2009年9月1日火曜日

第三百二十四段 中国二題

台風一過ですっきりした晴天の広がった2009年9月2日の東京。しかし、そんな澄み渡るような青空とは対照的に、なんとも先行き不透明感が漂っているのが最近の中国であり、その動静の中で特に気になったのが以下の二点である。

1.不調上海株
ある日、ルーズベルト大統領は私に対して、こんどの戦争をなんと呼ぶべきかについて、一般の意見を求めていると言った。私は即座に『無益の戦争』と答えた。前大戦の戦禍を免れて、世界に残されていたものを破壊しつくしたこんどの戦争ほど、防止することが容易だった戦争はかつてなかったのだ。

ウィンストン・チャーチル 『第二次世界大戦』

本日2009年9月2日は反発して終わったが、上海株がどうにも不調である。元来株式とは値段の上下するものであり、時に過剰な期待と過剰な不安がよりその振幅を大きくさせるものであることは贅言を要しない。だが、もし最近の上海株不調が、「過剰な期待の」の剥落や「過剰な不安」によるものではなく、中国経済の変調を正しく反映したものだとしたら、話は厄介である。
何故なら、それは北京政府の支配を動揺させ、悪影響を経済面のみならず、安全保障の分野にまで及ぼしてくる可能性が出てくるからだ。
そもそも、天安門事件以降の北京政府が用いてきた国内統治の要諦とは、鉄拳(軍・警察)かパン(経済成長)を国民の口を押し込み、以って政府批判を噴出を押さえることであり、現状で北京政府はそれ以外の有効な国内統治策を見出せていない。そのような状況下、もし上海株の不調が示すように中国経済自体が弱まっているのだとしたら、それは北京政府が目くらまし用にばらまくパンの在庫が払底しつつあることを示し、やがては北京政府が統治の二本柱のうち一本を失うことを意味する。そうなると、北京政府としては残るもう一本の柱、即ち鉄拳への依存を強めた統治をせざるを得なくなってくる。
それでも北京政府の鉄拳があくまで国内に向けられ続けるのならば全く問題はないのだが、一方で北京政府の鉄拳が南シナ海や東シナ海、台湾海峡や琉球諸島に向けられないという保障は存在しない(民衆の反発に直面した政権が、「外敵の脅威」を煽り立てることで民衆の怒りの矛先を逸らし、自分たちの保身を図るという現象は歴史上まま見られるものである)。
その上、昨今の経済危機で困窮した国民が政府への不満を募らせている現状は、何も中国に限った話ではない。程度の差こそあれ、日本や韓国、台湾、ASEAN諸国、どこでも見られる光景であり、少しばかり配慮を欠いた行為が相手の過剰反応を呼び起こし易い状態となっている。
別の言い方をすれば、現在の東アジア情勢は中国を弱い環としながら、各国がいつ誘爆するか分からない爆弾を抱えているかのような不気味さの中に佇んでいると言えるのだ。
こうした背筋にうすら寒いものが走るユーラシア東部の情景を目にする時、選挙大勝のユーフォリアに悪酔いして無邪気に「アジア共同体」、「アジア共通通貨」と声高らかに唱道している某国の新与党の姿勢はあまりに太平楽に過ぎるような気がする(というか、たかが株価不調でここまで心配する自分も大概だとは思うが・・・・)。

2.ミャンマー難民

囲師には必ず闕き、窮寇には迫ること勿れ

孫武 『孫子』

8月、ミャンマー北東部でコーカン族を中心とした少数民族と同国軍事政権との間で武力衝突が発生し、28日に至るや1万~3万人の難民が中国雲南省に流入したという(出典:共同通信)。
それをうけて8月29日には雲南省国境地帯にも着弾があり、数人の死傷者が発生したという報道があった(出典:時事通信)。
如何に「反政府組織鎮圧」のためとは言え、他国領内に砲弾を撃ち込んだミャンマーもミャンマーだが、撃ち込まれた方の中国が実に抑制的な態度だったことが印象に残った。
2008年3月1日、反政府組織コロンビア革命軍(FARC)の蠢動に悩むコロンビア政府が、エクアドル領内に空爆を加えてFARC幹部のラウル・レジェス殺害に成功した。だが、自国領内に爆弾を落とされたエクアドル及びその友好国ベネズエラはコロンビアの措置に強く反発し、国交断絶にまで至っている。この事例を思えば、今回の雲南省着弾に対する中国の静けさはとりわけ印象深いものがある。
そもそも、ミャンマー軍事政権を支援している筈の中国は、何故コーカン族は全人口で大体15万程度で約800人の兵力を持つとされている。対してミャンマー政府がコーカン攻撃に投入した兵力は最大で7千人程度(出典:asahi.com)。
兵力差だけを見れば包囲殲滅戦を仕掛けることが可能な状態であったし、実際に仕掛けていれば一敵対勢力を消滅させ、他の少数民族勢力に対する見せしめとして一定の効果を上げられたと考えられる。
にも関わらず、ミャンマー軍の包囲網は無欠とはならなかったし、そうさせたのはミャンマー政府を支援している筈の中国。何故か? 以前報じられた「ミャンマー核開発疑惑」と何らかの関連があるのか?
考えれば考えるほどに面白い案件である。