2009年7月30日木曜日

第三百八段 東南アジア色々

2009年7月もまさに終わらんとする昨今、東南アジア地域について幾つか気になるニュースがあった。

一つは、中国がマレー半島横断パイプラインの実現に向けてマレーシア企業と組んで調査を行ったというもの。7月28日、共同通信社は以下のように伝えている。

【シンガポール共同】マレー半島を横断する石油パイプライン計画を中国側が提案し、既に調査を行ったと、マレーシアの石油精製会社ムラポ・リソーシズのナズリ・ラムリ会長が明らかにした。28日付のマレーシア紙ビジネス・タイムズが報じた。

 中国の増大するエネルギー需要に対応するための提案で、中東からの石油をマラッカ海峡経由で運ぶ代わりに、マレー半島西岸にあるマレーシアのクダ州から東岸のタイ・ソンクラー県へパイプラインで運ぶ。

 会長は提案者の具体名を明らかにしていない。ムラポはクダ州で中国企業などと共同で大型石油精製施設を計画しているという。

 過密状態のマラッカ海峡に代わってマレー半島を横断する構想としては、これまでもタイ側、マレーシア側で別個にパイプライン計画が持ち上がっている。(出典:共同通信


中国が自国への石油移送について、アメリカ海軍の影響下にあるマラッカ海峡をスルーさせたいと考えるのは当然と言えば当然のこと。何しろ、将来的に中国が米国と朝鮮半島、琉球諸島、台湾、西沙・南沙諸島の支配権・宗主権を賭けてあらゆる手段を通じた競争関係に陥る可能性は十分にあるわけで、そんな時に、産業や軍事において血液の役割を果たす石油の供給路がライバルたる米国に握られているというのは中国にとって悪夢以外の何物でもないからだ(因みに、70年ほど前、米国に石油供給を押さえられているのに対米開戦した某国は、原子爆弾二発と米国側に付いたソ連の攻撃によってこの世から抹消されるに至った)。
中国としては、米国が中東での泥沼に嵌って東アジア情勢に積極的に関与する余裕のないうちに、自国の戦略環境を優位にするための既成事実をできるだけ積み重ねておきたい所だろう。まして今という時期は、米国の東アジアにおけるジュニア・パートナー日本国もまた与党自民党の弱体化で政治的混乱の季節を迎えようとしているし、台湾は政権が親中派な上に経済面での対中依存が益々強化されているという、中国の東アジア圏での影響力拡大にとってこれ以上ない好機なのだから。

二つ目は、華人主体の都市国家にして親米国でもあるシンガポールのSWFテマセクの動向である。7月29日のブルームバーグは以下のように伝えている。

7月29日(ブルームバーグ):シンガポールの政府系投資会社、テマセク・ホールディングスは、長期的な投資収益を目指し、目先の利益のために資産を売却 することはしない方針だ。将来は民間からの投資を募ることも検討する。ホー・チン最高経営責任者(CEO)が29日、シンガポールで語った。

  同CEOによると、同社保有資産の価値は過去1年に400億シンガポール・ドル(約3兆7600億円)余り目減りした。同CEOは30年程度の長期間でのリターンを目指すと表明した。

  シンガポールのリー首相の夫人である同CEOは「目先の利益のために家宝を売ることはしない」とし、われわれの「利害をしっかりと守っていく」と語った。

  同CEOはシンガポール外へ投資先を広げるとともに、金融関連の資産を増やした。米メリルリンチや英バークレイズ、スタンダード・チャータード銀行の株価は下落し、テマセクのポートフォリオの価値目減りにつながった。

  同CEOはまた、将来的にテマセクに対する政府以外の投資家グループを形成することを検討する方針を示し、民間からの投資を募る可能性があると述べ た。5-8年以内に「高い能力のある」投資家を募り、その後8-10年内にリテール(小口)投資家の出資を受け入れることを検討するという。(出典:ブルームバーグ


記事中で個人的に注目したいのが、テマセクが「将来的には小口投資家の出資も検討する」というもの。将来的に納付額以下のリターンしか見込めないくせに月々の給料から保険料を徴収していく日本の公的年金、企業年金に比べれば、SWFの老舗として高いパフォーマンスに定評のあるテマセクに出資する方が遥かに建設的な選択肢に思えて仕方がない(個人的な独断と偏見に過ぎないが、平時の市場環境時に日本の公的年金や企業年金が運用でテマセクに勝てるとは思えないし、テマセクが傷を負うような波乱の市場環境時に日本の公的年金や企業年金が無傷や最小限度の被害で済むとは全く考えられない)。
持続性の無い社会保障制度を押し付けられる極東の亡国に住む人間としては、テマセクが将来的に海外の個人投資家にも出資を認めてくれるよう祈念するだけである。

三つ目は、東南アジアの資源・人口大国たるインドネシアが金融危機に端を発する予算の問題で、外国からの武器購入計画を棚上げするというもの。ロシアの通信社Novostiは7月30日に以下のように伝えた。

JAKARTA, July 30 (RIA Novosti) - Indonesia has put off until 2011 plans to buy two submarines and several warplanes due to financial problems, the Antara national news agency reported on Thursday.

"Although the government will increase the fund allocation by 20% in the 2010 state budget, the increase is not yet enough to purchase main weapon systems such as submarines and new jet fighters," the agency quoted a Defense Ministry spokesman as saying.

Indonesia was planning to buy two submarines in 2010 from a yet-to-be-chosen country. Possible suppliers included Russia, Germany, South Korea and France.

The Defense Ministry said a decision would not be made any time soon.(出典:Novosti


米国にとって、人道的には問題だったかもしれないが地政学的な重要性はあまり高くない東ティモール問題によって、東シナ海とインド洋を結ぶ要衝に鎮座する資源・人口大国インドネシアとの関係が冷え込んでしまったのは痛恨事としか言いようのないものであった。そのおかげで兵器市場インドネシアはロシアや中国等が存在感を強めるに至ったのだが、上記記事が示すように、それも金融危機の余波で揺らぎが見えている。米国にはこれを奇貨としてにインドネシア関係を本格的に巻き返し、将来が嘱望されるこの高成長国に米国防衛企業が売り込みをかけ易い、契約を獲得し易い環境を構築して欲しいものである。

東南アジア地域地図