2009年3月8日日曜日

第二百二十九段 音速の遅い読書『迎撃のスホーイ』上下

今回の音速の遅い読書で取り上げるのは、以下の作品。

迎撃のスホーイ〈上〉 (文春文庫)
リシャール ケルラン
文庫
文藝春秋
発売日 1990-01

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迎撃のスホーイ〈下〉 (文春文庫)
リシャール ケルラン
文庫
文藝春秋
発売日 1990-01

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要はこの本、米ソ冷戦時代を舞台としたスパイ小説である。

あらすじは以下の通り。
1983年8月のある日、米国バージニア州ラングレーのCIA本部に、ソ連邦首都モスクワの協力者から「最新鋭原潜の設計責任者が米国への亡命を望んでいる」という機密情報がもたらされる。
CIAは、件の設計責任者の亡命を成功させるために直ちに対応チームを発足させる。一方のソ連側では、亡命工作の存在に気づいた軍情報部GRUが密かに動き出す一方、何も知らされないKBGはGRUの行動に不信を募らせ、GRUの監視に動き出す。
そして、一人の技術者を巡ってソ連の大地を舞台に展開されるCIA、GRU、KGBの三つ巴の諜報戦は、最終的にある一つの事件へと結び付いて世界を震撼させることになる。
果たして技術者の亡命は成功するのか? そしてCIA、GRU、KGBの三つ巴の諜報戦の末に発生した事件とは何か?

この本の著者はリシャール・ケルランという人物なのだが、フランス人で国際機関勤務であるということ以外の情報はすべて伏されている(もっと言えば、「リシャール・ケルラン」という名称自体、ペンネームや偽名なのか、それとも本名なのかすら定かではない)。

そんな実にミステリアスな人物が上梓した当作品の読み所は三点。
まず一点目は、亡命しようとする技術者(とその支援者たち)と逃すまいとするGRUとが、ソ連邦という舞台で演じる息詰まる追跡劇。
二点目は、ソ連を遠く離れたCIA本部で、関係者たちが入手した情報のピースを組み合わせながら、亡命作戦を成功に導くためのビッグ・ピクチャー構築に脳髄をフル回転させて挑む様子。
三点目は、作戦とは全く関係ない二組のカップルの「日常」が、原潜技術者の亡命作戦といういわば「非日常」と徐々に、徐々に距離を縮めていき、やがて重なり合うまでの過程である。

特に三点目については、何処までも穏やかな風景が広がる中、ふと足元を見れは底の知れない深淵が口を開けているが、それに呑み込まれるまでは誰もその存在には気付くことができない。そんな怖さというかスリル感を感じさせてくれる。

個人的には勧善懲悪臭を多少なりとも感じてしまうトム・クランシーの著作よりも、当作品の雰囲気というか味わいの方が好みであったりする(いや、ジャック・ライアンシリーズも大好きではあるけれど・・・・)