御旗にした経済・規制戦争を仕掛けられている日本としては試してみる価値がありそうである)。

2009年8月26日水曜日

第三百二十段 死亡確認!

『魁!!男塾』という漫画がある(全34巻 宮下あきら作 集英社)。一言で言えば並はずれた身体能力と武術の腕前を誇る登場人物たちが「デタラメ人間の万国ビックリショー」も真っ青な戦いを繰り広げる格闘漫画である。
そのあまりに(色んな意味で)壮絶な戦いの果てに死人が出ることも珍しくなく、特に味方の人物が斃れた時には医務担当の王大人(ワン・ターレン)という人物の口から「死亡確認!」という無情の宣告が下されることになる。

共同通信が報じた以下のニュースを目にして、そんな王大人の宣告を想起してしまったのは私だけであろうか(因みに記事の見出しは「メスード司令官の死亡確認 パキスタン武装勢力幹部」であった)。

【イスラマバード共同】パキスタンのイスラム武装勢力「パキス タンのタリバン運動」の新司令官に選出されたと伝えられるハキムラ・メスード氏ら複数の幹部は25日、米軍無人機の爆撃で殺害されたとみられているベイト ラ・メスード司令官の死亡を認めた。AP通信などに語った。

 ハキムラ氏は、2007年末のブット元首相暗殺の首謀者とされるベイトラ司令官について「米軍無人機の爆撃で今月5日に負傷し、2日前(23日)に死亡した」と説明した。

 パキスタン政府などはベイトラ司令官が5日に死亡したとみていたが、遺体は見つからず、武装勢力側は一貫して死亡説を否定。ハキムラ氏は22日に後継司令官選出が伝えられたが、内部対立で武装勢力内が混乱しているとの見方も出ていた。

 ハキムラ氏は28歳で、6月に起きた北西部ペシャワルの高級ホテルでの自爆テロにも関与したとされる。(出典:共同通信


そもそも事の発端は、記事が伝える様に、今年8月、パキスタンの部族地域に対して行われた米軍の無人攻撃機による空襲である。その犠牲者の中にTTPのベイト ラ・メスード司令官が含まれている可能性があるという米国の見解がまず伝えられ、時を擱かずしてパキスタン当局が早々に同司令官の死亡を宣言していた。
それに対してTTP側は一貫して「メスード司令官は負傷しただけ」と死亡説を否定してきたが、ここに至って遂に死亡説を認めたのである。

このベイト ラ・メスードという人物は、2007年のブット元パキスタン首相の暗殺を始めとした数々のテロ活動の黒幕とされており、その首に対して米国は500万ドルの賞金をかけてその行方を追っていた。それほどの「危険人物」の死を味方のTTPすら認めたということは、アフガン・パキスタン地域で苦闘にのたうち回る米国・NATOにとっては数少ない朗報と言えるだろう。

しかし、ここで気になるのがパキスタン政府が早々に「メスード死亡説」を盛んに触れまわっていたことである。
パキスタンにおける最大の政治勢力でもあるパキスタン軍が、米国の対テロ戦争に協力する一方で、アフガン・パキスタン地域に巣食うイスラム過激派諸勢力との強いコネクションを維持し続けていることは公然の秘密とされている。
そんな軍の意向を決して無視するわけにはいかない現パキスタン政府がいち早くメスード死亡を高らかに宣言したのだから、様々な邪推が浮かんでくるのも致し方ないと言えば致し方ない所があろう。

そう言えば、『魁!!男塾』で王大人に死亡宣告されたキャラは、大抵実は生きており、パワーアップしての再登場を果たしていた。

アフガン・パキスタン情勢、もう暫く血腥い展開が続きそうである。

2009年8月23日日曜日

第三百十九段 インドは今日も旱干照り

以前のブログでもふれましたが(第三百十五段参照)、現在インドは少雨乾燥天候に祟られております。その結果、粗糖相場がインドと並ぶ大生産地のブラジルの天候不順と相まって高騰していることはブルームバーグ等の諸経済系メディアに報じられている通りに御座います。

しかし、何も少雨乾燥に弱いのは粗糖の原料たるサトウキビに限った話では御座いません。コメだってコムギだって雑穀類だって乾燥には弱いのです。よって「他の農産物にも粗糖高騰をもたらした悪天候の影響が及び、それが農作物価格高騰に繋がるのでは?」という推測を当ブログ第三百十五段で述べましたが、どうやらその予測実現に向けて力強い支援要素が現れたようです。8月21日のBBCは以下のように伝えております。

India will import food to make up for shortages caused by a drought thought to be affecting 700 million people, the finance minister has said.

The minister, Pranab Mukherjee, did not specify what would be imported and when, saying he wanted to avoid speculation on prices.

The drought is affecting almost half of India's districts.

Food prices have risen by 10% after poor monsoon rains hit sowing. Monsoon rains are critical to India's farmers.

'Grim situation'

Mr Mukherjee said any commodity that was in short supply would be imported to boost domestic stocks.

He said details of the imports were not being revealed, though reports said lentils, edible oils and other staples might be among the foods to be brought in.

The summer rains are crucial to crops such as rice, soybean, sugarcane and cotton.

Concern is also growing in India that international prices of many items such as sugar are increasing in anticipation of its need to import, the BBC's Sanjoy Majumder reports from the capital, Delhi.

The farm minister, Sharad Pawar, said the government would take action to ensure prices remained stable.

He added: "[The] situation is grim, not just for the crop sowing and the crop health but also for sustaining animal health, providing drinking water, livelihood and food, particularly for the small and marginal farmers and landless labourers."

Up to 70% of Indians are dependent on farm incomes, and about 60% of India's farms depend on rains.

Irrigation networks are dismissed by critics as inadequate.(出典:BBC

記事の概容は以下の通りです。
・インドの財務大臣が「旱魃による食料不足は7億人に影響を及ぼしかねず、その不足を補うため、
 インドは食料を輸入する意向である」と述べた。
・財務大臣は何をいつ輸入すべきかについては明らかにせず、供給が不十分なものが対象になる
 ということしか言わなかった。
・食料不足はインドのほぼ半数の地域に影響を与えている。

・食料価格は貧弱なモンスーンが播種期を直撃した後、10%も上昇した。

・モンスーン(夏の雨)は重要な意味を持つ作物としてはコメ、ダイズ、粗糖、コットン等がある。
・インド人の70%以上が農業収入に依存しており、インドの農家の60%程度が雨水頼りの経営である。

以前、中国でも大規模旱魃が発生し、穀物相場急騰ひいてはモンサントやポタッシュ社の株価高騰に儚い希望を抱いたことがありましたが(当ブログ第二百七段)、それはあくまで儚い陽炎に終わりました。というのも、旱魃の悪影響は中国内の農産物在庫放出で相殺されたか、国際的な農産物市場が上昇に向けて動くことはなかったからです。

しかし、今回はインドの財務大臣直々に食料輸入の必要性に言及している辺り、農産物市場の需給逼迫に向けての蓋然性が高まったと言えるでしょう。

怖いのは、経済の多くを農業に依存する人口大国インドで旱魃が発生したことにより、インド経済が冷え込むことでエネルギーや鉱物資源価格に負の影響が出てくることです。しかし、もとよりエネルギーや鉱物資源価格はインドよりも中国を向いて決まることが多い、その上、インド経済の失速が中国経済に甚大な悪影響を及ぼす可能性も低い、これらの要素を考えれば、インドの旱魃悪化が我がポートフォリオに与える影響としては、資源セクター銘柄への悪影響よりは農業セクターに対する追い風としての側面が強いと考えられます。

果たしてインドの旱魃が点額法師ポートフォリオに福音をもたらしてくれるのか否か、今後の展開が興味深い所です。

2009年8月21日金曜日

第三百十七段 中国冶金科工集団、株式上場のこと

数多の衝撃、幾多の屍を乗り越えてきた末、今年2009年に入ってからの株式市場は、世界的にも堅調な状態が続いております。それに伴って徐々に賑わいを取り戻しつつあるのがIPO。最近の主だったものを挙げていけば、ビザネット(ブラジル 調達額:37億ドル)、中国建築工程(中国A株、調達額:73.4億ドル)、光大証券(中国A株 調達額:16.1億ドル)、スターウッド・プロパティー(NY(REIT) 調達額:9.5億ドル)等がありますが、ここにきて中国の国営資源・エンジニアリング大手中国冶金科工集団もまた、上海と香港で株式を上場させるとのニュースが報じられておりました。
[上海 21日 ロイター] 中国証券監督管理委員会(CSRC)は21日、中国冶金科工集団(MCC)の新規株式公開(IPO)申請を26日に審 査すると発表した。中国冶金科工は、上海市場でA株(人民元建て株式)を公開し、約168億5000万元(25億ドル)調達する計画。

 CSRCのホームページに公開された中国冶金科工の目論見書(案)によると、A株を35億株を上限に発行するほか、香港でもH株を最大26億1000万株発行する計画。

 中国冶金は、CITICパシフィック(0267.HK: 株価, 企業情報, レポート)とオーストラリアで鉄鉱石合弁事業を行っている。(出典:ロイター


今回の上場、市場から調達した資金を以って更なる資源権益獲得に邁進しようという、中国冶金科工集団(とその背後にあるであろう北京政府)の意図が背景にあることは想像に難くありません(因みに最近の中国冶金科工集団の資源権益獲得に動きについては、当ブログ第三百段参照のこと)。

そしてこの中国冶金科工集団という企業をパッと見するに、中国という巨大市場へのアクセスを有し、そして国営という立場からは中央政府とのコネクションの存在も当然に想像され、しかもその事業領域は資源開発。点額法師の投資意欲をくすぐる要素に満ち満ちた企業です。

というわけで、早速中国証券監督管理委員会のHPに掲載されている(筈の)目論見書(案)を取得し、詳細に投資対象に加えるべきか検討することにしました。

問題無く目論見書があったので、早速右クリックしてダウンロード・・・・

↓↓↓
↓↓↓

・・・Bフレッツで7MBの文書を落とすだけなのに随分と酷い仕打ち。(△ ̄;)
しかも、最初6分だったものが7分、8分とどんどん遅くなっていくしょんぼり状態。

いいや、明日あたりから直接中国冶金科工集団のHPで直接情報を漁ることにしよう。幸いに英語版もあるようだし・・・・。(´・ω・`)

2009年8月20日木曜日

第三百十六段 ヴェトナム? ヴェトナム!

ヴェトナムとロシア、地理的には対極と言ってもよい位置にある両国だが、近現代史を遡れば、その結び付きが意外に強いことに気付かされる。1960年代から1975年のサイゴン陥落まで戦われたヴェトナム戦争におけるハノイ政権へのソ連の物心両面の支援は言うに及ばず、他にも、1900年代に勃発した日露戦争ではバルチック艦隊がカムラン湾で物資補給等を行い、1970年代から1980年代の所謂「新冷戦」期にはソ連とヴェトナムの連携が日米中の連携に対峙する構図が浮上した。

そんな両国の歴史的繋がりがそうさせるのか、今も尚ヴェトナムはロシア製兵器のお得意さんの一つである。最近では以下のニュースを8月19日にロシア国営通信社Novostiが報じている。

ZHUKOVSKY (Moscow Region), August 19 (RIA Novosti) - Russia will fulfill a contract on the delivery of eight Su-30MK2 fighters to Vietnam in 2010, state arms exporter Rosoboronexport said on Wednesday.

Russia and Vietnam signed a of $500 million agreement on the sale of eight Su-30MK2 fighters in January 2009.

"The contract was signed in January, and we will fulfill it in 2009-2010," Alexander Mikheyev, deputy general director of Rosoboronexport said at the MAKS-2009 air show near Moscow.

Mikheyev said Vietnam had already made several advanced payments under the contract and the deliveries would be made in two batches of four aircraft each.

Su-30MK2 is an advanced two-seat version of the Su-27 Flanker multirole fighter with upgraded electronics and capability to launch anti-ship missiles.

Russia's Federal Service for Military Cooperation said in June that Vietnam had expressed interest in buying additional Su-30MK2 fighters and talks on a new contract could start in the near future.

Military aircraft continue to dominate Russia's arms exports, and are expected to total about $2.6 billion in 2009 sales.(出典:Novosti


記事の概要は以下のようになる。
・ロシアからヴェトナムに対して2010年中にSu-30MK2戦闘機8機の引き渡しに目途がついた。
・戦闘機引渡は、2009年1月にロシア-ヴェトナム間で締結された5億ドルの契約に基づく。
・引渡は2回に分けて4機ずつ行われる。
・Su-30MK2には対艦ミサイルの搭載能力が備わっている。
・ヴェトナムは更なるSu-30MK2の追加購入に興味を示しており、ロシア-ヴェトナム間で近
 い将来に新たな契約合意が成立する見込みである。

注目すべきは、ヴェトナムの同機に対する強い購入意欲に対してロシアが乗り気であることである。

というのも、巷間知られているように、ヴェトナムは南シナ海に浮かぶ西沙諸島や南沙諸島の領有権を巡って中国と対立している。最近では中国の国営通信社新華社通信が以下のような記事・論説を掲載し、ヴェトナムへの牽制を図っている。
南海诸岛自古以来就是中国的领土,这是不容争辩的事实。而越南《青年人报》却对此提出质疑,在18日头条中称,从古至今,国际法及现实实践都从未承认所谓南海诸岛是中国领土的“历史名义”。

该报称,在联合国海洋法公约第3次会议上,各国没有就将历史海域的概念写入1982年《联合国海洋法公约》达成 一致。参照现行及古典国际法,中国对南海广阔海洋提出这样的要求是不合法的。文章还表示,本地区的国家从不承认中国的历史权利,相反,他们都制定了在本海 域的规定,并不理会中国方面的反对。

广西社科院研究员孙小迎18日表示,《联合国海洋法公约》1972年才开始讨论,在此之前,中国政 府就对南海有完整的主张和管辖。越南只是到了南北统一以后,才提出对南海的主权要求。孙小迎说,上世纪50年代,中国政府发表南海声明,时任越南总理随后 也发表声明承认中国的声明——东沙、南沙、西沙、中沙群岛属于中国。另外,国际法中还有时际法原则,即《联合国海洋法公约》出现在中国政府主张和管辖南海 之后,这个公约不能超越时际法原则。(出典:新華社通信


記事の概要としては、西沙諸島・南沙諸島等の南シナ海諸群島に対する中国の領有権主張に対してヴェトナムが「国連海洋法条約」を引きながら疑義を表明したことについて、中国国内の専門家が批判を加えるというものである(記事中でわざわざ「越南只是到了南北统一以后,才提出对南海的主权要求。」と言っている辺り、「ハノイがサイゴンを併呑できたのは誰のおかけだと思ってんだ!?」という北京政府の強い憤りが感じられる・・・・ような気がする)。
こうした状況を考えれば、中国の海軍力増強に対抗するため、ヴェトナムが対艦ミサイルも装備可能なSu-30MK2戦闘機の購入に積極的になるのは当然と言えば当然の話である。

一方、戦闘機を売りつける側のロシアの視点に立てば、売却先のヴェトナムが獲得した剣を突き付ける相手は、米国等の西側諸国にロシアが対抗する上で不可欠の盟友(と周辺諸国がみなしている)中国となる。しかもその中国自体が、ロシア製兵器の一大お得意様なのである。要するにロシアは紛争の当事者に対して両建てで武器を売却しているわけで、えげつないと言えばえげつないやり方ではある(もっとも、ヴェトナムなり中国なりにロシアが兵器を売らなければ、米国や欧州、その他どこか別の国がセールスに乗り出してくるだけのことで、関係に火種を抱えた中越両国に兵器が流れ込む構図自体は変わらないであろうが・・・)。

考えると、先年のグルジア紛争において、中国は盟友(と周りに思われている)ロシアの頼みを蹴って南オセチア等の独立を認めることはしなかった。

中露連携、それは丁寧に探せば意外に楔の打ち所に満ちた関係なのかもしれない。そして、もし中国やロシアとの間に安全保障上の懸念を抱える国々が首尾よく中露関係に楔を上手く打ち込むことができれば、その国は暫く面白いゲームを楽しむことができるだろう。

2009年8月2日日曜日

第三百十段 中国の北東と南西で進む核開発疑惑

「民主化弾圧への反対」を掲げた西側諸国の各種制裁措置を中国やロシア、北朝鮮といった国々への接近でほぼ無効化(少なくとも軍事政権が倒れない程度には無効化)してきた東南アジアの一国ミャンマーで核開発疑惑が浮上した。2009年8月1日の日経ネットは以下のように伝えている。
ミャンマーの軍事政権が核兵器開発を進めていると1日付の豪紙シドニー・モーニング・ヘラルドが伝えた。軍事政権は北朝鮮の協力で北部の地下に核開 発設備を整備し、国内産のウランを原子炉で燃焼させ、そこからプルトニウムを抽出し2014年にも核兵器の配備を目指しているという。

 同紙によると、豪国立大学の教授と豪州人ジャーナリストが、タイに亡命した元軍人と軍に近い企業の簿記係の2人から2年間にわたり聞き 取った証言から、ミャンマー軍事政権の核兵器開発が浮き彫りになった。お互いの存在を知らない2人の亡命者はほぼ同じ内容の証言をしたという。

 ミャンマーにはロシアから導入した実験用原子炉があるが、国際原子力機関(IAEA)の査察を受けており、軍事転用はしにくい。軍事政 権は地下にこの原子炉とほぼ同じ大きさの別の原子炉などを整備。ロシアの技術者が操作方法などを教えているという。(シドニー=高佐知宏) (22:02)(出典:日経ネット


このニュースが報じる所が事実だとすると、中国の北東たる北朝鮮と南西たるミャンマーという地理的に対照的な地域で核開発が連動して進んでいることになる。そこで気になるのが中国の両国の核開発に対するスタンスである。北朝鮮の核開発については中国は基本的に(抑制的ではあるものの)反対の姿勢を表明している。ミャンマーについてはまだニュースが報じられて日も浅いことから、中国の姿勢が報じられるには至っていないが、恐らくは北朝鮮同様に抑制された反対表明に止まるものと思われる。

しかし、ここで一つの疑問が浮かぶ「中国がそれを知らないなんてあり得るのか?」と。そもそも北朝鮮とミャンマーの現政権が厳しい国際情勢下で何とか存続しているのは、中国の陰に陽にわたる支援による面が大きい。そんな北朝鮮とミャンマーで核開発が進行しているにもかかわらず、その両国の最大の庇護者たる中国がそれを全く知らないということは、個人的な独断ではあるが些か腑に落ちない。寧ろ北朝鮮の核開発も(報道が事実だとした場合の)ミャンマーの核開発についても、「戦略上は損にならないから」と中国が黙認していると考えた方が座りは良い。

ならば北朝鮮とミャンマーの核開発進展で、中国が黙認の見返りに受けると考えられる利点は何か?

まず北朝鮮核開発については、米日牽制の効用と中国の極東アジア地域における影響力拡大が挙げられる。
仮に台湾有事が不幸にも勃発した場合、反中国陣営に回ると考えられるのが米国と日本である。そこでもし北朝鮮が核開発を進めている、若しくは核兵器保有に成功した場合、日米は戦略資産の一部を北朝鮮への監視・対処に割いた上で中国に対峙しなければならなくなる。どうせ衝突する相手ならば、100%全力の相手よりは90%、80%の力しか出せない相手と衝突する方がマシなことは言うまでもないだろう。
その上、北朝鮮周辺国は北朝鮮の核開発を押し止めるために中国の対北影響力に期待せざるを得なくなり、自然とあらゆる分野において中国の意向に全面的に逆らった行動をとることが難しくなってくる。
以上の二点が中国が北朝鮮の核開発から受けると思われる恩恵である。

次に今回報じられたミャンマーの核開発はどうか? 中国の軍事力や経済力を考えれば、付庸国同然のミャンマーに核を持たせてまで牽制するような(日本や米国のような)強力な潜在的敵対勢力は、東南アジアには存在しないと思われる。
だがここで地図上段を見てみると、ミャンマーの西には中国にとって油断ならぬ大国インドが控えていることに気付かされる。折しもインドは、今年7月26日に2011年の実戦配備を睨んで初の国産原潜を進水させ(出典:日経ネット)、今後十年間で軍艦100隻を建造する計画を発表しており(出典:FT紙)、その軍拡の背景にはインド洋への影響力拡大を望む中国への牽制があるといわれている。
それを頭に入れて地図下段を見てみると、中国にとって今最も油断ならない国の一つであるインドが、親中国で度々インドと矛を交えてきた核兵器保有国パキスタンと、西側制裁無効化のために対中依存を進めてきたミャンマーによって挟み込まれる形になっていることに気付かされる。

その上、最近、政府軍の勝利で一旦終結したスリランカ内戦についても、スリランカ政府に中国が多大な有形無形の援助を与えていたという話が広く語られている他、チベットについても中国政府はダライ・ラマ14世入寂後の亡命チベット人勢力分裂を見越しながら漢人の入植や交通インフラの整備による内地化を促進している。

これらを踏まえれば、インドは北のチベット、南のスリランカ、西のパキスタン、東のミャンマーから発せられる中国の圧力を感じずにはおれない状況下にあるといえる。

そんな状況下で出てきたのが、今回の「ミャンマー核開発疑惑」というニュースである。もしニュースが伝える様に、将来的にミャンマーも核兵器を保有することに成功すれば、インドは親中国の核兵器保有国に東西から挟み込まれる形となる。しかも北方には中国の核が鎮座しており、それも加えれば三方向から核の脅威を突き付けられる形である。安全保障関係者にとって国土を三方から核兵器保有国に包囲されるというのはこれ以上ない悪夢である。

その意味で、今回出てきた「ミャンマー核開発疑惑」は、海空軍を中心に軍の近代化を大々的に打ち出しているインドに対し、中国が牽制のために発した鮮やかなカウンター・パンチだと考えることができる。

その一方で、核兵器を保有した、或いは核兵器保有に一定度の目途をつけた北朝鮮やミャンマーが、これまで通り中国にとって都合のよい手駒として振舞ってくれるかは疑問の余地がある(これは最近の北朝鮮の動きを見れば一目瞭然であろう)。中国の一方的な勢力拡大を喜ばない日本や米国、インドにとっては、そこが附け込む隙になるだろう。

2009年7月30日木曜日

第三百八段 東南アジア色々

2009年7月もまさに終わらんとする昨今、東南アジア地域について幾つか気になるニュースがあった。

一つは、中国がマレー半島横断パイプラインの実現に向けてマレーシア企業と組んで調査を行ったというもの。7月28日、共同通信社は以下のように伝えている。

【シンガポール共同】マレー半島を横断する石油パイプライン計画を中国側が提案し、既に調査を行ったと、マレーシアの石油精製会社ムラポ・リソーシズのナズリ・ラムリ会長が明らかにした。28日付のマレーシア紙ビジネス・タイムズが報じた。

 中国の増大するエネルギー需要に対応するための提案で、中東からの石油をマラッカ海峡経由で運ぶ代わりに、マレー半島西岸にあるマレーシアのクダ州から東岸のタイ・ソンクラー県へパイプラインで運ぶ。

 会長は提案者の具体名を明らかにしていない。ムラポはクダ州で中国企業などと共同で大型石油精製施設を計画しているという。

 過密状態のマラッカ海峡に代わってマレー半島を横断する構想としては、これまでもタイ側、マレーシア側で別個にパイプライン計画が持ち上がっている。(出典:共同通信


中国が自国への石油移送について、アメリカ海軍の影響下にあるマラッカ海峡をスルーさせたいと考えるのは当然と言えば当然のこと。何しろ、将来的に中国が米国と朝鮮半島、琉球諸島、台湾、西沙・南沙諸島の支配権・宗主権を賭けてあらゆる手段を通じた競争関係に陥る可能性は十分にあるわけで、そんな時に、産業や軍事において血液の役割を果たす石油の供給路がライバルたる米国に握られているというのは中国にとって悪夢以外の何物でもないからだ(因みに、70年ほど前、米国に石油供給を押さえられているのに対米開戦した某国は、原子爆弾二発と米国側に付いたソ連の攻撃によってこの世から抹消されるに至った)。
中国としては、米国が中東での泥沼に嵌って東アジア情勢に積極的に関与する余裕のないうちに、自国の戦略環境を優位にするための既成事実をできるだけ積み重ねておきたい所だろう。まして今という時期は、米国の東アジアにおけるジュニア・パートナー日本国もまた与党自民党の弱体化で政治的混乱の季節を迎えようとしているし、台湾は政権が親中派な上に経済面での対中依存が益々強化されているという、中国の東アジア圏での影響力拡大にとってこれ以上ない好機なのだから。

二つ目は、華人主体の都市国家にして親米国でもあるシンガポールのSWFテマセクの動向である。7月29日のブルームバーグは以下のように伝えている。

7月29日(ブルームバーグ):シンガポールの政府系投資会社、テマセク・ホールディングスは、長期的な投資収益を目指し、目先の利益のために資産を売却 することはしない方針だ。将来は民間からの投資を募ることも検討する。ホー・チン最高経営責任者(CEO)が29日、シンガポールで語った。

  同CEOによると、同社保有資産の価値は過去1年に400億シンガポール・ドル(約3兆7600億円)余り目減りした。同CEOは30年程度の長期間でのリターンを目指すと表明した。

  シンガポールのリー首相の夫人である同CEOは「目先の利益のために家宝を売ることはしない」とし、われわれの「利害をしっかりと守っていく」と語った。

  同CEOはシンガポール外へ投資先を広げるとともに、金融関連の資産を増やした。米メリルリンチや英バークレイズ、スタンダード・チャータード銀行の株価は下落し、テマセクのポートフォリオの価値目減りにつながった。

  同CEOはまた、将来的にテマセクに対する政府以外の投資家グループを形成することを検討する方針を示し、民間からの投資を募る可能性があると述べ た。5-8年以内に「高い能力のある」投資家を募り、その後8-10年内にリテール(小口)投資家の出資を受け入れることを検討するという。(出典:ブルームバーグ


記事中で個人的に注目したいのが、テマセクが「将来的には小口投資家の出資も検討する」というもの。将来的に納付額以下のリターンしか見込めないくせに月々の給料から保険料を徴収していく日本の公的年金、企業年金に比べれば、SWFの老舗として高いパフォーマンスに定評のあるテマセクに出資する方が遥かに建設的な選択肢に思えて仕方がない(個人的な独断と偏見に過ぎないが、平時の市場環境時に日本の公的年金や企業年金が運用でテマセクに勝てるとは思えないし、テマセクが傷を負うような波乱の市場環境時に日本の公的年金や企業年金が無傷や最小限度の被害で済むとは全く考えられない)。
持続性の無い社会保障制度を押し付けられる極東の亡国に住む人間としては、テマセクが将来的に海外の個人投資家にも出資を認めてくれるよう祈念するだけである。

三つ目は、東南アジアの資源・人口大国たるインドネシアが金融危機に端を発する予算の問題で、外国からの武器購入計画を棚上げするというもの。ロシアの通信社Novostiは7月30日に以下のように伝えた。

JAKARTA, July 30 (RIA Novosti) - Indonesia has put off until 2011 plans to buy two submarines and several warplanes due to financial problems, the Antara national news agency reported on Thursday.

"Although the government will increase the fund allocation by 20% in the 2010 state budget, the increase is not yet enough to purchase main weapon systems such as submarines and new jet fighters," the agency quoted a Defense Ministry spokesman as saying.

Indonesia was planning to buy two submarines in 2010 from a yet-to-be-chosen country. Possible suppliers included Russia, Germany, South Korea and France.

The Defense Ministry said a decision would not be made any time soon.(出典:Novosti


米国にとって、人道的には問題だったかもしれないが地政学的な重要性はあまり高くない東ティモール問題によって、東シナ海とインド洋を結ぶ要衝に鎮座する資源・人口大国インドネシアとの関係が冷え込んでしまったのは痛恨事としか言いようのないものであった。そのおかげで兵器市場インドネシアはロシアや中国等が存在感を強めるに至ったのだが、上記記事が示すように、それも金融危機の余波で揺らぎが見えている。米国にはこれを奇貨としてにインドネシア関係を本格的に巻き返し、将来が嘱望されるこの高成長国に米国防衛企業が売り込みをかけ易い、契約を獲得し易い環境を構築して欲しいものである。

東南アジア地域地図

2009年7月18日土曜日

第三百三段 資源国モンゴルへの注目

モンゴルという国がある。多くの人々にとって草原と朝青竜を始めとした力士の出身国といったイメージが真っ先に思い浮かぶであろう同国だが、最近は鉱物資源開発のフロンティアとして、オユトルゴイ鉱区等に眠る莫大な資源が注目を浴びることが増えている(因みにブルームバーグの伝える所では、モンゴルの総輸出額25億ドルの7割以上が銅や金といった鉱物資源の輸出によるものだという(2008年時点))。

そのモンゴルから来日したサンジャー・バヤル首相は、麻生政権と原子力分野に関する協力、鉱業分野への日本企業の進出を促進するための法律整備で合意に達した他、来日中にブルームバーグとの取材に応じ、以下のように発言している(出典:ブルームバーグ
年間で1件以上の大規模な開発を行う。そのために毎年50億ドルの投資が必要。
・日本のような環境に配慮する技術を持つ国の投資が重要だ。

ウラン開発では、20億-30億ドル程度の投資が必要。

2008年年間GDPが約30億ドルの国の首相としては思い切った額を出してきたものである。そして考えると50億ドルという数字は、米国政府が今年4月にGMへの支援融資額として発表した数字と同じ。同じ金額を投じるとしたら、品質でも価格競争力でも完全に力を失った企業に融資するよりは、新興資源国への投資に投じた方が遥かに生産的と思われるのは、気のせいだろうか?

閑話休題、ブルームバーグという国際的メディアでの取材で多額の投資額や日本企業招致に意欲的な意向を口にしたバヤル首相の狙いとしては、基本的にモンゴルに流入する投資資金を少しでも増やし、経済の近代化を図ろうという意図があると考えられる。

視点を日本側に移せば、ウランや銅を始めとした各種鉱物資源の自給がほぼ不可能(所謂「都市鉱山」の活用を除いて)な日本にとって、比較的近い距離にあるモンゴ
ルを新たな大規模資源供給国とすることができれば、その利益は実に大きいものと推測される。
一方でモンゴルという国は、以下の地図に示すように、北はロシア、東西南を中国に囲まれた内陸国である。従って採掘した鉱物資源やその半加工品を日本に運ぶとすれば、ウラジオストク(地図中黄色四角で示す)や天津(地図中)といった中露の
港湾を利用しなければならない(他に北朝鮮の清津(地図中黄緑四角で示す)という選択肢も無いわけではないが、昨今の政治情勢やインフラの整備状況を考えれば、あくまで将来的な検討課題に止まるだろう)。



つまり、モンゴルの資源に対して日本がアクセスを確保しようとすると、どうしてもモンゴルとの関係のみならず、中露との関係を考慮に入れる必要が出てくる。では日本と中露との関係は最近どうなっているかというと、以下のようにあまり芳しからぬ状態となっている。
・ロシア → 日本が北方領土法改正で「北方領土は日本固有の領土である」旨を明記したこと
        に
ロシア側が反発し、関係は停滞中。
・中国 → ウイグル問題やリオ問題で中国は国際的な孤立感を強めており、日本が手を差し伸べ
       には絶好のシチュエーションなのだが、麻生政権弱体化と政権交代がほぼ確実視
されて
       いる衆院選が控えていることもあって日本動けず。

対露係については、「固有の領土」という従来通りのスローガンを法律に明記するだけでなく、対日返還後の国後水道や択捉水道を通じた海自や米海軍のオホーツク海進出制限を交渉の俎上に載せるといったメッセージを出しておけば、ロシアの反応もまた違ったものとなっただろう。
現在のオホーツク海はロシアにとってSLBM搭載原潜の聖域となっている。それは、ロシアが千島列島全体を押さえることで、他国の海軍艦艇がロシア側に察知されずにオホーツク海に進出することを困難にしていることによる。ロシアが北方領土、とりわけ国後島と択捉島の返還を渋る一因は、両島が日本に返還された場合、ロシアにとって”千島防壁”の南部に穴が生じることになり、そこの穴を通じて海自、そして米海軍の艦艇がオホーツク海に進出し、ロシアのSLBM原潜の安全を脅かす可能性を考慮していることにある。

よって返還後の国後水道、択捉水道の扱いについて日本が対露配慮を示す姿勢を示せば、それが領土問題でロシア側からの譲歩を引き出す突破口になる可能性があるのである。だが、今回の北方領土法改正について、そうした工夫は見られず、徒にロシアの反感を強めるだけに終わった。

そして
、外交功者の中国が珍しく見せた窮地。そこで日本は何も動くことができなかった。ひょっとして日本は対中関係について長蛇を逸したのかもしれない

こうした日本と中露との関係停滞は、後々、日本が資源国モンゴルにアクセスを図る上でよろしくない結果を生じてこよう。

個人的には、バヤル首相が前向きな資源開発への日本企業参入活発化が実現した場合、株式を保有しているBHPビリトンやカメコのモンゴルにおける便宜というか権益に悪影響が出なければ、それで全てOKではある

2009年7月15日水曜日

第三百二段 音速の遅い読書『朝鮮戦争』

今回の音速の遅い同書で取り上げるのは、以下の作品。

朝鮮戦争
マシュウ.B. リッジウェイ
単行本(ソフトカバー)
恒文社
総合評価 3.0
発売日 1994-10

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この作品は、1950年6月にソ連製の重火器で武装した北朝鮮軍の韓国に対する電撃的な奇襲で幕を開け、その後、米軍を中心とする国連軍や中国人民解放軍"義勇軍"の介入を招きながら、1953年7月の停戦に至るまで朝鮮半島全体を戦火の渦に叩き落した朝鮮戦争について、D・マッカーサーの後任として第八軍司令官となり、遂にはGHQ総司令官及び国連軍総司令官となって朝鮮戦争を戦い抜いたマシュー・リッジウェイが同戦争を回顧し、また、そこから導き出した幾つかの教訓を述べた作品である。

構成は以下のようになっている。
・序
・第一章 朝静かなる国 ―――嵐の前夜
・第二章 挑戦と応戦 ―――スミス支隊の勇敢な抵抗
・第三章 国連軍の攻勢 ―――仁川上陸と釜山防衛線突破
・第四章 鴨緑江岸の悲劇 ―――中国の参戦・第一海兵師団の撤退
・第五章 司令官の交代 ―――第八軍を引継ぐ―戦意の立て直し―攻勢へ転換
・第六章 マッカーサーの免職 ―――トルーマン大統領とマッカーサー元帥―マッカーサーの免職
                       ―原因と結果―中国軍の撃退
・第七章 嶺上の激戦 ―――休戦交渉と手詰まり状態―嶺上の激戦―敵の性質
・第八章 最後の数ヶ月 ―――最後の数ヶ月―捕虜の暴動―後任者クラーク着任―休戦協定調印
・第九章 マッカーサー論争の意味 ―――問題と解答―マッカーサー論争の意味―その軍事的
                          政治的意味
・第十章 平和探求への道 ―――学び得た教訓と学び得ていない教訓―われわれが平和を探求
                     する際のそれらの意義
・補遺
・訳者あとがき
・地図

前述と重複してしまう部分もあるが、朝鮮戦争とは、スターリン率いるソ連を盟主とする共産主義陣営と米国を中心とした自由主義陣営の地球規模での対立―――冷戦という国際構造を背景に、北朝鮮や韓国といった朝鮮半島の国のみならず、米国や中国、そして間接的にはソ連をも巻き込んで展開された熱戦であった。

本書はその戦争を実際に司令官として戦い抜いた人物の手による作品だけあって、北朝鮮軍奇襲による開戦とその一方的な進軍、釜山に追い詰められた米軍と韓国軍の必死の抵抗、米軍を中心とした国連軍の結成、国連軍総司令官マッカーサーの名声を不動のものとした仁川奇襲攻撃の成功と韓国軍・国連軍の北進、米軍との直接対峙を恐れる中国の援朝抗米義勇軍(実態は人民解放軍正規軍)派遣、北朝鮮軍と中国軍の反撃による二度目のソウル放棄、マッカーサーの総司令官解任、後任リッジウェイ指揮による反撃作戦の成功、そして板門店での休戦交渉に至る足かけ3年の戦いの様子が緊張感を感じさせる文章で鮮明に描き出されている。

その中で、特に点額法師の印象に残った文章を感想と共に挙げていきたい。

まず最初に挙げるのは、大日本帝国崩壊によって朝鮮半島の管理を任された米ソ両国のうち、ソ連の戦略的な動きについて述べた以下の一文である。
ソヴィエトは最初から、朝鮮半島は、ソ連以外のどの国からも干渉されないという"独立"を計画していた。

当時、ソヴィエトはスターリンの統治下にあった。そのソ連の朝鮮半島での動向を評した上記一文は、『アジア冷戦史』(2004年 中公新書 下斗米伸夫著)に出てくる、ミコヤンがスターリンの千島列島占領を後年評して言った「いかに彼が遠くを見ていたか、当時わからなかった」という言葉を彷彿とさせる。また、ここでは挙げないが、著者は、ソ連とは対照的に当時の米国に戦略的な朝鮮半島政策が無かったことも指摘している。その彼我の差が朝鮮戦争勃発の一因となったことは想像に難くない。

ソ連が朝鮮半島を自国の勢力圏とすべく半島北部を中心に着々と布石を打っていくのに対し、半島南半分を押さえる米国は第二次大戦という悪夢への解放感から、駐留兵力を大規模に削減し、金日成とその背後にいるソ連の蠢動について何ら手を打つことは無かった。この米国の「無警戒」が朝鮮戦争勃発の一つの伏線となっていくことは論を俟たない。朝鮮戦争勃発後の世界に生きる者にとって当時の米国の行動を非難することは非常に容易い。だが、リッジウェイはそうした後世の非難者達に対して以下の様に問い掛けている。
もしいかなる政治家でも、国家を依然として戦争体制下におき、本国から八〇〇〇マイルも離れた場所に大部隊を駐留させたままにしておくことを主張したならば、あの時代にはたして彼の政治生命は保障されたであろうか。

この問いかけは、軍事分野に限定されない、民主主義自体の宿痾を衝いたものと言える。将来の災厄を防ぐために現在に負担を要請するという困難。理想論で言えば、その難事を弁舌を以って平和裏に達成できる者こそ民主政治における政治家の有り様と言えよう。しかし、ルネサンスの賢人マキャヴェッリが喝破したように、民衆というものが「しばしば表面上の利益に幻惑されて、自分たちの破滅につながることさえ望む」存在である以上、その民衆に死命を握られた民主政治家が理想論通りに動くことは容易ではないだろう。

戦争開始の号砲を鳴らした北朝鮮の奇襲、国連軍・韓国軍に二度目のソウル陥落という煮え湯をのませた中国人民解放軍の半島介入。これらは完全な隠匿の下で実行されたものではなかった。北朝鮮軍が38度線付近に兵力を集中していること、中国が朝鮮半島に大軍を送り込んだこと、これらについて米国は多くの、そして時には決定的とも言える情報を掴んでいた。だが、それらの情報は他の多くの情報の中に紛れ、或いは決定者の先入観や思い込みの類によって慎重な検討に与れないまま、埋没していき、やがて予兆は誰の目にも明らかな嵐へと成長して眼前に現れることとなった。リッジウェイは本書でそうした実例を挙げた上で以下のように述べている。
われわれは敵の意図を自己流の解釈で判断する傾向があって、敵の戦力についての知識を尊重しなかった。

カエサルの「人は、ほとんどいつも、望んでいることを信じようとする」という警句を見ると、人間とは2000年やそこらでは進歩しない存在であるようだ。尤もこれは他ならぬ自分自身についても当てはまる言葉であり、拳拳服膺、肝に銘ずべき言葉だと思える。

最後に挙げるのは、以下の言葉である。
北朝鮮やジャングル地帯のような荒廃した国においては、補給線を「締め上げる」簡単な方法はない。自分の補給物資と武器を背に負い、夜間に行動するか、または日中は空から見つけることのできない小道を通って移動する、アジアの自給自足の敵兵の場合には、敵に爆弾を落とすことによって撃滅することができると考えるのは、自己満足に過ぎない。

21世紀の現在、米軍がもがき苦しんでいるアフガンの状況を考えると実に示唆的な言葉である。著者は、そうした「自給自足の敵兵」に対抗するには、こちらも応分の地上戦力を投入して直に相手と戦うしか道が無いことを述べている。だが、イラクで消耗し金融危機で経済が大きく傷んだ現在の米国に「応分の地上戦力」をアフガンに投入し続けられる余裕があるとは考えにくい。
ならばどうするか? 周辺国及び地元有力勢力と協力・妥協ぐらいしか実現可能な方法はあるまい。要は、米国がアフガンを起点とした国際テロリズムを討伐しようとするなら、イランやタリバンと妥協するしかないだろう。これが現時点での点額法師の考えである。

朝鮮戦争という歴史上の出来事に限定されない数々の教訓や警句の宝庫として、そして北朝鮮の核実験やミサイル実験に揺れる朝鮮半島情勢の根っこの部分を理解するための一助として、実に興味深い作品と言えよう。

2009年7月13日月曜日

第三百一段 ナブッコ・パイプライン、建設へ前進

「ナブッコ・パイプライン計画」というものがある。要は、中東やコーカサス、中央アジアの天然ガスをロシアを迂回したルートで欧州に供給しようという計画である。ロシアへの天然ガス依存が高まる一方の現状に危機感を抱いたEUが米国の支援も受けながら2002年以来実現に向けて動いてきたのだが、経由国間の意見・利害調整に手間取り、ずっと画餅に過ぎない状態となっていた。

以下がナブッコ・パイプラインの経路図(図中、水色ラインで表示)であるが、トルクメニスタンやアゼルバイジャンから始まって、グルジア、トルコ、ブルガリア、ルーマニア、ハンガリーを経てオーストリアのウィーンに帰着する経路を見るだけでも、如何に各国の利害調整が大変かは容易に想像がつこう。


いや、大変なのはパイプライン経由国との交渉だけではない。それにも増して「ナブッコ・パイプライン計画」の実現性を危険に曝し続けていたのは、「何処からパイ プラインで運ぶ天然ガスを持ってくるか?」という問題であった。当初予定されていたのはアゼルバイジャンやトルクメニスタンといったカスピ海沿岸国、そし てイランであったが、カスピ海沿岸国はあからさまにロシアを避けたルート設定の「ナブッコ・パイプライン計画」に参加することでロシアの逆鱗に触れること を恐れ、イランの参加についても核問題や対米関係がその実現を困難なものとしていた。

また、ナブッコ・パイプラインが実現した場合、欧州に対する天然ガスという外交上のアドバンテージを失うことになるロシアが「ナブッコ・パイプライン計画」への対抗策を打ち出してきた。
一つは「サウスストリーム計画」というもので、これはを黒海海底を通ってブルガリアを経由し、その後、セルビアとハンガリーを経由しオーストリアとスロ ヴェニアに向かうルートと、ギリシャを経由しイタリア南に向かうルートの2方向に分岐するパイプラインを敷設する構想である。
もう一つが、天然ガス供給国への働きかけである。具体的な動きとしては、ロシア国営のガスプロムがアゼルバイジャンと接触し、同社がアゼルバイジャンの天然ガスを優先的に輸入する権利を取得する、といった動き等がある。

こうした諸事情から「構想は素晴らしいが、実現性は・・・・」というのが「ナブッコ・パイプライン計画」に対する大方の評価であった。

しかし、最近はこうした逆風が俄におさまってきたようである。というのも、歴史的にあまりロシアと折り合いの良くないアゼルバイジャンは、結局ロシアとの天然ガス取引きを成立させる一方で「ナブッコ・パイプライン計画」へのガス供給から撤退することは無かった。
そしてここにきてトルクメニスタンもまた今月10日に、ベルドイムハメドフ大統領が「ナブッコ・パイプライン計画」に参加の用意があることを表明した(出典:共同通信)。
また、直接的な支援材料という訳ではないが、ナブッコ・パイプラインの経由国たるグルジアについて、米国はイージスミサイル駆逐艦スタウトを7月中旬に予定されているグルジア海軍の演習に参加させることとし、米国がグルジアから手を引くつもりはないことを如実に示した(出典:Novosti)。

こうした直接的・間接的な追い風を受けて、遂に関係国のうち、ブルガリア、ルーマニ ア、ハンガリー、オースリア、トルコがEUの仲介によってパイプラインの敷設に向けた協定で合意に達した。7月13日のブルームバーグは以下のように伝えている。

  7月13日(ブルームバーグ):トルコとブルガリア、ルーマニ ア、ハンガリー、オースリアの5カ国は13日、ガスパイプラインの プロジェクト「ナブッコ」を推進することで合意した。同プロジェク トはロシア産天然ガスへの欧州の依存低下を目指すもので、総額79 億ユーロ(約1兆170億円)規模。

  米国も支援する同プロジェクトは少なくとも2004年から計画さ れていたが、顧客や通過各国、ガス供給源などの確約が得られず遅れ ていた。

  トルコのエルドアン首相はアンカラでの調印式で、「ナブッコ・ プロジェクトは夢のような構想だとも言われているが、実際には成功 物語となり、疑問視していた人々が間違っていたことが証明されるだ ろう」と意気込みを示した。

  欧州へのガス供給は過去3年に2回、ロシアによる供給停止によ て滞った。欧州はこのプロジェクトでロシアへの依存低下を目指す。 カスピ海周辺で産出された最大310億立方メートルの天然ガスをト ルコ経由でオーストリアに送る同プロジェクトは2014年の輸送開始 を目指すが、ガス供給源確保でまだ競争にさらされている。

  エルドアン首相は、同「プロジェクトを支援する」さらなる合意 が半年以内に署名されるだろうと語った。欧州連合(EU)の欧州委 員会のバローゾ委員長は、プロジェクトに関与するパートナーらは、 年末までに「容量契約」を結ぶことを目指すと語った。

  合意を仲介したEUによれば、天然ガスはグルジア、イラン、イ ラク、シリア4カ国のうち3カ国からトルコに運ばれる。ナブッコは 今までにアゼルバイジャンやイラク、トルクメニスタンなどのカスピ 海沿岸諸国と天然ガス供給で交渉している。(出典:ブルームバーグ


さて、一方のロシアはどう動いてくるのか? 為す術もなく「ナブッコ・パイプライン計画」の完成を指をくわえてみているのか? それとも「ナブッコ・パイプライン計画」自体を葬り去ることに成功するのか? 或いは自国の損害を最小限に抑えた上で「ナブッコ・パイプライン計画」と共存していくことになるのか? 今後の展開が実に興味深い(それにしても、マジャール人やモンゴル人、オスマン帝国といった東方勢力の欧州進出を阻んできた城塞都市ウィーンが、21世紀には東からの天然ガス受入れ拠点となるとは、歴史の皮肉というか因縁を感じずにはいられない)。

2009年7月12日日曜日

第三百段 中国の資源獲得を巡る動き

一時の恐慌的な底値からは脱したものの、世界経済の冷え込みで実需が弱っているため、最近はどうも力強い騰勢に欠けた展開の続くコモディティ市場ですが、そんな状態での「押目買い」を狙ってのことでしょうか、中国の資源獲得の動きは今もなお活発のようで、幾つか注意を引かれる報道が御座いました。

まず一つ目が、中国がアフガン領内での銅鉱脈探査を実施しているというニュース。7月10日のカタールの英字紙Gulf Timesは以下のように伝えております。
A Chinese firm yesterday started work on a copper deposit in Afghanistan, part of a multi-billion dollar project and the first major foreign investment of its kind in Afghan history, an official said. State-owned China Metallurgical Group Corp and China’s top integrated copper producer Jiangxi Copper Co won a 2008 tender to explore and develop the vast Aynak Copper Mine south of the capital Kabul. Aynak is thought to contain up to 13mn tonnes of copper and is regarded as one of the major ore bodies in the world. The deposit was discovered in 1974 and surveyed by Soviet geologists in 1979 has never been developed until now.(出典:Gulf Times

記事によれば探査に乗り出した企業は、国営の中国冶金科工集団と銅生産中国最大手で香港上場の江西銅業公司とのことだそうですが、巷間知られているように、今アフガンは攻勢に出ているタリバンへの対抗策として米海兵隊が大規模な反撃攻勢作戦を展開している最中、そして8月には大統領選を控えており、政治的には何があってもおかしくない物騒な状態。そんな状態で将来に向けた投資を行うというのだから、現カブール政権のみならず、東南部で優勢を誇る(そして場合によっては将来のアフガン支配者)タリバンとも何らかの渡りをつけたということなんでしょうか?
中国とパキスタンの蜜月は広く知られている通りなので、パキスタン軍情報部ISIを通じればそれも不可能ではないのでしょうが・・・・。(w ̄)

二つ目が、7月11日のパキスタンの英字紙Business Recorderからで、イラン-パキスタン間ガス・パイプラインの敷設について中国とアブダビの企業が12億ドルの融資を申し出たというニュース。記事は以下の通りです。
KARACHI (July 12 2009): Two international firms have offered financing for the construction of $1.2 billion Iran-Pakistan (IP) gas pipeline project. This was stated by the Advisor to the Prime Minister on Petroleum and Natural Resources, Dr Asim Hussain while talking to media at the oath-taking ceremony of SSGC Peoples Labour Union (CBA), here on Saturday.

The advisor said the offer has been given by a Abu Dhabi-based company and a Chinese firm. He said work on the route survey has been started. He pointed out that the total cost of the project through land route is estimated around $1.2 billion while through sea route it would increase to $2 billion.

Dr Asim said the government has planned to invite more international oil and gas exploration companies for drilling in various fields. In this regard, he said, the government will organise road shows in various countries. He pointed out that two international companies will start drilling in current year while another company will initiate work next year.

He was optimistic that a huge foreign investment amounting to over $10 billion will come in the oil and gas sector in next five years. He said the government will obey the Supreme Court order with regard to petroleum prices. The advisor said the government did not impose carbon surcharge or petroleum levy on jet fuel to compete in the international market.

He pointed out that the prices of jet fuel are much lower than various competitor countries including Dubai. Any further increase in jet fuel can force the international airlines to stop fuelling from Pakistan, he added. Regarding the demands of SSGC employees, the advisor said that he has directed the company's management to start negotiations with the CBA on its charter of demand. He also directed the company to restore employees' quota of son and to provide them medical facilities after retirement.

He also announced to construct a low-cost housing scheme for SSGC employees. He said the cost of land for this scheme would be borne by the company. Earlier, speaking at the ceremony, Dr Asim said the government will announce new labour policy soon. He said the government wants to revive trade union activities in the country so that the workers could play their role for the development of the country.He said that some elements want to destabilise the system and they are misleading the people over various issues.

The recent global recession has hit almost all the countries in the world. However, the recent economic issues in the country are the result of wrong policies of the previous government. Umair Ahmed Khan, MD SSGC said the company will take every possible decision for the welfare of its employees. He said the company management has started negotiations with CBA on employees' charter of demand and it would be finalised soon.

Ejaz Baloch, President, SSGC Peoples Labour Union, Riaz Akhtar Awan, Chairman and others also spoke on the occasion. Sindh Minister for Katchi Abadis Rafiq Engineer, Secretary, People Labour Bureau, Khawaja Muhammad Awan, Advisors to Sindh Chief Minister Rashid Rabbani and Waqar Mehdi and a large number of PPP leaders and companies officials attended the ceremony.(出典:Business Recorder

もしイランの天然ガスをパイプラインでパキスタンまで運べば、採算性の問題はひとまず置けば、更にパキスタンから中国領ウィグル自治区までパイプラインを敷設し、そこから西気東輸(新疆ウイグル自治区タリム盆地~上海市間)のパイプラインに繋ぐという構想も成り立ちます。問題は道中に跋扈するイスラム過激派諸組織ですが、これは前述の内容とも重なってしまいますが、パキスタンのISIを通じた懐柔で対応することが可能と考えられます。さてさて、今後の展開が楽しみなニュースです。( ̄w ̄)

三つ目は、7月11日の中国の英字紙China Dailyが伝える所で、中国の石油大手ペトロチャイナが新日本石油の精油施設に対して出資するというもの。記事は以下の通りです。

The Chinese government has confirmed it granted PetroChina approval in June to take a stake in Nippon Oil Corp's Osaka refinery, a move to feed growing demand for oil in China.

The National Development and Reform Commission said on its website on Friday that the approval for the purchase in Japan's largest refiner had been given to PetroChina International Co in June, without giving details.

The two companies agreed in May last year to establish a joint venture to operate the refinery with a capacity of 115,000 barrels per day.

The Chinese oil giant would acquire a 49 percent stake in the venture and Nippon Oil would own the other 51 percent, they said.

Dai Peng, analyst with the Zheshang Securities, said the deal between the two oil giants will allow PetroChina to use surplus capacity of the Japanese company to refine oil. It is also an important step for PetroChina to expand its operation in Asia, he said.

Yang Wei, analyst with the Guotai Junan Securities, echoed with Dai, adding the deal will help cut refining cost for PetroChina as the company has a large output of oil overseas.

They both agreed the purchase would have little impact on PetroChina's performance in a short term.

Nippon Oil has provided PetroChina with refining services since 2004.(出典:China Daily


今年5月にペトロチャイナはシンガポールの石油精製大手シンガポール石油に最大22億ドルの出資を行い、シンガポール石油の完全子会社化に向けて動き出しております(出典:ブルームバーグ)。
今回の新日本石油精油所に対する出資と併せ、ペトロチャイナの川下部門の強化姿勢がより鮮明になってきたと言えるでしょう。

中国が打つこれらの布石が果たして成功するのか、そして危機脱却後の世界でどういった意味を持ってくるのかを考えるのは、実に楽しきことに御座います。

2009年7月10日金曜日

第二百九十八段 ウルムチの波紋

中国領の西辺、天然ガスと石油の宝庫にしてユーラシア中央部に睨みを利かせるための前線基地、そしてウイグル人を筆頭にイスラム教を奉じる少数民族が多く居住する新疆ウイグル自治区(省都ウルムチ)で7月5日に騒擾事件が発生し、7月8日には、イタリアでのサミットに参加予定であった胡錦濤国家主席は首脳国会議を蹴ってまで帰国の途に着くなど、事態は緊迫の度を増している。

そして武装警察のウイグル人に対する荒っぽい騒擾鎮圧や金曜礼拝の中止に対して、ウイグル自治区のみならず、世界中のイスラム教徒が中国政府への不満を高めつつある(金曜日はイスラム教にとっての安息日であり、集団礼拝が義務付けられている特別な日である)。

日本政府は9日に東京都内で開かれた「日中人権対話」で今回の騒擾事件を取り上げ、自治区住民に対する人権と基本的自由の尊重を中国側に要請したという。

ウイグル自治区の住民にとっては「ロクでもない事態」としか言いようのない今回の一件であるが、こと日本にとっては幾つかの点で悪い話ではない。というのも、ウイグル自治区での振る舞いで中国が世界中のイスラム教徒の反感を買うようになった場合、以下のことが考えられるからだ。


1.中東や北アフリカ、中央アジアやコーカサスといったイスラム教徒が多数を占める地域での、
  
中国のビジネスチャンスの減少(相対的に日本のビジネスチャンスが拡大する)。
2.中国の東方拡大の抑制(中国が西部地帯にリソースを回さざるを得なくなることで、
  日本との
係争が続く東シナ海ガス田地帯や尖閣諸島での中国の行動が抑制される)。
3.国際的イスラム過激派組織の目標の分散(非常に大雑把な話、目標が日米から
  日米中になることで、一国当たりのイスラム過激派による攻撃への遭遇率は低下する)。
4.中国の対日姿勢軟化(外交にあっては慎重居士の中国が、イスラム勢力を敵に回した
  状態で、同時に日本に対しても強硬姿勢に出ることは考えにくい)

実際、既にトルコではウイグル自治区騒擾事件に対する中国政府の行動に対する批判として、中国製品ボイコットの呼びかけが始まっているという。パキスタンの英字紙Business Recorderは以下のように伝えている。
ANKARA (July 10 2009): Turkey's Industry and Trade Minister on Thursday called on Turks to stop buying Chinese goods to protest the ethnic violence in Xinjiang province. Nihat Ergun's office said the minister asked Turks to boycott Chinese-made goods but that government had no plans for an official boycott.

``Let's check to see whether the country whose products we are consuming respects humanity,' the minister said during a visit to the central province of Yozgat, according to the private Dogan News Agency. Deputy Prime Minister Bulent Arinc accused Chinese militia forces of hunting down minority Muslim Uighurs.

Turks have close ethnic and cultural bonds to the Uighurs and Turkey has been vocal in its criticism of China despite growing economic ties to China. Arinc put the number of Uighurs based in Turkey at around 300,000. ``Now both the Chinese army is occupying the streets and militia called the Han Chinese, armed with batons and lethal instruments, are hunting down for Uighurs,' Arinc said. ``They are raiding homes, taking away children and women and there are a great number of deaths.'

``Unfortunately China, with its economic power, its influence and its power over world politics, is trying to cover up these incidents,' Arinc said. Arinc said he wanted China to investigate the events in a way ``that will not damage relations between China and Turkey.'

He said Turkey was prepared to help in the investigation. The rioting, sparked by a brawl between Uighur and Han Chinese factory workers, began Sunday and also left more than 1,000 injured. Uighurs beat Han - members of the majority ethnicity in China - and torched their shops and cars. After security forces quelled the riots, vigilantes on both sides attacked people in the regional capital Urumqi.

It was not known how many Uighurs and Han Chinese died. Turkish media and pro-Uighur associations however, have suggested that most of the victims were Uighurs, triggering daily protests outside Chinese diplomatic missions in Turkey. Several lawmakers have resigned from a Chinese-Turkish parliamentary friendship group in protest.(出典:Business Recorder

イスラム世界に反中感情が燃え上がるのが早いか、それとも中国が新疆の秩序を「正常化」するのが早いか、実に興味深い所である。

日本政府にとって対応が難しくなるのは、中国沿海部に出稼ぎに出て来ているウイグル人が騒擾やテロに走って沿海部の消費と生産に悪影響を及ぼしかねなくなった時であろう。中国沿海部の消費と生産は日本経済にとって重大な意味を有している。従って、そこが危機にさらされた場合、日本が既成秩序の担い手である北京政府支持に回るのは当然の帰結である。一方であまりに北京政府への肩入れが過ぎてしまうと、中国内におけるウイグル人等イスラム系少数民族の扱いに不満を募らせるイスラム諸国の心証を害してしまう危険性がある。原油の8割~9割を中東に依存する日本にとってそれは避けたい事態であろう。
中国をとるかイスラム教国をとるか、日本にとって実に悩ましいジレンマである。
中国が速やかに新疆の不満分子を平定してくれれば、日本がそのジレンマに悩むこともないのだが・・・。

2009年7月9日木曜日

第二百九十七段 音速の遅い読書『大英帝国の外交官』

今回の音速の遅い読書で取り上げるのは、以下の作品。

大英帝国の外交官
細谷 雄一
単行本
筑摩書房
総合評価 5.0
発売日 2005-05-23

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この作品は、近代日本有数の政治家の一人である吉田茂が回想録で引用した「ディプロマチック・センスのない国民は、必ず凋落する」という言葉で幕を開ける。ではディプロマチック・センスとは何か。それは本書の言葉を借りれば、「海図の無い国際政治の舞台で、いかにして自らの国益を定義して、いかにして自国の安全と国益を守り、国家の進路を展望する」ことだという。
通信技術や移動技術の発展により、海外情報や外国政府との接点が外交官の独占状態から多くの他省庁、民間企業や個人にまで開放された、また、世論というものを無視しては外交政策がもはや成り立たなくなった、そんな現在21世紀初頭の時代にあって、「ディプロマチック・センス」を育て磨きあげていくべき必要があるというのが本作品著者の問題意識である。

本書は、その「ディプロマチック・センス」について考えを深めるための具体的なケーススタディとして、第一次大戦終結から冷戦時代初期までの時代、英国で異彩を放った五人の外交官、ハロルド・ニコルソン、E・H・カー、ダフ・クーパー、アイザイア・バーリン、オリヴァー・フランクスにスポット・ライトを当てて、当該時代における英国外交の軌跡を辿ったものである。
ナポレオン戦争や日英同盟等、外交史の話題には事欠かない英国について、何故本書で取り扱う期間を第一次大戦後から冷戦時代初期までとしたのか?
本書の記述から窺うに、その時代が以下の3点で外交史上大きな転機であったからということらしい。
1.欧州に加えてアフリカやアジアが新たな外交の舞台として浮上したこと。
2.均質な外交環境を提供してきた欧州各王朝や貴族制が大戦と革命で崩壊したこと。
3.新たに世論が外交の主となったこと。

そんな本書の構成は以下のようになっている。
・はじめに
・プロローグ

・第一章 「外交官」の誕生

・第二章 「古典外交」の黄昏―――ハロルド・ニコルソン
・第三章 「新しい社会」という誘惑―――E・H・カー

・第四章 パリを愛するイギリス人―――ダフ・クーパー

・第五章 思想家としての外交官―――アイザイア・バーリン

・第六章 ワシントンの哲学者―――オリヴァー・フランクス

・エピローグ―――「外交官」の終わり?

・あとがき

・主要参考文献

上記の内、特に点額法師が個人的に印象深かったのが、第二章のハロルド・ニコルソン、第三章のE・H・カー、第六章のオリヴァー・フランクスである。

ハロルド・ニコルソンは外交官としての業績によるよりも、寧ろ『外交』という書物の著者として有名な人物である(日本語版は東京大学出版会より出版されている)。この『外交』は本作品の言葉を借りれば「おそらく世界で最も広く読まれている外交理論の書」であり、「フランスのカリエールが基礎をつくり、イギリスのアーネスト・サトウが発展させた「旧外交」の時代の外交理論を、最も体系的かつ魅力的に完成させた」作品である。
ニコルソンがそんな作品をものにすることができたのは、やはり外交実務の場で経験を積んだればこそであった。彼は30台という若さでパリ講和会議を始めとした第一次大戦の戦後処理に携わり、その能力を存分に発揮していく。だが、パリ講和会議では、列国の首脳が国内世論のウケを狙ってドイツに実現不可能な経済的懲罰と第一次大戦に係る全ての道義的責任の押し付けを強硬に主張し、或いは予備知識のない地域の国境線を無造作としか言いようのない不用心さで決定していく様を目にし、強い憤慨を抱くことになる。彼はとりわけりわけ英ロイド・ジョージ、仏クレマンソー、米ウィルソンの「三巨頭」について以下のように述べている。
それにしても、これら三人の無知で無責任な男たちが、ケーキを切るかのように小アジア(Asia Minor)を切り刻むのは、怖ろしいことです。そして私以外は誰も、事実としてこの小アジアとはこれまで何ら関連した仕事をしたことが無いのです。

こうした、民主選挙で選ばれただけで、必ずしも国際政治や他国の情勢に通じたわけでもない政治指導者が外交をリードすることへの不満の高まりが、やがて彼をして43歳の若さでの外務省辞職へと走らせることになる。そして外務省辞職後の文筆家家業の中で生まれたのが『外交』という作品なのである。
何となく、無実の罪による宮刑を発奮材料として不朽の名作『史記』を書きあげた司馬遷の姿と二重写しになるように思える。

E・H・カー、彼もまたハロルド・ニコルソン同様、外交官としての一面よりも別の一面で果たした業績が有名な人物である。彼は歴史学者としてロシア革命の研究に大きな足跡を残した。一方で彼のナチス・ドイツやソ連に対する宥和的な態度は、彼の論敵にとって格好の的であった。だが彼は凡庸な親独や親ソのイデオローグではなかった。実際、彼は外務省職員時代、ロシア革命の勃発とボルシェビキ政権について以下のような感想を残している。
彼らの崩壊をもたらす可能性が最も高いのは、ペトログラードとモスクワを飢餓に陥れることであるから、もしもわれわれが食糧を提供したとしたら、自らの目的を単純に放棄してしまうことになるだろう。

本書では彼のこうした言動を追いながら、カーのことを以下の様に評している。
カーの心の中には、ヒューマニティの精神が欠けていた。そこにあったのは冷徹に社会を洞察する眼識と、複数の価値観を均衡させる構想力と、社会に対しても自己に対しても本質的に懐疑的な精神であった。
また、カーの親ドイツ的な姿勢の背後にも「英国がドイツに対抗するには米国かソ連の協力が必要である。だが、英国は米国ともソ連とも対独協力体制を構築できなかった。ならば英国はドイツに宥和的であるしかない」という冷徹なパワーバランスに対する計算があったからだと本書は指摘している。
考えるとカーの生きた時代とは世界恐慌でレッセフェールな自由経済体制に重大な疑問符が付き、第一次大戦の惨禍が人間の合理性に対する楽観的な信頼を粉微塵に打ち砕いた時代でもあった。そして現在もまたサブプライム問題に端を発する世界的な金融危機の広まりによって市場経済に重大な疑問符が付き、宗教過激派の巻き起こす惨禍が「理性と対話」に対する信頼を大きく動揺させている時代である。この時代の相似形を考える時、カーの持っていた眼識、構想力、懐疑的精神というものは、現代人が世を渡っていく上でも大きな示唆に富んでいると言えるだろう。

オリヴァー・フランクス、彼は激化する冷戦を背景にマーシャル・プランや北大西洋条約締結といった多事に米英関係が揺らぐ中、駐米大使として米英関係の舵取りを任された人物であり、同時に哲学者としても有能な人物であった。だが、そんな彼の洋々たる経歴以上に印象に残ったのが、英米関係について述べた以下の言葉である。
特別の関係(the special relationship)とは、英語を使用する人々の間での、共有された伝統という神秘主義の上に成り立っているのではない。それは共通の目的と相互的な必要性によって成立するのである。それは、相互の信頼感という感情により動かされる共同作業という強靭な習慣に根付いたものなのだ。
本書でも指摘されているが、日本で米英関係の強固さについて語る時、「同じアングロ・サクソン国家だから」、「同じキリスト教文明圏にある」といった具合に文化や宗教、言語などにその強固さの淵源が求められがちである。しかし、オリヴァー・フランクスは、米英関係の強固さが文化や宗教といった「神秘的主義」によって自然発生的にもたらされるという考え方を斥け、強い目的意識と相互協力があって初めて成り立つものであることを説いている(そもそも言語や宗教、文化の共通性が自動的に国家間の協力体制をもたらすならば、アラブ諸国はとっくの昔にEU的、NATO的な枠組みの構築に成功してもおかしくはない。だが現実は・・・)。
だが、この相互協力というのも口で言うほど簡単なものではない。とりわけ相手が超大国米国ともなれば尚更である。米国との協力は時に「米国の犬」、「対米従属」という痛罵を浴び、威勢のいい「独自外交論」が幅を利かせることも少なくない。そんな中でも自国の国益を見定め、単純な従属でもなく敵対でもなく、地道に共同作業を積み重ねて超大国米国との関係を補強していく、そういう地味ながらも優れた対米外交を歴代政権が続けてこれた英国というのは、やはり成熟した国家にふさわしい見識というものを持った国家なのだろう。

書物を紐解く楽しみの一つは、地理的時間的制約を超えて魅力的な人物、興味深い人物、共感できる人物と巡り合えることである。そんな書物の楽しみを存分に味あわせてくれる作品である。

2009年7月6日月曜日

第二百九十六段 サウジ、航空会社を民営化のこと

危機に瀕した金融機関だけかと思えば、売れない車しか作れない自動車会社やら「いつ潰れてもおかしくない」と衆目一致する航空会社、時期的に疑問符の付くMSCB発行で「好況時の1000億円に匹敵する500億円」を用意した筈の半導体製造会社・・・・・、「100年に1度の危機」の掛け声の下、有象無象の企業に対する節操無き公的資金注入が跋扈する何とも嫌な世の中。

そんな梅雨空の如く鬱陶しい経済情勢に、一陣の涼風とも呼べる快事がありました。

快事の発生源はニューヨークやロンドン、東京といった資本主義の中心地から離れたサウジアラビア。快事の内容をUAEの英字紙GulfNewsは以下のように伝えております。
Riyadh: The Saudi Shura Council on Sunday submitted a recommendation that the government review a previous proposal to privatise the country’s national airline carrier, Saudi Arabian Airlines (SAA), the local Arabic daily Al Riyadh reported.

The Council had unanimously agreed that no less than 40 per cent of SAA’s shares be offered to the public as an IPO sale, while the government maintains an ownership of 51 per cent.

The Council also suggested that the airline’s fleet of medium and small aircrafts be expanded. (出典:GulfNews

記事の概要は、サウジが国営航空会社サウジアラビア航空(SAA)を民営化する方針であるというもの。株式の51%はサウジ政府が保有し続けるものの、40%以上がIPO時に売りに出されるとのこと。地域のアラビア語紙Al Riyadh紙の報道として伝えております。

ここで某国の航空業界を見てみれば、何時まで経っても経営改善が進まずに赤字を垂れ流し、長期展望に欠けた経営陣と労組が(仲良く)喧嘩を繰り返してばかりという某国のナショナル・フラッグ・キャリア(これでも一応民営)もあるわけですが、SAAにはそんなだらしない航空会社を反面教師として大きく世界に羽ばたいていって欲しいものです。(´ヮ`)

で、気になるのがこのSAAのIPOで何処の金融機関が幹事となるかというもの。おりもおり、日本の野村證券がサウジで事業を開始するというニュースが伝えられております(出典:日経ネット)。
事業を開始してすぐに現地の大型IPOを射止めるというのはあまりにファンタジー過ぎる展開ではありますが、このSAA以降もサウジの国営企業民営化もそれなりに進んでくるでしょうから、今後が興味深い所ではあります。( ̄w ̄)

・・・・それにしても、資本主義の主流であった北大西洋地域が今回の金融危機で深く傷つく中、中東では今回の件や2009年3月にシリア・ダマスカスで証券取引所が開設される(実際は40年振りの再開らしい・・・・)など、着実に地域内に資本主義が広がりつつあります。
ルネサンス期の賢人マキャヴェッリは『政略論』の中で「繁栄の基は時代とともに移動する」という旨の発言をしていますが、さて、中東は今新たに「繁栄の基」を迎え入れている段階なのでしょうか?

2009年7月2日木曜日

第二百九十四段 サウジ、国境警備システム強化のこと

2009年6月29日、イラク駐留米軍戦闘部隊が都市部からの撤退を完了させた。これによって、2003年3月19日のイラク戦争開始後のイラクにおいて一つの政治的節目が打たれたことになる。

しかし、今まで散々血で血を洗う凄惨なテロが繰り返されてきたイラク都市部が、突然「米軍撤退後は見違えるほど平和になりました」なんて展開はまずあり得ないと見てよいだろう。寧ろ、米軍戦闘部隊撤退によって巨大な力の空白が生じ、それを埋めようとする諸勢力が抗争を更に激化させる可能性が高い。そしてその抗争はイラク内の無秩序と混乱を増幅させ、テロリストや難民の流入といった厄介な問題を周辺国に投げかけることになるだろう。

7月2日にBBCが報じた以下のニュースは、そんなイラク情勢が背景にあるものと考えられる。

Defence and aerospace group EADS has won a contract worth an estimated $2.27bn (£1.4bn) to help Saudi Arabia improve its border security.
The five-year deal will expand on the pan-European firm's existing contract with the Saudis to improve security along its border with Iraq.
The new deal covers all of Saudi Arabia's other land and sea boundaries.
EADS will provide everything from new radar stations to camera systems and reconnaissance aircraft.
'Increased ability'
Analysts said the Saudi government is particularly determined to strengthen its border with southern neighbour Yemen, which it blames as the main source of smuggled weapons used by militants.
"You want to increase the ability of the border guards to achieve their goals," Saudi Interior Ministry spokesman Mansour al-Turki told the AP news agency.
"It's not enough to rely on traditional technology."
EADS is said to have beaten France's Thales, UK firm BAE Systems, and US group Raytheon to win the contract.
Saudi Arabia has the world's ninth largest defence budget, spending $38.2bn last year, according to the respected Stockholm International Peace Research Institute.(出典:BBC

記事の概要は、サウジが国境警備能力強化のために欧州防衛大手EADS(最近よく墜落するエアバスの親会社)と総額22億ドル以上の契約を締結したというもの。当該契約は元々EADSとサウジがイラク国境警備を強化するために締結していた有効期間5年の契約が拡張されたもので、EADSが警備強化を支援する国境はイラク・サウジ国境からサウジの全国境に拡大されることとなったという。

記事内では、当該契約の目的として、サウジは国内の反体制派に対する主要な武器補給路と化しているイエメン国境の警備強化を狙っているという専門家の取り上げているが、サウジが当該契約を発表したタイミングを考えれば、EADSとの契約はサウジが米軍撤退後のイラクに何ら楽観的な見方を抱いていないことを示しすものだといえよう。油田開発への外資参入等が注目を浴びるイラクだが、その安定化は依然として遥かな道程のようである。

・・・・で、そんな国士様的な意見はひとまず置くとして、個人的に最も衝撃的(痛撃的)だったのは、サウジ国境警備支援契約受注でEADSに敗れた企業の中に我らがレイセオンが含まれていたこと。・・・・泣いてもいいですか?(なに
前回の「サウジ、ユーロファイター導入」といい、どうも中東防衛市場での米国勢退潮を感じさせるニュースが続いている・・・・。全く憂鬱なことである。(´・ω・`)ションボリ

2009年6月26日金曜日

第二百九十二段 窮鳥は懐を目指す

核実験や強硬な外交姿勢で東アジアの安全保障環境を乱しに乱している北朝鮮が、また新たな問題行動を起こしている。6月25日のCNN Japanは以下のように伝えている。

(CNN) ミサイル部品や核関連物資を積載した疑いがある北朝鮮の貨物船「カンナム」がシンガポール経由でミャンマー(ビルマ)へ向かい、米海軍イージ ス艦が追跡している問題で、ミャンマーの国営メディアは25日、コメを積んだ北朝鮮船舶がインドから到着する予定があるものの「カンナム」寄港の情報はな いと報じた。

カンナムのミャンマー行きについては韓国のメディアが報じていたが、国営紙「ミャンマーの新しい灯」は、「関係当局は外国メディアが伝えるような情 報を持っていない」と報道した。ただ、インド・コルカタを出港した北朝鮮の船舶「MV DUMANGANG」が6月27日、コメ8000トンを積み、ミャ ンマーに到着するとした。

一方、シンガポールの海運行政当局者も25日、カンナムが同国への入港を申請した記録はないと述べた。

国連安保理は、北朝鮮が5月25日に実施した2度目の核実験を受けた制裁決議で、大量破壊兵器関連の部品などを積んだ北朝鮮船舶の検査を条件付きで認めている。米政府は、米軍イージス艦の追跡はこれに準じたものとしている。(出典:CNN Japan


東南アジアの軍事独裁国家ミャンマーは、1960年代の軍事政権樹立以来、「人権弾圧」を批判する西側諸国から経済封鎖を受け続けて今日に至っている。
但し、国際政治は殆どの場合「捨てる神あれば拾う神あり」な世界であり、西側諸国の制裁はミャンマー軍事政権を人権問題には頓着しない中国、ロシア、北朝鮮にすり寄らせる以外の結果を生んでいない。
特に中国との関係はもはや宗主国と属国のそれに等しいといわれており、中国は軍事政権を庇護する見返りにミャンマー領ココ諸島におけるレーダー基地・通信傍受施設の設置、シットウェにおける港湾機能拡張、そしてマラッカ海峡をショートカットする目的でミャンマーを縦断するパイプライン設置等を行っている。

その一方でミャンマーは北朝鮮と外界を繋ぐ三つの窓口の一つともなっている(残り二つは韓国との国境に程近い開城、中朝国境地帯の中国都市丹東)。従って、米海軍艦艇の追跡を受けている北朝鮮船が避難先としてミャンマーを選択するのは当たり前と言えば当たり前の選択である。

だが、北朝鮮船がミャンマーに向かうとなれば、ココ諸島の中国軍基地の監視の目を逃れることは難しいだろう。また、首尾よく北朝鮮船が米海軍艦艇の追跡を振り切ってミャンマーに到着したとしても、安心はできない。何故なら、そこは北朝鮮の意向よりも中国の意向が優先される世界だからである。

既に北朝鮮は中国の反対を無視して核実験を行った上、中国が議長を務める六カ国協議についても強い批判を加えてボイコットの姿勢を示している。端的に言えば最近の北朝鮮は一貫して中国の面子を潰し続けている状態なのである。

そんな状態で核関連・ミサイル関連物資の積載が疑われている北朝鮮船は中国の支配領域を目指して航行を続けているわけである。
では、件の北朝鮮船に対して北京政府はどのような決断を下すのだろうか?

個人的には、北京政府はココ諸島に置いた「監視の目」が取得した情報を米海軍の行動支援に利用し、北朝鮮船がミャンマーに着く前に米海軍の手で補足されるように仕向けると考えられる。
何故なら、北朝鮮船がミャンマーに到着してしまった場合、中国はミャンマー政府の行動を通じて世界に北朝鮮側に付くか、米国側につくかの旗幟を鮮明にせざるを得なくなる。そして、その時北京政府が下した決断はどちらの選択肢であっても、国際的な反響のみならず、中国政権内における「北朝鮮は中国の戦略的資産である」と考える一派と「北朝鮮は中国にとってお荷物でしかない」と考える一派の抗争をも呼びかねないからである。それは社会と共産党支配の安定を最重視する胡錦濤現政権にとって最悪の事態だろう。

逆に、北朝鮮船がミャンマーに到着して特に検査が行われずに荷が水揚げされた場合は、中国が東アジアにおいて日米同盟との対決姿勢を強め、北朝鮮を対米・対日戦略における鉄砲玉として利用する道を選択したものと考えられる。その場合、人口減少と経済力の退潮に悩む日本とアフガンを含む中東域での消耗と金融危機の爆発で深手を負った米国にとって、極めて憂鬱な東アジアの政治地図が浮上することになるだろう。

2009年6月22日月曜日

第二百九十一段 何を今更

カルザイ政権を支えるNATO軍、米軍と地元住民の根強い支持を受けるタリバンが泥沼の抗争を続けるアフガニスタンで、米軍が自らの手を縛る行いに出たという。6月22日の共同通信は以下のように伝えている。

【イスラマバード22日共同】アフガニスタン駐留米軍トップのマクリスタル国際治安支援部隊(ISAF)司令官は、民間人が犠牲になる のを防ぐため、空爆による攻撃は部隊が劣勢になった場合などに限定したい考えを示した。米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)が22日報じた。

 アフガンで5月、米軍機の爆撃により多数の民間人の犠牲者を出し、批判が高まったことを受けた措置とみられる。

 司令官は、武装勢力が潜む人口密集地の居住区攻撃について「われわれの部隊を守るときだけに(空爆)するべきだ。責任あるやり方をしなければ戦いに負けることになる」と述べた。(出典:共同通信


地の利に加えてある程度の人心すら掌握している地元勢力タリバンの攻勢に他所者の米軍・NATO軍が苦戦しながらも踏み止まってこれたのは、一重に空からの遠慮会釈ない火力投入があればこそである。その唯一の優位点に自ら枷をはめようというのだから、米軍の今回の決断は一見すると愚挙以外の何物でもないように思える。
では、何故米軍は愚断にしか思えないような振る舞いに出たのか? 記事では「民間人被害を抑えるため」としている。今まで空爆に伴う民間人被害を「悲しむべき付属被害」の一言で片づけてきた彼らが、今更人道主義に目覚めたとでも言うのだろうか?
多分にそれは否であろう。寧ろ米国の対アフガン戦略上、空爆を限定的なものにする必要が生じた、ただし、それを正直に表沙汰にすることは憚られるため、「住民保護」という当たり障りのない名目を掲げた、と考える方が遥かに分かり易い。

では空爆を制限する必要性とは何か? 一つの可能性としてタリバンとの和平交渉が考えられる。既にNATO軍や米軍の一部から「タリバン抱き込み」の必要性が度々言及されている。
考えてみれば、米軍やNATO軍はアフガニスタンが国際テロ組織の根城と化していたからこれを攻撃し、国際社会の多くはアフガンにおける米国やNATOの軍事行動を支援してきたのである。もしタリバンが国際テロ組織の受け入れ拒否や自らの厳格なイスラム法統治をアフガン域外に輸出しようとしなければ、西側を中心とした国際社会とタリバンが角突き合わせる必要性は完全に無くなる。
一方、米軍を中心とした多国籍軍が支えるカルザイ政権は、そのひどい腐敗ぶりからアフガン国内の人心を完全に失っており(いつかのインドシナ半島で見た光景・・・・)、各地の軍閥割拠にも何ら有効な対応策を打ち出せていない。
ならば、沈みかけの泥船と化したカルザイ政権を夥しい流血と資金を代償に支え続けていくよりも、一時はアフガン国土の九割を支配下に置き今なおシンパも多いタリバンを新たなアフガンの支配者と認めて支援し、それと引き換えにアル・カイーダといった国際テロ組織との決別をさせる方が国際社会の安定・平和維持に望ましい、という考えも成り立つ。

こうした考えに米国が完全に舵を切ったと考えるのは早計であろうが、カルザイ政権支援のための軍事活動の一方でタリバンとの交渉に乗り出している可能性は十分にある。そしてその秘密交渉での譲歩・妥協の一環として、米軍の空爆制限が発表されたと考えられるのではないだろうか。

ここで気になるのが、タリバンとの強いパイプを有するといわれる諜報機関ISI(統合情報部)を抱えるパキスタンが中央アジアのタジキスタンとエネルギーや貿易面での協力強化で合意した、という6月16日のパキスタン英字紙Business Recorderの報道である(出典:Business Recorder)。

地図を見れば一目瞭然だが、パキスタンとタジキスタンの間にはアフガニスタンの大地が広がっている。もしアフガン情勢が安定化しなければ、パキスタンとタジキスタンのエネルギーや貿易面での協力強化は画餅でしかない。
にもかかわらずパキスタンがタジキスタンとの経済関係強化に動いたということは、パキスタンは近い将来のアフガン安定化を見込んでいると考えてもあながち的外れではないだろう。そしてそのアフガン安定化の主軸となるのは、宿敵インドとの関係が強いカルザイ政権ではなく、ISIと深い関係にあるタリバンだとパキスタンは考えているのではないか。

また、アフガニスタンの政治日程を確認して見ると、8月20日予定の大統領選に向けて、6月16日から選挙戦がスタートした状態にある。この政治日程、そして関係各国の思惑が複雑に重なりあいながら、アフガンの波乱はまだまだ続くのであろう。
個人的に、大きな動きがあるのはアフガン大統領選出後2ヶ月間だと勝手に思っているのだが、さてどうなる事やら・・・・?

2009年6月19日金曜日

第二百八十九段 後生畏るべし・・・・か?

後生畏るべし。焉んぞ来者の今に如かざるを知らんや。
―――孔子(思想家 B.C.551~B.C.479)

良き性向は、時代によって移動する。かつてはアッシリアにあったそれが、次いではメディアに移り、その次はペルシアに、そしてその後も移動を続けてローマに至り、ローマを隆盛に導いた、というわけである。
―――ニッコロ・マキャヴェッリ(思想家 A.D.1469~A.D.1527)

6月号のフォーサイト誌に「中国の製造業発展は侮れない所まで来ている」という主旨の記事が載っていた。記事では、世界知的所有権機関が年毎に発表する国際特許出願件数で中国の通信機器メーカー華為技術が西側の有力企業(例:パナソニック、シーメンス、ノキア等)を押さえてトップに躍り出たこと、そしてBYDや奇瑞といった民族系自動車メーカーが販売シェアや技術面で急速に力をつけていること等が取り上げられていた。
この記事を読んだ時には「ふ~ん、どっかの「ものづくり」大国の企業も大変ねぇ・・・・」ぐらいにしか思っていなかったのだが、もはや中国の対日キャッチアップは製造業の分野に限定されずに広く確実に進行しているのかもしれない。6月18日、天下に名高いBBCのHPを見に行ってそう思った・・・・というか驚愕した。ありのまま今起こった事を話しそうになるほど驚愕した。

中国のネット事情を伝えるニュースが掲載されていたのだが、まさかBBCでにとりと遭遇するとは夢にも思わなかった。 なんだか妙に心惹かれる画像が掲載されていたのだ(以下図参照)。 


出典:BBC

BBCが取り上げていたニュースの概要は、北京政府がネット統制の一環として、当局が「有害サイト」と認定したサイトへのアクセスを阻止するため、全てのPCに検閲ソフト「Green Dam」のインストールを義務付けたこととそれに対する中国ネットユーザーの反発等を伝えるものであった。
で、画像の娘は、政府の規制策に反発した中国のネットユーザーが、揶揄を込めて「Green Dam」を擬人化したものである。こんな娘にだったら検閲されてもいい・・・・
巨大な災厄に対して、しかめっ面と悲壮感とで対するのではなく、寧ろこれをユーモアで笑いのめすというのはなかなか精神的な余裕というか成熟が無ければできることではない。更に災厄を萌え擬人化して積極的にネタとして楽しんでしまおうという姿勢はなおのことである。
鄧小平が「改革開放」の号砲を鳴らした「南巡講話」から17年で、中国にそんな余裕を身につけた層が登場してくるとは、正直思いもしなかったことである。

ここで愚考を巡らすに、日本は言うに及ばず、読めば思わずニヨニヨしてしまうこと請け合いのコミック『アンニョン!』を産み出した韓国といい、鮮やかな色使いと独特の光沢感で魅せるイラストを世に送り出しているCapura.Lin氏を始めとしたイラストレーターが活躍する現在の台湾といい、萌え文化が栄えているのは、いずれも中華本土の周縁部であった(最近の歴史学で言う所の「海域アジア」、地政学で言う所の「外周の半月弧」と呼ばれる地域。その日韓台いずれもが米国との同盟関係を外交・安全保障の主軸に据えているのは偶然の一致か・・・・?)

一方で中国本土の方から出てくるのは邪神セイバー涼宮ハルビンといった、「ちょっと待て!!」としか言えないような代物ばかり。正直、中国本土に対しては「ユーラシア中央部から溢れ出す遊牧民の圧倒的な破壊力に曝され続けてきたリムランド地域に属する中国本土は、「萌え」を生み出す余裕を持ち得なかったのだろうか?」という疑問を長年抱き続けてきた。
そんな中に彗星の如く現れたのが、今回の一件。

「萌え」の本場とも言える日本では、若年層に対するネットアクセス規制や所謂「エロゲー規制」の成立、国立マンガセンター構想(ナチスの「退廃芸術運動」を知る者としては、同構想は「国が認めてセンターに収録した漫画が正しい文化。そうでないものは下劣で世を乱すので弾圧する」と言っているようにしか聞こえない・・・・)といった具合に、萌え文化の自滅策というか確信犯的な壊滅策がとられつつあることを考えると、「良き性向」が日本から他所に移っていくのもむべなるかなといった所である。BBCのHPに掲げられた彼女の肖像画は、その「萌え」におけるポスト日本の隊列の中に中国が加わりつつあることを如実に示しているものなのかもしれない。

2009年6月18日木曜日

第二百八十八段 紅の楼で見る夢は・・・・

中国の有名な古典小説に『紅楼夢』という作品が御座います。
皇帝の寵を笠にきた賈一族の栄華と没落を背景に、主人公の少年賈宝玉と様々な魅力にあふれた少女たちとの交流・恋愛模様を綴った大河小説です(中国では『三国志』や『西遊記』、『水滸伝』と並んで『四大奇書』と称されているとか・・・・)
そんな本作品の最大の見せ場は、史湘雲の登場シーン三角関係とその主人公に不本意な決着、それが巻き起こす悲劇にあるわけですが、それを頭に入れた上で以下のニュース。6月15日の時事通信社が報じたものに御座います。
【北京15日時事】平壌発の新華社電によると、北朝鮮の労働党機関紙・労働新聞は15日、金正日総書記が最近、中国清代の古典小説「紅楼夢」の歌劇を鑑 賞したと報じた。今回の報道には、中国が国連安保理の対北制裁決議に賛成しても、中朝友好を重視する姿勢に変わりがないと伝える狙いがありそうだ。
観劇したのは咸鏡南道の咸興大劇場で行われた「血海(ピバダ)歌劇団」の公演で、日時は不明。3月には、今年の中朝国交樹立60周年を記念して「紅楼夢」 を上演するため、金総書記が同歌劇団に対し創作を直接指導したと報じられていた。(2009/06/15-19:15)(出典:時事通信

記事では「金正日総書記の『紅楼夢』観劇は北朝鮮の中朝友好重視を示すもの」と書いております。
しかし、繰り返しになりますが、『紅楼夢』の最大の見せ場は史湘雲の登場シーン「三角関係の悲劇的決着」「三角関係の悲劇的決着」にあるわけです。( ・`ω・´)+

で、現在の北朝鮮問題を中国視点で見てみると、一方に旧来の友好国かつ米国(直截的に言えば「在韓米軍」)との便利な緩衝役たる北朝鮮があり、もう一方に中国が今後も発展を続けていく上で欠かせないマネーや技術を有する米国が御座います。
中国が北朝鮮と米国のどちらかに肩入れすれば先にあるのは剣山刀樹(北朝鮮難民の流入、在韓米軍との直接対峙、西側からの孤立、等等等)。
かといって北朝鮮と米国の両方に矛を収めて共存するように仕向けるのも至難の業。今後、中国が「北朝鮮か米国か」という選択を突き付けられる可能性は極めて高いかと思われます。

「選択はしたくない、でもしなければならない」。まさに中国は北朝鮮と米国を睨んでの三角関係に呻吟しているわけですが、そんな所へ流れてきたのが「金正日総書記、中朝友好の証に『紅楼夢』観劇」というニュース。友好の証どころか強烈な当て擦りにしか見えないような気がするのは、点額法師一人だけでしょうか?(今日になって流れた中国発の「北朝鮮後継者、三男で決定か」というニュースは、中国側の意趣返しだったりして)

『紅楼夢』では、三角関係の果てに賈宝玉と結ばれなかった方のヒロインが悲嘆のあまり俄に病没してしまいます。そんな『紅楼夢』の情緒纏綿たる世界とは対極にある21世紀東アジアの国際政治、そこの物騒極まりない三角関係はどのような決着を見せるのでしょうか? 
個人的には、北朝鮮に不本意な状況となった場合、かの国が大人しく悲嘆に暮れるだけとは到底思えませんが・・・・(寧ろ、生霊となり亡霊ともなって光源氏を苦しめた六条御息所の方がしっくりきそう)。

2009年6月12日金曜日

第二百八十六段 音速の遅い読書『孤独のグルメ』

今回の音速の遅い読書で取り上げるのは、以下の作品。

孤独のグルメ 【新装版】
久住 昌之
コミック
扶桑社
総合評価 4.5
発売日 2008-04-22

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この作品は、下戸の中年貿易商井之頭五郎の一人メシの様を描いたコミックである。
といっても、贅を凝らした山海の珍味や食通を唸らせる美食が出てくるわけでもなく、食品に対する大層な蘊蓄やご高説が披露されるわけでもなく、ましてや食べた料理に対して感動のあまり「うー・まー・いー・ぞぉぉぉぉっつ!!」と絶叫して巨大化したり口からビームを出したりするわけでは決してない。
出てくる料理は殆どが焼き肉や回転寿司、まめかんやコンビニ食品といったどこでも見かけるようなものである。

出てくる料理は馴染みのあるものばかり、派手なアクションも仰々しい蘊蓄も無い、そんな漫画なのだが読んで退屈することはない。寧ろ主人公井之頭五郎の少しとぼけた感じと微妙な空回り具合、そして印象的なセリフ・独白といった諸要素が渾然一体となって静謐なおかしみに満ちた飽きの来ない作品に仕上がっているのだ。

そんな井之頭語録の中でも点額法師の印象に残っているのが以下に列挙する言葉である。

なかなか適当な食事場所を見つけられない時の一言
焦るんじゃない。俺は腹が減っているだけなんだ。腹が減って死にそうなだけなんだ。

新幹線で苦難の果て(笑)に口に運んだジェット・シューマイに対する感想
うん・・・・・・うまい。確かにうまい。しかし・・・・・・これはどこまでいってもシューマイだな。

チェリオ(メロン味)を飲んでの独白
このワザとらしいメロン味!

一人メシに対する主人公の気構えが実によく窺える台詞
モノを食べる時はね、だれにも邪魔されず、自由で、なんというか救われてなきゃあダメなんだ。一人で静かで豊かで・・・・・・。

深夜、仕事での空腹に耐えかねて呟いた独り言
腹もペコちゃんだし、夜食でも食ってひと息つくか。

繰り返しになってしまうが、これら独特の雰囲気を持った台詞・独白が谷口ジロー氏の緻密で静かな作画と組み合わさった時、スルメのようにじわじわとくる魅力が発生するのである。

そしてこの作品、ドラマCDが2009年9月に発売予定だという。
是が非でも入手したいものである。

2009年6月7日日曜日

第二百八十五段 I miss リチウム !!

最近、ガソリン車の後継者としてハイブリッド車や電気自動車への注目が高まっております。そんな事情を反映してか、6月7日の時事通信社で以下のようなニュースが報じられておりました。
 日立製作所など電機メーカーを中心に、自動車向けリチウムイオン電池事業の競争が加速している。3日には三菱重工業も同事業への参入を表明した。自動車産業は現在、米ゼネラル・モーターズ(GM)破綻(はたん)など苦境が続くが、復活に向けハイブリッド車(HV)をはじめ環境性能に優れた「エコカー」がけん引役となるのは確実。その性能を左右するリチウム電池も急成長が必至で、各社とも経営資源を集中する。
 日本自動車販売協会連合会によると、HVは既に5月の新車販売の8台に1台を占めており、エコカー市場は着実に拡大し始めている。しかし一段の普及には電池性能の向上が不可欠。リチウム電池は現在主流のニッケル水素電池に比べ小型・大容量化が可能で、エコカー電池の本命だ。
 日立は今秋にも次世代型電池のサンプル出荷を開始するほか、2010年からはGMに量産型電池を月間30万個供給する予定。GM破綻で計画の遅延も予想されるが、「GMも再生には(HVなど)環境対応が不可欠」(日立ビークルエナジー)とし、計画に大きな狂いはないと見る。
 新規参入を宣言した三菱重工は、12年に量産を開始する予定。当初は自社製フォークリフト向けに供給するが、将来は電気自動車(EV)向けに売り込む。
 リチウム電池で世界シェアの3割を握る三洋電機は、年内にも兵庫県に新工場を建設。10年度から国内2カ所で量産体制に入り、複数の自動車メーカーに供給する考えだ。東芝も新潟県に新型のリチウム電池工場建設を計画しており、エコカーへの供給を見据える。(2009/06/06-05:37)(出典:時事通信

要するに、「次世代自動車の動力源として有望視されているリチウム電池の開発に、日本の有名製造業企業が力を入れているよ」というのが上記記事の内容。

経済状況が大変に厳しい中でも次世代技術の研究・開発に積極的な日本のものづくり企業の姿を見ると、日本国民の一人として大変に心強いものがあります。(^-^)
・・・・なんて品行方正なことを当ブログで書く気は一切ありません。
そもそも「製造業が潤う → 日本全体が潤う」なんて図式はとうの昔に崩壊しており、非製造業部門で働く人間には日本の製造業が強くなろうが弱くなろうが知ったことではない話。その上、点額法師のポートフォリオには日本の製造業は組み込まれていないため、日本の製造業に対する個人的などうでもよさ感は更に強まることになります。

閑話休題。上記記事で注目したいのは「リチウム電池」というもの。どんなものかというと、読んで字の如くリチウムという物質を利用した二次電池です(「二次電池」とは充電することで繰り返し使える電池のこと。逆に一回使い果たしてしまえばそこで終わりの電池を「一次電池」という)。

そのリチウム電池を作る上で欠かせないのが、繰り返しになりますがリチウムという物質です。では、そのリチウムはどこで生産される物質なのか?
JOGMECのHPを利用して調べてみると、リチウムの埋蔵量は約2900万tで塩湖に水溶液の形で存在しているものが内3分の2、鉱石の形で存在しているものが3分の1という状態。
水溶液バージョンの主な生産地は南米(チリ37%、ボリビア29%、アルゼンチン14%)と中国(14%)、米国(6%)。特に中国の場合、リチウムを産出する塩湖はチベットと青海省(どちらもチベット人が多い地域)という実に剣呑な地域に御座います(水源地としての重要性に加え、次世代自動車の動力源材料までが眠っているのだから、中国がチベットや青海省の支配権維持にあらゆる手段を講じているのも実に納得のいくことではあります)。また、南米を見ても埋蔵量29%を占めるボリビアは外交面で強力な反米主義(裏返しとしての中国、ロシアへの接近)を掲げ、資源企業の国有化にも非常に積極的という、西側諸国にとってはなんとも厄介な相手。
では鉱石バージョンはどうかと見てみると、こちらの主要生産国は米国(47%)、コンゴ民主共和国(22%)、ロシア(10%)といった塩梅。

これら諸国と日本との関係を簡単に見てみると、中国は地政学的な対立面を多く抱える一方で経済面等で共通の利害もまた多い複雑な関係、米国は非常に重要な同盟国。されど米中両国とも、自動車産業の次世代の覇者の座を日本から奪取しようとする姿勢は共通しております(GMに対する米国政府の支援、中国でBYDがハイブリッドカー「F3DM」の販売を開始して奇瑞汽車や長城汽車が電気自動車の生産計画を発表しているのも、そうした文脈で捉えるべきものでしょう)。そんな米中両国が気前よくに日本にリチウムを売却してくれるとは少し考え難いものがあります。
ロシアもまた日本との間に領土問題を抱えている他、中国との外交関係、サハリンでの前例を考えるとリチウム供給を全面的に依存するのは少し危険な感じがします。
ボリビアについても「米国との同盟」という日本外交の基軸が逆に足枷になりかねませんし(少なくとも得することはない)、反米外交を掲げる同国に対する中国の接近を常に考慮に入れる必要があるでしょう。それに何より、同国には「リチウム生産が軌道に乗ったと思ったら国有化されていた」なんて危険性が十分にあるわけで、ここも全面的に依存できる供給先とは考えない方が安全かと思われます。

そうなってくると、日本としては比較的政情が安定して外交政策も穏健なチリ、アルゼンチンを主要なリチウム供給先として、他の国々を補完的な供給源とすることになりそうです。
ただ、これは誰でも考え付く話。よって日本の技術覇権を快く思わない国はチリやアルゼンチンへの働きかけを強め、リチウムの囲い込みに動くことが予想されます。

米国や中国の今後の動きが興味深い所です。( ̄w ̄)