2009年3月6日金曜日

第二百二十六段 英国、ヒズボラとの関係改善に動く

唐突ではあるが、英国という国を鑑みれば、覇権国米国の同盟国、EUに於いては独仏と共に大きな影響力を振るい、かつて七つの海に君臨した大英帝国の衣鉢を継いで世界各国の政治・経済情報を豊富に保有し、首都ロンドンは米国のニューヨークと並ぶ金融市場の中枢、そして英国内に住むイスラム教徒の多さは欧州でも有数・・・・といった具合に実に複雑多面な表情を有しており、それら各要素が外交政策に(比較的)上手く反映されていることに気付かされる。

そんな外交巧者の英国が、ヒズボラとの関係改善に動いているらしい。BBCは以下のように伝えている。

UK restores links with Hezbollah

The move follows "positive political developments" in Lebanon, officials from the UK Foreign Office said.

It comes about 10 months after Hezbollah signed a unity accord in Lebanon and joined the government.

Only last year, the government put Hezbollah's military wing on a list of proscribed organisations over its alleged training of insurgents in Iraq.

"We are exploring certain contacts at an official level with Hezbollah's political wing, including MPs," said a spokesperson for the Foreign Office.

The spokesperson said the UK was doing "all it can" to support Lebanon's unity government, of which Hezbollah's political wing is a part.

"Our objective with Hezbollah remains to encourage them to move away from violence and play a constructive, democratic and peaceful role in Lebanese politics, in line with a range of UN Security Council Resolutions."

The spokesperson said Britain would continue to have no contact with Hezbollah's military wing. (出典:BBC


このヒズボラという組織には二つの顔がある。一つは反米・反イスラエルを旗印に掲げてテロや武力闘争を行う武装組織・テロ組織としての顔(やることがマスコミの注目を浴び易いので、一般的な認識としてはこちらの顔が一般的)、もう一つはレバノンに住むイスラム教シーア派住民の利益代表団体としての顔である。
従って、アル・カイーダのような地域住民との直接的な利害関係を有しない国際的なテロ組織とは些か異なり、ヒズボラに対しては、レバノンにおけるヒズボラ(そしてその背後にいるシーア派住民)の政治的・経済的利益を取引材料として、より穏健な行動を採るように働きかけることが可能である(多くの困難を伴うにせよ)。
また、ヒズボラに対するイランの影響力の強さが広く認められているが、一方で、レバノン南部に拠点を置くヒズボラとテヘランに鎮座するイラン政府との間で戦略的利益が必ずしも一致するとは限らない(極端な話、レバノン全体が無人の荒野と化すようなシナリオについて、イランはそれがイランの利益に結びつくなら反対はしないだろうが、ヒズボラとしてはそんなイランの意向に従う訳にはいかないだろう)。

それを踏まえた上で、最近、米国がシリアとの関係改善に向けて積極的に動いていることと関連させて今回の英国の動きを考えるなら、その狙いは二つあると考えられよう。
一つ目は、テヘランからバグダッドとダマスカスを経てベイルートに至るシーア派地域に楔を打ち込むことで、同地域において一方的にイランのリーダシップが確立されることを防ぐ狙い。
二つ目は、ハマスと米英との関係改善である。PLO主流派のファタハを凌ぐパレスチナ住民の支持を背景にガザ地区を実効支配するハマスを徒に無視・敵視しては、所謂「中東和平」が安定したものとして成立するとは思えない。そこで、事前に長年ハマスのパトロンであったシリアやハマス同様に反米・反イスラエル闘争を展開してきたヒズボラに対する米英の関係改善の意向を示すことで、米英はハマスが交渉に応じやすい雰囲気を醸成しようとしているのではないか(仮にハマスが米英の呼びかけを無視すれば、最悪シリアやヒズボラとの関係も難しくなろうし、イスラエルの攻撃についてもより大義名分が立ち易くなろう)。

最近の中東情勢を見れば、イランと湾岸諸国やトルコとの関係改善、湾岸諸国の反イスラエル姿勢の顕在化、トルコとイスラエルの関係悪化、ロシアのシリアや イエメンにおける軍事基地設置の動きといった具合に、従来の米国及び親米アラブ諸国とイランとの対立を主軸としたものとは違う、新たな地域情勢が姿を現しつつある。
その中で、従来の文脈では考えにくかった諸国・諸勢力間の連携や決裂が今後も進んでくることが予想される。今回の英国が投じた一石は、そんな中東合従連衡を更に加速させる働きがあろう。

実際、そんな動きがすでに顕れている。3月6日、地中海の入口に位置する北アフリカのモロッコが、2月にイランのナテクヌーリ元国会議長が「バーレーンはかつてイランの14番目の州だった」と発言したことに抗議し、イランとの国交断絶を宣言したのだ(出典:共同通信)。
当のバーレーンは件の発言についてイランに抗議こそしているものの、2月27日には両国が友好関係強化を宣言している(出典:Gulfnews)。当事者間でそれなりに落着した問題を第三者が騒ぎたてる時、その第三者の目的は件の問題の解決とは全く別の所にあることが多い。
モロッコの今回の動きは、米国の対シリア関係改善や英国の対ヒズボラ関係改善といった動きが持つイラン牽制という側面に呼応し、よって米英との関係を強化しようという考えに起因するものと考えられる。

さて、次はどの国の動きが表沙汰になるのだろうか? 個人的には、ポスト・ムバラクの時代が迫りつつあるエジプト、域外国ではあるものの、中東で存在感を高めるトルコとの対立を抱えるギリシャやキプロスの動きに注目しているのだが・・・・・。