2009年1月23日金曜日

第百九十八段 音速の遅い読書『老子』

今回の音速の遅い読書で取り上げるのは以下の一冊。

老子 (岩波文庫)
老子
文庫
岩波書店
総合評価 5.0
発売日 2008-12-16

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書誌的な情報を言えば、古代中国の春秋戦国時代に活躍した諸子百家の一つである道家の思想をまとめた書である。ただし、現在の形にまとめられ、著者が春秋戦国時代の伝説的人物たる老子とされたのは、前漢の時代からだとされる。内容の概略としては、世の名利に振り回されることなく、森羅万象の運行を司る「道」と合一した無為自然の生き方を説いている。

同書の説く「無為自然」という生き方と、物欲・金欲の業の中で己の効用最大化を至上命題とし、理と利の計算とその結果に基づく布石打ちに明け暮れる現在の点額法師の在り方とは、一見すると対極そのものと言える。にも関わらず、今回点額法師が『老子』に手を出したのは、別に何か思想的に転向したからというわけでは全くない。

行政学の基礎を築いた学者にして米国第28代大統領にもなったウィルソンは、「人を殺そうとしている男からもナイフの研ぎ方を学ぶことができる」と喝破した。そう、相手の属性・主義や人となりというのは瑣末な問題。重要なのは、相手から如何にして自分に役立つ知識・情報の類を引き出して自家薬籠中のものにするかということ(役に立たぬと判断すれば、早々に「対話」を打ち切り、無駄な記憶は忘却の海に沈めればよい)。点額法師が『老子』に手を出したのも、別にそこに述べられている思想に共感・転向したからではない。寧ろ物欲・金欲をより効率的・安定的に充足させるためのヒントを貪欲に広く求める動きの一環として本書を手にしたのである

それに、単なる「人殺し」を相手にナイフの研ぎ方を学ぶよりは、文字通り二千年以上の長きにわたって戦乱の中国大陸を生き抜いてきた古典に対峙した方が、得る所は大きかろう。

そんな理由で読んでみた『老子』。心に留めておくべきと思わされたのは、以下の通りである。

<老子 第二十四章>
自ら見る者は明らかならず。自ら是とする者は彰われず。自ら伐る者は功無く、自ら矜る者は長しからず。

「みずから見識ありとする者はものごとがよく見えず、みずから正しいとする者は是非が彰らかにできない。みずから功を誇る者は功がなくなり、みずから才知を誇る者は長つづきしない。」

点額法師の過去を振り返るに、少しばかりの知識や成功に得意になり、目には鱗、心に驕りがさして結局最後に痛い目を見るということが少なからずあった。特に「自ら見る者は明らかならず」は肝に銘じ、常に己の足らざるを振り返り、知識の習得に努めようと思う。

<老子 第三十五章>
楽と餌には、過客止まる。故より道の言を出だすは、淡乎としてそれ味無し。之を視れども見るに足らず、之を聴けども聞くに足らず、之を用うれども既す可からず。

「音楽とおいしい食べ物には旅人も足を止めるものである。だが、もとより道が語りかける言葉は、淡々として味がない。目を凝らしても見ることができず、耳を澄ましても聞くことができないが、しかしその働きは尽き果てることがない。」
世の中耳に心地よき言説が方々でひっきりなしに飛び交っている。金融市場で言えばかつての「デカップリング論」や米国住宅市場に対する楽観論等等・・・イチイチ挙げていけばきりがないほどである。しかし、そんな「楽と餌」に人々が酔いしれているうちにも、景気循環は静かに確実に次のステージに移行しようとしていた。世間に蔓延る言説に惑わされることなく、経済潮流の転換点をある程度嗅ぎ分けられるような投資家でありたいものだ。

<老子 第六十三章>
難きを其の易きに図り、大なるを其の細さきに為す。天下の難事は必ず易きより作り、天下の大事は必ず細さきより作る。是を以て聖人は、終に大を為さず。故に能く其の大を成す。其れ軽がるしく諾せば必ず信寡く、易しとすること多からば必ず難きこと多し。是を以て聖人すら、猶お之を難しとす。故に終に難きこと無し。

「難しいことは、それが易しいうちに手がけ、大きいことは、それが小さいうちに処理する。世の中の難しい物事はかならず易しいことからおこり、世の中の大きな物事はかならず些細なことからおこるのだ。そういうわけで聖人は、いつも大きな物事は行わない。だから大きな物事が成しとげられるのだ。いったい、安うけあいすればきっと信用が少なくなるし、易しいと見くびることが多くなればきっと難しいことが多くなる。そういうわけで聖人でさえ、物事を難しいこととして対処する。だから、いつも難しいことにならないのだ」
「千里の道も一歩から」、「ローマは一日にして成らず」にも通じるものがある文章である。そう、難事とはいきなりフル装備の最強形態で突如現れるわけではなく、日々の易事が積み重なった末に現れるもの。日々の小さな努力を倦まず飽きず、諦めずに続ける事こそ大事を為すための要諦。これは特に資格試験において言えることだろう。

・・・・会計士試験頑張ろう。