2009年4月14日火曜日

第二百五十二段 ヨルダン、原子力開発で日本と協力

世上「低炭素化社会」の掛け声が高まる中、火力発電に代わる安定的電力源として世界的にも見直しの進む原子力発電。当ブログでも中国の原発増設(第二百十一段参照)、UAEやヨルダンもまた原子力開発に興味を示していること(第百七十三段第百六十段それぞれ参照)を取り上げましたが、この度、日本がヨルダンに対して原子力開発を協力することになった模様です。本日4月14日のブルームバーグは以下のように報じております。
経産省:ヨルダンの原子力開発を支援-ベトナムなどに次ぎ5カ国目

  4月14日(ブルームバーグ):政府はヨルダンの原子力開発を支 援する。日本とヨルダンは14日、原子力発電協力合意に署名した。日 本が外国の原子力発電などの開発を支援するのは、カザフスタン、イ ンドネシア、ベトナム、アラブ首長国連邦(UAE)に次いで5カ国目。

  経済産業省の発表資料によると、ヨルダンは2017年に原子力発電 所の運転開始を目指しており、日本が準備や具体的な計画立案を支援 するほか、人材育成などで協力する。ヨルダン国内にあるウラン鉱脈 からウランが採れるかどうか調査する。協力期間は今年から5年間。

  ヨルダンは30年にエネルギー自給率100%を目標に掲げている。 現在水不足を解消するため、海水の淡水化を進めているが、これには 膨大な電力を必要とするため、原子力発電所の建設が計画された。(出典:ブルームバーグ)

個人的に興味を持ったのが、既に日本が原子力開発協力で合意している国々。これらを地図上に示したのが以下の図表。
カザフスタン、ヴェトナム、インドネシアの3カ国を見れば、綺麗に西と南から中国を包み込む形になっていることが窺えようかと思います。ここから、日本の対外原子力協力が、中国牽制という一面を有していることを推測するのは、さほど困難なことではないでしょう(カザフスタンやインドネシアについては資源外交としての一面も十分にあるのでしょうが)

中東UAEに対する原子力支援については、資源、特にアブダビの石油・天然ガスへのアクセスを狙った日・UAE関係強化策の一環として見てそう大きな間違いはないかと思います。

では、ヨルダンに対する原子力開発協力は何のために行うのでしょうか?
ここでヨルダンの地理を顧みれば、多少の天然ガスは産出するものの、その量は湾岸諸国やロシア等に比べれば非常に微々たるもの。記事中でも言及されている様にヨルダンはウラン鉱脈を有しているものの、それが商業ベースに乗るかどうかはまだ未確定。そう考えると、資源外交の一環としての意味合いはあまり大きくないと考えられます。
人口を見れば約611万程度(2008年時点)で、日本の千葉県の人口(2008年時点)と大体同じぐらい。わざわざ政府が前面に出て開拓に乗り出したくなるほどの市場規模があるというわけでも無し。
以上のように、資源も(現時点では)大して存在せず、大市場としての魅力も無いヨルダンに、何故日本は原子力開発支援を行うのか?

考えられる理由とすれば、中東和平への側面支援が挙げられるのではないでしょうか?

そもそも、ヨルダン約611万人の人口のうち、半分程度がパレスチナ人となっています。このような人口構成になったのは、数次にわたる中東戦争(特に第3次中東戦争)によって故郷を逐われたパレスチナ人が大量に流入したためです。そんな国がイスラエルやその庇護者たる米国に対して穏健な外交姿勢を維持しているのは、一重に同国を支配するハーシム王家が軍や警察等の力でパレスチナ人に根強い反米・反イスラエルの声を抑え込んでいるからに過ぎません。
仮にパレスチナ人勢力がハーシム王家の打倒に成功した場合(実際、ハーシム王家は1970年~1971年にかけてPLOを始めとしたパレスチナ人勢力と実質的な内戦を戦い、これに辛勝することでヨルダンの支配権を維持している)、ヨルダン新政府はほぼ間違いなく外交姿勢を反米・反イスラエルに転じることになるでしょう。そうなると、反イスラエル闘争を掲げるテロ組織の聖域が一気に拡大することになり、中東和平は完全に頓挫することになります。その悪影響は早晩イラクや湾岸地域といった大油田地域に波及することになるでしょう。

そのようなシナリオが実現することを防ぐには、何よりもまずヨルダン経済を振興し、パレスチナ人を含んだヨルダン国民が物質的にある程度豊かな生活を送れるようにする必要があります(豊かになった人間が政治的に保守化し、何よりも安定を望むようになることは、千古以来多くの聖賢が述べている通りです)。
かといって、ヨルダンは天然資源に恵まれているわけでもなく、国を豊かにしようとすれば何らかの産業を振興する必要になります。その産業としてヨルダンが白羽の矢を立てたのが、原子力産業であり、中東の安定に死活的な利益を有する(原油の8~9割を中東に依存)日本がこれに呼応した結果、件の原子力開発協力が成立したと考えられるのではないでしょうか。