2009年3月29日日曜日

第二百四十二段 仲人ロシアの目的は?

ロシアがイランと米国に対して仲介の労を取ろうとしているらしい。ロシアの通信社Novostiは3月26日に以下のように伝えている。

Russia ready to help with U.S.-Iran

meeting at Moscow conference

MOSCOW, March 26 (RIA Novosti) - Russia is not aware of any plans for U.S. and Iranian diplomats to meet in Moscow on the sidelines of a conference on Afghanistan on Friday, but it is ready to help arrange such a meeting, the Foreign Ministry said.

"We have no such information, but if such an intention is announced, Russia as the host country is ready to provide any assistance that may be necessary," official ministry spokesman Andrei Nesterenko said on Thursday.

The international conference on Afghanistan is to focus on efforts to counter terrorism and drug trafficking in the war-ravaged Central Asian state.

The conference will be held under the aegis of the Shanghai Cooperation Organization (SCO), a security group that comprises Russia, China, Kazakhstan, Tajikistan, Kyrgyzstan and Uzbekistan.

Nesterenko said the U.S. delegation at the conference would be led by Patrick Moon, the principal deputy assistant secretary of state for South and Central Asian affairs, and the Iranian delegation would be led by Deputy Foreign Minister Mehdi Akhondzadeh.

He said talks between U.S. and Iranian officials would "help ease tension around Iran as well as the situation in the region as a whole."

The U.S. Embassy in Moscow said it had no information about a possible meeting between Iranian and American diplomats in Moscow.

Russia has welcomed Washington's moves toward engagement with Tehran under President Barack Obama, including a video message of congratulations on the Iranian New Year.

Deputy Foreign Minister Sergei Ryabkov said last Friday that it was "important for us that the new [U.S.] administration is making advances to Tehran."

The first direct talks between senior U.S. and Iranian officials in almost 30 years were held in Baghdad last May, when the two countries' ambassadors to Iraq held talks strictly limited to the situation in the country.(出典:Novosti

また、ロシアはアフガン・カブール政権に対する国際社会の支援拡充を訴えている。これもNovostiが同日に以下のように伝えている。

Russia hopes to boost international

effectiveness in Afghanistan

MOSCOW, March 26 (RIA Novosti) - Russia hopes to increase international effectiveness in assisting the Afghan government in the fight against terrorism and drug trafficking, Foreign Minister Sergei Lavrov said on Thursday.

Speaking ahead of Friday's Shanghai Cooperation Organization (SCO) conference on Afghanistan, Lavrov said there must be "more coordination" on combating terrorism and drug trafficking.

Russia's proposals "are directed, first of all, at increasing the efficiency of international cooperation in the work of supporting the efforts of the government of Afghanistan in the struggle against the threat of terrorism and illegal drugs," Lavrov said.

The SCO is a security group that comprises Russia, China, Kazakhstan, Tajikistan, Kyrgyzstan and Uzbekistan. The Moscow meeting will also be attended by officials from Afghanistan, neighboring Turkmenistan, Group of Eight leading industrial countries, the European Union, NATO and the post-Soviet Commonwealth of Independent States.

Russia took over the presidency of the SCO last August. Iran, India, Mongolia and Pakistan have observer status in the organization.

Another conference on Afghanistan is to be held next Tuesday in The Hague under the auspices of the UN.

A Russian foreign ministry spokesman, Andrei Nesterenko, said on Thursday that Russia hoped the participants of the forum in The Hague would "use the results of their work in the conference in Moscow" to increase further international efforts in the situation in regard to Afghanistan.(出典:Novosti

ロシアの米・イラン仲介工作とアフガン支援強化呼びかけ、一見すると別個の独立した行動だが、実はこの二つのロシアの行動は、「タリバン対策」という共通の根から発生した行動であり、密接に関係したものではないかというのが、点額法師の考えである。

さて、ここで最近のアフガン情勢を見れば、タリバンの勢力再拡大にNATOや米国、現カブール政権は苦戦を強いられている。この状況下、米国やNATO諸国ではタリバン穏健派を取り込んだ新政権樹立を求める声が着実に高まりつつある。

しかし、もしタリバンの一部も包摂した新政権樹立という話になれば、かつての北部同盟時代から現カブール政権を支えてきたロシアにとって、自国のアフガンにおける影響力後退を懸念せざるを得なくなる。

また、如何に穏健派とはいえタリバンが参加した新アフガン政権が成立すれば、彼らによって中央アジアのイスラム過激派組織のアフガン利用が黙認される可能性も十分に考えられる。

それは、ロシアがロマノフ朝以来中央アジアに対して有してきた諸権益にネガティブな影響を与えることになるだろうし、北コーカサスを中心に分布するロシア領内のイスラム教徒をも刺激することにもなろう。

だからこそ、ロシアは現カブール政権を支援する必要があり、そのためにイラン・米国間の仲介および国際社会に対する現カブール政権支援拡充の呼びかけを行ったと考えられる。

そもそもイランは微妙な国である。彼らは北部同盟時代からシーア派勢力ハザラ人勢力を支援することで、その北部同盟を母胎として成立した現カブール政権とのパイプを有するものの、現カブール政権が主に米国の支援によって成立した政権であることから、積極的な支援を打ち出しにくい状況下にある。
タリバンとの関係を見れば、イランとタリバンは対米闘争や難民、麻薬問題への 対処のために盛んに接触していると囁かれている一方で、厳格なスンニー派支配を掲げるタリバンはアフガンのシーア派に対して当初から過酷な弾圧を加え、1998年にはイランの外交官を殺害してイラン軍、タリバンが一触即発の事態となったこともあった。要するに、イランは現カブール政権とタリバンの両方にパイプを持ちながら、どちらに対しても積極的に味方になれない事情を抱えていると言える。

そのような事情を頭に入れて、ロシアのイラン・米国間仲介工作の動きを見れば、これは対米関係の改善によってイランが現カブール政権への積極的支援に動き易い状況を作り出そうとする狙いがあるものと考えられる。
仮にこの仲介工作が成功すれば、イランと米国は恩人ロシアのアセットである現カブール政権に消極的・懐疑的な態度は出せなくなるし、両国の現カブール政権支援協力もやり易くなる。そうなれば旧ソ連領中央アジアと接するアフガン北部国境に加えて、アフガン西部国境を通じたタリバンの補給を絶つことが可能となり、アフガンの戦略バランスは現カブール政権優位に傾くことになる。それは「タリバンの政権参加」という声をかき消すことにも繋がろう。
つまり、イラン・米国間仲介工作が成功すれば、ロシアにとって敵対的な勢力がアフガン政府に加わる可能性の低下を見込めるのだ。
(過去の類例を顧みれば、ヴェトナム戦争で米国が敗北したのは、北ヴェトナムの封鎖に失敗したことによる面が大きかった。いくら米国や南ヴェトナムが攻撃を仕掛けた所で、北ヴェトナムは北の中国国境、西のラオス国境からほぼ無障害で補給を受けることができたし、場合によっては国境の向こう側に退避することもできた。そして現在のアフガニスタンを見れば、北方の旧ソ連領中央アジアはそれなりに封鎖できているものの、南のパキスタン国境は親タリバン勢力によって押さえられ、西のイラン国境の封鎖も前述のイラン政府の姿勢のおかげで万全とは言い難いのが現状なのである)

無論、このロシアのイラン・米国間仲介工作が成功するとは限らない。寧ろ、第二次大戦終結以来のイランと米国との複雑な愛憎関係を見れば、ロシアの仲介工作が昨日、今日といったレベルで目覚ましい成功を収める可能性は低いと考えていいだろう。

そこでロシアが放った第二の矢が、「国際社会に対する現カブール政権支援の呼びかけ」だと考えられる。上記Novostiの記事を見てもらえれば分かるが、このロシアの呼びかけはSCO(上海協力機構)の会議(モスクワにて開催)においてなされたという(記事によれば、この会議にはSCO加盟国の他、アフガニスタン・現カブール政権やトルクメニスタン、EUやNATO、G8諸国、CIS諸国の高官も顔を出していたとか)。このSCOを通じて各国に現カブール政権支援を呼びかけたのが、ロシアの上手い所ではないか。

SCOとはロシア、中国、カザフスタン、タジキスタン、ウズベキスタン、キルギスの6カ国を正規メンバーとし、インド、パキスタン、イラン、モンゴルの4カ国がオブザーバーとして参加する地域安全保障機構である。参加国を見てもらえれば一目瞭然のように、イランが核問題や対イスラエル政策で対立する西側諸国の影が非常に薄い。
そんな組織を通じた呼びかけであれば、イランも比較的応じ易かろう(少なくとも米国との関係改善よりは容易だと思われる)。仮にロシアの仲介工作がうまく進まず、西側とイランの溝が埋まらないままであったとしても、ロシアはSCOという組織を通じてイランを現カブール政権側に招き入れることが可能となるし、その場合はイランにとっても中露との関係強化による西側牽制という利点が望める。

賢人は常に複数の策を以って事に当たり、故に一つの策が潰れたとしても身を損なうことなく目的を果たしたと言うが、ロシアの今回の件はこの賢人の行いに通じるものがあろう。