2009年5月26日火曜日

第二百七十八段 東方の雷鳴

去りし2009年5月24日の晩は雷鳴盛ん。何かの本で読んだような気がするが、雷とは水底に潜んで力を蓄えていた竜が天に上るためのきざはしとして走らせるものだという。

現在、国際政治において「竜(ドラゴン)」といえばそれは間違いなく中国のことを指す。鄧小平に始まる改革開放で政治的・経済的発言力を飛躍的に高めた現在の中国は、まさに「昇り竜」と言って差し支えない存在である。

昇り竜の走らせる雷は恵みの雨を招来し、地上に豊かな実りをもたらす。中国の改革開放もまた、日本や韓国、ASEANに止まらず世界全体に大きな経済的実りをもたらした。
だが、雷が時として停電等の実害をも与える様に、中国の台頭もまた、周辺諸国との間に緊張・軋轢といった悪しき影響をもたらしている。

それが明確に顕れてくるのが、中国に加え、台湾、ヴェトナム、フィリピン、マレーシアの領有権問題が複雑絡む南シナ海域である。
中でも南シナ海の北部に位置する西沙諸島において、中国が自国の領有権主張のために大掛かりなデモンストレーションを開始したという。
24日の共同通信は以下のように伝えている。

【北京24日共同】24日付の中国紙、北京晨報によると、中国はこのほど、ベトナムと領有権を争う南シナ海の西沙(英語名パラセル)諸島の周辺海域で、過去最大規模の監視活動を始めた。

 漁業監視船4隻で船隊を組む今回の監視活動について、農業省の担当者は、中国が国家主権と南シナ海での漁業権益を守る決意を示している、と話している。

 監視活動中に、中国の海域で違法操業していた外国籍の漁船1隻を発見し、海域外へ退去させたという。中国の監視船をめぐっては、ベトナム外務省報道官が「国際法に従って関係国の主権を尊重すべきだ」と述べるなど警戒が強まっている。(出典:共同通信

この西沙諸島を含む南シナ海において、中国は東南アジア諸国のみならず超大国米国に対してすら一歩も引かない姿勢を示している(参考:当ブログ第二百三十二段)。
この中国の強硬姿勢は、彼の国が自身の有する魅力、どのような国をも跪かせずにはおれない巨大な消費市場としての魅力を熟知していることに起因するものだ。

ユーラシア極東部の諸国は、そんな大国中国とどのように付き合っていくのか? 

一つは外交政策や経済力・軍事力の強化によって、自国と中国とのパワー・バランスをできるだけ自国に有利な方に傾かせ、それによって自国の対中発言力を強めようとする方策がある。
端的に言えば、中国と張り合う選択肢である。利点としては自国内ナショナリズムの反発を避けられる点があるが、下手を打つと単に中国との関係を悪化させるだけに終わりかねない一面もある。
もう一つは、中国との政治的・経済的関係を強化し、自国が中国に依存するように中国もまた自国に依存させることで対中発言力を高める方策もある。
言葉は悪いが、外野で喚くより内側から中国を自国の都合の良い方向に誘導しようという選択肢である(イラク戦争において、米国に対し英国や日本が選択した道でもある)。
利点としては、友好国・同盟国として自国の発言に対して中国に耳を傾けてもらい易い、配慮してもらい易いといった点が挙げられる。ただし、一見すると対中宥和姿勢にしか見えない外交姿勢が自国ナショナリズムの反発を買ったり、或いは「懐に入り込んだ」と言いながらも実は中国に衛星国として取り込まれるだけの結果に終わりかねない、といった欠点もある。

以上の対中二方策だが、現実世界においてはどちらか一方に偏った行動を採る国よりも、両方を混合させた対中行動を採る国が大半であろう(無論、その国の置かれた状況によって、混ぜ方に個性というか違いはあろうが・・・・)。

ここで最近の国際ニュースに目をやると、台湾やシンガポールは中国の懐に入り込む道に重きを置き始めているようである。

シンガポールを見ると、同国の国富ファンド・テマセクが中国建設銀行(中国大手国営銀行)に6億ドルの追加投資を行い、同行への出資比率が従来の6%から6.5%に高まったこと(出典:時事通信)、ペトロチャイナ(中国国営にして中国最大の石油会社)が22億ドルを投じて石油精製のシンガポール石油を子会社化へ(出典:ブルームバーグ)、といったニュースが報じられている。

そして1949年の蒋介石率いる国民党政府の台湾島撤退以降、半世紀以上の長きにわたって中国共産党政権と対立してきた台湾(国民党と共産党という点で見れば、両者の対立は第二次大戦勃発前の1920年代後半まで遡る)もまた、26日の以下の報道のように中国との関係改善を加速している。

【北京26日共同】中国共産党の胡錦濤総書記(国家主席)と台 湾与党国民党の呉伯雄主席が26日、北京の人民大会堂で「国共トップ会談」を行い、中台間の「経済協力枠組み協定(ECFA)」について、年内に協議入り し、来年締結を目指すことで合意した。呉主席が会談後の記者会見で明らかにした。

 ECFAは馬英九政権が「喫緊の課題」(呉主席)として求めていたもので、胡総書記の明確な回答は初めて。しかし「1つの中国」という枠組みの下での協議を「条件」(台湾紙記者)としており、台湾内部で反発が高まるのは必至だ。

 呉主席によると、胡総書記は「準備次第で今年後半に(ECFAの)協議を始めても良い」と述べた。しかし具体的な協議スケジュールなどは決まっていないという。

 胡総書記は会談の冒頭、この1年間で「三通」(通信、通商、通航の直接開放)や、台湾の世界保健機関(WHO)オブザーバー参加が実現したことなどに触れ「中台は大きな成果を収めた」と指摘し、関係改善1年目を総括した。(出典:共同通信

他にも来年予定の上海万博に台湾の参加が決定する(出典:時事通信)等、中台の関係改善は最近とみに加速しつつある。この中台接近は、中東とアジア・太平洋地域を結ぶシーレーンの主導権争いにも大きな影響を与えていくだろう。

ここで目を転じて、中華帝国の昔から中国と抗争を続けてきたヴェトナム、対照的にほぼ同じぐらいの昔から中華帝国の付庸国であった朝鮮半島、そして東シナ海と日本海の波濤に守られて大陸の圧力から比較的自由でいられた日本、これらは巨竜中国の台頭する世界にあって、どのようなポジションに落ち着くことになるのか、非常に興味深い。