2009年4月28日火曜日

第二百六十一段 ユニクロ的ロシア

「失われた十年」、日本を覆った長期不況はまさに小売業にとって360度どこを見渡しても死屍累々という悲惨な光景を作り出していた。しかし、この酷薄・惨憺たる小売業の墓場から場違いな程の活力に満ちた企業が登場した。アパレルのユニクロである。

ユニクロの凄さは、「安かろう、悪かろう」という通念を打破して低価格・高品質を両立させた所にある。これによって、ユニクロは「失われた十年」で可処分所得の低迷に悩む消費者の心をがっちり掴むことに成功した。つまりユニクロは、普通の小売業にとっては災厄以外の何物でもない「失われた十年」を逆に追い風としてしまったのである。

ここで国際社会を見てみると、サブプライム問題に端を発する世界的な景気後退の中、多くの国の財政は税収減で余裕を失い、支出分野の優先順位には今まで以上に国民各層の高い注目が集まるようになっている。そして支出分野の中で国民生活に直結しない防衛分野については、支出額に厳しい目が注がれるようになっている。税収減で防衛費削減に走らざるを得ない諸国と可処分所得減で消費削減に走る「失われた十年」下の日本国民、実に上手く整合している。

では、国際社会において「失われた十年」で呻吟する日本国民の消費マインドを低価格・高品質で掌握したユニクロに対応する存在は何か? それはロシアなのだろう、というのが今段の話。

当ブログ第二百五十八段でロシアとインドの空母取引を取り上げたが、2009年4月27日のロシア通信社Novostiは、世界的な不況風なぞ何処吹く風で好調なロシアの兵器輸出を取り上げている。

一つ目の記事は、トルコへの防空システムと攻撃ヘリ輸出の動きを伝えている。

Turkey may buy Russian air

defense systems, combat helicopters

MOSCOW/ISTANBUL, April 27 RIA Novosti) - Turkey has expressed interest in buying air defense systems and combat helicopters from Russia, a Russian defense industry official said on Monday.

Russia will exhibit over 120 types of weaponry at the IDEF 2009 arms show in Istanbul on April 27-30. The biennial exhibition has been organized by the Turkish defense industry since 1993.

"Turkey is mostly interested in buying [Russian] short- and medium-range air defense systems and combat helicopters," said Anatoly Aksenov, a senior adviser to the general director of Russian arms export monopoly Rosoboronexport.

Aksenov, who leads the Russian delegation at the IDEF 2009 exhibition, said several contracts in the sphere of military-technical cooperation could be signed between the two countries after the show.

Turkish media reported last year that Ankara was planning to buy 32 used Mi-28 Havoc helicopters from Russia in a deal worth a total of $1 billion.

Russian and Turkish defense ministers met in February and agreed to boost bilateral military-technical ties despite the fact that Turkey is a NATO member.

Turkey has been implementing large-scale overhaul of its armed forces since the mid-1990s and is planning to complete the modernization program by 2020.(出典:Novosti


記事の概要は、以下の通りである。
・トルコはロシアから短中距離の防空システムと攻撃ヘリの導入に強い興味を示している。
・昨年、トルコ政府は中古のMi-28ハボック32機を10億ドルで取得することを計画していた。
・2月、トルコとロシアの防衛相は二国間の軍事技術協力強化で合意していた。
・トルコは90年代中頃から大規模な軍備見直しを実行していると共に、2020年までの軍備近代
 化完了も計画している。

地図を見てもらえれば一目瞭然だが、トルコの位置は中東と欧州の境、黒海と地中海の狭間、ーカサス(特にロシアに反抗的なグルジア)の裏側という地政学的に枢要な場所である。

だから第二次大戦後の欧米は一貫してトルコに様々の援助を与え、同国をNATOに迎え入れ、やや強引な論理ながらも「トルコは欧州である」としてEU(かつてはEC)に加盟させようとしてきた。

しかし冷戦崩壊後は、トルコ側でイスラム的価値観の重視を掲げる政党AKP(開発公正党)が親欧米的であった世俗主義勢力に代わって政府与党となるのと並行して、欧米側でもイスラム教を敵視していると解釈されがちなW・ブッシュ政権の外交・安全保障政策、欧州を吹き荒れたムハンマド諷刺画問題等があって、トルコと西側の関係は弱体化の傾向にあった。

そこを考えると、今回のロシア・トルコ間の武器取引は、単に低価格・高品質のロシア製兵器にトルコが魅力を感じたという以上の意味合いが考えられる。つまり、トルコ・西側関係が徐々に空洞化する一方、その空隙を埋めるように、コーカサス地方や黒海、そして中東に多大な権益と戦略的利害を有するロシアがトルコに接近し、それにトルコが応じつつあることをこの武器取引のニュースは伝えているのかもしれない。

二つ目の記事は、ヴェトナムに対するキロ級潜水艦の売却である。

Russia to build 6 Kilo-class

diesel submarines for Vietnam

MOSCOW, April 27 (RIA Novosti) - Admiralty Shipyards in St. Petersburg will build six Kilo class diesel-electric submarines for delivery to Vietnam, the Russian business daily Kommersant said on Monday.

The paper quoted company general director Vladimir Aleksandrov as saying that Russia's state arms exporter Rosoboronexport would soon sign a contract with a foreign state, and that Admiralty Shipyards had been chosen to fulfill this contract.

Sources in Rosoboronexport later confirmed that Russia and Vietnam had been negotiating a $1.8 billion deal on the delivery of six Kilo-class submarines to the Vietnamese navy for about a year.

Admiralty Shipyards is currently building two Kilo class submarines for Algeria to be delivered in 2009 and 2010.

Kilo class submarines, nicknamed "Black Holes" for their ability to avoid detection, are considered to be among the quietest diesel-electric submarines in the world.

The submarine is designed for anti-submarine warfare and anti-surface-ship warfare, and also for general reconnaissance and patrol missions.

The vessel has a displacement of 2,300 tons, a maximum depth of 350 meters (1,200 feet), a range of 6,000 miles, and a crew of 57. It is equipped with six 533-mm torpedo tubes.

As of November 2006, 16 vessels were believed to be in active service with the Russian Navy and eight submarines were thought to be in reserve. Another 29 vessels have been exported to China, India, Iran, Poland, Romania and Algeria.(出典:Novosti


記事の概要は、以下の通りである。
・現在、ロシアはヴェトナムからの発注に基づいて6隻のキロ級潜水艦を建造している。
・ヴェトナムとの契約額は18億ドルである。
・キロ級潜水艦は対潜作戦及び対水上艦作戦を主任務とし、世界のディーゼル動力潜水艦
 の中で、最も静音性に優れている。
・キロ級潜水艦は既に中国、インド、イラン、ポーランドやルーマニア、アルジェリアに輸出されている。

ここで歴史を振り返れば、中華帝国という経済的にも軍事的にも卓絶した存在のあった東アジア地域において、周辺の小国が独立を維持する道は、これに抗い続けるか屈伏するかの二者択一であり、ヴェトナムの歴代王朝は抗い続ける道を選んできた(因みに朝鮮半島の歴代王朝は、屈伏して生き残る道を一貫して選択している。また、例外的に日本列島は海によって中華帝国の直接的な政治的圧力を受けることは殆ど無かった)。

そして共産党政権成立後の中越関係もヴェトナム戦争の一時期を除けば、中越戦争(1979年勃発)や南沙・西沙諸島問題に見られるように、今日に至るまで常に緊張を孕んで推移してきた。

そんな歴史的背景を考え合わせれば、このヴェトナムの動きは基本的に中国に対する抑止力向上を図ったものと見てよいだろう。

だが、ここで注目すべきはロシアの鉄面皮である。記事にもある様にロシアは既に中国に対してキロ級潜水艦を何隻も売却している。そして今度は同じ物を中国と歴史的にしばしば対立関係にあり、現時点でも中国との間に領土問題を有するヴェトナムに売却するというのだから、その実利姿勢も徹底している(しかも、冷戦期の中ソ対立時代、ソ連はヴェトナムの対中警戒感に附け込む形で同国を中国戦略の前線に仕立て上げている。このことをよもや現在のロシア政府が知らぬ筈はあるまい)。この「売れる相手には兎に角売る!」というロシアの姿勢には、何か清々しささえ感じてしまう

ロシアの徹底した機会主義・利己主義は、この厳しき世の中を個人が生きる上でも多々参考になる面があろう。