2009年6月26日金曜日

第二百九十二段 窮鳥は懐を目指す

核実験や強硬な外交姿勢で東アジアの安全保障環境を乱しに乱している北朝鮮が、また新たな問題行動を起こしている。6月25日のCNN Japanは以下のように伝えている。

(CNN) ミサイル部品や核関連物資を積載した疑いがある北朝鮮の貨物船「カンナム」がシンガポール経由でミャンマー(ビルマ)へ向かい、米海軍イージ ス艦が追跡している問題で、ミャンマーの国営メディアは25日、コメを積んだ北朝鮮船舶がインドから到着する予定があるものの「カンナム」寄港の情報はな いと報じた。

カンナムのミャンマー行きについては韓国のメディアが報じていたが、国営紙「ミャンマーの新しい灯」は、「関係当局は外国メディアが伝えるような情 報を持っていない」と報道した。ただ、インド・コルカタを出港した北朝鮮の船舶「MV DUMANGANG」が6月27日、コメ8000トンを積み、ミャ ンマーに到着するとした。

一方、シンガポールの海運行政当局者も25日、カンナムが同国への入港を申請した記録はないと述べた。

国連安保理は、北朝鮮が5月25日に実施した2度目の核実験を受けた制裁決議で、大量破壊兵器関連の部品などを積んだ北朝鮮船舶の検査を条件付きで認めている。米政府は、米軍イージス艦の追跡はこれに準じたものとしている。(出典:CNN Japan


東南アジアの軍事独裁国家ミャンマーは、1960年代の軍事政権樹立以来、「人権弾圧」を批判する西側諸国から経済封鎖を受け続けて今日に至っている。
但し、国際政治は殆どの場合「捨てる神あれば拾う神あり」な世界であり、西側諸国の制裁はミャンマー軍事政権を人権問題には頓着しない中国、ロシア、北朝鮮にすり寄らせる以外の結果を生んでいない。
特に中国との関係はもはや宗主国と属国のそれに等しいといわれており、中国は軍事政権を庇護する見返りにミャンマー領ココ諸島におけるレーダー基地・通信傍受施設の設置、シットウェにおける港湾機能拡張、そしてマラッカ海峡をショートカットする目的でミャンマーを縦断するパイプライン設置等を行っている。

その一方でミャンマーは北朝鮮と外界を繋ぐ三つの窓口の一つともなっている(残り二つは韓国との国境に程近い開城、中朝国境地帯の中国都市丹東)。従って、米海軍艦艇の追跡を受けている北朝鮮船が避難先としてミャンマーを選択するのは当たり前と言えば当たり前の選択である。

だが、北朝鮮船がミャンマーに向かうとなれば、ココ諸島の中国軍基地の監視の目を逃れることは難しいだろう。また、首尾よく北朝鮮船が米海軍艦艇の追跡を振り切ってミャンマーに到着したとしても、安心はできない。何故なら、そこは北朝鮮の意向よりも中国の意向が優先される世界だからである。

既に北朝鮮は中国の反対を無視して核実験を行った上、中国が議長を務める六カ国協議についても強い批判を加えてボイコットの姿勢を示している。端的に言えば最近の北朝鮮は一貫して中国の面子を潰し続けている状態なのである。

そんな状態で核関連・ミサイル関連物資の積載が疑われている北朝鮮船は中国の支配領域を目指して航行を続けているわけである。
では、件の北朝鮮船に対して北京政府はどのような決断を下すのだろうか?

個人的には、北京政府はココ諸島に置いた「監視の目」が取得した情報を米海軍の行動支援に利用し、北朝鮮船がミャンマーに着く前に米海軍の手で補足されるように仕向けると考えられる。
何故なら、北朝鮮船がミャンマーに到着してしまった場合、中国はミャンマー政府の行動を通じて世界に北朝鮮側に付くか、米国側につくかの旗幟を鮮明にせざるを得なくなる。そして、その時北京政府が下した決断はどちらの選択肢であっても、国際的な反響のみならず、中国政権内における「北朝鮮は中国の戦略的資産である」と考える一派と「北朝鮮は中国にとってお荷物でしかない」と考える一派の抗争をも呼びかねないからである。それは社会と共産党支配の安定を最重視する胡錦濤現政権にとって最悪の事態だろう。

逆に、北朝鮮船がミャンマーに到着して特に検査が行われずに荷が水揚げされた場合は、中国が東アジアにおいて日米同盟との対決姿勢を強め、北朝鮮を対米・対日戦略における鉄砲玉として利用する道を選択したものと考えられる。その場合、人口減少と経済力の退潮に悩む日本とアフガンを含む中東域での消耗と金融危機の爆発で深手を負った米国にとって、極めて憂鬱な東アジアの政治地図が浮上することになるだろう。