2009年2月15日日曜日

第二百十三段 中国、メッカにモノレール建設

「その場にとどまるためには、全力で走り続けなければならない」
―――赤の女王 『鏡の国のアリス』 ルイス・キャロル著

欧州による植民地支配という苦難の近代史を歩んできた中東諸国は、その裏返しとして非欧州文化圏ながらも独自のやり方で経済・政治制度の近代化に成功した日本に対して強い親近感を有していると言われる。そして日本が中東(特に湾岸地域)の原油を主要なエネルギー源としていること、プラントや建築、発電施設といった分野で日本のゼネコンやプラント企業、重機企業が活躍している等、経済的にも中東と日本の結び付きは意外に強い。こうした地域の親日感情と経済的な結び付きによって、日本は中東において独自の存在感を有している。

だが、これからはどうだろうか? 2008年末から2009年初にかけてのガザ紛争におけるサルコジ仏大統領直々の仲介工作、2008年11月のブラウン英首相の金融危機対策での協調体制作りを主要目的とした湾岸諸国歴訪、2009年1月のNATO事務総長のイスラエル・ヨルダン歴訪、2009年1月のNATO副事務総長のクウェート訪問、2009年1月の中東諸国に対する米国オバマ政権のミッチェル特使派遣、2009年2月の胡錦濤・中国国家主席の中東・アフリカ歴訪、最近の例を挙げてみても、各国が資源、ビジネス、安全保障の主要舞台として中東を重視していることが窺える。

そんな中で日本も各国の動きをただ漫然と傍観しているわけではなく、安倍元首相を特使としてイラクやサウジアラビアに派遣している(個人的に、思うに任せない政治状況に業を煮やして「突然の政権放り出し」なんてやってのけた人物が、国内外の諸勢力が複雑に交差する権謀術数の中で生きている中東各国の政治家の目にどう映っているのか、非常に気になる所ではある・・・・)。ただ、以下のようなニュースを見ると、どうしても中東における日本のプレゼンスが弱まってきているように感じられて仕方がない。

China to build Mecca rail system

The new railway will connect the city of Mecca with the pilgrim destinations of Mina, Arafat and Muzdalifah.

Saudi Arabia also plans to build a high-speed rail link to take pilgrims from Mecca to Medina, Islam's two holiest cities, in 30 minutes.

The journey time by road can take anywhere between four and five hours.

Millions of Islamic faithful descend on Mecca during the annual mass pilgrimage.

The new network in Saudi Arabia is expected to be ready within three years, with one section of the line due to be completed in time for the 2010 Hajj, officials said.

The contract, worth almost $1.8bn (£1.24bn), was awarded to the China Railway Company and a French firm.

The project was announced during a three-day visit by the Chinese President, Hu Jintao, to Saudi Arabia.

China is becoming a key contractor on infrastructure projects in the oil-rich kingdom.
(出典:BBC

要するに、上記2009年2月の胡錦濤主席のサウジ歴訪に伴ってメッカとメディナを繋ぐモノレール敷設案件を中国企業が受注したというのが、ニュースの肝。

ご存じメッカとメディナはイスラム教において極めて重要な聖地。特にメッカは信仰の根幹ともいえる「六信五行」において巡礼が義務付けられている特別な場所。従ってそこにはサウジのみならず、世界中のイスラム教徒が参集し、祈りを捧げている。そんな場所に設けられるモノレールなのだから、今後、中国の鉄道会社がイスラム諸国で事業を展開する上で大きな宣伝効果が期待できよう。

対して「ものづくり大国」を自認しながら、イスラム世界における技術力の最高のプレゼンの舞台を取れなかった(取らなかった?)日本とその企業は、今後も従来通りの存在感を中東において示していけるのだろうか? 今あるポジションを維持するための努力は十分と言えるのだろうか?