2009年6月19日金曜日

第二百八十九段 後生畏るべし・・・・か?

後生畏るべし。焉んぞ来者の今に如かざるを知らんや。
―――孔子(思想家 B.C.551~B.C.479)

良き性向は、時代によって移動する。かつてはアッシリアにあったそれが、次いではメディアに移り、その次はペルシアに、そしてその後も移動を続けてローマに至り、ローマを隆盛に導いた、というわけである。
―――ニッコロ・マキャヴェッリ(思想家 A.D.1469~A.D.1527)

6月号のフォーサイト誌に「中国の製造業発展は侮れない所まで来ている」という主旨の記事が載っていた。記事では、世界知的所有権機関が年毎に発表する国際特許出願件数で中国の通信機器メーカー華為技術が西側の有力企業(例:パナソニック、シーメンス、ノキア等)を押さえてトップに躍り出たこと、そしてBYDや奇瑞といった民族系自動車メーカーが販売シェアや技術面で急速に力をつけていること等が取り上げられていた。
この記事を読んだ時には「ふ~ん、どっかの「ものづくり」大国の企業も大変ねぇ・・・・」ぐらいにしか思っていなかったのだが、もはや中国の対日キャッチアップは製造業の分野に限定されずに広く確実に進行しているのかもしれない。6月18日、天下に名高いBBCのHPを見に行ってそう思った・・・・というか驚愕した。ありのまま今起こった事を話しそうになるほど驚愕した。

中国のネット事情を伝えるニュースが掲載されていたのだが、まさかBBCでにとりと遭遇するとは夢にも思わなかった。 なんだか妙に心惹かれる画像が掲載されていたのだ(以下図参照)。 


出典:BBC

BBCが取り上げていたニュースの概要は、北京政府がネット統制の一環として、当局が「有害サイト」と認定したサイトへのアクセスを阻止するため、全てのPCに検閲ソフト「Green Dam」のインストールを義務付けたこととそれに対する中国ネットユーザーの反発等を伝えるものであった。
で、画像の娘は、政府の規制策に反発した中国のネットユーザーが、揶揄を込めて「Green Dam」を擬人化したものである。こんな娘にだったら検閲されてもいい・・・・
巨大な災厄に対して、しかめっ面と悲壮感とで対するのではなく、寧ろこれをユーモアで笑いのめすというのはなかなか精神的な余裕というか成熟が無ければできることではない。更に災厄を萌え擬人化して積極的にネタとして楽しんでしまおうという姿勢はなおのことである。
鄧小平が「改革開放」の号砲を鳴らした「南巡講話」から17年で、中国にそんな余裕を身につけた層が登場してくるとは、正直思いもしなかったことである。

ここで愚考を巡らすに、日本は言うに及ばず、読めば思わずニヨニヨしてしまうこと請け合いのコミック『アンニョン!』を産み出した韓国といい、鮮やかな色使いと独特の光沢感で魅せるイラストを世に送り出しているCapura.Lin氏を始めとしたイラストレーターが活躍する現在の台湾といい、萌え文化が栄えているのは、いずれも中華本土の周縁部であった(最近の歴史学で言う所の「海域アジア」、地政学で言う所の「外周の半月弧」と呼ばれる地域。その日韓台いずれもが米国との同盟関係を外交・安全保障の主軸に据えているのは偶然の一致か・・・・?)

一方で中国本土の方から出てくるのは邪神セイバー涼宮ハルビンといった、「ちょっと待て!!」としか言えないような代物ばかり。正直、中国本土に対しては「ユーラシア中央部から溢れ出す遊牧民の圧倒的な破壊力に曝され続けてきたリムランド地域に属する中国本土は、「萌え」を生み出す余裕を持ち得なかったのだろうか?」という疑問を長年抱き続けてきた。
そんな中に彗星の如く現れたのが、今回の一件。

「萌え」の本場とも言える日本では、若年層に対するネットアクセス規制や所謂「エロゲー規制」の成立、国立マンガセンター構想(ナチスの「退廃芸術運動」を知る者としては、同構想は「国が認めてセンターに収録した漫画が正しい文化。そうでないものは下劣で世を乱すので弾圧する」と言っているようにしか聞こえない・・・・)といった具合に、萌え文化の自滅策というか確信犯的な壊滅策がとられつつあることを考えると、「良き性向」が日本から他所に移っていくのもむべなるかなといった所である。BBCのHPに掲げられた彼女の肖像画は、その「萌え」におけるポスト日本の隊列の中に中国が加わりつつあることを如実に示しているものなのかもしれない。