2009年4月24日金曜日

第二百五十九段 香港の枢機卿

些か旧聞に属する話題だが、中国とヴァチカンの関係正常化交渉で中心的役割を担ってきた香港教区の陳日君(Zen Ze-kiun)枢機卿が引退を表明したという。2009年4月17日のBBCが以下のように伝えている。

Hong Kong's Cardinal Zen retires

Cardinal Joseph Zen has stepped down as the head of Hong Kong's Roman Catholic Church after 12 years.

The Vatican said Pope Benedict XVI had agreed to Cardinal Zen's retirement as Bishop of Hong Kong for reasons of age.

An outspoken advocate of democracy and religious freedom in China, the cardinal has been a vocal champion of human rights and social justice.

During his tenure, the 77-year-old cardinal criticised both the governments in Hong Kong and Beijing.

Local media quoted him as saying he planned to concentrate on advising the Pope on church affairs in mainland China after his retirement.

But he stressed he would not interfere in Vatican-Chinese relations, as they were a diplomatic matter.

"It is not something I can help," he was quoted as telling reporters last week. "It is not something that I can get involved in."

There are no formal diplomatic relations between Beijing and the Vatican.

Catholics in China are split between a state-sanctioned Church and an underground Church that rejects government ties and answers only to the Pope.

The cardinal has been succeeded by Bishop John Tong Hon, 69.(出典:BBC


かの御仁、中々に複雑な人物である。まず冒頭でも触れたように中国とヴァチカンの関係正常化交渉で中心的役割を担ってきた。だからと言って北京政府べったりの言動で知られていたわけではなく、寧ろ信教の自由や人権問題について度々北京政府の姿勢を批判してきた人物でもある。

引退理由は報道によれば「年齢」とのことだが、下衆が勘ぐれば、以下の二つの可能性が考えられよう。
・対中関係正常化交渉がベテランを必要としない段階まで進展したことを示す。
・対中関係正常化を焦るヴァチカンが(中国の圧力か自発的意思によるかは別として)、
 対中批判を繰り返してきた陳日君枢機卿を実質的に更迭したことを示す。

事の真相は神ならぬ身には分かりかねるが、アフリカを中心に拡大を続けるイスラム教徒人口や世界各地で活発な布教攻勢をかけているプロテスタント(特に福音派)の動きに、カトリック教会が危機感を募らせているのは事実。それを頭に入れて見れば、13億の人口を支配下に置く中華人民共和国との関係を悪化させるような真似をヴァチカンが採る道理は存在しないことは自明の理だろう(日本では時として無視される側面だが、ヴァチカン(教皇庁)はフランク王国の昔から今日に至る複雑怪奇・無情苛酷な国際政治を巧みに乗り切ってきた最強の外交功者現実主義者である)

さて、ここで日本を顧みれば全国区で有名なカトリック教徒として麻生首相と緒方貞子女史がいる。この二人は、今回の引退劇に何を思うのだろう・・・・?

というか、4月21日に「麻生首相、靖国神社に真榊料奉納」と各マスコミが報じたが(例:時事通信)、カトリック教徒が異教の神殿に供物を捧げるのって大丈夫なのだろうか? 
単純に考えれば異端審問で水責め・火炙り・財産没収にされそうだが(お前のキリスト教認識はいつの時代のものだ?)、歴史を振り返れば、17世紀中国においてカトリックのイエズス会は、先祖崇拝等の儒教的慣習を宗教とは関係ない「社会的習慣」として容認することで信者獲得に成功しているし(所謂「典礼問題」。事の顛末はwikiにまとまっている)、今回の靖国神社への真榊料奉納や過去に麻生首相が行ってきた靖国神社参拝も「宗教儀式ではなく、公人としての社会的活動の一環」ということで問題無しとなるんだろうか?
(逆に「公人」としての靖国参拝等は「政教分離」等に関して別種の議論を呼びそうだが・・・)