2009年4月21日火曜日

第二百五十八段 上海航空母艦 ~Chinese Carrier

最早旧聞に属するニュースではあるが、中国の空母建造が遂に本格化するらしい。2009年4月21日の共同通信は以下のように伝えている。

初の中国産空母「建造準備整う」

上海の造船所が近く着工へ

 【北京21日共同】上海市の軍需造船会社「江南造船集団」の南大慶社長はこのほど、中国初の国産空母建造に向け「既に準備を整え、能力を備えた」と述べ、長江(揚子江)河口にある同社の長興造船所で近く空母建造に着手する計画を認めた。上海メディアが20日伝えた。

 これまで香港の民間軍事研究機関などが江南造船による空母建造準備を指摘してきたが、同社幹部が公に認めたのは初めて。空母建造が迫ってきたことを裏付けたといえ、着工時期や空母の具体的な能力が今後の焦点だ。

 同社のホームページや報道によると、長興造船所は長江河口の長興島南東部にあり、昨年6月に上海市内からの第1期移転工事が完了。敷地面積560ヘクタール、年間450万トンの造船能力があり、規模は中国最大級という。

  造船所内には4つのドックがあり、空母建造用とされている第3ドックは長さ580メートル、幅120メートルと最大。南社長は造船所の設備について「将来 にわたって海軍が必要とする艦船の建造能力を十分に備えている」と述べ、国産空母は自主技術で建造する方針を強調した。(出典:共同通信


ここでふと思い出したのが、住信基礎研究所主席研究員の伊藤洋一氏のコラム(日経BP・ECOマネジメント内)である。そのコラムでは「発展の中間省略」というものが取り上げられていた。要は技術的な空白地帯において従来型の技術を無視する形で一気に最新技術が主流となることを「発展の中間省略」と言い、氏のコラムでは中国では携帯電話の普及が固定電話の普及に遥かに先行していることを例として説明していた。

ここで中華人民共和国(=人民解放軍)の歴史を振り返ると、中国共産党が大陸の覇権を国民党政権や大日本帝国と戦ったのはあくまで陸上に限った話。その上、中華人民共和国建国の立役者たる毛沢東が大陸に引き籠って自給自足(食料から核兵器まで)の国家体制を構築する道を選択したこともあって、中華人民共和国には外洋海軍としてのノウハウは殆ど存在してこなかった(だから長年、台湾政府は実質的な独立国として存在してこれたわけだが・・・・)。
かつての大日本帝国や今日の米露英仏といった主要な空母保有国は、何十年以上も外洋海軍の経験を蓄えていった上で空母を保有するに至っているのだが、中華人民共和国は沿岸警備的な海軍からの脱皮もそこそこに一気に空母保有へと邁進している。
つまり、中華人民共和国は電話のみならず海軍という分野においても「発展の中間省略」を実現しょうとしていると言える。

しかし、空母を運用するのは中々に大変である。いざ戦争となれば戦略的にも金額的にもハイバリューな空母は真っ先に敵の標的となる。だから空母を護衛するための艦船等からなる部隊を編成する必要があるのだが、当然、それらの艦船や航空機、潜水艦、そして空母の間で情報の共有や陣形の変更などを円滑に行うために有機的な連携がとられる必要がある(さもないと敵の攻撃が防げなかったり、味方の誤射が発生したり、航路変更の際に味方艦船と衝突したり、色々と大変なことになる・・・・)。
上述の空母保有国は、そのために必要なノウハウを長年の外洋艦隊運用で蓄積してきた。その上で空母を保有している。対する中国はそこをスキップして空母を保有することになった。この差は決して小さくは無いだろう。

そう考えると、中国の空母保有は、戦略面でのインパクトはそれなりにあるものの、実際の戦場での有効性は当面は極めて限定的なものに止まると考えられる。

※因みに、件の江南造船集団のHPがこちら。興味のある方は是非どうぞ。

その中国とインド洋を巡って陰日向に鍔迫り合いを繰り広げているインドもまた、空母について動きがあったようだ。こちらは2009年4月21日のロシア通信社Novostiが以下のように伝えている。

Russia confirms Admiral

Gorshkov delivery to India in 2012

MOSCOW, April 21 (RIA Novosti) - Russia will deliver the modernized Admiral Gorshkov aircraft carrier to the Indian Navy in 2012, a senior shipbuilding industry official has said.

"Under an agreement with India, the aircraft will be delivered in 2012. Almost 2,000 highly-qualified workers are currently involved in the overhaul [of the ship]," Vladimir Pakhomov, the president of Russia's United Shipbuilding Corporation, said in an interview published on Tuesday with the Vremya Novostei newspaper.

"We will increase the number of workers and speed up the work, making sure that it does not affect the quality. We are continuing talks with Indian officials about the additional financing of the project," he added.

The original $750 million 2004 contract between Russia's state-run arms exporter Rosoboronexport and the Indian Navy envisioned that work on the aircraft carrier would be completed in 2008.

However, Russia later claimed it had underestimated the scale and the cost of the modernization and demanded an additional $1.2 billion, which New Delhi said was "exorbitant."

After long-running delays and disputes, Russia and India agreed in February 2008 to raise retrofit costs for the aircraft carrier, docked at the Sevmash shipyard in northern Russia for the past 12 years, by at least $800 million.

The current contract covers a complete overhaul of the ship and equipping it with modern weaponry, including MiG-29K Fulcrum aircraft and Ka-27 Helix-A and Ka-31 Helix-B anti-submarine helicopters.

The Admiral Gorshkov carrier, renamed the Vikramaditya, is to replace India's INS Viraat carrier, which, although currently operational, is now 50 years old.

After modernization, the carrier is expected to be seaworthy for 30 years.(出典:Novosti


記事の概要は、題名の通り、ロシアがインドに2012年に空母アドミラル・ゴルシコフを引き渡すことを承認したというもの。

この空母は1987年に艦名「バクー」としてソ連海軍の黒海艦隊に就航した。だが、その後の政治的・経済的混乱で
活躍の舞台は全く無く、1990年に艦名が政治的事情から「アドミラル・ゴルシコフ」と改められて以降はほぼ岸壁に係留されたままの状態が続き、1995年の退役を迎えている(因みに1991年には機関室火災が発生している)。やがて1996年になるとロシアとインドとの間で「同空母を全面改装した上でインドに売却する(引渡は2005年)」という合意が成立したものの、その後、改装費用を巡る確執がロシア・インド間で発生したため(上記記事によれば、最初は改装費用7.5億ドルの見積もりであったものが、最終的にロシアは追加費用として12億ドルを要求し、それにインドが「No」と答えている)、また店晒しの憂き目に遭遇したという、非常に「訳あり」な艦である

そんな薄幸の艦
アドミラル・ゴルシコフだが、遂にインドとロシアとの間で2008年2月に値段交渉がまとまって(結局、インドはロシアに8億ドル払うことになったらしい・・・)、この度、2012年の引渡が決定されたとの由。

結局インドがロシアの値上げ攻勢に多少なりとも譲歩した背景には、中国の海軍力増強があることは想像に難くない。そして空母建造を発表した中国も中国で、空母完成の暁に配備する主力艦載機は多分ロシア製だろう(Mig-29KかSu-33かは知らないが)。

南の大海でインドと中国が張り合えば、潤うのは極北の巨人ロシア。
まさに漁夫の利、漁夫の利