2009年5月22日金曜日

第二百七十四段 音速の遅い読書『源平闘諍録―坂東で生まれた平家物語』上下

今回の音速の遅い読書で取り上げるのは、以下の作品。

源平闘諍録―坂東で生まれた平家物語〈上〉 (講談社学術文庫)
福田 豊彦
文庫
講談社
発売日 1999-09

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源平闘諍録―坂東で生まれた平家物語〈下〉 (講談社学術文庫)
福田 豊彦
文庫
講談社
発売日 2000-03

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この作品について書誌的情報を述べれば、主題として取り扱っているのは所謂「源平合戦」(但し「壇ノ浦」まではいかず、「屋島合戦」の辺りで本書は記述を終えている)、成立年代は13~14世紀頃、著者は不明、といった所である。
また、オリジナルの文体としては和文的要素を取り入れた漢文体、所謂「真名体」で記されており、学術文庫版ではそれを書き下し文として平仮名で送り仮名、振り仮名を付している。

因みに、点額法師の全く個人的な感想というか独断だが、この『源平闘諍録』、基本が漢文ということもあって、和語全開で書かれている平安文学よりもずっと読み易い。

閑話休題、同じテーマを扱う『平家物語』との最大の違いは、当該作品は源頼朝の天下制覇に対する千葉氏を始めとした坂東平氏の貢献を顕彰することに力点が置かれていることである。
源頼朝の鎌倉政権樹立を支えた関東の御家人たちは、北条氏然り、三浦氏然り、千葉氏然り・・・・その殆どが桓武平氏に繋がる家系であった。その意味で、源頼朝の挙兵から壇ノ浦における伊勢平氏一門の全滅に至る、一般 に「源平合戦」として認識される事象は、高倉・安徳両天皇を擁立する伊勢平氏と清和源氏の嫡流を押し頂く坂東平氏、いわば東西平氏間の抗争という一面を備えていた。
繰り返しになってしまうが、その「源平合戦」で源氏嫡流の頼朝を支えた坂東平氏、中でも千葉氏にスポットライトを浴びせたのが、本書『源平闘諍録』なのである(もっとも、それが鮮明になってくるのは物語の後半、学術文庫版で言えば下巻からなのだが・・・・)。

そんな『源平闘諍録』からは、単なる物語以上に組織論、戦略論的な教訓をくみ取ることができる・・・・・と思うのだが、そんな「『平家物語』に学ぶリーダーシップ」的な読み方は今までにも大量にされているわけで、そこに改めて点額法師の凡百な感想を付加しても何ら面白い所は無いと思われる。

それよりも、もっと別の観点、具体的に言えば、本書に記載されているエピソード類の中で最も面白く感じたものを一つ挙げて、感想としたい(非常にどうでもよい話だが、点額法師は古今東西を問わず、説話めいたもの(怪談や都市伝説含む)が大好物なのである)。

<大納言成親の娘たち無惨のこと>
院の近臣として清盛一族の討滅を図った一人に、藤原成親という人物がいた。彼には三人の娘がいた。陰謀に失敗した成親が配流先で殺されるや、その三人の娘に奇怪な出来事が発生する。
まず長女が気がふれた状態となり、野山を彷徨しては「成親の言葉だ」と称して大声で騒ぎたて、遂には竹林の中で竹の切り栓(要は、竹槍状に先端部が斜めに切断された竹)に身を貫かれるという無惨な状態となり果てる。
人々がこのことを「不思議なことだ」と訝しがっているいると、時を置かずして、次女、三女もまた竹に身を貫かれて死ぬこと、長女の死に様と寸分も違わずであったという。

柳田国夫の『遠野物語』や『山の人生』の記述、そして古来より「竹」という植物が、その生長の早さから神秘的な力をもったものとして看做されていたことを思い合わせると、実に興趣をそそられる逸話である。また、少し尾鰭葉鰭をつければ、これからの蒸し暑い季節にピッタリの一品が出来上がろう。