2009年1月12日月曜日

第百九十二段 東側と西側の境界から運と不運の境界へ

澎湖諸島という地域が御座います。台湾海峡に存在する諸島で、現在は台湾政府の実効支配下にあります。

東アジアの近現代史に多少なりとも知識のある御仁であれば、日清戦争終結にあたって日本と清国との間で締結された「下関条約」によって敗戦国清国から戦勝国日本に割譲された地域の一つとして、

<下関条約(正式名:日清媾和條約)>
第二條 清國ハ左記ノ土地ノ主權竝ニ該地方ニ在ル城塁、兵器製造所及官有物ヲ永遠日本國ニ割與ス
一 左ノ經界内ニ在ル奉天省南部ノ地
鴨緑江口ヨリ該江ヲ溯リ安平河口ニ至リ該河口ヨリ鳳凰城、海城、營口ニ亙リ遼河口ニ至ル折線以南ノ地併セテ前記ノ各城市ヲ包含ス而シテ遼河ヲ以テ界トスル處ハ該河ノ中央ヲ以テ經界トスルコトト知ルヘシ
遼東灣東岸及黄海北岸ニ在テ奉天省ニ屬スル諸島嶼
二 臺灣全島及其ノ附屬諸島嶼
三 澎湖列島即英國「グリーンウィチ」東經百十九度乃至百二十度及北緯二十三度乃至二十四度ノ間ニ在ル諸島嶼
(出典:田中明彦研究室掲載のものより抜粋 強調部分は点額法師による)


または、第二次大戦後に中国共産党によって台湾へと逐われた蒋介石・国民党政権が米国との間で締結した「米華相互防衛条約」(1979年に米中国交樹立に伴って無効化)において台湾本島と並んで米軍が防衛対象とした地域として想起されるでしょう。

<米華相互防衛条約>
第五条
各締約国は、西太平洋地域においていずれか一方の領域に対して行なわれる武力攻撃が自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の手続に従つて共通の危険に対処するように行動することを宣言する。
前記の武力攻撃及びその結果として執つたすべての措置は、直ちに国際連合安全保障理事会に報告しなければならない。その措置は、安全保障理事会が国際の平和及び安全を回復し及び維持するために必要な措置を執つたときは、終止しなければならない。

第六条
第二条及び第五条の規定の適用上、「領土」及び「領域」とは、中華民国については、台湾及び澎湖諸島をいい、アメリカ合衆国については、その管轄権の下 にある西太平洋の諸島をいう。第二条及び第五条の規定は、相互の合意によつて決定されるその他の領域についても適用される。


第七条
台湾及び澎湖諸島の防衛のために必要なアメリカ合衆国の陸軍、空軍及び海軍を、相互の合意により定めるところに従つて、それら及びその附近に配備する権利を中華民国政府は許与し、アメリカ合衆国政府は、これを受諾する。
(出典:田中明彦研究室掲載のものより抜粋 強調部分は点額法師による)

映画好きの方であれば、「スパイ・ゲーム」において主人公ネイサンが中国に囚われたかつての部下を救うために立案した「ディナー・アウト作戦」の決行部隊(米海兵隊)が駐留していた地域として想起されるかもしれません(澎湖諸島に米国海兵隊の部隊(しかも隠密作戦を主任務とする部隊)が駐留しているという映画の設定も、同諸島が辿ってきた歴史的背景を考えれば十分にリアリティがあろうかと思われます)。

そんな歴史の荒波に揉まれてきた澎湖諸島について、2009年1月12日に以下のようなニュースが報じられておりました。

台湾でカジノ法成立 澎湖諸島に開設へ

  【台北12日共同】台湾でカジノ開設を認める法案が12日の立法院(国会)で成立し、是非をめぐり10数年にわたって議論が続いたカジノ実現化に道が開か れることになった。台湾海峡に浮かぶ澎湖諸島を管轄する澎湖県が産業振興に役立つとして誘致に名乗りを上げており、開設に向けた動きが今後、本格化する。
カジノ開設は馬英九総統が昨年3月の総統選で掲げた公約の一つで、与党国民党も実現に力を入れていた。澎湖県で近く賛否を問う住民投票が行われ、関係部門の法整備が行われる。
行政院(内閣)経済建設委員会は、カジノ開設で同諸島への観光客は年約50万人以上、総収入も約500億台湾元(約1360億円)に上ると予測。年間約128億台湾元のカジノ税収や、約5万人の就業機会の創出が見込まれている。(出典:共同通信)

このカジノが、人口約2000万人の台湾本島ではなく、その対岸にある大陸本土の人々に照準を定めていることは想像に難くありません。かつては冷戦の最前線として海峡を越えようとする大陸本土の動きに睨みを利かせていた澎湖諸島が、今や大陸本土から人と金を引き寄せるための装置として生まれ変わろうとしている。欧州において冷戦の象徴であった「ベルリンの壁」が崩壊したのが1989年。それから20年の時を経て、極東アジア地域に残存していた冷戦構造も牛歩の歩みながら着実に崩壊に向かっているようです(その原動力が、他ならぬ中国の「改革・開放」による資本主義化・経済大国化というのは歴史の皮肉でしょうか・・・・)。