2009年3月24日火曜日

第二百三十八段 MDに対する政府筋発言についての雑考

北朝鮮のミサイル実験(北朝鮮は「衛星打ち上げ」と主張)を巡って、朝鮮半島周辺国の様々な思惑が交差する今日この頃、日本とその同盟国アメリカが対北牽制のカードとしているMD(ミサイル防衛)について、他ならぬ日本の政府筋がMDの有効性を否定する発言を行ったという。

発言内容等を共同通信社は以下のように伝えている。

「ミサイル迎撃不可能」と政府筋

MDの実効性否定

 政府筋は23日、北朝鮮が弾道ミサイルを発射した場合の迎撃について「ピストルの弾をピストルで撃ち落とせるはずがない」と述べ、地対空誘導弾パトリオット(PAC3)などミサイル防衛(MD)による迎撃は不可能との認識を示した。

 政府がミサイル迎撃の準備を検討している中で、政府筋がMDの実効性を否定したことは波紋を広げる可能性もある。

 さらに政府筋は、これまでの海上自衛隊による海上配備型迎撃ミサイル(SM3)の発射試験にも触れ「成功したのは『今から撃ちますよ』と言ってくれるからだ」と疑問を呈した。(出典:共同通信)

MDにおいては、実際に相手の弾道ミサイルを撃墜できる能力と並んで、相手側に「自分たちのミサイルで相手を恫喝したり、被害を与えることは無理なんじゃないか?」という迷い・疑念を抱かせることが肝要である。従ってMDではテクノロジーや部隊の練度と同じくらいに宣伝工作・心理戦が重要となってくる。

で、北朝鮮が自国のミサイル技術を武器として米国(及びそのジュニア・パートナーたる日本)相手に瀬戸際外交を展開している状況下、他ならぬ日本政府の中枢部(因みに、報道で「政府筋」という場合は官房副長官か首相秘書官を指す)から「我が方の展開しているミサイル対抗策は張り子の虎なんだ」という発言が飛び出してきたのが、今この現状。

さて、件の「政府筋」氏の「MDは張り子の虎」発言を北朝鮮指導部が耳にした場合、彼らが「そうか、我々の瀬戸際外交は現状改善の役に立たないのか。ならばミサイルによる恫喝外交は封印して国際社会への復帰を目指そう」と考えるだろうか?
個人的にそれはまず無いと思う。寧ろ「米日のミサイル対抗策は張りぼてに過ぎないのか。ならばミサイルの脅威を前面に押し出して外交交渉を優位に進めよう」と北朝鮮指導部が考える可能性の方が高いだろう。そうなると、米国は対北朝鮮外交で同国にパイプを有する中国を益々重視せざるを得なくなるだろう。
いや、北朝鮮が単なる恫喝の範囲に止まり続ける保証は無い。最悪、「ミサイルの洗礼を相手に一発お見舞いしてからの方が、より対米(そして対日)交渉を有利に進められるのではないか」という誘惑にかられないとも限らない()。そうなった場合、イラクやアフガニスタンで大きく傷ついた(傷ついている)米国が北朝鮮に対抗するには、やはり中国を一層重視しなければならなくなってくる。

そうなると辛いのが日本。何故なら日米同盟が今日に至るまでそれなりに強固な存在としてあり続けたのは、一重に米国が中国やソ連・ロシアといった敵対的な大陸勢力の海洋進出を阻むために日本列島という地の利を必要としたからである。
しかし、今回の北朝鮮核・ミサイル問題を機に米国が対米協力の見返りとして中国の海洋進出を認めることになれば、当然、米国にとって長年ユーラシア東部の蓋として利用してきた日本列島(ひいてはそこに存在する日本国)の重要性も低下し、それに伴って米国から見た日米同盟の価値も小さくなるのが自然な流れだろう。
もし、中国がマラッカ以東の海洋に勢力を拡大してきた場合、米国の後ろ盾を持たない(若しくは後ろ盾の著しく弱体した)日本が、莞爾として対中独立を全うしていけるとは考えにくい。

※このように書くと「北朝鮮と米国の実力差を考えれば、北朝鮮が米国に手を出すなんて到底有り得ない」と思われるのが普通だろう。点額法師自身も基本的にはそのように考えている。
ただし歴史を振り返れば、かつて大日本帝国もまた、米国との間に絶望的なまでの国力差を抱えながら(いや、だからこそと言うべきか)、「我が方の力を集中した短期決戦で米国に痛撃を与えることができれば、大日本帝国に有利な形で米国との外交交渉に臨める」と判断して真珠湾に猛突していった。その大日本帝国の轍を北朝鮮が踏まないと断言することはできまい。
そういえば、ソ連が米国に肩を並べる世界大国として国際政治の舞台に浮上してきたのは、第二次大戦で最終的には米英側につき、戦後に旧枢軸国解体の分け前に与れたことに大きく依っていた。
ここで米国の立ち位置はそのままに、枢軸国と連合国を天秤にかけて最後は上手く勝ち馬に乗ったソ連の立ち位置に中国、結果的に破滅の引き金を自ら引くことになった大日本帝国の立ち位置に北朝鮮を置いてみると、ユーラシア極東部の情勢が、60年以上の時を隔てながら奇妙な程に似通っていることに気付かされる。
結果論として、第二次大戦はユーラシア東西における枢軸国(ナチス・ドイツと大日本帝国)の滅亡と世界大国ソ連の登場をもたらした。では、今回の北朝鮮核・ミサイル危機の顛末や如何?