2009年3月2日月曜日

第二百二十四段 ペルシャ湾のペルシャ化?

・自然は真空を嫌う。
―――アリストテレス

冒頭の言は、不思議なことに自然科学の分野のみならず、人間社会の権力政治についても疑問の余地なく当てはまる言葉である。即ち、何らかの事情で生じた権力の空白は、必ずそれを埋め合わせる新たな勢力の勃興を誘発する(それが単一勢力の独占か、複数勢力の分割によるかは別として)。

そして、中東の地理的中心にして世界第二位の原油埋蔵量を誇るイラクにおいて、フセイン政権崩壊に続く2度目の権力の空白が生じようとしている。それはオバマ大統領が2月27日に発表した「2010年8月までの米軍大規模撤退」である。そもそも民族や宗教、産油地域と非産油地域といった幾重もの断層が走るイラクが、1932年のイギリスからの独立以来、曲がりなりにも統一国家としての態をなしてこれたのは、一重に王制、そしてバース党独裁政権の軍と秘密警察を駆使した強権支配によるものであった。

その統一イラクの存在に多大な「貢献」をしてきたバース党独裁政権を弊履の如く投げ捨てた米国は、イラクの地に強固な政治勢力を育成することに成功しないまま、手を引こうとしている。その結果生じる弱く不安定なままで放置されたイラクの新たな後見人として有力視されているのが、イラク領内人口の過半と宗派を同じくするイスラム教シーア派の大国イランである。

ここで中東域内におけるシーア派の分布を見れば、その分布は、イランが手中におさめつつあるイラク(特に南部)以外にオマーンやバーレーン、クウェート、サウジ東部といった所謂「湾岸地域」にも広がっている。もしイラクに対するイランの宗主権が明確なものとなれば、ドミノ倒しのように、これら湾岸諸国において親イラン政策が採用され、或いは長年スンニー派政権下で冷遇されてきたシーア派の分離独立運動が活発化し、結果として米国を中心とした西側諸国はカタールやオマーン、バーレーンの軍事基地に代表されるペルシャ湾の拠点を失い、ペルシャ湾が文字通りペルシャ(イラン)の湾となる事態も想定されよう。

既に先頃のガザ紛争で対米・対イスラエル批判を強めてきたバーレーンは、以下のGulfnewsの記事に見られるように、イランとの関係改善に乗り出して来ている。

Iran, Bahrain declare 'good'

neighbourly relations

Tehran: The foreign ministers of Iran and Bahrain said on Friday they have sorted out a diplomatic row caused by a senior Iranian cleric's remarks, official news agency Irna reported.

Iranian President Mahmoud Ahmadinejad, who met with visiting Bahraini Foreign Minister Shaikh Khaled Bin Ahmad Al Khalifa, called for "more closeness and cooperation between the two nations," state television reported.

"This friendship and closeness will not leave any opportunity for the mischief of evil people," Ahmadinejad said.

Delivering a message of "friendship and brotherhood" from King Hamad to Ahmadinejad, Al Khlaifa stressed the "importance of expansion of relations with Iran for Bahrain's government and nation."

The row had been sparked off by Ali Akbar Nateq-Nouri, one of the advisers of Iran's Supreme Leader Ayatollah Ali Khamenei, who reportedly said that Iran still had sovereignty over Bahrain.

Iran's foreign ministry said Nateq-Nouri's remarks were misinterpreted.(出典:Gulfnews


このように、遠くない将来、地域構造に大きな変化が発生する可能性のあるペルシャ湾岸地域だが、そこに原油の多くを依存する日本は、今後、どのような対ペルシャ湾岸政策を採っていくのだろう? 将来の勝ち馬に乗るべくイランとの関係改善を急ぐのか? それとも米国やイランの一方的な勢力拡大を望まないトルコ、サウジ、パキスタン等と連携しながらペルシャ湾のペルシャ化を防止する側に回るのか? そして日本同様にペルシャ湾の石油を必要とする中国はどう動いてくるのか?
色々と興味は尽きない。