2009年5月6日水曜日

第二百六十八段 米海軍艦艇、黄海で活動

昨日2009年5月5日、米国海軍の音響測定艦ビクトリアスが、調査活動中に中国船舶からの妨害行動を受けたという。以前も南シナ海で似たような事柄が発生したが(当ブログ第二百三十二段参照)、今回の事例は黄海で発生したものだという。

時事通信は以下のように伝えている。
【ワシントン5日時事】米国防総省は5日、黄海の公海上で、米海軍の音響測定艦が中国の漁船に接近される危険行為が1日にあったことを明らかにした。人員や測定艦に被害はなかった。
 中国船による米音響測定艦に対する危険行為は3月にも、南シナ海で起きている。
 同省などによると、米音響測定艦「ビクトリアス」(約3400トン)が中国の排他的経済水域で活動中、中国の漁船2隻が約27メートルまで接近し、航行を妨害した。
 ビクトリアスは同海域にいた中国政府船に危険行為をやめさせるよう無線で要請。漁船は中国政府船の指示に従い、ビクトリアスから離れたという。(2009/05/06-07:18)(出典:時事通信

以前に米国音響測定艦インペッカブルが中国船舶から妨害行動を受けた南シナ海が、ヴェトナムやフィリピン、マレーシア、そして中国といった各国の領有権主張が入り乱れる海域だったのに対し、今回の事例が発生した黄海は、基本的に「中国の海」と言っても差支えない海域である。

そのことは、右記地図を見れば明白であろう(橙色線で囲った海域が黄海)。
そして、黄海に面した地域のうち、青島(地図内で赤四角で示した箇所)には、原子力潜水艦の運用を行う北海艦隊の司令部が存在し、旅順(地図内で黄色四角で示した箇所)にも北海艦隊の軍港が存在している。

そんな海域で、如何に領海外とは言え、潜水艦の音紋採取を主任務とする音響測定艦を活動させた場合、中国が拱手傍観に止まらない反応を見せることは、火を見るより明らかである。

もし単純に中国原潜の音紋が欲しいのならば、外交問題に発展しかねないリスクを背負って黄海に音響測定艦を展開させるよりも、東シナ海や琉球列島近海に網を張れば十分に目的は果たせると考えられる。

そもそも、現今の状況を見れば、米国は中国を刺激する余裕など無い筈である。安全保障面では、イラク、アフガンで苦闘の続く米国は北朝鮮暴発抑止のために中国と協力せざるを得ない状況。経済面では、オバマ政権は巨額の財政出動に舵を切ったが、それをファイナンスするためには膨大な経常黒字を誇る中国に安定的に米国債を買い入れてもらう必要がある。
つまりは、現状では米国は中国に多くを頼らねばならない状態にあるのである。

にもかかわらず、米海軍が敢えて中国刺激というリスクを背負ってまで、黄海で音響測定艦を活動させたのは何故か?

ここでふと思い出したのが、Foresight誌(新潮社)の2009年5月号である。その30ページ、中露間の活発な軍事取引を伝える記事の中に以下のような記述があった。
中国は海洋ミサイル戦力を補うため、ロシアの提案・協力を受け海中に固定式の発射基地を設ける計画を固め、海軍北海艦隊の司令部がある山東省青島沖の黄海や、山東半島と遼東半島に囲まれた渤海湾などで設置ポイントを調整している。(出典:『Foresight』2009年5月号30頁)

この記事の中で言及されている海中ミサイル発射基地の設置箇所候補の一つが黄海(青島沖)、そして今回米国の音響測定艦が活動していた海域も黄海。これは偶然の一致なのだろうか?