2009年9月13日日曜日

第三百三十段段 三沢F-16撤退と米朝直接対話

米国が日本列島に配備している所謂「在日米軍」は、大きな観点で言えば、ユーラシア大陸の国家が西太平洋上にまで勢力を広げ、米国と競合する大国として台頭することを抑止するために存在する。もう少し具体的に言えば、中国の台湾軍事制圧やロシア(かつてはソ連)の南下政策、北朝鮮の南進や崩壊に伴う混乱といった事態に対応するために存在する。

そんな在日米軍に注目すべき動きがあった。それは三沢基地からのF-16撤退構想である。9月11日の共同通信は以下のように伝えている。
米政府がことし4月初旬、米軍三沢基地(青森県三沢市)に配備しているF16戦闘機約40機すべてを早ければ年内から撤収させるととも に、米軍嘉手納基地(沖縄県嘉手納町など)のF15戦闘機50機余りの一部を削減させる構想を日本側に打診していたことが分かった。複数の日米関係筋が 11日、明らかにした。

 オバマ米政権の発足に伴う国防戦略の見直 しを反映した動き。日本側は北朝鮮情勢や在日米軍再編への影響を懸念し、いずれにも難色を示して保留状態になっているという。日米両政府は現在の米軍配備 を前提として在日米軍再編案に合意した。鳩山新政権の発足に伴い、この問題をめぐる協議が始まり、停滞している米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の嘉手 納基地への統合案などが再浮上する可能性もある。

 三沢基地の F16は冷戦末期の1980年代に旧ソ連をにらんで配備され、冷戦終結後は北朝鮮への外科的先制攻撃(サージカルアタック)を想定しているとされてきた。 ただ日米両政府内には、実際に先制攻撃する公算は小さい上、仮に攻撃せざるを得ない事態でも空母やグアムからの攻撃が可能で、三沢基地に配備する価値が低 減しているとの指摘があった。

 日本政府関係者はF16を撤収させ た場合「グアムの米軍基地から次世代型戦闘機F35を巡回の形で駐留させる可能性がある」と予測している。ただF35は量産態勢にまだ入っていない。これ を配備するとしても5年以上先で、三沢基地から常駐の米戦闘機がなくなる公算が出てきた。(出典:共同通信


記事にもある様に、三沢のF-16は最近はもっぱら北朝鮮に対する抑止力として機能してきた。それを撤退させるというのだから、「米国にとって北朝鮮は最早抑止対象ではなくなったのか?」という疑問が浮かんでくるのもやむを得ない所である。しかも、同日付に以下のようなニュースが報じられているのをみると、前述の疑問は「?」から「かもしれない」話に変化してくる。

【ワシントン共同】クローリー米国務次官補(広報担当)は11 日の記者会見で、北朝鮮が求めている米国との直接対話について「6カ国協議の前進につながるなら2国間協議の用意がある」と述べ、実現に前向きな考えを示 した。時期や場所は「決めていない」とし、今後数週間かけて検討すると語った。

 米国は、北朝鮮が6カ国協議復帰の意思を表明しなければ直接対話には応じられないとして慎重な構えを見せていた。次官補は「政策転換ではない」と説明したが、前提条件を一歩譲った形で、柔軟姿勢に転じた。

 次官補は、直接対話は「6カ国協議に復帰し、非核化への行動を取るよう北朝鮮を説得するため」として、協議の枠組み内との位置付けを強調。北朝鮮を除く5カ国の間で「共通認識ができている」と述べた。

  また今月下旬のニューヨークでの国連総会に合わせ、6カ国協議の参加国間で個別のハイレベル協議が予想されると指摘。オバマ大統領やクリントン国務長官ら が関係国と北朝鮮への対応をさらに話し合う機会になるとの見方を示した。国務長官が国連総会に合わせ北朝鮮側と接触する予定はないとした。(出典:共同通信


北朝鮮にとって最も優先順位が高い目標は「国体護持」である(要は金一族とその周辺の富貴と安全を確保することである)。その国体護持を脅かしかねない最大の脅威は現在の所米国であり、その米国と接触できる数少ない機会であるからこそ、中国が音頭をとる六カ国協議にも顔を出していたのだが、米国と直接対話できるチャネルが別に発生すれば、ますます以って北朝鮮の六カ国協議に対する熱意は冷めていくものと考えられる。

では米国は何故この時期、北朝鮮に対して「三沢F-16撤退構想」と「米朝直接対話の用意」というあからさまな宥和策を打ち出してきたのだろうか。可能性は二つ考えられる。

一つ目の可能性は、「功名の誘惑」である。ブッシュ前政権からのChangeを掲げて熱狂的な国民的支持の下発足したオバマ政権であるが、最近はアフガンの泥沼化加速と医療制度改革への反発、雇用の明確な改善が見られないこと(こればっかりは一概にオバマ政権のせいではないのだが・・・)を受け、自慢の支持率にも陰りが見え始めている。そのような状況下、目に見える手っ取り早い成果を求め、クリントン(夫)政権以来、米国外交にとっての難題であり続けた「北朝鮮との関係正常化」にオバマ政権が舵を切った可能性がある。その場合、当然ながら北朝鮮の核開発は黙認・放置されることとなり、北朝鮮の周辺国は「核兵器を保有した北朝鮮」との共存策を真剣に考えざるを得なくなってこよう。

二つ目の可能性は、北朝鮮の対中牽制網へ取り込みである。冒頭にも述べたように、米国の安全保障にとって重要なことは、ユーラシアの国家が陸軍国としてのみならず海上進出を果たして海軍強国として台頭することを防止することである。そんな台頭防止対象として真っ先に思い浮かぶのが中国であり、それに対する牽制役リストを充実させるために米国が北朝鮮取り込みを図っているという可能性が考えられる。考えれば米国がマラッカ以東に持つ同盟国は豪州と言い、日本と言い、韓国と言い、いずれも非核保有国であり、ここに核保有(疑惑)国北朝鮮を加えることができれば、米国の対中牽制役リストは戦略的オプションの増強に成功することになる。この二つ目の可能性の場合も、やはり北朝鮮の核開発・保有は既定事実として認められることになるので、やはり北朝鮮周辺国は「核兵器を保有した北朝鮮」との共存策を真剣に考えざるを得なくなってくる。

なお、北朝鮮が米国と接近した場合、最も割を食うのは六カ国協議主催の中国である。今後、北朝鮮を軸に米中がどのように動いてくるのか、非常に興味深い所である。