2009年2月14日土曜日

第二百十一段 中国の原発増設計画

世界的に不況風吹きすさぶ今日この頃、各国中銀の手札が少なくなってくると同時に各国政府の財政政策、特にインフラ整備やエコロジー関連投資に注目が集まっております。特に注目と申しますか期待の目を集めているのが中国の財政政策。その理由としては、経済大国たる日本や米国の財政政策が議会野党との調整に手間取って遅々として進まない一方、一党独裁の中国は政府の一声でスピーディーな政策の決定・実施が可能であること(既に中国政府は4兆元(約53兆円)の景気刺激策を既に昨年11月に打ち出している)、そして今まで経済成長のボトルネックとなってきた脆弱な社会インフラが今回の大型財政出動によって整備されることで、内需を中心とした更なる経済成長が期待できること、以上の2点が挙げられようかと思います。

以下のニュースもまた、そんな中国の大型財政出動の一環として見ることができましょう。

中国、原発の発電能力を8倍に拡大 20年めど、08年末比

 中国政府は2020年をめどに原子力発電所の発電能力を08年末比8倍弱の7000万キロワットに拡大する。07年に公表した計画では4000万 キロワットとしており、大幅な上方修正となる。環境に与える負荷が大きいうえ、価格上昇の恐れもある石炭への依存を減らし安定的な電力供給を目指す。原発 を手掛ける重電メーカーの商機が拡大しそうだ。

 稼働中の原発は浙江、江蘇、広東省の6カ所11基で、発電能力は約900万キロワット。遼寧、山東、福建省などで建設工事を始めており、内陸部の湖北、湖南、江西省にも設置を認める方針。まず今後3年間で原発を8カ所16基新設する。 (19:07)(出典:日経ネット

一方で偏屈者の点額法師としては、上記のニュースが今になって出てきたのは、経済政策という一面のみならず、治安政策という側面もまた大きいのではないかと考えています。

まず鄧小平の「南巡講話」(1992年)以降の中国は、軍や警察の武威と併せ、高い経済成長による恩恵を均霑することで国内の不満を抑えることに成功してきました。しかし、2007年に発生した米国を起点とする世界的な金融危機によって経済成長が鈍化している現在、失業や就職難、倒産に賃下げが広まることで、「経済的豊かさ」という国民の不満を慰撫するための飴玉の効力は一時に比べて低減せざるを得ません。そして国内の不満が高まれば、それに伴って時に暴力行使を躊躇わない反体制派や少数民族の分離独立派が活発化してくるというのは古今東西を問わずに見出すことのできる現象です。

その対応策としては、縮小傾向の経済を拡大傾向に転じることで多くの人々が分け前に与れるようにしつつ、反体制派や分離独立派の取締強化とデモやテロの鎮圧を峻厳化するという方策が考えられます。しかし、北京オリンピックの前に発生したチベット騒乱事件に象徴されるように、軍や警察が反体制派や分離独立派に対して実力行使を行った場合、その映像がマスコミ等を通じて世界中に配信されることで、諸外国の世論で嫌中感情が高まり、それに押される形で諸外国政府が「人権」や「自由」、「正義」といったお題目を掲げて対中批判を繰り広げる可能性が十分に考えられます。それは各国企業の対中投資にも好ましくない影響を影響を与えるものとなるでしょう。かといって国際的な反発を恐れて軍や警察の取り締まりを緩めれば、反体制派や分離独立派を図に乗らせるだけ。

このように、ある程度の不安定化が予測される中国内治安の安定維持とそれに伴って予想される国際的な反発、このジレンマを解決するために北京政府が打ち上げたのが、上記の「原発増設ニュース」なのではないかと思われます。

と申しますのも、中国が強権的な治安維持策を実施した場合に主要勢力の中で明確な批判に回ると考えられるのは、人権重視外交を掲げるEU、そして「人権問題」を兎角重視しがちな民主党政権の米国、この2勢力。一方で民生用原子力について他国に商業展開できるほどの高い技術力を持っている国を列挙すれば、フランス(EU議長国)、日本、アメリカ、ロシアの4カ国。

ならば、金融危機の中で自国産業の保護ということも考えねばならない現状に置かれた米仏2カ国を今回のビッグな原発ビジネスの話で眩惑することに成功すれば、その間、中国は「国際的な反発」による実害を気にすることなく、今まで通りのやり方で国内の不穏分子取締・鎮圧をすることが可能となります。

以上が、極東の草人が「中国の原発増設ニュースには、単なる経済政策以外の意味がある」と考える所以です(で、中国政府には是非にウランをカメコ社から購入して頂きたいと思う今日この頃)。