2009年11月16日月曜日

第三百三十一段 イエメンに第二のヒズボラは勃興するか?

ソマリア海賊の跳梁跋扈ですっかり有名になったアデン湾。その北岸に位置するイエメンで、フーシ族等のイスラム教シーア派を奉じる勢力、イスラム教スンニ派が主導権を握るイエメン政府とそれを陰に陽に支援するサウジ政府、この両勢力が抗争を繰り広げている。そして当初は主にイエメン政府の後方支援に止まっていたサウジ政府が、ここ最近はシーア派勢力の国境侵犯を名目に直接空爆に乗り出している。

このイエメンにおけるスンニ派勢力とシーア派勢力の衝突について、点額法師がtwitterでフォローしている
カフェバグダッドさんが気になる呟きを発していた。即ち、「イエメンで、サウジ正規軍の攻撃を受けているイスラム教シーア派部族フーシ部族は、スンニ派に対峙する第二のヒズボラになりうる?」と。

中々に面白い呟きなので、足りない脳みそに煙を吐かせて考えてみた。

そもそも
フーシ族の対比として挙げられているヒズボラという組織であるが、これはレバノンに根拠をおくシーア派住民を支持母体とする組織であり、レバノン・シーア派住民の政治的権利や社会保障を促進する政治組織としての顔と、シリアやイランの支援を背景に地域軍事大国イスラエルに対しても一歩も引かない武装闘争組織としての顔を有するヤヌス的な存在である。

では、
フーシ族は第二のヒズボラたりえるのか?

それについては、サウジとの軍事闘争の成り行き、つまり
サウジがフーシ族の武力を壊滅することに成功するのか否か、そしてイエメン政府が政治的権利や経済的果実の分配についてどの程度シーア派住民を排除するのかによって、以下の四通りの可能性が考えられる。

1.サウジがフーシ族等のシーア派勢力の武力を壊滅に追い込む。
  同時に、イエメン政府が経済的果実や政治的権利の分配を通じてシーア派住民の
  取り込みに成功する。
  →この場合、深刻なダメージを受けたシーア派の武装闘争路線は、支持母体となる筈のシーア派
   住民の支持を思うように受けられず、衰弱死の道を歩むことになる。
   従って、イエメンで第二のヒズボラが台頭することはなくなると考えられる。

2.
サウジがフーシ族等のシーア派勢力の武力を壊滅することに失敗する。
  同時に、イエメン政府がシーア派住民への弾圧や締め付けを強化する。
  →この場合、武力を温存することに成功した
シーア派勢力は、イエメン政府に対するシーア派
   住民の不満・反発を取り込んで強大化することになる。
   従って、イエメンで第二のヒズボラが台頭することになると考えられる。

3.
サウジがフーシ族等のシーア派勢力の武力を壊滅に追い込む。
  
同時に、イエメン政府がシーア派住民への弾圧や締め付けを強化する。
  →この場合、深刻なダメージを受けたシーア派の
武装闘争路線は当面大人しくなるだろうが、
   イエメン政府に対する
シーア派住民の不満・反発を背景に徐々に力を取り戻していき、
   やがてヒズボラほど強力ではないにしろ、イエメンやサウジにとっては目障りな存在として
   復活してくると考えられる。

4.
サウジがフーシ族等のシーア派勢力の武力を壊滅することに失敗する。
  同時に、イエメン政府が経済的果実や政治的権利の分配についてシーア派住民に妥協する。
  →この場合、
シーア派武装闘争路線
はサウジやイエメン政府に対する軍事的勝利によって
   勢いづく一方、イエメン政府のシーア派融和政策を受け入れ、イエメン政府との共存を模索する
   シーア派勢力も一定度の力を得てくると思われる。
   従って、シーア派部内での派閥・路線闘争が新たに生じ、それにイエメンやサウジ、そしてイラン
   が介入する不安定な局面が続くことになると考えられる。

イエメン紛争の将来が上記四つのシナリオのいずれに帰着するのか? それともどのシナリオとも全く異なる決着を見せるかはまだはっきりとはしないが、ヒズボラがそのすぐ後ろににシリアという恰好の避難所兼庇護者を有していたのに対し、イエメンのシーア派勢力にはそのような避難所を見出すことが難しいこと、そして支援者とみなされているイランとも海によって隔てられること、サウジを止められる数少ない力である欧米が現時点ではサウジの攻撃を黙認していること、以上の三点がその成長にとって不利な点として挙げられる。