2009年5月31日日曜日

第二百八十一段 音速の遅い読書『アナバシス』

今回の音速の遅い読書で取り上げるのは、以下の作品。

アナバシス―敵中横断6000キロ (岩波文庫)
クセノポン
文庫

岩波書店
総合評価 4.5

発売日 2002-07-09
アマゾン通販

紀元前404年、オリエントの超大国アケメネス朝ペルシャで国王ダレイオス2世が没するや、長子がアルタクセルクセス2世として王位を継いだ。しかし、才気煥発で知られた王弟キュロスは「惰弱」とも評された兄の即位に不満を持ち、2年の準備の後、遂に兄たる国王に反旗を翻す。

この時、キュロス軍側にはギリシャ全土から参集した多数のギリシャ人傭兵部隊が参加していた。キュロス軍はギリシャ人傭兵団の勇戦と各地諸侯の現国王に対する反感に乗じることで、ペルシャ帝国の西半を手中に収めていく。一方、アルタクセルクセス2世もキュロス軍の動きを座視していたわけではなく、各地に号令を飛ばして軍勢をかき集めていた。

そして紀元前402年、キュロスとアルタクセルクセス2世の両者は満を持してバビロン郊外のクナクサの地において激突する。合戦はギリシャ人傭兵団の威力とキュロス自身の優れた指揮によってキュロス軍優位に展開した。しかし、キュロスが不運な討死を遂げるというアクシデントが発生し、指揮官を失ったキュロス軍は瓦解。勝利はアルタクセルクセス2世の手に帰すこととなった。

この決着によって苦境に立たされたのが、キュロス軍に投じていたギリシャ人傭兵部隊1万数千人である。キュロスが率いていた軍勢は彼の死とともに胡散霧消し、当初キュロスに靡いていた諸侯も、合戦における国王の勝利を聞くや、手のひらを返すように国王側に寝返っていった。四面楚歌が座興に思えるほどの孤立無援。

そこに重ねて更なる惨事がギリシャ人傭兵団を打ちのめす。

オリエント一帯にその精強ぶりを轟かせていたギリシャ人傭兵部隊と正面からぶつかることを恐れるアルタクセルクセス2世は、攻めるなら搦め手からとばかりに、ギリシャ人傭兵団の部隊長たちに対して偽りの和平会談を持ちかける。ギリシャ人側にはペルシャ王の意図を怪しむ者もいたが、結局部隊長たちは「一国の主が神かけて身の安全を保証するというのだから・・・」と和平会談への出席を応諾する。そしてギリシャ側から望み通りの返答を得たペルシャ王は、和平会談に出席した部隊長たちを皆殺しにしてしまう。

敵地の真っ只中で庇護者と指揮官の両方をほぼ同時に失うという絶体絶命の状況に陥ったギリシャ人傭兵団。だが彼らはペルシャ王からの脅迫にも似た降伏勧告をはねつけ、軍中から新たに指揮官を選任し、自らの剣と勇気を以って撤退路を切り拓くという一大決断を下す。

この時、新指揮官の一人として選出され空前絶後の撤退戦に臨んだ一人が、クセノポンという人物であり、彼がその難行軍のあらましを活写したのが、本作品である。

撤退を図るギリシャ人傭兵団の前に立ちはだかるのは、酷暑凄まじきメソポタミアの荒野や氷雪深きアルメニアの山岳地帯といった過酷な自然環境、執拗に追撃を図るペルシャ軍や姦計巡らす行く先々の地元諸侯、その他有象無象の危険たち。まさに耳にするだけで怯んでしまいそうな窮地、死線が十重二十重に張り巡らされた絶対的死地。それらを勇ましいバイアーン(突撃歌)とともに蹴散らしていくギリシャ人傭兵団の戦いぶりは、見事の一言に尽きる。
だが、本書の読み所は戦闘シーンだけでは決してない。数多くの困難に直面して時に動揺する傭兵団を鼓舞・説得するためにクセノポンや他の指揮官がはる弁論もまた、本作品の華である。彼らが兵士に向かって語りかける力強い言葉を目にする時、聞く者に大きな感銘を与えるというオバマ米大統領の雄弁もまた、一代の突然変異というわけでは決してなく、古代ギリシャ以来の修辞術、弁論術の流れの中から生まれたものであることが改めて認識される。

個人的には、クセノポンの以下の言葉が特に印象に残るものであった。
さあ、大将軍ヘラクレスの後に続き、互いに名を呼び励まし合うのだ。今ここで己れの勇気と見事な心ばえをその言動に示して、諸君が自分たちのことを覚えておいて欲しいと思う、人々の心に残すことは実に愉快なことだぞ。

2009年5月27日水曜日

第二百七十九段 テルアビブ-モスクワ-ニューデリー枢軸?

イスラエルの英字紙Jerusalem Post紙が去りし2009年5月24日報じた所によれば、イスラエルがインドへのAWACS(早期警戒管制機)売却(契約総額約11億ドル)を着々と進めているらしい。記事は以下の通りである。

Israel Aerospace Industries (IAI) and India are in the advanced stages of talks regarding New Delhi's interest in purchasing three new Phalcon Airborne Warning and Control Systems (AWACS) from Israel, in what could turn into the largest defense contract in the country's history.

On Sunday, and after a five-year delay, Israel will deliver the first of three AWACS ordered by India in 2004 for $1.1 billion. The plane is scheduled to take off from Ben-Gurion Airport in the afternoon. The remaining two planes are scheduled to reach India in 2010.

The Phalcon (phased array L-band conformal radar) was designed and manufactured by Elta, a subsidiary of IAI. It includes radar, electronic intelligence systems and communication equipment. The company has already sold a similar system to Chile's air force.

The Phalcon will enhance India's ability to detect aerial threats and serve as a platform for directing combat jets to targets. It is an all-weather system capable of tracking 60 targets simultaneously and can operate to a range of up to 400 km.
Officials said that the Indian Defense Ministry was currently holding internal debates over the possibility of purchasing three additional aircraft. India has also expressed interest in the Eitam, an intelligence-gathering plane also developed by IAI.

A new Phalcon deal with India would involve planes with the same configuration as those purchased in the 2004 order and would include a radar and electronic intelligence system designed and manufactured by Elta Systems Group installed in an Ilyushin-76 aircraft, which would be supplied by Russia. However, IAI is reportedly asking 30 percent more money for another three aircraft.(出典:Jerusalem Post


冷戦時代、「非同盟外交(実態は親ソ連外交)」を掲げるインドは外交上一貫してパレスチナ支持の姿勢を採り、イスラエルに対しては比較的冷淡な態度を示していた。
しかし、イスラム過激派の活動が活発化するに従って、インドは同様の問題を抱えるイスラエルとの関係強化に舵を切り、イスラエル-インド関係は現在極めて良好な状態にある。
今回のニュースは、今年の4月20日にBBCが報じた「インド、イスラエル製の監視衛星を打ち上げ」というニュース(出典:BBC)と併せ、両国の蜜月が強化されていることを示すものと言えよう。

また、同紙は同日日付でイスラエルがロシアに対するUAV売却契約の履行に向けて着々と動いていることも伝えている(出典:Jerusalem Post)。
記事によればUAV売却の契約額は5000万ドルで、ロシアはUAVを売ってもらう見返りとして以下の意向をイスラエルに対して示したという。
・対空迎撃システムS-300の対イラン売却を行わない。
・シリアに対するMig-31戦闘機売却を中止する。

ここで歴史を振り返れば、ロシアにはロマノフ朝の昔から欧州でも有数規模のユダヤ人社会が存在していた。その多くは「ポグロム」と呼ばれるロシア人からの迫害、革命や二つの世界大戦による混乱を受けて海外に新天地を求めてロシアの大地を後にする。そうした海外移動組のうち、とりわけ米国に移住したグループが時として米国の政治・経済政策に影響力を振るうまでの存在となったことは有名だが、1948年のイスラエル建国後にソ連・ロシアからイスラエルに移住した者も多く存在した。
特に1980年代から2000年までに旧ソ連地域からイスラエルに移住した人々は「新移民」と呼ばれ、その数はイスラエル人口の約20%程度(実数で言えば100万人前後)を占め、イスラエル-ロシア関係のみならず、民主国家イスラエルの内政事情にも大きな影響を与えている。
また、現在のロシアにも数は激減したものの今なおユダヤ人は存在し、実業界や政治の世界で活躍する者も少なくない(因みに、メドベージェフ大統領も母方からユダヤ系の血を引いているといわれる)。

そしてインドがソ連時代の昔からロシアとの強固な軍事協力体制を築き上げていることについては、贅言を要しない。

これらの事実を挙げていくと、まるでユーラシア西半にテルアビブ-モスクワ-ニューデリーという新たな枢軸が構築されつつあるようにも見えてしまう(右記地図参照)。
更にイスラエル、ロシア、インドの三カ国が「イスラム過激派」という共通の脅威を抱えており、しかも世界のイスラム過激派諸組織が、部分的とは言え、高度化された情報通信技術や交通・移動手段を利用して地球規模の連帯を構築していることも考え合わせれば、いよいよ以って、テルアビブ-モスクワ-ニューデリー枢軸の成立が信憑性を持ってくる。

但し、このこの枢軸関係が直ちに一貫性を有した同盟関係・協力関係に移行するとは考えにくい。何故ならイスラエル、ロシア、インドの三カ国には大きな戦略的相違が存在するからだ。

まず相違点として最初に挙げられるのは、イランである。現在、イスラエルの安全保障にとって最大の脅威がイランであることは論を俟たない。イランは、ヒズボラ、ハマスといったテロ組織や弾道ミサイル等で直接的・間接的にイスラエルの生存を脅かしている。一方でロシアにとってイランは原子力技術や兵器の有数のお得意様であるし、対西側外交における貴重な連携相手でもある。そしてインドにとっても、イランは天然ガス・石油の供給源として非常に魅力的な存在であるし、パキスタンとタリバンの脅威を共有してアフガンの北部同盟とその継承者たる現カブール政権を協力して支えてきた間柄でもある(もっとも、イランは二股膏薬よろしくタリバン側とも一定の接触・協力をもっているようであるが・・・・)。

次に挙げられるのが、中国である。ロシアは中国に盛んに兵器を売却している他、外交面でも中国を歩を合わせて西側に対抗する場面は珍しくない。また、イスラエルにとっても中国は(往々にして米国の横槍が入るものの)兵器のお得意様である。一方、インドにとって中国は、パキスタンやカシミール、チベットやミャンマーを巡って軍事的・外交的衝突を繰り返し、最近ではインド洋での影響力を賭けて熾烈な鍔迫り合いを行う等、強い緊張関係を抱える相手である(経済関係は強化されつつあるものの・・・・)。
尚、冒頭記事でイスラエルがインドへの売却を進めているAWACSファルコンについては、1998年にイスラエルが中国への売却を進めていたが(細かく言えば、イスラエルはファルコンで使用するレーダを中国に売り、中国はそれをロシア製航空機に搭載して運用する計画であった)、米国の圧力によって2000年になって交渉を潰される、という因縁めいた話が存在する。

最後に挙げるのが米国である。ロシアはコーカサスや中央アジアの権益を巡って度々米国と衝突している他(最近の派手な例はグルジア紛争)、中国と組んでSCO(上海協力機構)を設置し、米国の覇権に挑戦的な姿勢を示している。インドは、そのSCOにオブザーバーとして参加し、ロシアとの伝統的な協力関係を維持しながらも、同時に経済面を中心に米国との関係強化を追求している(今の所、この米露を両天秤にかけた外交政策は成功している)。イスラエルにとって米国は今もなお最大の庇護者であり、その米国が主導するNATOについても、度々「イスラエル加盟」の話が浮上と沈潜を繰り返している。

以上の点から、繰り返しになってしまうが、点額法師はテルアビブ-モスクワ-ニューデリー枢軸が一貫性を持った同盟関係・協力関係に成長する可能性は低いと考えている。

但し同時に、日本と領土紛争を抱えると同時にエネルギー開発のフロンティアたる北極圏に大きな影響力を持つロシア、そして中国に匹敵する膨大な人口(=巨大な消費市場としての可能性)を擁すると同時に東アジアの巨竜たる中国への対抗心を隠さないインド、この両大国を動かすファクターの一つとして、イスラエルの動向にはこれまで以上の注意が必要になってくるものと考えている。

2009年5月26日火曜日

第二百七十八段 東方の雷鳴

去りし2009年5月24日の晩は雷鳴盛ん。何かの本で読んだような気がするが、雷とは水底に潜んで力を蓄えていた竜が天に上るためのきざはしとして走らせるものだという。

現在、国際政治において「竜(ドラゴン)」といえばそれは間違いなく中国のことを指す。鄧小平に始まる改革開放で政治的・経済的発言力を飛躍的に高めた現在の中国は、まさに「昇り竜」と言って差し支えない存在である。

昇り竜の走らせる雷は恵みの雨を招来し、地上に豊かな実りをもたらす。中国の改革開放もまた、日本や韓国、ASEANに止まらず世界全体に大きな経済的実りをもたらした。
だが、雷が時として停電等の実害をも与える様に、中国の台頭もまた、周辺諸国との間に緊張・軋轢といった悪しき影響をもたらしている。

それが明確に顕れてくるのが、中国に加え、台湾、ヴェトナム、フィリピン、マレーシアの領有権問題が複雑絡む南シナ海域である。
中でも南シナ海の北部に位置する西沙諸島において、中国が自国の領有権主張のために大掛かりなデモンストレーションを開始したという。
24日の共同通信は以下のように伝えている。

【北京24日共同】24日付の中国紙、北京晨報によると、中国はこのほど、ベトナムと領有権を争う南シナ海の西沙(英語名パラセル)諸島の周辺海域で、過去最大規模の監視活動を始めた。

 漁業監視船4隻で船隊を組む今回の監視活動について、農業省の担当者は、中国が国家主権と南シナ海での漁業権益を守る決意を示している、と話している。

 監視活動中に、中国の海域で違法操業していた外国籍の漁船1隻を発見し、海域外へ退去させたという。中国の監視船をめぐっては、ベトナム外務省報道官が「国際法に従って関係国の主権を尊重すべきだ」と述べるなど警戒が強まっている。(出典:共同通信

この西沙諸島を含む南シナ海において、中国は東南アジア諸国のみならず超大国米国に対してすら一歩も引かない姿勢を示している(参考:当ブログ第二百三十二段)。
この中国の強硬姿勢は、彼の国が自身の有する魅力、どのような国をも跪かせずにはおれない巨大な消費市場としての魅力を熟知していることに起因するものだ。

ユーラシア極東部の諸国は、そんな大国中国とどのように付き合っていくのか? 

一つは外交政策や経済力・軍事力の強化によって、自国と中国とのパワー・バランスをできるだけ自国に有利な方に傾かせ、それによって自国の対中発言力を強めようとする方策がある。
端的に言えば、中国と張り合う選択肢である。利点としては自国内ナショナリズムの反発を避けられる点があるが、下手を打つと単に中国との関係を悪化させるだけに終わりかねない一面もある。
もう一つは、中国との政治的・経済的関係を強化し、自国が中国に依存するように中国もまた自国に依存させることで対中発言力を高める方策もある。
言葉は悪いが、外野で喚くより内側から中国を自国の都合の良い方向に誘導しようという選択肢である(イラク戦争において、米国に対し英国や日本が選択した道でもある)。
利点としては、友好国・同盟国として自国の発言に対して中国に耳を傾けてもらい易い、配慮してもらい易いといった点が挙げられる。ただし、一見すると対中宥和姿勢にしか見えない外交姿勢が自国ナショナリズムの反発を買ったり、或いは「懐に入り込んだ」と言いながらも実は中国に衛星国として取り込まれるだけの結果に終わりかねない、といった欠点もある。

以上の対中二方策だが、現実世界においてはどちらか一方に偏った行動を採る国よりも、両方を混合させた対中行動を採る国が大半であろう(無論、その国の置かれた状況によって、混ぜ方に個性というか違いはあろうが・・・・)。

ここで最近の国際ニュースに目をやると、台湾やシンガポールは中国の懐に入り込む道に重きを置き始めているようである。

シンガポールを見ると、同国の国富ファンド・テマセクが中国建設銀行(中国大手国営銀行)に6億ドルの追加投資を行い、同行への出資比率が従来の6%から6.5%に高まったこと(出典:時事通信)、ペトロチャイナ(中国国営にして中国最大の石油会社)が22億ドルを投じて石油精製のシンガポール石油を子会社化へ(出典:ブルームバーグ)、といったニュースが報じられている。

そして1949年の蒋介石率いる国民党政府の台湾島撤退以降、半世紀以上の長きにわたって中国共産党政権と対立してきた台湾(国民党と共産党という点で見れば、両者の対立は第二次大戦勃発前の1920年代後半まで遡る)もまた、26日の以下の報道のように中国との関係改善を加速している。

【北京26日共同】中国共産党の胡錦濤総書記(国家主席)と台 湾与党国民党の呉伯雄主席が26日、北京の人民大会堂で「国共トップ会談」を行い、中台間の「経済協力枠組み協定(ECFA)」について、年内に協議入り し、来年締結を目指すことで合意した。呉主席が会談後の記者会見で明らかにした。

 ECFAは馬英九政権が「喫緊の課題」(呉主席)として求めていたもので、胡総書記の明確な回答は初めて。しかし「1つの中国」という枠組みの下での協議を「条件」(台湾紙記者)としており、台湾内部で反発が高まるのは必至だ。

 呉主席によると、胡総書記は「準備次第で今年後半に(ECFAの)協議を始めても良い」と述べた。しかし具体的な協議スケジュールなどは決まっていないという。

 胡総書記は会談の冒頭、この1年間で「三通」(通信、通商、通航の直接開放)や、台湾の世界保健機関(WHO)オブザーバー参加が実現したことなどに触れ「中台は大きな成果を収めた」と指摘し、関係改善1年目を総括した。(出典:共同通信

他にも来年予定の上海万博に台湾の参加が決定する(出典:時事通信)等、中台の関係改善は最近とみに加速しつつある。この中台接近は、中東とアジア・太平洋地域を結ぶシーレーンの主導権争いにも大きな影響を与えていくだろう。

ここで目を転じて、中華帝国の昔から中国と抗争を続けてきたヴェトナム、対照的にほぼ同じぐらいの昔から中華帝国の付庸国であった朝鮮半島、そして東シナ海と日本海の波濤に守られて大陸の圧力から比較的自由でいられた日本、これらは巨竜中国の台頭する世界にあって、どのようなポジションに落ち着くことになるのか、非常に興味深い。

2009年5月25日月曜日

第二百七十七段 北朝鮮の核実験にて思うこと

2009年5月25日、北朝鮮が2006年10月以来となる2度目の核実験を行ったという(出典:日経ネット)。
これに関して心に浮かぶ雑念をただ気分の赴くままに書き綴ってみたい。

自民党、敵基地攻撃能力の保有要求との由(出典:共同通信
要は、今年末に予定されている新「防衛計画の大綱」の閣議決定に向けて、自民党国防部会の防衛政策検討小委員会が政府に対し、敵基地攻撃能力の保有や、ミサイル発射を探知する早期警戒衛星の研究、開発を要求したというもの。
この要求、正確には4月5日に強行された北朝鮮の長距離ミサイル実験を受けてのものなのだが、恐らく今回の北朝鮮の核実験を受けて、自民党や国内世論において
防衛政策検討小委員会の提案に対する支持が高まりそうである。だが一介の天邪鬼として、ここで敢えて同提案に対して疑問点を指摘してみたい。
1.何処から攻撃能力を入手するのか?
  日本国の防衛政策は「専守防衛」である。従って自衛隊の装備は基本的に敵国の基地に対して
  直接精密誘導攻撃を仕掛けられるような状態にはなっていない(そこを補完するのが在日米軍)。
  そこで敵基地攻撃のための巡航ミサイルなり精密誘導爆弾なりを何処からか入手する必要がある。
  では入手先は何処か?
  常識的に考えれば同盟国アメリカということになろうが、アメリカがそう簡単に日本に対して敵地
  攻撃力を提供してくれるだろうか? 寧ろ日本の攻撃力拡充に対しては、中国や韓国を刺激して
  極東アジア地域の軍拡競争を煽りかねないとして、抑止の姿勢を示すのではないか?
  他に入手先として考えられるのは欧州やロシアだが、彼らは日本よりも中国の方に武器市場として
  の魅力を感じている。そんな彼らが中国の機嫌を損ねてまで日本に敵地攻撃力を提供してくれる
  とは少し考えにくい。
  残るは自主開発という道だが、そもそも1945年以来戦争というものを経験していない日本国に、
  必要なノウハウが揃っているとは考えにくいし、何より作られたミサイルなり爆弾が実際に想定
  通り機能してくれるかは知れたものではない(欧米露の兵器なら実戦経験豊富なので、それなり
  に機能してくれることが見込めようが・・・・)
2.どうやって狙いを定めるのか?
  仮に首尾よく敵基地を攻撃するための手段を手に入れたとしよう。ならばそのミサイルなり爆弾
  なりの攻撃目標をどの様に定めるかが問題となる。
  たとえば人工衛星による衛星写真を利用するにしても、衛星写真に写っているものが攻撃目標
  なのか否かを判断するには経験を積んだ分析者の検討がいるだろうし、何より人工衛星自体、
  ある一点を常に監視し続けることはできない(赤道上に目標があるのなら、静止衛星という手段
  も無いわけではないが・・・)。だから敵側のカモフラージュや移設によって攻撃目標をロストして
  しまう危険性は十分にある。
  それを補うには、敵の交信記録や電子情報、更には敵国の人間から直接情報を取得する人材、
  集めた情報を分析する人材、そしてそれらをマネジメントするための組織が必要となってくる。
  現在の日本にそういった組織があり、そこで分析された情報が攻撃を決断する部署(多分官邸)
  や実際に攻撃を実施する部署(多分自衛隊)との間で速やかに共有される体制が構築されてい
  るなら、的確な外科手術的攻撃によって脅威を除去することもできようが、そうでなければ敵の
  カモフラージュに騙されたり、最悪、予期せぬ誤爆でいつの間にか日本が悪役にされていると
  いった事態もあり得ないわけではない。

このように考えると、現在の日本国が敵基地攻撃能力を備えるということは、勇ましい掛け声とは裏腹に、一朝一夕には済まない難事であると考えられる。果たして首尾よく日本国が
敵基地攻撃能力を獲得した時、北朝鮮という国家は存在しているのだろうか?

核実験は将軍様の人生の花道か?
北朝鮮の初代指導者金日成総書記は、「大日本帝国の支配から朝鮮民衆を解放した」という功績を掲げて北朝鮮を統治してきた。一方、二代目の金正日総書記にはこれといった仰々しい功績は見当たらない。寧ろ経済破綻や食料危機というロクでもない実績しか現時点では存在しない(冷戦崩壊という不可抗力があるにせよ)。加えて彼には健康問題が浮上してきている。
もし金正日総書記がこれといった功績も無いまま、彼岸の向こう側に旅立ったとしたら、金正日一門による権力継承に政権・軍内部から疑問の声が上がってくる可能性は十分にある。
そう考えると、最近立て続けに発生した北朝鮮の長距離ミサイル実験や核実験は、「ミサイルと核兵器の保有によって、共和国を超大国米国と対等の位置に押し上げたという功績を作ってから、あの世に行きたい(そして金正日一門による権力継承を円滑に進めたい)」という金正日総書記の意向(焦り)を示すものと言えるかもしれない。
また、老い先短い金正日政権が徹底的に国際社会に強硬な姿勢を示した後、ポスト金正日政権が多少でも国際社会に対して柔軟な姿勢を示せば、
ポスト金正日政権に対して実態以上に好意的な国際的評価が集まる効果も狙える(悪人がちょっとした善行で一気に人格者扱いされるのと同じ効果)
その意味で、金正日政権の瀬戸際外交は次期政権への贈り物としての一面も有しているのかもしれない。

以上、閑人の妄言妄説を気の向くままに書きなぐるものである。

2009年5月24日日曜日

第二百七十六段 音速の遅い読書『聖王ルイ―西欧十字軍とモンゴル帝国』

今回の音速の遅い読書で取り上げるのは、以下の作品。

聖王ルイ―西欧十字軍とモンゴル帝国 (ちくま学芸文庫)
ジャン・ド ジョワンヴィル
文庫
筑摩書房
総合評価 4.0
発売日 2006-11

アマゾン通販

この作品が成立したのは1309年。著者のジャン・ド・ジョワンヴィルは、フランス王国はシャンパーニュ伯領の大家老であり、、シャンパーニュ伯の名代として時のフランス王ルイ9世が率いる第七次十字軍に参加した。内容は、その第七次十字軍の顛末を中心に、遠征を通じて著者と昵懇の仲となったルイ9世の人となり等を記したものとなっている。

ところで、本書の主人公たるフランス王ルイ9世が「聖ルイ」と呼ばれるのは、国王としては実に珍しくローマ教会から「聖人」に列せられたからなのだが、その列聖の最大の理由は「イスラム世界への侵攻軍(所謂「十字軍」)を率いて野蛮な異教徒たちに正義の鉄槌を下したから」という、どっちが野蛮人か分からない理由によるもの。

そんな彼の業績を冷静に見ると、中東に侵攻したはいいものの、イスラム勢力、キリスト教勢力、そして当時東方から勃興しつつあったモンゴル帝国の思惑が複雑怪奇に絡み合う当地の情勢に彼の軍はいいように翻弄され、なんら得る所はなく彼の事業は幕を閉じている。
こう言っては何だが、当地の政治情勢の複雑さやセンシティブさに一片の注意も払わないまま、「中東の民主化」、「大量破壊兵器の脅威からの世界の解放」といったよく分からない大言壮語を掲げてイラクに侵攻し、そこで泥沼にはまった某超大国の前大統領とやっていることはあまり変わらない(因みに、その某超大国にある「セントルイス」という都市名は、当該作品の主人公たるルイ9世に依っている)。

本書の構成は、ルイ9世の人となりを描写した序編、そして以下の部からなる本篇から構成されている。
・第一部:英王、国内諸侯との領土争い
・第二部:エジプト遠征
・第三部:パレスチナで
・第四部:帰国後のルイ。第八回十字軍

このうち、序編については取り敢えず「ルイ9世は人格的に立派な人でした」ということを具体例を挙げながら(くどくどしく)説明しているだけなので、あまり読んでも面白くない(ハッキリ言えば、「ルイ9世は人格的に立派な人でした」というのが著者の主張なのだと頭に入れておけば、読む意味はあまりない)。・・・といった紹介の仕方もあまりにあまりなので、如何にルイ9世がこの上なきキリスト者であったかを示す彼の言葉を序編から取り上げてみたい。

俗界の人間は、キリストの教えがけなされるのを耳にしたら、剣以外でこれを擁護すべきではなく、相手の腹のど真ん中を刃が入るだけずぶりとやるべきなのだ。
―――ルイ9世

第二部ではマルセイユから出航して、途中キプロスに寄港し、エジプトの地中海側都市ダミエッタを占領、そしてマンスーラの戦いを経て疫病によって打ちのめされる十字軍(笑)の有様が描写されている。もっと具体的に言うと、エジプトのイスラム王朝アイユーブ朝側が仕掛けた焦土作戦だとも気付かずにダミエッタ占領に浮かれて、軍紀引き締めもままならないまま調子に乗ってカイロを目指して進軍するものの、途中イスラム側のゲリラ戦術に翻弄され、その果てにマンスーラの戦いで大敗し、将の主だったもの(ルイ9世含む)が捕虜となる中、疫病に悩まされつつも必死で捕虜解放交渉に勤しむ十字軍の姿が活写されている。

第三章では、マンスーラでの敗北後、苦闘の末に(身代金的な意味で)解放されたルイ9世以下の十字軍がパレスチナに撤収し、そこで行ったカイロのマムルーク朝政権、ダマスカスのアイユーブ朝政権、レバノンのイスマーイール教団との外交交渉(そして散発する武力衝突の模様)、そしてモンゴル帝国から帰還した使者による現地報告、モンゴル軍のバグダッド攻略の状況を述べている。

第四章では、ルイ9世のフランス帰国までの道中、そして帰国後は内政に勤しむルイ9世の姿、そして再度十字軍遠征を企て第8回十字軍を率いて北アフリカ・チェニスに侵攻するも間もなく病没してしまったルイ9世の遺言といった事柄を記して、著者は筆を置いている(第8回十字軍の詳細については、著者自身は企て自体に乗り気ではなく、実際参戦していなかったこともあってか、記述される所は殆ど無い)。

さて、前述部分と重複してしまう部分もあるが、本書ではマムルークのクーデターによるエジプト王朝の交代劇や中東支配を目論むモンゴル帝国との外交交渉、イスラム教シーア派の一派で「暗殺教団」として恐れられたイスマーイール教団の詳細、パレスチナの十字軍国家や中東各地に割拠するイスラム諸王朝との複雑な合従連衡といった具合に、歴史学や国際関係のケーススタディとして非常に興味深い記述も多い。
ただ、それらを時として霞んだものにしてしまうほどの滑稽さがルイ9世とその周辺からあふれ出して止まらないのである(特に第二章)。

人格者としては極めて立派だが、政治的嗅覚というか現実主義を持ち合わせない人物がリーダーとなった場合に生じる悲劇(傍から見れば最高の喜劇)を存分に堪能させてくれる作品と言えよう(多分、というか間違いなく著者はそんなつもりでは書いていないのだろうが・・・・)。

2009年5月22日金曜日

第二百七十四段 音速の遅い読書『源平闘諍録―坂東で生まれた平家物語』上下

今回の音速の遅い読書で取り上げるのは、以下の作品。

源平闘諍録―坂東で生まれた平家物語〈上〉 (講談社学術文庫)
福田 豊彦
文庫
講談社
発売日 1999-09

アマゾン通販

源平闘諍録―坂東で生まれた平家物語〈下〉 (講談社学術文庫)
福田 豊彦
文庫
講談社
発売日 2000-03

アマゾン通販




この作品について書誌的情報を述べれば、主題として取り扱っているのは所謂「源平合戦」(但し「壇ノ浦」まではいかず、「屋島合戦」の辺りで本書は記述を終えている)、成立年代は13~14世紀頃、著者は不明、といった所である。
また、オリジナルの文体としては和文的要素を取り入れた漢文体、所謂「真名体」で記されており、学術文庫版ではそれを書き下し文として平仮名で送り仮名、振り仮名を付している。

因みに、点額法師の全く個人的な感想というか独断だが、この『源平闘諍録』、基本が漢文ということもあって、和語全開で書かれている平安文学よりもずっと読み易い。

閑話休題、同じテーマを扱う『平家物語』との最大の違いは、当該作品は源頼朝の天下制覇に対する千葉氏を始めとした坂東平氏の貢献を顕彰することに力点が置かれていることである。
源頼朝の鎌倉政権樹立を支えた関東の御家人たちは、北条氏然り、三浦氏然り、千葉氏然り・・・・その殆どが桓武平氏に繋がる家系であった。その意味で、源頼朝の挙兵から壇ノ浦における伊勢平氏一門の全滅に至る、一般 に「源平合戦」として認識される事象は、高倉・安徳両天皇を擁立する伊勢平氏と清和源氏の嫡流を押し頂く坂東平氏、いわば東西平氏間の抗争という一面を備えていた。
繰り返しになってしまうが、その「源平合戦」で源氏嫡流の頼朝を支えた坂東平氏、中でも千葉氏にスポットライトを浴びせたのが、本書『源平闘諍録』なのである(もっとも、それが鮮明になってくるのは物語の後半、学術文庫版で言えば下巻からなのだが・・・・)。

そんな『源平闘諍録』からは、単なる物語以上に組織論、戦略論的な教訓をくみ取ることができる・・・・・と思うのだが、そんな「『平家物語』に学ぶリーダーシップ」的な読み方は今までにも大量にされているわけで、そこに改めて点額法師の凡百な感想を付加しても何ら面白い所は無いと思われる。

それよりも、もっと別の観点、具体的に言えば、本書に記載されているエピソード類の中で最も面白く感じたものを一つ挙げて、感想としたい(非常にどうでもよい話だが、点額法師は古今東西を問わず、説話めいたもの(怪談や都市伝説含む)が大好物なのである)。

<大納言成親の娘たち無惨のこと>
院の近臣として清盛一族の討滅を図った一人に、藤原成親という人物がいた。彼には三人の娘がいた。陰謀に失敗した成親が配流先で殺されるや、その三人の娘に奇怪な出来事が発生する。
まず長女が気がふれた状態となり、野山を彷徨しては「成親の言葉だ」と称して大声で騒ぎたて、遂には竹林の中で竹の切り栓(要は、竹槍状に先端部が斜めに切断された竹)に身を貫かれるという無惨な状態となり果てる。
人々がこのことを「不思議なことだ」と訝しがっているいると、時を置かずして、次女、三女もまた竹に身を貫かれて死ぬこと、長女の死に様と寸分も違わずであったという。

柳田国夫の『遠野物語』や『山の人生』の記述、そして古来より「竹」という植物が、その生長の早さから神秘的な力をもったものとして看做されていたことを思い合わせると、実に興趣をそそられる逸話である。また、少し尾鰭葉鰭をつければ、これからの蒸し暑い季節にピッタリの一品が出来上がろう。

2009年5月14日木曜日

第二百七十一段 音速の遅い読書『歴史学 未来へのまなざし―中世シチリアからグローバル・ヒストリーへ 』

今回の音速の遅い読書で取り上げるのは、以下の作品。

歴史学 未来へのまなざし―中世シチリアからグローバル・ヒストリーへ (historia)
高山 博
単行本
山川出版社
総合評価 5.0
発売日 2002-07

アマゾン通販

21世紀初頭の日本において、「シチリア」と言えば、イタリア南部のどうしようもない貧しさ、或いはレモンかマフィアぐらいしか思い浮かばないという人も多いのではないか(映画好きなら『山猫』若しくはマフィア映画の傑作『ゴッド・ファザー』を連想するかもしれないが・・・・)。

しかし10~13世紀、一般に「中世」と呼ばれる時代において、シチリアは豊かで強大な中東から貧しく野蛮な欧州に富や様々な文物、そして先進的な諸学問が流入する際の玄関口の一つとして、殷賑を極めた地域であった。そこを統治したのがカソリックを奉じるノルマン系の王家とそれを支えるイスラム教徒やギリシア人を中心とする官僚組織から成る「中世シチリア王国」である。

本書は、そのシチリア王国の行政府機構を研究対象とする西洋史学者高山博氏(東京大学大学院教授)の手による一冊である。といってもハードカバーの分厚い大著というわけではなく、選書サイズでページ数は190ページ程度のソフトカバーという仕様になっているため、ちょっとした外出等のお供にもできるのが嬉しい所である。

構成は三章からなり、第一章はシチリア王国の来歴と著者の研究テーマ、第二章は歴史研究で必要となる考え方と姿勢、第三章は著者の目から見た「現在」という時代の有り様をそれぞれ扱っている。

歴史を顧みることの重要性と楽しさは古今東西の賢人たちが称揚する所であり、中でも英国の誇る歴史学者の一人E・H・カーは「歴史とは現在と過去との生き生きした対話である」と述べているが、本書を読むと実にそれももっともなことだと思わされる。

第一章で興味深かったのが、前述したようにカソリック教徒やギリシア正教徒、そしてイスラム教徒が併存・共存する中世シチリア王国の有り様である。しかし、それが実現したのは、当時の彼らが進歩的な人権思想に目覚め、慈愛と寛容の精神に殊更富んでいたからという訳でもなかった。著者は以下のように語っている。
このような異文化集団の併存を可能としたのは、この地に住む人々の宗教的・文化的寛容性ではない。強力な王権がアラブ人を必要とし、彼らに対する攻撃や排斥を抑制していたからである。したがって、戦争や騒乱の際には必ずといってよいほど、異文化集団に対する略奪や攻撃が行われている。

民族間・宗派間の憎悪が止まないサダム・フセイン政権崩壊後のイラク、軍閥や宗教過激派が跋扈するソ連邦撤退後のアフガニスタン、カリスマ指導者チトー死亡で中央政府が著しく弱体化したユーゴスラビア、そして中央政府が全く機能していないアフリカの諸国、これらの地域で発生した血腥い出来事を思う時、上記の言葉は一層の重みを伴って点額法師の頭に響いてきた。

第二章では歴史研究にあたって必要とされる姿勢や考え方が記述されているのだが、中でも印象に残ったのが、以下の記述である。
私たちは、無限に広がる過去を認識するために、通常は誰かがつくった枠組みを使う。誰かがつくってくれた枠組みを借りて物事を認識しているのである。自分の頭で考えていると思っても無意識のうちに誰かの枠組みを使っている場合が多い。もし、本当に過去が知りたければ、知りたい関心に応じてそのような枠組みを修正したり、自分自身の枠組みをつくらなければならない。

最近名誉復興が著しい経済学者ケインズの「現在の為政者や知識人は、すべて過去の知識人や過去の思考の奴隷なのだ」という言葉にも一脈通じる文章だが、自分の思考の枠組みを把握し、必要に応じてそのアップデートを図ることは、歴史学のみならず、実際のビジネスや情報分析においても必要な作業だろう。

最後に第三章だが、著者は現在世界について「過渡期」として認識しているという。つまり、国境内に絶対的な支配力を有する近代国家の時代、そして国境を越えて生じる様々な重大問題に対処し得るだけの強制力を持った組織が登場してくる時代、その両者の狭間にある時代が「現在」という時代なのだ。
そんな「現在」という時代を特徴づけるものは、統制力の弱った国家と基本的に無秩序なグローバル市場の二重構造に起因する不安定さだという。
この認識はスーザン・ストレンジが『カジノ資本主義』等の著作で示した認識、そして田中明彦教授が『新たな中世』等で示した現状認識と共通する部分が多い(実際、本書にはS・ストレンジの著書『国家の退場』から引用した個所がある他、田中明彦教授の『新たな中世』を意識したと思われる記述も見られる)。
米国発の世界的な金融危機について、世界各国は国際協調的を前面に押し出して対応策の立案と実施を迫られている(最も象徴的な例が所謂「G20」であろう)。これもグローバル化した市場に対して独力で立ち向かえる国家が存在しないことを如実に示すものと言えよう。

謎に包まれた過去の時代について、様々な断片を集めながら、それを慎重に調査・検討して組み合わせ、一つのビッグピクチャーを描き出し、更にそれを現在という時代と比較することで、現在という時代の特徴を鮮明にし、そこから更には未来の有り様までもおぼろげながらに浮かび上がらせる、そんな歴史学の醍醐味を味わうことができる作品である。

2009年5月12日火曜日

第二百七十段 北朝鮮に石油?

東アジアの厄介者北朝鮮が割合に地下資源(石炭、鉄鉱石等)に恵まれている国であることは、当ブログでも度々触れてきたが、その北朝鮮の地下資源権益にブラジルが目をつけているのではないか、という点額法師の憶測(妄想?)を書いたのが当ブログの第百四十一段

記述内容は以下の通りだが、


ここにきて次のようなニュースが報じられた。
【リオデジャネイロ=共同】北朝鮮の朴義春外相は11日、ブラジルを訪問しアモリン外相と会談、日本海にある北朝鮮領海内での深海油田探査をめぐ り、ブラジルの国営石油会社ペトロブラスによる事業協力への期待を表明した。スペイン通信が伝えた。ブラジル側の対応は明らかにされていない。

 ブラジルは平壌に大使館を開く方針。

 業界筋によると、ペトロブラスの深海油田の探査、掘削技術は世界最高水準とされ、中国なども注目しているという。(20:30)(出典:日経ネット

北朝鮮に石油。一般に「中国からの石油に依存している」と言われるあの北朝鮮に石油。どうも違和感バリバリというか、意外な組み合わせに思えたので、世界の地下資源情報が充実しているJOGMEC(石油天然ガス・金属鉱物資源機構)のHPに関連情報が無いかと検索をかけてみた所、2002年と2006年に発表されたレポートに北朝鮮の油田開発についてまとめたものがあった(JOGMECでの検索結果)。

このうち、2006年のレポート内容から関連する部分を抜き出すと、以下のような感じになる。
・北朝鮮には油田が存在し実際に生産も行われているが、その量は微々たるもので自国の需要を満たすには程遠い水準と考えられる。
・北朝鮮では1990年代から複数国の企業に油田探査を認めているが、商業ベースで成功した企業は現時点で存在しない。
・依然として、北朝鮮の石油資源は中国からの輸出に依存していると考えられる。
・北朝鮮国内の原油予想埋蔵量については、信頼できる情報が極めて少ない。
・限定的な情報から推測すれば、比較的有望な鉱区は西海海域である。
・2005年12月、北朝鮮は中国と西海(黄海)海域での油田共同開発で合意した。

上記を踏まえた上でペトロブラスの状況を顧みると、同社は2月に中国開発銀行から油田開発資金を調達する覚書を交わしている。
だから北朝鮮がペトロブラスに中国への輸送も容易でそれなりの原油埋蔵量も期待できる西海(黄海)海域で油田開発を要請するというのなら、話は実に分かり易い。
しかし、実際に北朝鮮がペトロブラスに油田開発を持ち掛けてきたのは、東の日本海側。
北朝鮮は本気で未知の油田を見つけようとしているのだろうか?
それとも、単に「原油埋蔵地」という疑似餌をちらつかせることで米日韓から都合のいい反応を引き出そうとしているだけなのだろうか? 
それとも、その両方を狙っているのだろうか?
今一つ判然としない。

ただ、ペトロブラスの一株主としては、同社には今回の北朝鮮の申し出を受諾して欲しくない。何故なら政治、採算性、その他あらゆるリスクが高過ぎるからだ。
そもそもペトロブラスは最近生産の始まったトゥピ油田を筆頭に自国ブラジルの沖合に有望な油田を抱えているのだから、焦って海外油田の探査・獲得に乗り出す必要性は低い。まして、本当に原油があるのかどうかも不明なトラブルメーカーの手を握る必要な全くない
ここは「動かざること山の如し」の精神でペトロブラス経営陣には決断を下して欲しい所である。

2009年5月6日水曜日

第二百六十八段 米海軍艦艇、黄海で活動

昨日2009年5月5日、米国海軍の音響測定艦ビクトリアスが、調査活動中に中国船舶からの妨害行動を受けたという。以前も南シナ海で似たような事柄が発生したが(当ブログ第二百三十二段参照)、今回の事例は黄海で発生したものだという。

時事通信は以下のように伝えている。
【ワシントン5日時事】米国防総省は5日、黄海の公海上で、米海軍の音響測定艦が中国の漁船に接近される危険行為が1日にあったことを明らかにした。人員や測定艦に被害はなかった。
 中国船による米音響測定艦に対する危険行為は3月にも、南シナ海で起きている。
 同省などによると、米音響測定艦「ビクトリアス」(約3400トン)が中国の排他的経済水域で活動中、中国の漁船2隻が約27メートルまで接近し、航行を妨害した。
 ビクトリアスは同海域にいた中国政府船に危険行為をやめさせるよう無線で要請。漁船は中国政府船の指示に従い、ビクトリアスから離れたという。(2009/05/06-07:18)(出典:時事通信

以前に米国音響測定艦インペッカブルが中国船舶から妨害行動を受けた南シナ海が、ヴェトナムやフィリピン、マレーシア、そして中国といった各国の領有権主張が入り乱れる海域だったのに対し、今回の事例が発生した黄海は、基本的に「中国の海」と言っても差支えない海域である。

そのことは、右記地図を見れば明白であろう(橙色線で囲った海域が黄海)。
そして、黄海に面した地域のうち、青島(地図内で赤四角で示した箇所)には、原子力潜水艦の運用を行う北海艦隊の司令部が存在し、旅順(地図内で黄色四角で示した箇所)にも北海艦隊の軍港が存在している。

そんな海域で、如何に領海外とは言え、潜水艦の音紋採取を主任務とする音響測定艦を活動させた場合、中国が拱手傍観に止まらない反応を見せることは、火を見るより明らかである。

もし単純に中国原潜の音紋が欲しいのならば、外交問題に発展しかねないリスクを背負って黄海に音響測定艦を展開させるよりも、東シナ海や琉球列島近海に網を張れば十分に目的は果たせると考えられる。

そもそも、現今の状況を見れば、米国は中国を刺激する余裕など無い筈である。安全保障面では、イラク、アフガンで苦闘の続く米国は北朝鮮暴発抑止のために中国と協力せざるを得ない状況。経済面では、オバマ政権は巨額の財政出動に舵を切ったが、それをファイナンスするためには膨大な経常黒字を誇る中国に安定的に米国債を買い入れてもらう必要がある。
つまりは、現状では米国は中国に多くを頼らねばならない状態にあるのである。

にもかかわらず、米海軍が敢えて中国刺激というリスクを背負ってまで、黄海で音響測定艦を活動させたのは何故か?

ここでふと思い出したのが、Foresight誌(新潮社)の2009年5月号である。その30ページ、中露間の活発な軍事取引を伝える記事の中に以下のような記述があった。
中国は海洋ミサイル戦力を補うため、ロシアの提案・協力を受け海中に固定式の発射基地を設ける計画を固め、海軍北海艦隊の司令部がある山東省青島沖の黄海や、山東半島と遼東半島に囲まれた渤海湾などで設置ポイントを調整している。(出典:『Foresight』2009年5月号30頁)

この記事の中で言及されている海中ミサイル発射基地の設置箇所候補の一つが黄海(青島沖)、そして今回米国の音響測定艦が活動していた海域も黄海。これは偶然の一致なのだろうか?

2009年5月5日火曜日

第二百六十七段 中国、続く資源権益獲得の動き

2008年にアフリカを席巻した中国の資源外交。その勢いは金融危機によって止む所か、寧ろ危機によって現出した資源権益のバーゲンセール状態を前に更に加速しているように見える。

<2009年の主な中国資源権益獲得行動>
2月20日、中国、ロシア政府系の石油会社ロスネフチと石油輸送網の独占会社トランスネフチ
への
250億ドルの融資と引き換えに、20年にわたる対中石油輸出の長期契約でロシア政府と合意。
2月21日、ブラジル国営石油企業ペトロブラス、深海油田開発資金(最大100億ドル)を中国国家開発銀行から調達へ。
同日、ペトロブラス、中国石油化工集団(以下「シノペック」と表記)と中国石油天然気集団 (以下「CNPC」と表記)に対する重油供給契約締結。
3月25日、中国非鉄大手チャイナルコ(国営)、豪州政府より資源大手リオ・ティントへの出資(195億ドル)認可を獲得。
4月25日、中国の中国五鉱集団(国営)、豪州の鉱山会社OZミネラルズ買収

そして、5月に入ってからも中国の資源獲得行動は止まないようである。

一つ目は日経ネットが伝えるニュース。

中国国有の非鉄大手、豪希土類大手に51%出資で合意

【北京=多部田俊輔】中国の国有非鉄大手、中国有色鉱業集団は4日までに、オーストラリアのレアアース(希土類)大手ライナスに51.66%出資すること でライナスと合意したことを明らかにした。出資額は2億5200万豪ドル(約180億円)。ライナスは資金繰りのため、中国の銀行から100億円規模の融 資も受ける。両社は中豪政府の承認を求める。中国メディアによると、中国企業による豪資源会社の買収は今年4件目。(04日 23:01) (出典:日経ネット

ただでさえ、ハイテク製品の原材料として不可欠のレアアースは、その産出地が中国に偏在している。そこへきて豪州のレアアースも中国が押さえることになれば、ハイテク立国だの、「ものづくり」大国だの、製造業ありきの経済だのといった言葉には、全て「中国が許す範囲での」という枕詞が付きかねない(代替材なんて一朝一夕に作れるもんでもないし・・・・)。
最近、日本でも中国が発表した電子機器の強制認証制度(要は、電子機器のプログラムのソースコード開示を義務付け、逆らえば中国での製品販売を認めない制度)への反発が強まっているが、その交渉の場で中国側に「ほう、ソースコードの開示はしない? 中国での当該機器販売も見合わせる? なるほど・・・でも製品の原材料が入手できなくなれば、ソースコードとか販売計画とか以前の問題ですよね?」と言われたらどうするんだろうか?

二つ目は、Business News Americasに掲載されていたニュース。

Talisman to sell local

assets to Sinoc-Sinopec

- Trinidad & Tobago


Canadian company Talisman Energy (NYSE: TLM) will sell its Trinidad assets to Chinese consortium Sinoc-Sinopec for roughly Cdn$380mn (US$323mn), Talisman CFO Scott Thomson announced.

Talisman last year announced it planned to offload its Trinidad assets as part of a strategy to focus on its core business.

In the Caribbean country, the company holds a 25% non-operating interest in the Angostura development area of block 2(c), a 36% interest in the block 2(c) Howler assessment area, a 26% interest in the Greater Ruby-Delaware appraisal area of block 3(a) and a 40% interest in the exploration area of block 3(a).

Talisman also holds a 65% operating interest in the onshore Eastern block.

The sale is due to close this quarter, Thomson said in a webcast.

The Canadian company's net total proved reserves in Trinidad & Tobago reach 220Bf3 (6.23Bm3) of natural gas and 4.3Mb of oil and NGLs.(出典:Business News Americas

要は、Talisman Energyというカナダのエネルギー会社が、トリニダード・トバゴに有していた権益をシノペックに対して約3.2億ドルで売却するというもの。

トリニダード・トバゴ、何処にあって何が有名な国なのか、あまりピンとこない国だが、右記地図に示したように、位置としてはベネズエラの北岸、西インド諸島の南端という位置にある。
産油国ベネズエラに近接していることからも想像がつくように、トリニダード・トバゴもまた石油・天然ガスを産出し、2006年時点の総輸出額142億ドルのうち、天然ガスが約31%、石油製品が約27%、原油が約15%を占める構成となっている。
人口は約134万人で、約40%がインド系、約38%がアフリカ系という構成になっている。そして議会もまた、インド系が支持基盤の統一民族会議とアフリカ系が支持基盤の人民国家運動が二大勢力を形成しており、現在は人民国家運動が与党となっている。外交姿勢としては親米英姿勢を基調としている。(以上は『データブックオブザワールド 2009』を参考とした)

さて今回のシノペックのトリニダード・トバゴ進出だが、反米国家(と同時に産油国家)ベネズエラに近接する親米国家に、米国との対抗も辞さない新興大国の国営企業が札束を靡かせてやってきたとも言えるわけで、米国にとっては、主に安全保障の観点から気が気ではないニュースと言えるのかもしれない。

2009年5月4日月曜日

第二百六十六段 音速の遅い読書『劉少奇語録』

今回の音速の遅い読書で取り上げるのは、以下の作品。

劉少奇語録 (1967年)
劉 少奇

現代書房
発売日 1967-10

アマゾン通販

この作品は「語録」という言葉が示すように、中華人民共和国の成立と経済の近代化に尽力しながら、権力闘争の達人毛沢東と対立するに至り、遂には文化大革命の嵐の中、反逆者の汚名を着せられて失脚した悲劇の政治家劉少奇(一応、没後11年経過した1980年に鄧小平の手によって名誉回復)の言葉を、彼が発表した論文や著作、講演等から採録したものである。

投資家が共産主義政権の大物の語録を読書録で取り上げるというのも、妙な取り合わせと言われそうだが、経済学者スーザン・ストレンジは「思慮深く注意深いマルクス主義者の分析は、思慮深く注意深い金融保守主義者の批評とあまり隔たっていない」と言っているし、何よりW・ウィルソンは「人を殺そうとしている男からもナイフの研ぎ方を学ぶことができる」と言っている。
巨大国家中華人民共和国の経済近代化に尽力した(そしてある程度の成功を収めた)政治家の言ならば、人殺しにナイフの研ぎ方を学ぶよりも得るものは遥かに多かろう。

そう考えて読み始めた当該作品だが、中々に感銘を受ける言葉が少なくない。
例えば、以下の言葉である。
諸君がある同志を評価し、あるいは批判するとき、ただかれの欠点、誤りを指摘して、かれの全部だとみなすだけでなく、さらにかれの成績、功労、長所および正しい主張をも指摘しなければならない。たとえかれの主張が、わずかしかあるいは一部しか正しくないとしても、諸君は必ずそれを指摘して、抹殺してしまってはならない。

21世紀初頭の世界に生きる我々が、上記のような穏健・実際的な考えを有する指導者を「造反有理」の怒号を以て放逐した紅衛兵の無知蒙昧を嘲笑うことは、一見すると非常に容易い。
しかし、世界的な金融危機の中で、自由主義的な経済思想、証券化や金融工学の進展、あるいは公的部門の民営化を推進した政治家といった、危機の一因となったとされる様々な要素が大きな非難に晒されているのを見る時、世の大勢が、事の功罪を慎重に分別して判断する劉少奇的思考ではなく、一つの欠点を以て全否定の雄叫びを上げる紅衛兵的思考で占められていることに気付かされるだろう。
そもそも、ルネサンス期イタリアの賢人マキャヴェッリは「人間の為すことに最初から完全なことなどあり得ない」と喝破した。だからこそ物事の経営にあたっては、事の功罪を分別して把握し、それぞれの大小を慎重に比較考量する劉少奇的思考が必要となるのだが、現今の状況たるや前述の如しである。
そこで再び考えさせられるのだ。「現在にあって真に紅衛兵の暴挙を嘲笑うに足る人物はどれだけいるのか? 自分もまた紅衛兵と同じ陥穽にはまっているのではないか?」と。

また、次に挙げるのは、以下の言葉である。
闘争は行き過ぎてはいけない。でないと、必ず悪い結果を引き起こし、工場を閉鎖し、倒産し、生産は低下し、労働者は失業しあるいは孤立する。農民と職員は、君たちが間違っていると言う。その時になれば君たちは非常に苦痛になる。その時になって政府に救済を求めようとしても、政府には力がない。君たちが資本家を捕えてきて銃殺にすれば、かれは工場を経営できなくなる。ある労働者はこう言う。資本家がやらないなら、われわれがやる、われわれは組んで合作会社を開くのだ、と。ところで合作会社はいったい開いたのか? というと、たしかにたくさん開いたには開いた。ただし、経営の良好なのは一つもありはしないのである。

何だか米国のビッグ・スリー騒動(現在も進行中)を彷彿とさせる言葉である(ビッグ・スリーの労働者は銃殺とか野蛮なことはしてないが・・・・)。1960年代の社会主義国と似たような事象の発生した2000年代の高度資本主義国・・・・(規模の違いこそあれ)、「陽の下に新しきもの無し」、古人はよくいったものである。
そして日本においては、「労働者が共同で出資して仕事を起こし、経営にも携わる「協同労働」という働き方を支援する法案」が提出の見込みだという(出典:日経ネット)。
1960年代の社会主義国と似たような事象の発生した2000年代の高度資本主義国・・・・(しかも上手くいかなかった仕組みを真似るとは・・・)、「陽の下に新しきもの無し」、古人は本当によくいったものである。

こんな21世紀の世界にも通用する透徹した目を持つ指導者を葬ってしまった事は、間違いなく中華人民共和国にとって痛恨事以外の何物でもあるまい。

2009年5月3日日曜日

第二百六十五段 アルメニア外相、訪米のこと

南コーカサス諸国の中で唯一親露路線を明確にしている国アルメニアの外相が、5月3日~5日の予定で訪米するとの由。

ロシアの通信社Novostiは以下の様に伝えている。

Armenia foreign minister

to visit U.S. May 3-5

YEREVAN, May 2 (RIA Novosti) - Armenian Foreign Minister Eduard Nalbandyan is due to visit Washington on May 3-5 at the invitation of U.S. Secretary of State Hillary Clinton, Armenia's foreign ministry said on Saturday.

Clinton will hold talks with her Armenian counterpart on Monday to try and find a settlement to the long-running Nagorny Karabakh conflict and following a Swiss-mediated agreement on a "roadmap" between Yerevan and Turkey.

Armenia and Turkey reached an agreement April 23 on a "roadmap" aimed at normalizing bilateral relations, which have been virtually non-existent following a bitter row over the massacre of ethnic Armenians in Turkey in the early 20th century.

Clinton will also meet with Azerbaijani Foreign Minister Elmar Mammadyarov on Tuesday prior to talks between the Armenian and Azerbaijani leaders in Prague on May 7.

Earlier U.S. Deputy Assistant Secretary of State for European and Eurasian Affairs Mathew Bryza said that a resolution on Nagorny Karabakh was "possible in the next few months."

The border between Armenia and Turkey was closed in 1993 on Ankara's initiative following fighting between Armenia and Turkey's ally, Azerbaijan, over Nagorny Karabakh.

The disputed region has a majority Armenian population, but which is within Azerbaijan's borders, declared its independence form Azerbaijan in late 1991 and has been a source of conflict ever since.

Turkey has said it wants talks with Armenia to take place in parallel to Armenian-Azerbaijani discussions on the future status of the region.(出典:Novosti


記事で注目すべき点は、以下の通り。
・アルメニアのEduard Nalbandyan外相が5月3日~5日の予定で訪米する。
・月曜予定のクリントン米国務長官とアルメニア外相との会談では、ナゴルノ・カラバフ紛争  
 やトルコとの国境画定問題が主な議題となる見込みである。
・アルメニア・アゼルバイジャン両国首脳の会談が5月7日にプラハで行われる。
・クリントン米国務長官は、上記首脳会談に先立って火曜日にアゼルバイジャンの
 Elmar Mammadyarov外相とも会談する見込みである。
・米国務省の欧州・ユーラシア担当副次官補は、アゼルバイジャン・アルメニア間の長年の
 懸念材料であった「ナゴルノ・カラバフ紛争」で解決に向けた合意が今後数カ月のうちに
 成立するとの見通しを示した。

そもそもアルメニアが親露路線を採っているのは、長年対立してきたアゼルバイジャンやトルコが親欧米外交を採ってきたことへの対抗策(アゼルバイジャンとは所謂「ナゴルノ・カラバフ紛争」を戦い、トルコとは国境問題に加えて所謂「アルメニア人虐殺問題」で対立)。アルメニアは対立するアゼルバイジャンと違って自国内にエネルギー資源を産出しないことから、電気や化石燃料の供給をロシアに依存しているため。以上の二点による面が大きい。
またアルメニアは、親欧米外交を展開するトルコやアゼルバイジャンと対立してきたイランやシリアとの間に良好な外交関係を構築している(だから、ナゴルノ・カラバフ紛争においてアルメニアはロシアに加えてイランからも援助を受けてアゼルバイジャンに対抗した)。

また、ロシアやイランへの対抗上、米国がアゼルバイジャンに経済援助・軍事援助を拡大させようにも、その動きは米国内のアルメニア・ロビーの妨害によって多くの困難に直面してきた。

従って、仮に米国が「ナゴルノ・カラバフ紛争」解決でアルメニアに恩を売ることができれば、米国のアゼルバイジャン援助に対する支障は大部分が氷解するし、それはイランに対する有効な圧力となるだろうことは想像に難くない。

そして、ここで地図を見てもらえば一目瞭然だが、アルメニアの位置(赤楕円部分)はトルコの後背。もっと言えば、最近徐々に西側に距離を取り始めた外交が目立つトルコの後背(当ブログ第二百六十二段参照)。同時に親欧米外交を鮮明にしてロシアとの軋轢も辞さないサアカシュヴィリ・グルジアの後背でもある。
そんなアルメニアの外交軸が米国寄りに振れた場合、そのインパクトは周辺国にとって無視できないものとなろう。

イラク・フセイン政権の倒壊によるイラクの弱体化とイランの強大化、トルコの外交姿勢の変化、イスラエルの軍事力神話の陰り、いつ最高権力者が「万歳」を迎えてもおかしくないエジプトとサウジ、そして米国の息切れとロシアの影響力拡大、そういった諸要素が渾然一体となって、周辺地域を巻き込みながら新たな中東秩序を巡る合従連衡が繰り広げられているのが現在の状況といった所なのだろう。