2009年2月18日水曜日

第二百十七段 兵站無くして戦勝無し

2009年2月18日(日本時間)、米国のオバマ政権は1万7千人規模の兵力をアフガンに増派することを決定した(出典:日経ネット)。

しかし、アフガンに駐留する米軍主導の多国籍軍(以下、「アフガン駐留軍」と表記)を取り巻く環境はなかなかに厳しい。特にパキスタン側からの補給ルートがタリバンやそれを支持する部族民兵等によって寸断され、空輸の一大拠点であったキルギスのマナス米軍基地が、地元キルギス政府の決定で閉鎖される見込みとなったことで、アフガン駐留軍は「兵糧攻め」の危機に曝されているのだ。そこに新たな兵力を増派した所で、武器・弾薬・その他物資の補給状況に改善が無ければ、最悪、単なる穀潰しを増やしてアフガン戦線崩壊を早める結果に繋がりかねない。

無論、米国がそのことに気付かない筈もなく、既に幾つかの処置が取られている。例えば2月9日にはBBCNovostiといったメディアが、「カザフスタンが、自国内を通過するアフガンへの物資輸送(ただし非軍需品)を米国に許可」と報じたし、2月13日には再びNovostiが「米国、ロシア領を通過してアフガンに非軍事物資を輸送」と報じている。そして2月17日に報じられたのが以下のニュース。

Russia ready to boost cooperation

with U.S. on Afghan cargo transit

MOSCOW, February 17 (RIA Novosti) - Moscow has the potential to broaden cooperation with Washington on supplies of non-lethal cargo to the U.S. troops in Afghanistan via the so-called "northern corridor," a Kremlin official said on Tuesday.

Due to worsening security on the main land route from Pakistan and the expected closure of a U.S. airbase in Kyrgyzstan, NATO has to rely on alternative routes to supply the U.S.-dominated International Security Assistance Force (ISAF) in Afghanistan.

"The logistics issue is crucial for the Americans, who continue to build up their military contingent in Afghanistan," Anatoly Safonov, special presidential envoy for international cooperation in the fight against terrorism and transnational crime, said at a news conference in Moscow.

There are 62,000 foreign troops in Afghanistan, more than half of them from the United States, and President Barack Obama has pledged to deploy another 30,000 U.S. military personnel to the war-ravaged country.

"We have recently said that our transit route is open and we are ready to search for possibilities of increasing its effectiveness," Safonov said, adding that Russia and the West had been coordinating the supply details and locations of transshipment bases.

The Russian Foreign Ministrysaid on Monday that a consignment of U.S. non-military cargos was being prepared in the Latvian capital of Riga for transit to Afghanistan via Russia, and would soon be dispatched.

Russia and NATO signed a framework agreement on the transit of non-military cargos in April 2008.

Despite the recent deterioration in relations with NATO, Russia has continued to support the military alliance's operations in Afghanistan, fearing the worsening security situation and the steadily growing opium production in the country.

Several NATO nations, including France, Germany and Canada, already transport so-called non-lethal supplies to their contingents in Afghanistan via Russia under bilateral agreements.

The "northern corridor" for U.S. transshipments through Russia would likely cross into Kazakhstan and then Uzbekistan before entering northern Afghanistan.(出典:Novosti

上記記事の要旨としては、パキスタン側からの陸路輸送ルートの安全が脅かされ、キルギスの米空軍基地も閉鎖されることとなり、アフガンに駐留する米国主導の多国籍軍(総兵力62000人)が代替輸送ルートを開拓する必要に迫られる中、ロシアが「北方回廊」を通じたアフガンへの非軍事物資輸送について、米国との協力を拡大させる方向に動いているというもの

なお、記事によれば「北方回廊」とはカザフスタン-ウズベキスタン-アフガニスタン北部を繋ぐルートである由。右記地図に赤線で示した、カザフスタンのクズィル・オルダからウズベキスタンの首都タシケントを経てアフガン北方の要衝マザーリ・シャリーフへと繋がるルートと考えて大過あるまい(GoogleMapsより点額法師作成)。

そしてこのマザーリ・シャリーフは、ドスタム将軍を中心とするウズベク人勢力の牙城でもある。この地の重要性の高まりは、ウズベク人勢力のカルザイ政権における発言力強化を通じて、様々な民族・宗派勢力の危うい均衡の上に立っている現アフガン政権の今後に微妙な波紋を投げかける可能性があろう。

また、右記地図では若干見にくいが、トルクメニスタンやイランから始まってアフガニスタン・ヘラートに入るルートも存在する。現在、イランは核問題やレバノン、パレスチナを巡って米国と対立しており、トルクメニスタンは「永世中立国」を宣言して自国をアフガン戦争の枠外に置こうとしているため、アフガン駐留軍にとって現時点でのヘラート・ルートの実用性は高くない。しかし、パキスタン・ペシャワールからアフガニスタン・カブールに至る主要補給ルートの治安に改善の兆しが見られず、かといって「北方回廊」ルートへの過度の依存がウズベク人勢力の伸長によるカルザイ政権内のパワーバランス崩壊を招きかねない怖さを孕んでいる以上、米国やNATOはヘラート・ルートを無視し続けるわけにはいかないと考えられる。核問題やヒズボラ、ハマスといったイスラム過激派の支援問題ほど目立つわけではないが、オバマ政権が「アフガン重視」の旗を掲げ続ける限り、ヘラート・ルートは米国の対イラン政策の隠れた主役であり続けるだろう(無論、トルクメニスタンに対する働きかけも見逃せない注目点ではあるが・・・・)

因みに今回取り上げた話題と日本との関連性を考えれば、記事には、ロシア領内を通過する物資輸送について、フランスやドイツ、カナダといったアフガンに兵力を展開しているNATO諸国が既にロシアとの二国間協定を締結していることも載っている。もし、今後日本がアフガンに自衛隊を展開させることになれば、同様の協定をロシアと結ぶ必要が出てくることが予想される。また、アフガン問題を梃子にロシアが対米関係、対EU関係の改善に成功した場合、日本が北方領土問題でロシア側の譲歩を獲得することは一層困難なものとなろう。