2009年7月18日土曜日

第三百三段 資源国モンゴルへの注目

モンゴルという国がある。多くの人々にとって草原と朝青竜を始めとした力士の出身国といったイメージが真っ先に思い浮かぶであろう同国だが、最近は鉱物資源開発のフロンティアとして、オユトルゴイ鉱区等に眠る莫大な資源が注目を浴びることが増えている(因みにブルームバーグの伝える所では、モンゴルの総輸出額25億ドルの7割以上が銅や金といった鉱物資源の輸出によるものだという(2008年時点))。

そのモンゴルから来日したサンジャー・バヤル首相は、麻生政権と原子力分野に関する協力、鉱業分野への日本企業の進出を促進するための法律整備で合意に達した他、来日中にブルームバーグとの取材に応じ、以下のように発言している(出典:ブルームバーグ
年間で1件以上の大規模な開発を行う。そのために毎年50億ドルの投資が必要。
・日本のような環境に配慮する技術を持つ国の投資が重要だ。

ウラン開発では、20億-30億ドル程度の投資が必要。

2008年年間GDPが約30億ドルの国の首相としては思い切った額を出してきたものである。そして考えると50億ドルという数字は、米国政府が今年4月にGMへの支援融資額として発表した数字と同じ。同じ金額を投じるとしたら、品質でも価格競争力でも完全に力を失った企業に融資するよりは、新興資源国への投資に投じた方が遥かに生産的と思われるのは、気のせいだろうか?

閑話休題、ブルームバーグという国際的メディアでの取材で多額の投資額や日本企業招致に意欲的な意向を口にしたバヤル首相の狙いとしては、基本的にモンゴルに流入する投資資金を少しでも増やし、経済の近代化を図ろうという意図があると考えられる。

視点を日本側に移せば、ウランや銅を始めとした各種鉱物資源の自給がほぼ不可能(所謂「都市鉱山」の活用を除いて)な日本にとって、比較的近い距離にあるモンゴ
ルを新たな大規模資源供給国とすることができれば、その利益は実に大きいものと推測される。
一方でモンゴルという国は、以下の地図に示すように、北はロシア、東西南を中国に囲まれた内陸国である。従って採掘した鉱物資源やその半加工品を日本に運ぶとすれば、ウラジオストク(地図中黄色四角で示す)や天津(地図中)といった中露の
港湾を利用しなければならない(他に北朝鮮の清津(地図中黄緑四角で示す)という選択肢も無いわけではないが、昨今の政治情勢やインフラの整備状況を考えれば、あくまで将来的な検討課題に止まるだろう)。



つまり、モンゴルの資源に対して日本がアクセスを確保しようとすると、どうしてもモンゴルとの関係のみならず、中露との関係を考慮に入れる必要が出てくる。では日本と中露との関係は最近どうなっているかというと、以下のようにあまり芳しからぬ状態となっている。
・ロシア → 日本が北方領土法改正で「北方領土は日本固有の領土である」旨を明記したこと
        に
ロシア側が反発し、関係は停滞中。
・中国 → ウイグル問題やリオ問題で中国は国際的な孤立感を強めており、日本が手を差し伸べ
       には絶好のシチュエーションなのだが、麻生政権弱体化と政権交代がほぼ確実視
されて
       いる衆院選が控えていることもあって日本動けず。

対露係については、「固有の領土」という従来通りのスローガンを法律に明記するだけでなく、対日返還後の国後水道や択捉水道を通じた海自や米海軍のオホーツク海進出制限を交渉の俎上に載せるといったメッセージを出しておけば、ロシアの反応もまた違ったものとなっただろう。
現在のオホーツク海はロシアにとってSLBM搭載原潜の聖域となっている。それは、ロシアが千島列島全体を押さえることで、他国の海軍艦艇がロシア側に察知されずにオホーツク海に進出することを困難にしていることによる。ロシアが北方領土、とりわけ国後島と択捉島の返還を渋る一因は、両島が日本に返還された場合、ロシアにとって”千島防壁”の南部に穴が生じることになり、そこの穴を通じて海自、そして米海軍の艦艇がオホーツク海に進出し、ロシアのSLBM原潜の安全を脅かす可能性を考慮していることにある。

よって返還後の国後水道、択捉水道の扱いについて日本が対露配慮を示す姿勢を示せば、それが領土問題でロシア側からの譲歩を引き出す突破口になる可能性があるのである。だが、今回の北方領土法改正について、そうした工夫は見られず、徒にロシアの反感を強めるだけに終わった。

そして
、外交功者の中国が珍しく見せた窮地。そこで日本は何も動くことができなかった。ひょっとして日本は対中関係について長蛇を逸したのかもしれない

こうした日本と中露との関係停滞は、後々、日本が資源国モンゴルにアクセスを図る上でよろしくない結果を生じてこよう。

個人的には、バヤル首相が前向きな資源開発への日本企業参入活発化が実現した場合、株式を保有しているBHPビリトンやカメコのモンゴルにおける便宜というか権益に悪影響が出なければ、それで全てOKではある