2009年4月29日水曜日

第二百六十二段 トルコ回頭?

オスマン帝国崩壊の瓦礫の中から誕生したトルコ共和国は、建国の英雄ケマル・アタチュルク以来、世俗主義、西洋化による発展を追求してきたこともあり、第二次大戦後はNATOへの加盟、欧州連合体(かつてのEC、現在のEU)への加盟追求等、「Look West」を外交の主軸としてきた

しかし、冷戦崩壊後、トルコにおけるイスラム主義政党の台頭、遅々として進まないトルコのEU加盟交渉、911テロ以後世界的に広がったイスラム教への反発、米国W・ブッシュ政権のイスラム敵視と取られかねない言動等、様々な要因が積み重なって、現在トルコと西側の間の空隙が徐々に大きくなっているのではないか? トルコの視線は西側から逸れ始めているのではないか? 当ブログ前段では、今まで西側製兵器を装備の主軸としてきたトルコがロシアとの武器取引を行おうとしているニュースを傍証として、そんな憶測を述べた。

そしてその後、、その憶測をより強めるようなニュースが2件報じられていた。

一件目はロシア通信社のNovostiが4月27日に伝えた、「トルコがロシアからの最新鋭防空システム購入を希望」というニュースである。

Turkey hopes to buy S-400 air

defense systems from Russia


ISTANBUL, April 27 (RIA Novosti) - Turkey, a NATO member, has expressed interest in buying S-400 Triumf air defense systems from Russia, a Russian defense industry official said on Monday.

"Turkey has expressed a strong interest in buying S-400 air defense systems from Russia," said Anatoly Aksenov, a senior adviser to the general director of Russian arms export monopoly Rosoboronexport.

Russia is exhibiting over 120 types of weaponry at the IDEF 2009 arms show in Istanbul on April 27-30. The biennial exhibition has been organized by the Turkish defense industry since 1993.

Aksenov, who leads the Russian delegation at the IDEF 2009 exhibition, said the possible deliveries of the S-400 to Turkey were discussed during talks with Turkey's undersecretary for defense industries, Murad Bayar.

A source in the Russian delegation later told RIA Novosti that the issue had a political aspect and strongly depended on the outcome of the ongoing dispute between Russia and NATO on the deployment of a U.S. missile shield in central Europe.

"We have explained to Turkish officials that S-400 is not just a simple air defense system but an element of strategic missile defenses, which can be placed in one country but protect the airspace over a number of neighboring countries," the source said.

The S-400 Triumf (SA-21 Growler) is designed to intercept and destroy airborne targets at a distance of up to 400 kilometers (250 miles), twice the range of the U.S. MIM-104 Patriot, and 2 1/2 times that of Russia's S-300PMU-2.

The system is also believed to be able to destroy stealth aircraft, cruise missiles and ballistic missiles, and is effective at ranges up to 3,500 kilometers (2,200 miles) and speeds up to 4.8 kilometers (3 miles) per second.(出典:Novosti

記事で注目すべき点は、以下の通りである。
・トルコはロシアからの新鋭防空システムS-400導入に関心を抱いている。
・取引には政治的側面があり、その成否は米国のMD中欧展開を巡るNATOとロシアの議論の
 結果に強く依存することになる。
・S-400システムはステルス戦闘機や、巡航ミサイル、弾道ミサイルの迎撃も可能だとされている。

因みに、米国のF-35ステルス戦闘機開発にイスラエルが出資し、将来の同機導入権を手にしている。このことを考えれば、トルコのS-400導入の持つ意味もより鮮明になるのではないか。
また、ロシアとトルコが軍事協力を強化する一方で、トルコと対立関係にあるギリシャ、キプロス(南部)、アルメニアといった従来の親露国(当然、軍備もロシアの影響が大きい)がどう出てくるのか、非常に興味深い

もう一件は、UAEの英字紙GulfNewsが伝えた、「トルコ、シリアと共同軍事演習を実施」というニュースだ。

Turkey and Syria conduct

military drill


Ankara: The Turkish military said it launched a joint drill with Syrian soldiers on their shared border on Monday in order to improve security.

Military teams from Turkey and Syria were scheduled to cross the border and visit outposts during the three-day exercises, the Turkish military said.

It described the drill as the "first-ever" between the countries.

Government newspapers reported on Monday that Syrian Defense Minister Hassan Ali Turkmani had begun a five-day visit to Turkey for defence talks.

Israel's Defense Minister Ehud Barak said on Monday that he viewed the exercise "as definitely a worrisome development."

"But I believe that the strategic relations between Israel and Turkey will prevail over Turkey's need to participate in such an exercise," Barak said. (出典:GulfNews

記事で注目すべき点は以下の通りである。
・トルコはシリアと3日間にわたって初の共同軍事演習を実施する。
・演習内容は国境警備に関するものである。
・バラク・イスラエル防衛相は「安全保障面では懸念点が多い」ことを認めた。

シリアがイスラエルと長年の対立関係にあることは、巷間よく知られている。また、トルコは今まで中東における数少ない親イスラエル国家であった。そのトルコがシリアと共同軍事演習を行い、ロシアからはステルス戦闘機迎撃も可能(とされている)防空システムを導入する意向だというのだから、イスラエルも気が気ではないだろう。その意味でバラク防衛相の発言もむべなるかなと思われる。

以上2件のニュースを始めとした各種報道を見るに、トルコの顔が西からどんどん東向きになっているように思えて仕方がない。ひょっとすると、数年後には欧米で「Who lost Trukey?」という問いが頻繁に繰り返されるようになるのかもしれない。
そうなると、若年人口大国トルコを取り込めなかったEUでは、高齢者人口の増大が巨額の財政逼迫をもたらす他、それを解決しようにも高齢者層という巨大な票田の前に抜本的な改革は不可能となるだろう。そう考えると、EUの国際社会における経済的・政治的影響力が今後増大していくとは考えにくいものがある。
中東においては、長年南のイスラエルと北のトルコに挟撃されている形となっていたシリアが、対トルコ関係の改善によって後顧の憂いを絶ち、南のイスラエルに対して冒険主義的な振る舞いにでるリスクを考えておく必要があろう。
トルコの視線が西を向き続けるのか、東に向けられることになるのか? それによって中東、東地中海・黒海、コーカサス、バルカン半島の政治バランスは大きな影響を受けることになる。
これからも当面トルコの動きからは目が離せそうにない。