2009年2月9日月曜日

第二百十段 今マダガスカルにある危機

マダガスカル
・アフリカ大陸東南部、インド洋と喜望峰航路の結節点を扼す地点にある島とそこを支配する政府。
・少し北へ足を延ばすと「海賊」で有名なアデン湾がある(下地図の黄色枠内がアデン湾)。
・金属資源開発の新たなフロンティアとして、日本やカナダ、中国等諸外国が開発を進めている。

グーグルアースより 点額法師加工

そんな、資源や地政学的な面で注目されるマダガスカルは、現在政治的に不安定な状況下にある。というのも、現職大統領支持派と野党指導者支持派との間で抗争が発生しているからだ。状況としては2月7日に数千人規模のデモ隊が警察と衝突し、多数の死傷者が発生している模様だ(出典:ロイター)。

そもそも現職の大統領たるラベロマナナ氏は、アンタナナリボ市の市長として市の近代化に成功する等の成功を重ねた上で、2001年の大統領選に出馬。その大統領選においてラベロマナナ氏と当時のラツィラカ大統領の両方が勝利宣言を出すという異常事態の中、マダガスカル国内ではラベロマナナ派とラツィラカ派の抗争が発生する。
最終的には、2002年、軍部の支持を得たラベロマナナ氏が同国最高裁判所と国連から正式なマダガスカル共和国大統領として認められ、ラツィラカ氏はフランスに国外退去ということになる。
(その裏では英仏米の激しい鍔迫り合いがあったらしい・・・(出典:BBC))

そして2009年2月、野党指導者にしてアンタナナリボ市長のラジョエリナ氏を中心とする勢力が大統領批判を強めると、ラベロマナナ大統領は市長を解任する。それが現政権に批判的な人々の怒りを更に煽り立てる結果となり、件の状態になっている。

・・・・何やら2002年の再放送を見ているように気がしてくるが、ここで気になるのが今回のマダガスカル騒擾が、インド洋を巡るインドと中国の角逐に与える影響である。

インド洋が石油の一大産地であるペルシャ湾と一大消費地である東アジアをつなぐ重要な幹線であることは論を待たない。そこの安全に最も影響力を保有しているのが、米国第七艦隊である。しかし、金融危機で大きく傷ついた米国が、何時までもインド洋の警察官であり続けるのは難しいだろう。だからこそ米国は「ソマリア沖の海賊」という分かり易い脅威を持ち出して、欧州やロシア、インド、中国といった有力諸国に協力を要請したし、将来的には海賊退治のために構築した国際協調体制にインド洋の安全保障を委ねていこうとしてるのではないか。

では、米国のプレゼンスが減退したインド洋で勢力を拡大するのはどの国か? 欧州やロシア、日本については物理的な距離の問題に加え、少子高齢化と低成長経済がインド洋でのプレゼンス拡大を阻む要因となろう(日本においては当面は「憲法」も抑止要因として働くものと考えられる)。中東諸国はどうか? こちらについても、基本的に中東諸国の少ない人口と外洋海軍としての経験の少なさが、彼らのインド洋における勢力拡大を阻む要因となるだろう。

そうなると残るのが、伝統的にインド洋世界の盟主を自認するインド、そして中東・アフリカの石油を必要とし海軍増強にも余念がない中国となる。以下のニュースはそんな両国のインド洋における角逐を象徴するものと言えよう。

中国艦、追跡受け攻撃態勢 ソマリア沖、

印潜水艦か

 【北京4日共同】海賊対策のため、アフリカ東部ソマリア沖に派遣されている中国海軍の駆逐艦が「国籍不明」の潜水艦に追跡され、対潜ヘリコプターなどで攻撃態勢を敷いていたことが分かった。一部中国メディアが4日までに伝えた。

 報道は潜水艦の国籍などを特定していないが、インド海軍が配備するロシア製のキロ級潜水艦だったことを示唆している。

 ソマリア沖に派遣された中国の艦艇はミサイル駆逐艦2隻と総合補給艦1隻で、昨年12月下旬に中国南部の海南省三亜を出発。潜水艦は、3隻がインド洋を通過した時から追跡を続けていたという。

 ソマリア沖到着後の1月半ば、3隻が3度目の護衛任務を控えて待機していた際、潜水艦が接近。駆逐艦が捜索を始めると妨害電波などを出してきたため、対潜ヘリを出動させたところ、潜水艦は最後に水面に浮上して“逃走”したという。(出典:共同通信

既に中国はソマリア沖への艦艇派遣以前から、米軍が「真珠の糸」と呼んでいる海洋戦略を実行している。要は、ペルシャ湾~インド洋~マラッカ海峡~南シナ海というシーレーンの安全を確保するために、各沿岸諸国に経済援助と引き換えに港湾利用権や通信傍受施設、軍事基地等の設置を認めさせるというものだ。具体例としては、パキスタンのグワダルにおける通信傍受施設の設置と大規模港湾の建設、バングラディッシュに対するチッタゴンの港湾利用申し入れ、ミャンマーのココ諸島におけるレーダー基地・通信傍受施設の設置、同じくミャンマーのシットウェにおける港湾機能拡張、スリランカに対する軍事援助等の拡大、セーシェルへの経済協力等の拡大等がある。

対するインドは、モザンビークや自国のムンバイ、コチンに通信傍受施設を設置した他、モーリシャス・アガレガ諸島の長期借用、オマーンでの港湾利用権獲得を実施し、そしてマダガスカルでは2007年7月にインド海軍が通信傍受施設を稼働させている(因みに、大陸側ではタジキスタン、カザフスタンに空軍基地を置き、モンゴルには「宇宙観測基地(実際には中国の弾道ミサイル監視基地)」を設けている)。

そんな印中の水面下の攻防が続くインド洋の要地で起きた騒擾事件。事の果てにほくそ笑むのは中国かインドか、非常に興味深い。

<参考文献>
・フォーサイト 2005年9月号 「中国「真珠の糸」戦略の狙いとは何か」 
黒瀬悦成
フォーサイト 2007年4月号 「中国が軍事化を目論む「インド洋の宝石」
フォーサイト 2007年7月号 「インドがタジキスタンに進出 その背後にもロシア 」 
フォーサイト 2007年9月号 「マダガスカルにも拠点 インド洋“包囲網”の思惑 」
フォーサイト 2007年10月号 「中国のミサイル開発をインドがモンゴルから監視 」
フォーサイト 2008年8月号「スリランカ取り込みを図る中国に、神経を尖らせるインド 」
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